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地球世界史事始め ~レジームシフトに地球目線で臨む~

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待機児童、労働環境、虐待、いじめ、過疎化といった現代の日本が抱える社会問題。さらに世界に目を向ければ、ISISの発生、欧州のテロ、そして温暖化をはじめとした環境問題等、私たちが直面する課題は多々あります。私たちは、それらを日本の枠内や世界の枠内だけで捉えがちです。しかし、一歩俯瞰しそれらの問題に「地球目線」で向き合うことで、新たな視点や解決策を見出すことができるかもしれません。

今回は文化人類学者であり、次世代のデジタル地球儀「触れる地球」を通じて、世界中の人々に地球視点での啓発活動を行う当財団評議員の竹村真一氏にゲストとして登壇頂きました。「地球世界史」と題し、大小さまざまな社会問題の背景や歴史をお話頂くとともに、それらに対して私たちは今後どのように対峙するか、そして未来へのビジョンをどのように示すことができるか、ヒントを模索していきます。

ゲスト(写真左):竹村真一(たけむらしんいち)氏

(京都造形芸術大学教授、Earth Literacy Program代表)

東京大学大学院文化人類学博士課程修了。地球時代の新たな「人間学」を提起しつつ、ITを駆使した地球環境問題への独自な取組みを進める。世界初のデジタル地球儀「触れる地球」や「100万人のキャンドルナイト」、「Water」展(07年)などを企画・制作。2014年2月、丸の内に「触れる地球ミュージアム」を開設。環境セミナー「地球大学」も丸の内で主宰。東日本大震災後、政府の「復興構想会議」検討部会専門委員に就任。

聞き手(写真右):井上高志(いのうえたかし)氏

(株式会社ネクスト 代表取締役社長、当財団代表理事)

株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務時代に「不動産業界の仕組みを変えたい」との強い想いを抱き、97年株式会社ネクストを設立。不動産・住宅情報サイト『HOME’S(ホームズ)』を立ち上げ、掲載物件数No.1(※)のサイトに育て上げる。現在は、国内・海外併せて15社の子会社を展開、世界46ヶ国にサービス展開している(2016年6月時点)。個人の活動として、ベナン共和国の産業支援プロジェクトを展開するほか、民意を直接政党に届けるプラットフォームを提供し、直接民主制の実現を目指す一般社団法人デモクラティアン 代表理事も務める。

※産経メディックス調査(2016.1.2

私たちはレアな宇宙人だ

井上:NEXT WISDOM FOUNDATIONは100年後の未来に遺すべき叡智は何か、世界平和に必要な叡智な何なのか、それを様々な視点で探っている団体ですが、今日は100年単位ではなく、1千年単位、1万年単位、さらに1億年単位で、地球目線で考える未来について竹村さんからお話を伺いたいと思います。

竹村:これから時代には、今までと違う目線が必要なんじゃないかと思うんです。宇宙の中で我々の星がめったにない有り難い星で、水に満ちあふれていて気候が安定していて、微生物くらいは他の星にもところどころいますが、地球ほど多様に進化した生命が満ちあふれた星は他にありません。宇宙を砂漠に例えるとまるでオアシスのような、宇宙を代表して進化の実験をやっているような、そういう星であるということをあらためて認識したのが僕らの世代です。もう信長の時代にできたメルカトル図法で表された地球をいつまでも眺めているのではなく、宇宙視点でリアルタイムの地球を見ること。

ゲラルドゥス・メルカトルが1569年に作成したメルカトル図法の地図

少し前まではSFのモデルといえば、宇宙人の襲来でした。しかし最近はその手のものが少なくなりました。それは、我々自身が極めてレアな宇宙人であるということを認識したからです。1990年代からはハッブル望遠鏡で宇宙を見る解像度が飛躍的に高まって、地球みたいな星も我々のような宇宙人もなかなかいないということが分かったからです。宇宙を見る解像度が高まったおかげで、地球というものがどれだけ特異でレアな星なのかということが分かりました。

そしてこの「触れる地球」で、宇宙からの目を持つことができます。海水温の様子、プランクトンの様子、クジラは人口衛星がなくてもプランクトンを追って移動していく。それを宇宙の視点で見ることができます。地球温暖化の様子や地球の体調を診断することができます。

ハッブル宇宙望遠鏡(*Hubble_01、パブリックドメイン)

人間のバッドデザインによる影響で地球の体調が変わっています、それを僕らのような、大きな象の上の顕微鏡で見なければ分からないくらいのちいさなダニやノミみたいな存在が、その象の体調をモニターする。人類が認識した地球像をリアルタイムに認識する、これを15年くらい前から作り始めて多くの方々のサポートをいただいて、みなさんにお見せすることができました。

この「触れる地球」を使って話をすることもできるのですが、今回は井上さん自身も歴史に興味があるし、地球の現状ではなくて未来をどうデザインするか、その未来を考える飛距離をもっと大きくする、想像力のブロードバンドですね。

現在の視点で、温暖化が大変だCO2の削減だ、そういうことは間違いではないですが、そういうレベルだけではなく、500万年の人類の歴史、そして1千万年1億年前の地球はどうなっていたか。今回はそれくらいの視野で大きな過去を考えることで、大きな未来を想像してみたいと思います。

酸素という猛毒から身を守る

地球をリアルタイムで診断する技術が発達してきたと同時に、地球の履歴書を読み解く解像度もこの20年くらいでずいぶん高まってきました、僕らは何者かということがぜんぜん違うレベルで見えてきました。

我々はいま酸素で呼吸をしていますが、酸素は太古の地球にはなかったということをご存知ですか? それを酸素のある地球に変えたのは生物なんです。27億年前くらいから光合成をするシアノバクテリアという生物が繁殖してきて酸素が出てきて、最初は海にしかなかった生物が空気中に出てきて、その酸素の一部が上空でオゾンに変わった。酸素の化学式はO2でオゾンはO3、酸素が飽和した状態がオゾンです。オゾン層というものができてUVをカットしてくれるようになったおかげで、海にしか生きられなかった生物が陸に出てきて緑の地球になった。

シアノバクテリアの一種
CC BY-SA 2.5,NEON_ja,Oscillatoria sp.jpg(画像:Oscillatoria_sp)

私たちは昔から地球は緑だったと思っているかもしれませんが、緑の地球になったのは最近の話なんですよ。そして植物が繁茂して、それを食べる動物がでてきたのが4億年くらい前です。地球の年齢は46億年ですが、人の人生に例えると46歳のマザーアースで動物が出てきたのは42歳を過ぎてからなんです。20歳位から酸素が出てきた。いま酸素に満ちたみどりの環境というのは最初からあたえられていたものではなく、生物がつくり出したんです。

生物は地球を大改造して酸素という公害も伴いながら、その酸素に適応した生物が進化してきた。細胞は遺伝子を守るために核というものをつくってその中に遺伝子を格納するようになった。だから僕らの細胞を顕微鏡でみると、核があってその周りに酸素呼吸をするミトコンドリアが泳いでいます。

細胞がなぜ核を持つかというと、酸素という猛毒から遺伝子を守るためです。いまでも僕らは抗酸化作用なんて、老化しないため美容のために、つねに酸素と闘っているわけです。その危険な酸素を受け入れながら、それをエネルギーに変えるようになった。酸素呼吸は原始的な発酵よりも21倍くらいのエネルギー効率になるので、その酸素を使うしかない、と生物たちは進化していった。

 

9がミトコンドリア 典型的な動物細胞の模式図: (1) 核小体(仁)、(2) 細胞核、(3) リボソーム、(4) 小胞、(5) 粗面小胞体、(6) ゴルジ体、(7) 微小管、(8) 滑面小胞体、(9) ミトコンドリア、(10) 液胞、(11) 細胞質基質、(12) リソソーム、(13) 中心体

(*画像1024px-Biological_cell)

CC BY-SA 3.0,MesserWoland and Szczepan1990,Biological_cell.svg

核をもつ真核生物、それが多細胞化して、私たちのような人間ができた、生物が酸素を生み出し酸素に適応した生物が生まれた、ということです。僕らが酸素を呼吸することひとつとっても、大きな過去からみると、このように見えてきます。

そして僕らは卵で生まれませんよね、お腹の中で育ててから産みますよね、哺乳類ですから。なんでそうなったのかというと、過去の地球に酸欠状態があったからです。産み落としても育たないから、ある程度お腹の中で大きくなってから生まれるようになった。

なぜ僕らはこんな器用な手を持っているかというと、5000万年前くらいに初めて樹間というものを持つような大きな熱帯雨林ができたときに、肉食獣の脅威から逃れるために木の上で生活をするようになった。そうするとそれまで4つ脚だったものが、基本的に前脚は体を支えるためにあったのですが、その前脚が枝を掴んだり、ものを掴んだりするようになった。だんだん前脚が手に進化してきた。そして木の間を飛び移るために正確な距離を測らなければならないので、だんだん目が正面についてモノを立体視で捉えられる個体が生き残るようになって、目が進化してきた。

CC BY-SA 4.0,Ksmuthukrishnan,Korbu Deep Jungle.JPG

(*画像:Korbu_Deep_Jungle)

なにが言いたいかというと、僕らが酸素呼吸するのは当たり前、卵で生まないのは当たり前、手に指を持って立体視できる目があるのは当たり前でしょ、と何の疑問を持たなかったのが、そういう地球の歴史を知ることで、ある危機状態、例えば猛毒の酸素や樹上生活への適応によって私たちがいると、細胞レベルから手と目の進化が地球の歴史の中で見えてくる

中学や高校の教科書にはこんなことは書かれていなかったと思います。なぜなら、この20年くらいで地球を見る解像度が高まり、私たちの存在と地球との関係が高い解像度で見ることができるようになったからです。いま子供たちに、自分という存在の有り難さ、地球の歴史をまるごと総合しながら、「君の存在はすごいんだ」ということができる。

僕らはなぜ二本脚で立っているのか?

私たちは毎日新品に生まれ変わっています。私たちが普段乗っている車が毎日部品を入れ替えて新しくなるとしたらびっくりしますよね? だけど我々の身体というのは放っておいてもそれをやっているわけです。伊勢神宮の「常若」じゃないですが、パーツが毎日入れ替わって新しくなっているわけです。毎日新品です。そして脅威的なのは「変わっているのに変わらない」そこがもっとすごいんです。

それをやっているのがDNAという極めて正確なデジタル複製システムです。1953年にワトソンが発見して、でもそれは始まりにすぎなかった。99.9%同じ遺伝情報を複製しないと子供も生まれないし、私たちの細胞も生きられない。しかし100%完璧な複製だったらバクテリアはバクテリアのままで進化しなかった。つまり誤りを排除するデジタルシステムの中に、微妙に誤りを許容する部分、多様化や進化や変異を許容する部分があったから生物は進化できた、このすごさも見えてきました。

私たちがこういう考え方のアプローチを持つことができると、これからの子供の育て方も変わると同時に、大人も子供の時には見えてなかった自分たちの存在の有り難さを感じることができるんです、全く違った視野でね。親も子もそれを共有していく時代なんだろうと思います。

これはほんのオードブルです。今日は歴史の話をしますから、さわりだけ言ってもこんな感じなんですよ、井上さん。

井上:ちなみに「人類」と呼ばれるものが発生したのは何年前からなんですか?

竹村ホモサピエンスになったのはほんの10万年とか20万年前からです。直立歩行を始めたのが500万年前くらい。5に0をつけていくと分かりやすいですよ。つまり、5億3000万年前、約5億年前にカンブリア大爆発という最初の多細胞生物の大発生がありました。

それまではほとんど単細胞生物しかなかったのですが、急にいろんな多細胞生物がでてきた。多細胞生物ということは、単細胞生物が一つの組織として動くための連絡網が必要になった、これが神経系です。そのうち一部が脳になった。5億年前というのは最初の多細胞生物の発生であると同時に最初の脳神経系の生成ということなんです。

最古の哺乳類であるといわれる「アデロバシレウス」

CC BY 3.0,Nobu Tamura,Adelobasileus BW.jpg

 

今度は0を一つ減らして、5000万年前になると樹上生活をした最初の哺乳類が現れた。約6500万年前、今の説では隕石が衝突して恐竜が絶滅した。それまでも哺乳類がいたんですが恐竜が天下の時代ですから、もぐらみたいな地下生活が多かったんです。ところが恐竜が絶滅して大変な天変地異が起こって、そのあと恐竜がいなくなった世界で哺乳類が活躍できるようになった。

その中で肉食獣から逃れるために、僕らの先祖である初期霊長類が5000万年前くらいに樹上生活をはじめて、そこからゆっくりですが何百万年、何千万年かけて、樹上生活の中から前脚が手に進化したり、立体視できる3Dの目が発達したり、哺乳類の中で特に猿から人につながる経路が森の中で発生してきた。

(Gray219)

だから僕らが森に郷愁を感じたり、森の中で聴こえる可聴域外100khz以上の音に心地よさを感じるのは、森林環境で僕らの基本が育まれたということが理由かもしれません。単なる数万年のレベルではないんですね、数千万年のオーダーがある。僕らと森の縁というのはそれくらい歴史が古いわけなんですね。

井上:森で人間の耳には聞こえない音で心地よさを感じる。その前は海にいたわけですよね、僕は海に入ると安心します。

竹村:魚類は聴覚以前の感覚で生きています。聴覚というのは陸上の生物が出てきてからですね。僕らの耳の原型はアゴなんです。ワニがよくベタっと地面にへばりついていますが、あれはダラけてるんじゃなくてエサを探しているんです。アゴを地面につけていろんな足音や振動を感知しているわけです。アゴの骨がだんだん変異して耳になったといわれています。我々が言うような聴覚というのは陸上生活からかもしれないですね。そして樹上生活をする中で脳が、耳では聴こえないけれど皮膚で感じるような高周波とか、そういうものにチューニングされていった可能性があるんでしょうね。

井上:では500万年前には?

竹村:約500万年前に、初めて直立歩行がはじまって、猿から分かれてヒトにいくわけです。そのころのヒトはまだお猿さんに近いですね。アウストラロビテクスのルーシーとかね、背も小さいですし脳の大きさも我々の1/4以下です。そういう意味ではお猿さんがやっと直立歩行を始めたくらい。

最近の発見で相当変わったのは、約500万年前にいきなり直立歩行を始めたような誤解があるのですが、実は5000万年前くらいから前脚を進化せざるを得ない環境があったということです。残りの後ろ脚は体重を支えざるを得ない。だから二足歩行や直立歩行の準備はずいぶん長い時間をかけて行われて、500万年前くらいに森がなくなったときに、二足歩行をデフォルトにするということになったとされています。その証拠に、いま森に住んでいるボノボなんかは、かなり長距離を腕にエサを持って二足歩行をすることが観察されています。

アウストラロビテクスのルーシー

CC BY-SA 3.0,Momotarou2012,Lucy Australopithecus Restoration model.jpg

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まだアウストラロビテクスはまだ猿に近いですし、骨盤も猿に近いですし、本当に今のように直立するようになったのはホモエレクトスから。文字通りエレクト、垂直に歩けるようになったのは250万年前くらいですね。

いろんな人類がいたのでしょうが、250万年前くらいから氷期から間氷河期の交替など気候が荒々しく変わって、知恵のあるヒトでないと生き残っていけない環境になった。その中でかなり長い距離を歩いたり走ったりできるヒトが、棲む場所を変えていくことで生き残った。なおかつ直立が安定すると脳が大きくなりました。

四つ脚の動物は頭より首の方が太いですが、あれは頭を支えるのが大変だからです。しかし直立して骨盤からまっすぐ垂直に頭を支えられる体型ができたくらいから、大きな脳を許容できるようになって脳の容量が大きくなって、いまの人類の2/3くらいにまで大きくなりました。

僕らはコピーミスで生まれた

井上:進化論のところで、僕ら世代が学校で習ったことと、現在とではどのくらい違うものなのですか?

竹村:いろんな進化論の説がありますが、ひとつは19世紀から20世紀の初頭、ヒトラーがいた時代には「優性主義」といって、下等な人類と高等な人類がいると。できれば下等な人類は消えた方がいいという発想がありました。それにダーウィンの進化論が悪用された歪曲されたという面があった。

しかしダーウィン自身はそのような価値観はなかったですね。偶然の突然変異でコピーミスがあったときに、命に関わるものは生存できずに消えますが、許容できるものは生殖細胞にコピーされて子孫に受け継がれていくうちに変異が蓄積されて大きな進化に繋がる

Page from Darwin’s notebooks around July 1837, showing his first sketch of an evolutionary tree(*Darwin_Tree_1837)

例えば首の長いシカが生まれて、高いところにある葉を食べられるようになって、個体数が増えていってキリンとして分化していきました。高いところにあるエサを食べたかったから首が長くなっていったわけじゃないんですね。突然変異が環境にうまく適応していくと生き残って種として分化して行く。それがダーウィンの進化論なんです。

 

優秀なものが生き残るということは一言も言ってない、それが悪用されたわけですが。その後、適者生存でいき残っていく。環境に合わないものも適度に生き残っていくことで地球上に多様性やオプションができる。その多様性が地球全体でみると重要だということが最近言われています。

Tree of Life Explorerより引用(*tree-of-life_2000)

例えばコレステロールが溜まりにくい遺伝子と溜めやすい遺伝子があります。それがDNAのたった1文字の変異でそうなってしまう。僕らのDNAというのは60兆個それぞれの細胞の中に60億文字で書かれたDNAが全部セットで入っています。だから60兆×60億の情報が入っているわけですが、その60億の文字の中の一つが変異しているだけでコレステロールが溜まりやすいか溜まりにくいかを決定している。

それくらい文字の変化がものすごく大きな変化を生み出す。そこがデジタルの怖さでもあるのですが、デジタルというのはおもしろくて、極めて保守的であると同時に革新を起こしやすい。その両面をシステムとしてのDNAが持っているわけです。

ところで会場のみなさんに問いたいのですが、コレステロールが溜まりやすいのと溜まりにくいのと、どちらがいいですか?

「溜まりにくい」に大勢の手が

これが危ないんですよ。こんなに肉を食べるようになってコレステロールが溜まるようになったのはつい最近の話なんです。考えてみてください、500万年の人類の歴史の中でこんなに毎日肉が食べられるというのは例外的なわけです。

古代ではたまにマンモスが獲れて食い貯めする時があったくらいで、デフォルトはコレステロールが溜まりやすいほうが生存に有利なんです。だからみなさん溜まりやすくできてるんです、そうでなければ生き残れなかったんです。イタリアの小さな村にコレステロールが溜まりにくい遺伝子を持っている人が見つかって、いま注目されていますが、なぜイタリアの小さな村にしかいないかというと、不利だったからです。だから少ししかいない。

しかしこの50年くらいで飽食の時代になって毎日ステーキを食べられるようになると、溜めにくい遺伝子の方が有利になる。これから先、人間10人分の穀物を食べる牛の肉を食べるというのはちょっと贅沢だよね、という時代になってくると、またコレステロールが溜まりやすいほうがいいかもしれない。

だから時代や環境によって、良い遺伝子と悪い遺伝子というのが決まってくるとなると、生命にとって正しい戦略というのは多様性を保つということなんです。

井上:すべての生物が多様性を持ち続けようとする性質を持っているということでしょうか?

竹村:特に植物にその傾向が強いのですが、彼らは動けないですから。僕らは寒くなったら暖かいところにいけばいいのですが。最近はずいぶん身重になってしまいましたが、気候変動が起こると移動するというのがいままでの人類です。氷期から間氷期になって、東南アジアあたりにしか生きられなかった人類が、氷期が終わるとワーっと移動してメコン川をさかのぼって中国の古代王朝になったとか、いろいろな話があります。今日はなかなか本題に辿り着けないですが、世界史の話をするとそうなります。

地球環境というのは常に変わるものなので、その中で人間や動物は環境に応じて移動をしてきました。植物は根をはっているから移動できない、でも飛び道具は持っています。自分の人生は諦めるけどタネに託して、鳥や風に運んでもらう。だから多様性を自分の中に担保しているんですね。

だから植物を育てるのが好きな方は目にするかもしれませんが、細い葉っぱの植物を環境のいいところにおいてやるとだんだん広い葉っぱも出すようになるとか、そういうことがあります。同じ株の中に違う変異の遺伝子を、多様なオプションを自分の遺伝子に持っています。その証拠に植物はゲノムが大きいんですよ。植物は、進化の大きな二つの方向で言いますとオプションとなる遺伝子を捨てられない、断捨離できないで抱え込む方向に進化してきたのが植物であったり人間なんですね。ゲノムサイズがすごく大きいです。

それに対してゲノムサイズを思い切り小さくして変わり身を早く身軽にする方向で進化してきた最前線がウィルスです。ウィルスというのは自分で生きられないんです。例えば井上さんに寄生して、井上さんの遺伝子の一部になることでしか生きられなくてそのくらい自分をサステインするゲノムを自分で持っていないんですね。

ウィルスの一種、バクテリオファージの構造
CC BY-SA 2.5,Adenosine,Tevenphage.svg

乱暴な議論かもしれませんが、地球上の文字システムは大きく二種類しかないんですよ。アルファベット系か漢字系か。アルファベット系は元々はヒエログリフとか様々な文字が、しかも絵文字としてあったものが思いきり簡略化されて、たった20数文字の音声記号に、ウィルス型で絞った方向の進化をしたんですね。だから全世界に適応されて、アルファベットだけ覚えればなんとかなるし、ちょっとづつ変異してどんな言語にも当てはめられます。その代わり進化はできません、アルファベットから進化して新しい文字システムが生まれることはない

https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒエログリフ

ところが漢字というのは何百何千と覚えなくてはいけないので厄介ですが、その分、文化遺伝子のゲノムがものすごく大きい。漢字が面白いのは、例えば「女」という漢字と「子」という漢字があります。これを組み合わせてください、すると「好」というメタ概念にジャンプするんですよ。単に女が子を抱いているというレベルを超えて、「好き」という概念にジャンプするんです。漢字は、形のないものを形のあるもので表現するというすごいOSなんです。

同じ要素なのにベクトルを変えるだけで違う漢字になる。例えば、「即」という字と「既」という字があります。左側の部分は祭壇に盛られた穀物です。即の右側は、それを「いまから食べるぞ」という口を開けた人、祭壇にベクトルが向かっている口を表しています。「既」には逆で、食べ終わって踵を返して祭壇に背を向けている。これも同じ要素がベクトルを変えるだけで、未然形か過去形かを表している。これは漢字の字源を説明しているのではなくて、漢字がどんなOSかということを私たちが自覚してないのはもったいないねということをお話しているんです。

井上:ゲノムのサイズが大きいということですね

竹村ゲノムのサイズが大きいと、多様性があると同時に進化できるんですよ。要素を組み合わせて新しい概念をつくり出すことができる。勝手に漢字をつくり出せるんですよ。例えば「峠」という漢字は「山」に「上」と「下」、うまくできていますよね。でもこれは中国になかった漢字で、日本で発明された漢字なんです。つまり、こういうOSがあると文字を増やすことができる、進化の余地がすごくある。ちょっと脱線しましたが、こういう文化の話にも応用できるということですね。

特に、植物は動けないので、オプションを増やしておかないといけない。人間でもありますけどね、ある運動することで急にある遺伝子が発現してきたり、 眠れる遺伝子にスイッチが入ることがありますから。植物の場合はそれが生命線なんですね。

人類がバージョンアップするために

井上:冒頭の話に戻ると、5億年前に多細胞生物が爆発的に増えた。いま人類は約73億人いて多様な人種や文化があるわけですが、それらが多細胞生物のように繋がって進化するような可能性というのはあるのでしょうか?

竹村:それはもちろんです。人類はフィジカルに進化するという段階から、道具を作ったり環境を変えたりという進化のフェーズに変わった。自分自身の遺伝子がコントロールする身体の範囲を超えて、次はAIIOTと呼ばれるもので進化しようというフェーズに来ています。地球世界史と合わせ鏡で「未開の未来」ということを考えようとしているところで、脳と身体の進化の段階から今度は外環境や道具、身体の外へ進化しようとした。それと同じくらいの進化、「進化のOS」の進化、というところにきているのではないでしょうか。

しかしその反面で心配なのは、一つはグローバル化の中で多様性をどこまで担保できるかということです。僕が30年くらい前にアマゾンをほっつき歩いていたときは、そこに僕らとは全然違う暮らしがあったんです。しかし現代では以前よりずっと画一化された部分もあって。それで簡単に失われるようなものじゃないとは思いますが、今後そのような多様性をどうやって遺していくかということは問われていると思います。

もうちょっと浅いところでいうと、地球は変わるものだ、ということです。気候変動というのは地球の常態なんですよね、当たり前のことなんですが。人類が文明を培ってきた過去1万年は地球の歴史の中で例外的に安定していたんです。それでも中世に温暖期から小氷期へと若干のゆらぎはありましたが、それまでの大きな変動と比べるとこの1万年はすごく安定していた。

その中で文明が育まれましたが、例えば火山噴火のようなものを見ても、富士山は縄文時代から平安時代くらいまでは30年に1回は噴火していました。阿蘇山も大変な噴火を何度も繰り返して、一時は九州から西日本が壊滅するくらいの大きな噴火もありました。そういうことが最近わかってきているのですが、 富士山はこの300年、江戸の宝永噴火以来噴火していない、平穏な時期が続いているんですね。

近代文明というのは、異様な静穏期の中で育まれている。これが地球のデフォルトだと現代の人間は誤解しがちなところがあって。最近ハリケーンカトリーナなど大変な災害がありましたが、地球の歴史から見るとそんなに珍しいことではなくて、かなり平穏な地球環境に甘やかされてきたところがある。それが脆弱性でもあります。我々の「標準」とは何なのか、デフォルトをブロードバンドにするためにも歴史をちゃんと見なければいけないなと思いますね。

井上:今日のキーワードは、多様性や進化。僕自身は人類という、人と社会のことを考えて、未来に必要な叡智というものをこの財団で探ろうとしていますが、竹村さんはさらに俯瞰して地球というところで捉えてらっしゃるのですね。

竹村:ただ、僕の元々の専門は人類学だし、いまも人類学者であるつもりなのですが、僕が一番関心のあることはやっぱり人類なんですよ。だけど、それはこの宇宙の中で例外的な進化を可能にした地球という星で、未熟で厄介だけど大変な可能性を持った人類という種が、100億というオーダーで地球上に広がり、さらに人間がつくりだしたAIやIOTのようなものと共に進化していこうとしている。これは明らかに地球のOSをバージョンアップしつつあるということです、決して大げさに言っているわけではなく。

酸素のなかった地球で光合成生物が酸素を増やし、当時の地球にとってかなりの大公害だったんだけれども、その酸素に適応できる核を持った細胞がミトコンドリアを飼いこんで共存しながら共生進化していった。それで地球環境は緑に覆われた星になりましたが、それは生物の力で地球のOSを変えたんですよ。それと同じように、いま人類が地球のOSを変えつつある。

西欧的な科学者は割とネガティブに、地球環境を破壊する原罪論的な視点が多いこと、クリエイションできるのは神だけだというキリスト教的な文脈を引きずっているので、生命が地球を変えてきたというのは科学的な定説だけれども生物がいまの地球をつくったとはなかなか言えない宗教的な背景があるわけです。だからましてや人類が次の地球をつくるんだということはなかなかできない。

でもキリスト教の文脈を外して考えれば、明らかに生物がいまの地球をつくってきたんだから、人類が次の地球をつくろうとしているとフラットに言える。むしろ自分たちが今からの地球をつくらなければならないと考えると、我々は宇宙全体の進化を代表して進化の研究をしている、宇宙全体に対して責任を持っているわけです。生まれてくる子供たちも自分たちは宇宙を代表してすごい進化の実験をしているんだから、君たちは宇宙の未来に責任を持っているんだと、そういう教育をしてもおかしくないんですよね。

だから、地球のバージョンをいい形でバージョンアップするための叡智を集めようというのが、この財団の使命だと思うんですね。

井上:まさにそう思います。ところで、5億年前、5000万年前、500万年前の話まではしていただいたのですが、その次の50万年前は?

竹村:500万年前に直立歩行が始まって、250万年から200万年前には垂直に歩けるようになって脳が大きくなって我々のような姿になっていった。その後にネオテニーといって幼児化していくんですね。それによってソフトウェアがフィックスしない状態が長く続きます。つまり普通の哺乳類は1年しないうちに大きくなって生殖機能を持って次世代を産めるようになるのですが、人間は十数年かかる。

人間はなだらかなスロープで大人になって、大人になっても子どもっぽいですよね、顔つきもそうだしメンタリティも。最近はゆっくり育つだけでなくゆっくり老いるようになってきました。70歳を過ぎでも子どもみたいなおじいちゃんおばあちゃんもいます。地球の哺乳類では例外的で、その意味でも進化しているんです。もう少し詳しく言うと、直立歩行をすることで大きな脳を支えられるようになってかなり長距離をスピーディーに移動できるというメリットが生まれたんですが、デメリットが一つありました。

それは骨盤が狭くなって産道が狭くなったので、すごく難産になったんですね。子どもを産むのが大変になりました。するとどういう解決法になったかというと、早産してしまうんです。本当は人間は21ヶ月はお腹のなかにいなければいけないはずなのに10ヶ月で産んでしまう、約1年早いんです。だから人間は産まれてから1年間は自分の脚で立てないし、ものも食べられません。これを生物学的に言うと子宮外胎生というのですが、子宮の外でまだ胎生期を過ごしている。

わかりやすくいうと、人類というのはものすごい弱さを引き受けることによって、人間固有の強さにジャンプしたんです。自然界で1年も自分の脚で立ち上がれないほど弱い生物は生き残っていけないはずですよ。文化や道具や集団保育というOSによって、1年間自分の脚で立てなくても、ちゃんと子どもを育てて行けるというソーシャルOSが準備された。

そして子ども期が長いということは、可塑性が大きいということなんです。つまりDNAにプログラムされたかたち通りに大人になるのではなく、7割くらいはDNAであらかじめ決まって、残りの3割くらいは環境や教育によっていかようにも変われる。だから人類はこれだけの多様性を持つことができたんです。一つの種で北極にも熱帯雨林にも宇宙にも適用している生物なんて他にいないですよ、ジャックマイヨールなんて海にまで適応しましたからね。

人間にも水棲哺乳類的な本能がオプションとしてDNAに折り畳まれていて、イルカと一緒に泳いでいるうちに水棲哺乳類的なDNAを発動させることができるかもしれない。それをジャックマイヨールは自分の人生で証明しましたし、ウォーターバースといって、水中出産で生まれた赤ちゃんは最初から自分で呼吸をして、教えなくてもプカプカ水に浮いたりすることがあります。

これはまだ定説にはなっていませんが、森が草原になって猿から人に分かれた頃、大洪水で氾濫した環境が東アフリカのあたりにあったという説があります。そのとき私たちの祖先は肉食獣から逃れるために水に逃げてカバのような暮らしをしていたという。そうするうちにだんだん体毛がなくなって、水棲的な能力が進化していき、そのうちまた陸に戻った。そのまま水にいたままだったらクジラのようになっていたかもしれません。クジラはDNA的には元々カバです。

つまり陸上の哺乳類が海に帰っていったということです。進化というと、海から陸に上がったと、一方向しか教わらないことが多いですが、陸から海に帰った例もたくさんあるんですよ。イルカは犬みたいな哺乳類が海に帰っていったものだし、クジラはカバだった。前足がだんだんヒレになって、体毛がなくなってつるんとした肌になった。一番わからないのは、顔の前についていた鼻がどうやって頭の上に移動したのか、これはまだだれも分からないです。でもときどき突然変異というコピーミスが起こりますから。

宮本武蔵と大鯨と鯨涛(歌川国芳)

井上:我々人間は数千年前くらいまでならなんとなくイメージできるのですが、今日のお話ですと少なくとも数百万年はずっと進化の過程があった、急にポンと人間のような動物が突然変異的に産まれたわけではないということですね。あと数百万年経つと、我々人間の姿もまた変わっているかもしれませんね。

竹村:これから人間の未熟さが悪い方向に出て、相当悪い方向へ地球の生態系に壊滅的なダメージを与えることがあるかもしれませんし、または隕石が衝突するとか。そういうことがあって、いまの緻密な生態系のウェブが破損してしまったときに、またそこから新しい可能性が出てくるかもしれませんね。

今日は、パレスチナ問題やシリアの難民が生まれた背景に地球の温暖化があるといった話。その引き金が北極の気候変動であったとか、ホッキョクグマが溺れるだけじゃなかったんですね。あと、エジプトでなぜ農業が始まったのかとか、そういう話をしようと思っていたのですが、そこまで辿り着けませんでしたね(笑)。

<考察>

46億年のマザーアースの視点で、今の地球や私たちの社会を見つめ直すと、私たち人類の身体はまだ毛の抜けたお猿さん程度にしか進化していないのかもしれない。しかしその一方で、身体の進化のスピードを遥かに超える速さでテクノロジーは進化している。今後人類の進化は竹村さんの言うように、身体の進化の遅さを、身体から外化させた様々なツールや技術で補いながら私たちは進化していくのだろう。

テクノロジーによる進化(言い換えれば産業革命)の第一段階は手で扱う道具や印刷術、第二段階は内燃機関で動く機械、そしていま進行中なのがITやIOT、AIによる情報テクノロジーの進化だ。進化の第二段階で散々地球を痛めつけてきたしっぺ返しが、気候変動になって現代を生きる私たちを苦しめている。人類にとって生きづらい方向に地球を変えてしまったが、きっと地球は自浄作用によって長い時間をかけてバランスを取り戻すに違いない。しかしその時までに私たちが生きながらえている保証はない、このままでは。

目先の未来だけではなく、自分たちの孫の代、そしてさらに先の子孫たちのために、より大きな視点で地球との共生を考えること。そして地球とただ共に生きるだけではなく、地球をよりよい方向に作り変えながら、共に進化していくこと。第三段階のテクノロジーは地球と共進化するためのテクノロジーでなければならないと感じた。

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