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お金のオフグリッド〜フィンテック、仮想通貨の本質とは?

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オフグリッドした未来社会を想定して、これからの叡智を探るシリーズ。金融が電子化し、おサイフケータイやPASMOなどの浸透により、どんどん現金が見えなくなってきています。さらに既存の銀行などを経由せずに瞬時に国境を超えて決済できる電子通貨が登場、それを支えるあらたな金融技術(フィンテック)が注目されています。しかしその本質を理解している人はまだ少ないかもしれません。そこで日本のフィンテックの代表的な企業である、株式会社マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長の瀧俊雄さんにお話を伺いました。

<プロフィール>

瀧 俊雄さん(株式会社マネーフォワード取締役兼Fintech研究所長)

1981年東京都生まれ。 慶應義塾大学経済学部を卒業後、野村證券入社。野村資本市場研究所にて、家計行動、年金制度、金融機関ビジネスモデル等の研究業務に従事。スタンフォード大学経営大学院、野村ホールディングスの企画部門を経て、2012年よりマネーフォワードの設立に参画。

世界と異なる日本のフィンテック

私たちマネーフォワードはいろいろと個人のお金の見える化を促すアプリや、会社の経営の見える化をするための会計ソフトなどを提供しています。私たちのサービスを説明する際によく言うのですが、「人間が痩せたいと思ったときに最初にやることは、運動とかサプリメントを買うことではなくて、体重計に乗ることですよね」と。つまり、まずは見える化をする。でも、「お金の体重計」に乗ったことがある人って極めて少ないんです。

日本でフィンテックと騒がれているもののほとんどは、貨幣経済の範疇の話なんですね。来たる信用評価経済圏というか、貨幣や資源に縛られないマインドのようなものが評価する経済圏が訪れる前の、資源の制約がある経済圏においてもまだまだできることがいっぱいあると思っています。

そのひとつが、「現金を無くす」ということです。現金がなくても貨幣経済って回るものなので。政府の表現を使うとキャッシュレス化ということになります。

それは単にキャッシュレスになるだけでなくて、たとえば、私があなたに1万円送るとするじゃないですか。紙幣を渡すだけだと1万円が移転するだけですけど、デジタルになると「誰が送った」「誰が受け取った」「何時何分何秒に受け取られました」「なんで渡したの」という細かい情報を記録することができるようになる。

現金のときってそういう情報の管理が極めて雑になるんですよね。それが、たとえば、お小遣い帳に入出金を自動で記録することができるようになったり、あわよくば、「ここで貸借関係があったんだから次の取引のときはなんか別のやり方を考えましょうよ」みたいな提案ができたりする。アナログの現金がデジタルに変わるだけで生まれるポテンシャルって、まだまだすごく大きいわけです。

さらに言うと、家計簿って付け始めたら赤字の人が結構多いんです。「家計簿というのは三重苦だ」と私はよく言うんですけど、付けるのも辛い、見るのも辛い、改善点が分からないのも辛い。「お金の体重計に乗る」というのは辛いことなんです。だけど、本当に「痩せたい」と思っている人は、その辛さを一回乗り越えないと多分痩せられない。それをしないで、サプリメント飲み始めたりするんですが、なかなか続かないですよね。

お金というのは、基本的に習慣というか、自分の生き様を数字に置き換えたようなものなので、まずはその人が自分の習慣を数字として認識できていることが大切なんです。そこに当社の今のビジネスは特化しています。

我々だけで約550万人のご利用者様がいて、業界全体だと1200万人くらいのユーザーがいます。今までだったら絶対に家計簿なんて付けていなかった人たちが、だんだんお金の見える化をできるようになってきている。そういう背景がひとつ大きくあるのかなと思います。

海外においてフィンテックという表現と必ずセットになる言葉が二つあります。

ひとつが「ミレニアル層」という1980年~2000年ぐらい生まれまでの人たちを指す言葉です。この人たちは、それ以前に生まれた人たちに比べてかなりデジタルネイティブに近いので、いろんな金融取引をグーグルなどがやってもいいと思っている人たちなんです。スマートフォンを持った彼らは、従来とは全然違う金融サービスの選び方をします。歴史が無いと信用しない世代と、便利だったら信用する世代の断絶があるんです。以前ならソフトウェアが便利なだけでは企業への信頼は生まれなかったんですが、そこが変わってきています。

もう一つのキーワードが「アンバンクト層」です。アメリカもそうですが、海外では銀行口座を持てない層が一定数存在しています。この話で一番有名なのはケニアです。ケニアでは多くの人が銀行口座を持っていないけど、携帯電話は持っている。だから、ボーダフォンが携帯で通話をする権利を「Mペサ」という名前で売っていて、それを利用者同士が送り合うことで支払いの代わりができるようになっている。コンビニの買い物も通話料で払えるみたいなことが起きているんですね。従来だったら銀行口座を開いて現金で支給するわけですが、利用者が使えるようになるまで、治安面でのコストを含めると1割くらいがロスされると言われていました。通話料の権利だけだったら、そういうロスは起こらないので、みんな使うようになったんですよね。

一方、日本にも少子化で少ないですがミレニアル層はいます。ただ、アンバンクト層がほとんどいないんですよね。基本的にみなさん3つから5つくらいの銀行口座を持っています。そのため、我々のサービスのように口座を一元管理するのが流行しているわけです。

日本以外の多くの国では状況が異なります、アリペイ」が流行っている理由もアンバンクト層が中国にたくさんいるからなんですよ。アメリカでも、アンバンクト層だったり銀行口座を持っていてもローンが組めなかったりする移民たちなどの「初めての車を買って職場に行きたい」みたいな需要に対して、銀行とは違う融資ができるサービスがフィンテックとして流行っている。その裏には切実な貧困問題があるんです。海外で重要視されている銀行口座へのアクセスという基本的人権みたいなものが最初から達成されていて、その上で便利にしていくのが日本のフィンテックなんですね。

日本の金融機関は極めて便利なんです。ATMも基本的にいつでも動いているし、同一行内なら手数料を支払うことなく送金できる。飲み会をしてお開きのときに会費を振り込むと、12時半くらいには自分の口座で確認できるじゃないですか。同一日内の送金が無料でちゃんと反映される国ってほとんど無いんですよ。海外の安い振込取引だと3、4日かかります。それがPayPalはすぐに送れるから、海外では流行しています。

日本の場合、現金経済と銀行を使った仕組みがとても便利なので、正直そこにあまり不満が無いんですよね。日本はこの14年くらい公的資金をほとんど銀行に入れていない。だから、毎年出されている就職ランキングだと、銀行に就職したい大学生がたくさんいる。親世代の銀行に対する信頼が厚いこともあると思うんですが、海外だと2008年のリーマンショックなどもあって銀行はもっとイメージが悪いんですよ。

とはいえ、日本の金融機関も今後はベンチャーと組むことで、新しいイノベーションを生み出すことでできるのではないかと思っています。この2年くらい日本のフィンテックが金融庁主導で進んできた大きな背景になっています。

ビットコインは1989年のインターネット

「貨幣経済の先」の話に行く前に、その前段で「ビットコインって何なの?」という話をしたいと思います。私はよく「あんまり騒ぎすぎるな」みたいな論調で言うんですが。

「ビットコインというのは岩だ」と私はよく言ってます。地球上で約10分に1回採掘されてくる岩なんです。岩には1メガバイト程のデータが書き込めるようになっていて、それは誰も編集できない。それが主に中国で採掘されている。

ビットコインをどう考えたらいいかというと、ビットコインというのは金とかダイヤと一緒でみんながいいと言うから価値がある。でも、給料を全部金で渡されても困るじゃないですか。例えば居酒屋で飲んで、「これで払えますか?」というときに、金をスライスして渡さなければいけない。それよりは日本円の方が便利というのが実体ではないかと思っています。

ただ、まったく価値が無いわけではなくて、「絶対嘘をつかれない岩」というのは、あんまり他に無いわけですよ。そのため、今人間はそれに高い値段を付けたりしています。この岩(=ビットコイン)の仕組みを使ってビックカメラで掃除機を買えたりするようになっていますが、そういう仕組みは簡単に作れるわけです。

そういうわけで、このビットコインに対してどういう値段を付けようかとか、この裏側にあるテクノロジーを使えば「ブロックチェーン経済圏」ができるとか、盛り上がっている人たちがたくさんいます。ビットコインというのは、政府のような主体が要らないという考え方の人にものすごい受けがいいわけですよ。どちらかというと、そういうマインドの人たちがもともとはコアにいて、最近はお金目当ての人たちが寄り添って広がっているようなところがあります。そういう経済圏を別に否定するものではないですし、必ず真実が記録され続けるということには価値があります。

 たとえば日本の場合、全銀ネットという銀行間決済のシステムがあります。これは数年に1回、銀行がお金を出し合って沢山の費用をかけてメンテナンスをしているんです。それに比べたら、ブロックチェーンはオープンソース的な開発によって、相対的に安い帳簿として機能するというメリットはあるんだと思います。もちろん、40年前に作られた銀行システムに比べれば、ブロックチェーン型の銀行を作った方が便利になりえると思います。

ビットコインというのは、新しいタイプの「技術」だと考えています。ブロックチェーンという分散型の台帳技術なんですが、ブロックチェーンがOSだとするとビットコインがその上で動くアプリケーションというような関係です。これは8年連続して動いてきたサービスで、事後的な改ざんがされたことも無い。嘘が一瞬だけつかれることがあっても、事後的にちゃんと訂正がされるんですよね。だから、真実のデータが1個だけ続く。しかも、どんなに悪い人がいても、どんなにお互い仲が悪くても、その真実が守られる仕組みってやっぱり他にはなかなか無いんですよ。

ブロックチェーンの強さというのは、みんながサーバーを立てて分散して運用することで、黙っていても上手く回る信頼の仕組みなんです。従来であれば、中央集権や公権力といった怖い先生が見張っているわけですよ。でも、そういう先生がいなくても上手く回っていく。新しい次元に来た感じはあると思うんですよね。

一方で、ビットコインには、スケーラビリティという大きな問題があります。1秒間あたり7つしか取引が記録できないんですよね。だんだんビットコインの取引が増えて、記録が入り切らなくなってきた。そこをどうするか、という問題があります。

「1989年のインターネットだ」といったことを、伊藤穣一さんが言っていましたが、おそらくビットコインは5年から10年くらいかけて改善していくのが現状だと思っています。でも、そうなった暁には結構便利なものになるんじゃないでしょうか。

ひとつ、ビットコインに関連して私が問題提起したいと思っていることがあります。ビットコインは国に換算すると75番目くらいに電気を使っていて、シリアやモンゴル一国よりも電気を使っています。岩が10分に1回降ってくるためにランニングコストの電気代がそれくらいかかっていて、しかも中国で掘っているということは石炭を燃やしたエナジーを元にして使っているんです。

そういったエナジーを使ってすごくクリーンな帳簿を付け続けているというのが、ビットコインのひとつの側面ではあるんですよね。個別の主体からすると電気代を使っているだけですけど、環境負荷がコストに反映されていないエネルギーなので、そこまで考えると、何らかのルールを作った方がいいかもしれないですね。

ただ、ここまでの話は、どちらかと言うとまだ貨幣経済の話なんです。貨幣経済の中なんですが、政府の信用は必要としなくて、人が共通して思う価値に連動して成り立っているのがビットコインだと思っています。

評価経済と貨幣経済

「貨幣経済の先」ということで言うと、今、「評価経済」みたいなものが流行っているんですが、これはだいたい10年周期くらいで流行るんですね。2000年頃に日本でも地域通貨ブームがあったんです。たとえば、長野で雪を降ろすと「ずらあ」という単位の地域通貨をもらえる。その「ずらあ」を持っていくとおばあちゃんに腰を揉んでもらえるという。そういう身内の中で流通する価値の経済圏と、一般的な経済圏を分離してもいいんじゃないのでしょうか。

 お金とは何かと言えば、「誰でも1万円の価値は1万円と分かる」ということになります。でも、実際には身内で飲むときの3000円と相席で知らない人と飲む3000円は感覚的に違いがあって、同じ金額をやり取りしていてもそこに付随するちょっと違うタグ付けがある。それを普通のお金からできるだけ違うものとして切りだそうとするのが評価経済だ、というのが私の理解なんです。

たとえば、アニメとかゲームとか、できればオンラインゲームの終わりのないものに没頭している人が一番いい例だと言っていて。そういう世界の中で大きい城を持っているとか、すごい武器をたくさん持っていることって、関係無い人にはどうでもいいことなんですが、その世界のコミュニティの中ではその人は尊敬されるんです。そこまで来るまでにものすごく時間をかける人もいるし、リアルマネーを払うケースすらある。私は、ユーザーサポートの担当役員もやっているのでわかるのですが、そういうゲームのサービスを閉じないといけなくなったときに、サポート窓口に「死にます!」という電話がかかってくることすらあると聞いたことがあります。

そこには一般経済とは違う世界観というのが存在しているんですよ。それを否定することは誰にもできなくて、その中だけで流通する何かがあるはずなんです。それを可視化されたコミュニティに置き換えたものが「VALU」だと思います。いろんな人が参加しているじゃないですか。たとえば、世の中にはイケダハヤトさんを救世主だと思っている人もいる。そういう人たちにとってイケダハヤトさんに投資ができるってすごいことのはずなんです。でも別に僕らはそれを理解する必要は無いんですよ。

広く見たときに、一般的な社会経済のように誰にでも理解できる価値とは違う、一部の人にしか理解できない価値が、ほとんどのものにちょっとずつ八百万の神のようにあるわけですよ。人それぞれに大事な世界を持っていて、その世界の中で行動するのに必ずお金を調達するのが必要になるときがある。でも、そのための評価経済圏というものができたり、その経済圏の中でみんながきちんと約束を守って行動したりということについては、まだまだ発展途上なんですね。「VALU」に関してユーチューバ-の一人が騒動を起こしたりもしましたが、ルール作りは必要ですが、サービスそのものを否定する必要はないと思います。麻生財務大臣も、「VALUには危ない部分もあるかもしれないけど、おいそれと規制してもダメだ」みたいなことをおっしゃっています。

NWF事務局:日本で地域通貨が出ては消え、出ては消えというのがあるのは、なぜだと思いますか?

海外でも続いているものは少ないんですよ。現在でも使われているものはニューヨーク郊外のイサカ市というところにイサカアワーという地域通貨があるんですが、世界中でもそれくらいじゃないでしょうか。でも、イサカ市でイサカアワーで給料もらっている人はほとんどいないと思います。地域通貨は出てくるときは盛り上がるんですが、現実経済を乗っ取るほどの盛り上がりにはならない。ただ、だからといって評価経済の価値が無いわけではないんです。

要は、評価経済ってすごくフワっとしているものなんです。たとえば、握手券つきのCDというのが世の中にあるんですが、券をたくさん買って投票したアイドルがステージ上で結婚宣言してしまうショックみたいなものが存在する。本人が真面目に生きていても約束を守れないケースは生まれてくるので、評価経済の根幹にある「評価」が一瞬にして崩れてしまうこともあり得るわけです。そういうことと比べると、結局、常に絶対的な価値を持つ日銀券の方が信頼できるよね、みたいなことが往々にしてあるんですね。

基本的には日銀券以上に信頼できるものが出てくるまでは、ほとんどの人が日銀券を使い続けると思います。それ以上のものというのは、今までの社会が生み出すことに成功していない気がしますね。

ビットコインも既存の通貨との交換レートで価値が測られています。「やっぱり換金するんだ!」って思いますよね。でも、ビットコインの中だけの経済圏というのはあって、ICO がなんであんなに流行っているかというと、ビットコインですごいお金持ちになって、そのお金を本当に世の中に還元したいと思っている人がICOのコインを買っている。そういうこともありますよね。

貨幣経済と評価経済というのは両方あっていいのだと思います。ただ詐欺が起きないように出し方をコントロールする必要はあります。みんながみんなステージ上で「結婚します」って言ったら、次回から本当に結婚する気が無い人が握手券を売りたいときに売れなくなったりするので。出す側のガバナンスというのが必要になりますね。

国家とお金

「絶対的権力は絶対的に腐敗する」という格言があります。国家は、困ればお金を刷って財政支出をするインセンティブがあるものなんですね。本来であれば中央銀行がそのブレーキとなるものですが、現在ほとんどの国家で、そのブレーキが働いているとはいいがたい。

貨幣というのはそういうバイアスを抱えているものなので、そこに対して常に疑いを持つくらいがちょうどいい市民像だと思うんですよね。フランス人やドイツ人はそういう風に思っている。「70年くらい前にえらいことがあったからなあ、でも、今のところは政府を信じとくか。」みたいな感じです。

それに対して、評価経済圏でズルすることは非常に難しいはずです。親子の関係をいきなり偽装することとかできない。そういうズルされにくいものが人と人との間の信頼だったりするんですね。国と個人の関係って、人口が1000万人超えた国家になると基本的には他人ですよね。政府は自分たちで選んだつもりなんですが、その政府がポストトゥルースの人たちに好きなように使われてしまったりする可能性もあるわけです。そういうものよりは自分の信じている経済圏の方を信じる人たちがあってもいいはずなんです。でも、自分たちがだんだん大きくなっていくと、その中でまた新しいポストトゥルースが生まれたりする。そういう風に歴史がどんどん繰り返していくだけかもしれないですけどね。

通貨というのは、結局そういうレベルで信認されたもので、ちょっと妥協があるかもしれないとみんな薄々感づいているけど、仕方無いという感じで維持していくものなんじゃないでしょうか。

NWF事務局:結局、誰が通貨を発行してるのか? というのが問題だから、そこをちゃんと信用できるところが発行してくれればいいと思うんですけどね。

日本銀行のような中央銀行が通貨を発行するのは実は当たり前ではなくて、昔は銀行が紙幣を刷っていたわけですよ。香港はいまだに民間銀行がお札をルールに基づいて刷っています。

NWF事務局:そのルールを違う国に委託してるところも結構あるんですよね。

あります。だから、どちらかというと自分たちで作ったルールを自分たちで守れるか、ということの方が大事なんだと思います。「親父の代に決めたことだから俺は変えるんだよ」みたいなことがどんどん起きると国家としては堕落していく。歴史の教科書で金の含有量を減らすように改鋳された大判とかたくさんあるじゃないですか。そういう誘惑をなめてはいけない、というのはありますよね。

どういうスピードで通貨を発行するか、ということで国家を分類することができると思います。超ハイパースピードで通貨発行をしたのがナチスドイツ、ゆるやかに増やし続けているのは日本です。一番厳格なイメージがあるのは、ドイツの中央銀行です。ナチスドイツに戻りたくなりたくないからドイツは堅実な財政運営をしているんですが、多くの国はそこまでうまく制御ができていません。

たとえば、一部の地域だけで使える「〇〇コイン」みたいな通貨があるとして、そこの地域がいきなり通貨を4倍くらい発行して他の地域に売るとします。そのときはいいですが、いずれ〇〇コインの価格というのは4分の1くらいの価値になってしまう可能性があります。だから発行をコントロールできるかというのはすごく重要なテーマで、中央銀行はそれを民主的に行い、ビットコインの場合は確率論と電力による制約でそれを制御しているわけです。

NWF事務局:おそらく地域通貨の目的として、お金を域外に流出させずに地域内で循環させる、ということがあると思うんですが。

そうすると、地域内でしか使えないわけですが、やっぱり地域の外のものを買ってきて食べるような豊かさもあるはずです。なんだかんだで、お金というのは自由になることを求めているものなんですよ。私は常に揺り戻しだと思っていて、一般的な経済だけでも面白く無いし、地域の価値も大切だと。でも、地域の中だけで生きようとすればスコットランドみたいに、やっぱりイギリスと繋がっていたい、みたいになるわけです。そこは政権交代のように定期的に行ったり来たりするもので、多分、前回の議論を知らなかった人がラーニングしていく過程としてあっていいんじゃないでしょうか。

NWF事務局:エストニアの電子政府がすごく未来的に見えるんですが、近い将来世界中がそういう風になっていくんでしょうか?

エストニアがすごいのは、メールアドレスを個人の住所として規定したことで、国民IDカードでほとんどのことができるようになり、紙を使わないところです。インドでは今、マイナンバーに指紋を付けて、それにSuicaみたいなウォレットをくっつけて、どんなお店行っても指紋でお金払えるみたいな仕組みを作ろうとしているんですよ。

NWF事務局:そうやって集まった情報を誰が管理するか、ですよね。

それが国の最後の役割だと思います。そして情報を集めすぎないことが重要なんですよ。ナチスの例をまた出して恐縮なのですが、やっぱり欧州であれだけプライバシー権やデータポータビリティが議論されるのは、ナチスドイツが住民票のデータを全部集めて正確にユダヤ人の家を把握していたことによるためです。

日本の場合、15年前までは小学校の連絡網を撒いていました。フルネーム、住所、電話番号付きで。しかも、子どもがそれを無くしたりする。それが、ある日いきなり個人情報保護法により突如「リスク」があるものになった。でも、一方で、本当は病院の間で、服薬している薬やカルテを共有できたら、より正確な医療が受けられるようにもなるじゃないですか。個人情報の利用が有益なケースや、どのようにして守られたいかは、今後とも議論を深めていく必要のあるテーマです。

フィンテックで変わるお金の感覚

NWF事務局:社会全体の動きを見える化していくことは、どういう影響を世の中に及ぼしていくんでしょうか?

社会全体で個々のお金のやり取りがすべて明らかになる経済圏は、多分、来ないと思うんです。人間は基本的にプライバシーを優先するものだと思います。「誰々が誰々に支払いをしました」「飲み会楽しかったです」という情報を見せることができる割り勘アプリも最近出てきています。「寄付型のクラウドファンディングをしました」とか、そういう行為は積極的に見せたいという場合もありますが、一方でお金のやり取りについては、プライベートでありたいという人が多いです。

管理の話は常にあります。キャッシュレス化の一番怖いところはそこだと多くの人は思うはずです。ただ、麻薬を買ったり、人身売買に使われたり、テロリストが武器を買ったり、悪いことは基本的に現金で行われるんです。あと、脱税も現金。世界的にも9.11以降の世界というのは基本的にテロリストにお金が渡らないことを一番のテロ対策にしているんです。テロ対策はテロ組織を制圧することではなくて、お金をテロ組織が手に入れられないようにする、という話なんですよね。だから現金は基本的に無くすべきっていろんな国が言っています。

NWF事務局:インフラが変わるとしても、そもそものお金の感覚は変わらないんでしょうか?

徐々に変わっていく部分って絶対あると思っています。去年高校で授業やったときに、Suicaでお小遣いもらっていた子がいたんですよ。確かにSuicaでお小遣いもらえば、現金と違って、記録が残ります。カツアゲもされないし、親にとって現金より使途を狭めることができる。

でも、すでにそうなっている子どもたちがいると思っていて、2年後、3年後には「LINE Payでお年玉ください」と言ってくる親戚が出てくると思うんですよね。実際に中国のWeChat ペイは今年460億通のお年玉を処理しているんですよ。WeChat ペイのユーザー数が8億人なので、ひとりあたり60通くらいのお年玉をすでにオンラインで処理している。そうなると、日本も3年くらいで変わると思いますよ。驚くほど早く変わると思います。

でも、7000円しか持ってない人が7000円しか持ってない事実は変わりません。従来の人は「あと2枚しかない」みたいな感じで管理していたのが、数字に置き換わるだけだと思っていて。数字に置き換えることに慣れている人はあんまり変わらないと思います。

我々の世代はどうしても物理的にお札が無くなると、お金が無いことを実感するように小さい頃から刷り込まれているわけです。でも、小さい頃からLINE Payでお小遣いをもらっていたら、数字でお金を管理することに苦は無いと思うんですよね。

「お母さん」を必要とする時代

NWF事務局:先ほど、「金融を見える化したい」というお話があったのですが、見える化の先には何があるんでしょうか?

見える化して、その先は実は「見えない化」したいんですよ。いつもお金について調べている人って、多分、幸せではないんです。どっちかと言うと、勘のいいお母さんみたいな人がいるのが正解だと思うんです。

たとえば、夫婦の場合、旦那さんがお小遣い制のケースと奥さんに生活費を渡しているケースがあるんですが、お小遣い制であった場合には奥さんの金融リテラシーに家族が依存するわけです。反対でも旦那さんのリテラシーに依存する。では、どうするかというと、給与口座に「お母さん」がくっついていて、「はい、あなたの小遣い3万7千円」「あなたは生活費4万円とクレジットカード」みたいな感じで渡して、「お母さん」がお金貯め続ける。そういうサービスがあっていいはずなんですよ。

つまり、そういう自動貯蓄とかをAIを使って上手いことやりたい。やっぱり、みんなそんなにお金の管理ってできないんですよね。使っちゃう人はどんどん使っちゃうし、不安な人は必要な使い道でも使わない。

あんまりお金については二人とも悩んでないけど、「お母さん」に任せておけば、勝手にここに貯めといてくれる、みたいなのが、多分、どこかで本質的な解決になると思うんですよね。

日本の金融は、既に十分便利だと思うんですよ。これ以上便利にするよりも、金融サービスを分かりやすいとかやさしいものに変えていかなきゃいけないと思います。

アマゾンで物を買う時にそこまで悩んだりしませんよね。金融機関もアマゾンレベルまでユーザビリティをいずれ求められていくと思いますし、最近生まれている証券会社もアマゾンのように株を買えるようなデザインになってきています。

まずは身近にしてあげる。専門知識を勉強しなくても金融サービスは使っていいものって翻訳することがこの業界のすごく重要な責務だと思うんです。あと、そんなことすらしたくない人のニーズにも応えるべきで、それはみんなで「お母さん」を作る必要があるんです。いろんな家計簿に独自のAIを準備してあげて、給料をその「お母さん」に預けるわけです。それで、「あんたそれ行っちゃダメ」とか言われるみたいな。そうやって家計を強引にでも良くしてくれるサービスが必要ではないでしょうか。もちろん「お母さん」がお金を巻き上げたらダメなんですよ。その人のために受託者責任を負ってやる必要があると思うんですね。

NWF事務局:そうすると、人は頭で考えなくなりませんか?

実は多くのほとんどの人が、もともとお金については考えてないと思うんです。スマートフォンを使って寝っ転がっている自分を想像していただきたいんですが、世の中の92%くらいの人は基本的にその状態だと思っているんです。アメリカの金融関連の法律などを眺めていても、「お母さん」を用意した方がいいという方向に舵を切っているんですよ。アメリカの年金の仕組みは2006年くらいにそっちに舵を切っているんですよね。「自己責任に基づいてよく勉強して騙されないように頑張れ」と言っても頑張らないので。

それは日本もあんまり変わらない気がしています。もちろん、勉強したい人には上のランクのものを用意しますけど、最低限は「お母さん」が見るよ、という状態にするべきかな。世の中だいたい混乱するとお母さんがコトを収拾するわけですよ。

AIなのか生身の人間なのかは別にしても、ほどほどによく面倒見てくれる存在というのが、多分、これだけ混乱している時代だから必要だと思うんです。もちろん、いつかは「脱お母さん」できるようにするんですよ。でも、ほとんどの人がお母さんの元で育つんです。

NWF事務局:そうなると銀行が無くなるのでは?

 金融機関は、機能だけを提供していれば透明化します。我々は「電力会社の電気ありがたいなあ」「水道局の水って便利だな」とか日常的には思わないじゃないですか。インフラというのは単体だと個性を出しづらく、サービス面でのアピールがセットになるものなんですよね。空気のような存在なので。銀行もそれと同じだと思うんです。もっと目立つべきはその前面に立っているIT企業やサービスであって、インフラは目立たなくていいんです。今の時代の銀行はむしろサービスをより積極化させるべきフェーズにもあると思います。

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