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SOW!〜Search Out Wisdom〜レポート

EVENT

Vol.4「SOW!」Search Out Wisdom

「SOW!」は、これからの未来を切り開くための叡智や、失われそうな叡智を持って取り組む人・団体(プレゼンター)に対し、各分野の専門家や日本を牽引する起業家(ゲスト)が、自身の叡智をアイディアとしてシェアするサロン的セッションです。2018年は、AIが日常生活のベースに入り込んだ社会において、『人間にしかできないと思われること (ex.アート、社会活動、クラフトなど)』『きちんと残していきたいこと(ex.環境、自然、伝統文化など)』『新たに創り出したいもの(ex.教育システムなど)』の3つの観点から選りすぐりのプレゼンター4名を選考しました。

プレゼンター

・ワシオ株式会社  鷲尾 岳さん
・国立歴史民俗博物館 仁藤敦史さん
・MotionGallerySTUDIO 汐田海平さん
・株式会社 茨城製作所 代表取締役社長(理学博士/D.Phil.)菊池 伯夫さん

ゲスト(プロジェクト応援)

・当財団代表理事、株式会社LIFULL代表取締役社長 井上高志
・当財団代表理事、カフェ・カンパニー株式会社 代表取締役社長 楠本修二郎
・当財団理事/一般財団法人ジャパンギビング 代表理事/NPO法人ドットジェイピー 理事長 佐藤大吾
・当財団理事/慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授 前野隆司
・当財団評議員/ファッション・ジャーナリスト、一般社団法人フュートゥラディションワオ代表理事 生駒芳子
・評論家、翻訳家 山形浩生
・takram design engineering 佐々木康裕

【プレゼンターNo.1:「世の中から寒いを無くしたい」】ワシオ株式会社  鷲尾 岳さん

1991年生まれ。2013年に大学を卒業後、自らが最速で成長できる刺激的な環境を求め神戸の会社に就職。
新規事業立ち上げの責任者として入社直後から3か月で事業計画を作成し、すぐに中国に赴任。既存顧客ゼロから日本酒や焼酎の新規営業で現地で3年間、酒浸りの日々を送る。その最中、一時帰国した折に、たまたま家業の業績不振について知り、緊急で退職、帰国し同社に入社。「世の中から寒いを無くしたい」の強い信念のもと、50年前に祖父が考案した起毛生地『もちはだ』の素晴らしい価値を世の中に広めるべく、製品企画、プロモーションから生産管理に至る経営のあらゆる面に関与し、汗を流す日々を送っている。クラウドファンディング最大手のmakuakeで、同社のTシャツの製造企画は開始から2時間半で目標金額を達成。当初用意していた500枚は2週間で完売、最終的に100枚を追加しこちらも完売。達成率1303%での着地となった。モットーは「笑って死ぬために全力で生きること」

<課題
課題であり強みでもあるが、『もちはだ』の編み機は、約50年前の靴下編み機の部品を改造して、職人が金属を磨いて溶接するところからつくっている。世の中に唯一無二の機械で、新しい編み機をつくるには、高級車1台分くらいの費用が必要。『もちはだ』の製作には、5年間やらないと編み機の仕組みがわからず、10年間修行ないと新しい機械はつくれない。『もちはだ』をつくるのは、伝統産業や工芸品に近いと思っている。

課題の一つ目は、技術継承(人材不足・職人の高齢化)、課題の二つ目は、発信力・企画力(外向きの力が未発達)。課題解決に向けた動きとして、クラウドファンディング(https://www.makuake.com/project/mochihada/)にチャレンジして、650万円の調達に成功した。これからやりたいことは、ワシオのものづくりを全ての人に伝えること、一人でも多くの人の「寒い」を無くすこと。

<問答>

生駒:
『もちはだ』は、編み機の部品を手作りするところからはじめているのですね。私は最近、ご縁があって伝統工芸の産地を訪ねる機会が多いんです。繊維産業の工場を訪れることも多いのですが、どこも後継者不足で、若い人がいないという問題を各地で聞きます。プレゼン資料の中に、“鷲尾さん自身のカリスマ化”とありましたが、それはとても良いと思います。江戸小紋や江戸切子などの伝統工芸の現場では、実は10代の職人が活躍しているんですね。10代というインパクトもあるし、ご本人たちも格好いいというのもあって、現場の職人がフィーチャーされる機会も増えているように感じます。鷲尾さんもイケメンですし(笑)、カリスマ化するのはいいのではないでしょうか。

あと、ファッションの視点からいくと、“課題解決のファッション”というのが出てきているんですね。ユニクロのヒートテックもそうかもしれませんが。平昌オリンピックでは、選手の皆さんがとても寒そうでしたよね。次回の冬季オリンピックの北京では、ぜひ日本団のユニフォームを狙ってほしいです。

もう一つ、『もちはだ』は素材として売っているのですか? 『もちはだ』を使ってポンチョやコートをつくったり、パンタロンにしても可愛いと思いました。肌に近いところの製品は『もちはだ』と相性が良さそうなので、部屋着ブランドをつくるのも良いと思います。ライフスタイルウェアですね。ただ、そこにはきちんとしたデザインが必要です。気鋭のデザイナーさんに『もちはだ』を使ったデザインを提案してもらうのも良いかもしれません。異素材と組み合わせたり、今の時代はリアルファーがNGなので代替品として使うのもありですし、いろんな提案が出てくると思います。素材としてのアイデンティティーを持ちながら、今の時代に合わせたデザインでやっていくといいのではないでしょうか。

佐々木:
人材不足はどこの会社も一緒で、例えば客室乗務員だと何十倍という応募がくるけれど、空港のラウンジは地域によっては人材不足に悩んでいるんですね。その解決策として、ラウンジの制服を格好良いものに変更したら、人材不足が解決したという例がありました。“働いている人が格好良い”というアピールは大切だと思います。『もちはだ』のブランディングも、格好いいという方向にシフトチェンジしていったらどうでしょうか。

山形:
若い人がこないうえに、入社しても修行に5〜10年間かかるということですが、目指すところは会社が倒産しない程度の経営なのか? それとも、日本中の誰もが『もちはだ』を着ているような状態を目指すのか、さらに世界を視野に入れてもっと上を目指すのか? どこを目標に置いているのですか?

鷲尾:
今は製品が売れていなくて、売り上げが落ちてしまっています。そもそも、『もちはだ』の存在を知られていないのが大きいし、知っている人も、『もちはだ』は暖かいけれどダサいというイメージを持っていて、そのダサいイメージを解決していくのが目下の課題です。まだまだ着ていない・知らない人が多いので、日常着として知られていけば売り上げも伸びると思っています。

山形:
『もちはだ』の認知度を高めて、市場を拡大したいのが最大の目的であれば、例えば、今の『もちはだ』のクラウドファンディングサイトでは解決できないかもしれません。起毛パイル地の図や工場の写真は必要ですが、もっと話題作りをしたほうが良いと思います。『もちはだ』を着続ける“暑さ耐久”とかね(笑)、なんでも良いのですが、認知を高めるための話題作りは必要だと思いました。

前野:
特許が切れているのに、追随する組織がいない、他企業がやらないのはどうしてですか? 素晴らしい技術なら、追随する人がいないのが不思議だなと思いました。あとは、一人でも多くの寒さをなくすのは素晴らしいことですが、着心地の良さをもっと売り出してもいいのかなと思いました。

鷲尾:
特許が切れているのに他社が真似をしないのは、効率が悪いからだと思います。一般的には製品をつくった後に、起毛機にかけて起毛させるのですが、『もちはだ』は編みながら起毛するので、ゆっくり編む必要があるんです。これからオリジナルの機械をつくってやるには、採算が取れないのだと思います。

井上:
ユニクロのような世界的なファッションブランドを目指すのか、もしくは家業を立て直したいというパーソナルな思いからやっているのか、どちらですか? 前者の場合なら、極端な話、もっと事業の上手な人に任せる、『もちはだ』を買収してもらってスケールさせるという方法もあります。

鷲尾:
僕はあまり欲がなくて、今のところ会社を大きくしたいとは思っていません。人生の価値をどう考えるかだと思いますが、今は世界中に『もちはだ』を知ってもらうことよりも、ワシオの従業員が不安な思いをすることなく日々を暮らしてほしい、幸せになってほしいと思っています。それは会社を成長させることで実現できると思っています。お金をどんどん稼ぐよりも、自分たちの周りの人たちの生活が大切で、そのために会社を大きくする必要があれば会社の拡大を目指します。

井上:
その幸せにする対象の優先順位は、『もちはだ』のユーザーよりも従業員が一番ですか?

鷲尾:
はい。今は、作っている従業員のみんなが一番です。そもそも『もちはだ』は従業員がいないと作れないので、まずはみんなの幸せが一番だと思っています。

井上:
売れていない状況を打破するには、一般的にはマーケティング手法で『4P』がありますね。製品(Product)・価格(Price)・流通(Place)・プロモーション(Promotion)。もう一度、4Pを考えてみてはどうでしょうか。『もちはだ』のプロダクトは本当に唯一無二か? それに合ったプライシングになっているのか? プロダクトとプライスをもっと磨き上げて、工夫をすることで売れるようになるのではないか? 今は、4つのPのバランスがまだ取れていないのではないかと思って拝聴していました。例えば完全なオーダーメイドでユーザーの要望に100%答えるという方法もあると思いました。

【プレゼンターNo.2:正倉院の古代文書を後世に残すプロジェクト】国立歴史民俗博物館 仁藤敦史さん

1960年生まれ。早稲田大学大学院文学研究科満期退学。早稲田大学博士(文学)。専門は日本古代史(主に王権と都市の研究)。早稲田大学文学部助手を経て、現在は国立歴史民俗博物館研究部教授・総合研究大学院大学文化科学研究科教授(併任)。主な著書に、『卑弥呼と台与』(山川出版社)、『古代王権と都城』(吉川弘文館)『古代王権と支配構造』(同前)など。NHKの歴史番組『さかのぼり日本史』、『英雄たちの選択』などに主演。中学校歴史教科書の執筆、集英社版「マンガ日本の歴史」の監修など担当。歴博へ着任以来、四半世紀以上の間、正倉院文書複製事業の担当を続けている。

<プロジェクト発表と課題>
参考サイト https://readyfor.jp/projects/rekihaku1

正倉院文書は、当時の天皇から庶民までの生活様式、戸籍制度や税制といった政治まで広く知ることができます。さらに、漢字文化圏が東アジア全域に広がっていた時代の外交などを通じて、文化交流のあった国々の様子も伺い知れる貴重な文書であり東アジア全体の歴史的財産です。

官庁が作成した文書や諸国からの報告書は、奈良時代の戸籍や税について記載されており、これらの文章は、裏面が写経所文書に再利用されたため、偶然に保存されたものです。お経を写すというのは奈良時代の最先端の文化事業だったので、この文書を研究することで当時の学術・文化レベルの研究が進むし、文書による行政が始まった時期の研究も進みます。これらの研究を進めることで、現代社会を相対化できるのではないかと考えています。ものによっては「もっと休みがほしい」「新規採用を止めろ」「服が汚れたので新しい制服を支給しろ」など極めて人間臭い要求が書いてある部分もあります。

全800巻あるうち、ほぼ半分の複製が終了しましたが、近年、プロジェクトへの国家予算が大幅に削減されており、今回の登壇を通して、事業の意義や予算の危機的状況を理解してもらえるきっかけになればと思っています。

<問答>

山形:
文書を物理的に紙で再現しているということですが、映像やデータ化で足りるのではないかという議論はありましたか?

仁藤:
文字のみの映像やデータは、研究ツールとしては情報不足です。実は、この文書は奈良時代から保存されていますが、幕末から明治初期にかけて文書のリミックスがされて“ベストセレクション”が作られたのです。これによって、元の並び方などの保存状態がわからなくなった。これを元に戻す作業をするときに、紙一枚に残されたシミや墨の濃淡、時には墨に残された鉄分なども手がかりになります。紙に残っている情報をできるだけ忠実なかたちで複製することが必要なんです。また、原本のバックアップという視点からも複製が必要です。万が一、災害などより原本が失われてしまった場合は、この複製が歴史的価値のあるものになります。

井上:
近年、予算が縮小されたということですが、どのくらいの縮小ですか?

仁藤:
最盛期の10分の1程度です。現状では、1年に数巻を複製するのが精一杯という状態です。それまでは残り20〜30年あれば全800巻を複製できるだろうという感じでしたが、ここまで削られると半世紀以上はかかるのではないかと思っています。

楠本:
現在は、非常に貴重な文書のため、移動させたり長く公開することができないということでしたが、公開したときの経済的・文化的価値はどの程度でしょうか? 広く、文化的価値を認知してもらうことも必要ではないですか? また、文化庁は文化を経済価値に変えようという方向にシフトしています。そこに、このプロジェクトも乗っていけば良いのではないでしょうか?

仁藤:
経済的価値はともかく文化的価値はかなり高いです。1300年前の様子を知ることができる文書がこれだけまとまって残っていることは、とても貴重で奇跡的な状況です。この文化財の価値を理解してもらう運動の一環で、クラウドファンディングにもチャレンジしました。このプロジェクトを国家事業として推進していきたいと思っています。

文化事業には、活用と保存の両面があります。短期的には2020年のオリンピックで海外観光客に見せるといった活用方法、もう一方では、100年後・1000年後にもし原本が見られなくなった場合のバックアップという長期的な保存の目線も必要です。

前野:
この正倉院文書の価値についてお聞きしたいのですが、このような貴重な文書は伊勢神宮や明治神宮など日本各地の神社仏閣などにたくさん残っているものなのか? それとも、非常に特殊なものなのか? 本来あるべき文化財保護のうちの、どの程度の割合を割いてこの文書を保存していくべきなのか教えてください。

仁藤:
歴史的な文書は、断片的にはいろんな場所に残っています。ただ、これだけのボリュームでまとまって残っているのは、世界的に見てもレアです。

佐々木:
残り400巻あるということですが、この事業が完成すると日本史を揺さぶるような“あっと驚く”事実が出てきたりするものなのですか? 実は、昔の日本はとても国際的な都市だったということも聞きますし、こういう文書から歴史を知ると、今の日本の姿を改めて再現できるような、日本の新しい価値観が生まれるといったことが起きるのかなと思いました。過去を知ることで、今がアップデートされていくなら素敵だなと思います。

仁藤:
全てのピースを揃えるとかなり具体的なことが分かってくるので、歴史を変えるような事実が判明することは十二分にあると思います。例えば、戸籍の作り方は中国から派生しています。東アジア全体で同じフォーマットで戸籍を作っています。日本のことだけでなく、東アジアの歴史そのものものが分かる可能性もあります。

奈良時代の支配層の3割は外国人だったと言われています。日本人だから・外国人だからという差別は今よりも無くて、むしろ才能のある人はどんどん登用しましょうという時代です。日本は鎖国があって閉鎖的なイメージがありますが、実はとても国際化している時代だったのです。

【プレゼンターNo.3:映画やドキュメンタリーは人間にしか作れない!大金や技術がなくてもつくれる仕組づくり】MotionGallerySTUDIO・エイゾーラボ株式会社取締役 汐田海平さん

横浜国立大学にて映画評論を学んだのち、映画、CM、PR映像のプロデュースを行う。プロデューサーを務めた複数の長編映画がカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭、釜山国際映画祭、ミュンヘン国際映画祭をはじめ、世界の主要映画祭に正式出品される。自治体のPR映像、杉並区チャレンジサポート事業、アーツコミッション・ヨコハマの助成金を採択するなど、地域と密着した映像やイベントの企画も行う。2016年より、ぴあフィルムフェスティバルにて作品選考のセレクションメンバーを務めている。

<課題
映画化の企画に対して映画化に必要な資金支援をできるように、サービス自体をスケールさせていくことが必要。また、つくった作品を全国のマイクロシアターで上映するために、ポップコーンのサービスをさらにメディア化することが必要。

参考サイト https://motion-gallery.net/

<問答>

会場:
作ろうとしている仕組みは、映画がヒットした分だけ資金が回収できるということですか? であれば、現在の制作委員会方式と変わらないのではないでしょうか? それとも、創作に必要な自由に使えるお金を生み出したいということでしょうか? 映画をうまくつくるための新しいエコシステムによる分配方式を仕組み化しようとしているのか? 助成金の課題が出てきたが、そこはあてにしなくても良いのではないか?

汐田:
クリエイティブを完全に自由に作れて、資金を得たいというのはあります。こんな映画をつくりたいというアイディアがあれば資金集めの協力をするという仕組みですが、一度クラウドファンディングを通すことで、共感を得られる映画かどうかのテストがされます。

MotionGallerySTUDIO代表 大高健志さんから補足:
制作委員会方式システムが悪いのではないのですが、確率論的にいうと、映画をよく見ている人からすると、制作委員会方式でつくられた映画が面白くないのは、仕組みではなく意思決定の問題だと思っています。制作委員会方式の場合、誰がどんな目的で意思決定をしているのかが問題で、ステークホルダーの中で投資したものを回収しやすいスキームで回している。それは、過去のデータに基づいたり、顕在化している価値に対しての投資なんです。例えば映画の原作本があって、その原作が売れていると、それを読まないまま映画化したりする。原作のファンで当事者である読者が求めていない映画化だったりするわけです。

僕たちは、一度クラウドファンディングというサービスを通すことで、ファンの人たちが共感する内容なのか、そもそもファンは映像化を求めているのか、その映画をつくる必要があるかどうかを見極めることができると思っています。見たいと思っている人が集まっているかどうかをフィルタリングできるので、一定数のファンがいる状態で映画化ができるのもメリットだと思っています。

映画作品が増えることは社会の多様性が実現できるということだと思っていて、であれば、誰も期待していない映画を作るよりも、一定数の共感を得ている映画を作りたい。この仕組みで実現したいのは、意思決定を会社ではなく生活者・消費者がするということ。制作委員会が意思決定をして、作り手から観客へという一方向ではなく、共感する思いによって、一般的な生活者が映画にクリエイティブに参画することで、多様な社会を実現できたらと思っています。

佐々木:
アートや表現をサスティナブルに回すにはビジネスが必要だということに賛同します。だから、汐田さんのプレゼンには共感しました。

一方で、共感を得た作品を映画化していくという話がありましたが、人が欲しいものを最適化して作っていくと何が起きるかというと、閉じた、バイアスがかかった、自分の価値を広げるというよりも、自分の価値に最適化した作品を見るようになって、新しい世界・価値観に出会う機会がなくなっていくのかなという懸念もあります。takramでもメディアの立ち上げを手伝うのですが、その時にやるのは個人に最適化したコンテンツを出すよりは、その人が好きではないかもしれないけれど、社会的に必要なコンテンツを作ること。共感に最適化するよりも、多様性や選択肢を出してあげるほうが、作品としては面白くなるのではないかと思いました。

あと、映画の面白さに関する接点のもち方が、日本人は少ないかなと思っているんです。俳優や原作視点だけでなく、撮影監督やメーキャップ担当者を追いかけて映画を観てみるなど、映画の多様な見方を提示してあげる、映画の接点の持ち方を多くするのも、映画の文化や作り手の多様性に寄与できるのではないかと思いました。

井上:
僕は映画が好きで個人的にスポンサードもしているのですが、資金を出すかどうかは、脚本を読んで感動するかどうかの1点で決めています。このサービスは、もっと民主化、分散化することはできないのでしょうか?

汐田さんが作った『蜃気楼の舟』は1,000万円で作ったということですが、それを100万円ではできないのか、そもそも作り方を変える工夫の余地はないのか? もう一つ、今はユーザーや支援者から資金を募る方法ですが、映画を作りたいというクリエイターをクラウドファンディングで集める方法もあると思いました。最後に上映場所について。僕は今、日本中に青空スクリーンを作れないかと思っていて、地方を中心にヒアリングしています。日本中の青空スクリーンで、メガスクリーンで流れているような映画ではなく、小規模だけれど良質な映画が流せるような世界が実現できたら、それが民主化・分散化になるのかなと思いました。

楠本:
今後は、良い映画を作ることの多様化が進むと思っています。制作委員会方式かどうかは関係なく、良い映画を作りたい、クリエイティブな社会を作りたいというオーナーが出てくると思うんですね。そうすると、映画そのものが変わってくる。こういう多様性に見合うように、制作方法や届け方も多様な未来があると思うので、共感よりも感動をぜひ作ってください。そこに対して広げられるものはたくさんあると思います。

【プレゼンターNo.4:川の流れで水力発電。ネパールの村に明かりを届けたい】株式会社 茨城製作所 代表取締役社長(理学博士/D.Phil.)菊池伯夫さん

(株)茨城製作所 代表取締役社長。1976年茨城県生まれ。2004年オックスフォード大学理論物理学博士号取得後、ドイツ・インドでの複雑流体の研究を経て、2009年祖父が創業した茨城製作所(モーターや発電機の製造会社)入社。インド滞在時に経験した電力供給不足による停電や、東日本大震災で日立市にある会社が被災した際、停電に悩まされた経験から、インフラに依存しない独立電源の重要性を痛感。2013年、身近にある水の流れに沈めるだけで発電できる小型水力発電機Cappaを開発、グッドデザインものづくりデザイン賞、中小企業庁長官賞を受賞。また、CappaのネパールにおけるJICA(国際協力機構)のODA普及実証事業の実績により、2016年茨城製作所が経済産業省のはばたく中小企業・小規模事業者300社に選定される。地球上にはまだまだ電力不足の地域がたくさんあります。電力不足の地域に、『環境破壊をしない』『100%リサイクル可能で環境にも優しい』水力発電機を導入し、世界の無電化をなくして、生活水準向上につなげられることが出来たら……と思い、このプロジェクトを立ち上げました。

<課題
身近な自然エネルギーを活用したインフラの必要性を知ってもらうこと。多くの人に、“エコ”はまだまだお金がかかることを知ってもらうこと。経済合理性も鑑みながら、その地域でまわる発電システムがないとサスティナブルにはならないので、途上国の市民の環境への意識を啓蒙すること。

参考サイト https://readyfor.jp/projects/akari/announcements/74660

 

<問答>

山形:
まずはスペックを教えてください。どのくらいの水量で、何キロワットの発電ができますか? 水車はいくらですか? また、既存の水車よりも優れている点を教えてください。

菊池:
幅1メートル以上の水路で水深は最低30〜40センチ、人が歩くより少し早いくらいの流れで200ワット程度の発電が可能です。価格は水車だけで100万円くらいです。水車を搬入するのに道を整備しないといけないくらい大きなものもありますが、これは大きすぎず設置が簡単で、ほとんど工事がいらないので、総コストが低く抑えられます。

井上:
自然エネルギーは太陽光や風力など競合が多いし、地域の特性に依存しますよね。経済合理性で考えたら、ネパール政府は太陽光を選ぶかもしれない。けれど、経済合理性から逃げてはいけなくて、どうしたらコストを下げられるかを考える必要がありますね。

山形:
例えば、途上国からやるのではなく、“エコ意識”の高い先進国で導入して、資金を貯めてから途上国に広めていくという手法もありですね。

菊池:
今のところ『Cappa』の普及台数は10台程度で、コスト面ではまだ太陽光に負けてしまいます。ただ、太陽光と違って水力は発電し続けられるので、場所によっては発電量で勝てると思っています。先進国からというのは資金面でとても良いアイディアですが、僕たちが大切にしていることとして、エネルギーにアクセスしにくい地域の人たちにアクセスしてもらうというのがあります。途上国でも、人が住むところは必ず水路があるんです。それは、人は水がないと生きていけないから。そう考えると、どんなエリアでも導入の可能性はあると思っています。

楠本:
あらゆる地域の川沿いが、きれいになるといいなと思いながら聞いていました。日本は水の国だから、里山をアートに美しくしていくとか、美しさを可視化していくことは大切だと思いました。

佐々木:
自然が破壊されるというのは、経済発展の犠牲としてどの国もたどってきた経緯かなと思っています。直感的に、エコの啓蒙活動とか川沿いのゴミ掃除を維持するのは難しいのではと思いました。

例えば、マイクロファイナンスという方法があるかもしれません。貧しい人に少額のお金を貸して、例えばその資金でミシンを買って、洋服を作って売るというビジネスが回っていくと小さな経済ができるというように、『Cappa』も売電を含めて考えると面白いと思います。ある地域で電気ができて周辺に売電できるとすると、諸費コストの回収ができて、そのお金の一部を使って水路の掃除をするというサイクルができて、サスティナブルな経済活動が回っていくというイメージです。

井上:
例えば、村の人に1人1万円、合計100人で『Cappa』を買ってもらって、その電気を自分たちで使いつつ、余った分を周りの人に売るようにして、少しずつ小銭を稼げるようにすると、自然と水路や風車が自分ごとになりますよね。『Cappa』を自分たちの資産として見るようになると、水路をきれいにしようとか、定期的なメンテナンスするようになっていきそうですね。

会場:
今後、AIを使ってやろうとしていること、できることがあれば教えてください。

菊池:
水の状況を人間がモニタリングし続けるのは難しいですが、コンピューターなら365日休まずにできます。人間が処理しづらいところをAIが補っていくイメージを持っています。例えば、モニタリングでデータがたまっていった結果、水害になりそうな箇所を予測するとか、人間が技術習得に数年もかかるものを、AIを使って8割まで持っていって、残り2割を人間が担当するといったAIの活用はあると思います。

Next Wisdom Foundation

地球を思い、自然を尊び、歴史に学ぼう。

知的で、文化的で、持続的で、
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全ての人にチャンスを生み、
共に喜び、共に発展しよう。

私たちは、そんな未来を創るために、
様々な分野の叡智を編纂し
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残していこうと思う。

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