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雨水を天水に墨田区から世界に拡がる叡智(5/5)21世紀に必要な、3つのイノベーション

雨水を天水に 墨田区から世界に拡がる叡智(4/5)からの続き

街を浸水から守ろうとした熱意が人を動かし、同じ想いを持った人たちを集めて組織になり、地道な活動と実証データを積上げて条例をつくり、その効果が波及して区を超え東京を超えて国の法律になり、さらには世界に広がって途上国の水問題をも解決する。そのすべての発端は、目の前の問題に向き合い、その問題の本質をとことん突き詰めようした一人の人間だった。雨水に取り組んで35年、村瀬さんの視線の先にはいま何が見えているのか。

「これからの時代には三つのイノベーションが必要だと思います。1つは技術的なイノベーション。オンサイトで小規模で自立して分散して地域の生活を守る、自然エネルギーや雨水利用に関する技術革新です。そのような技術は気候変動や災害に強い。2つ目がソーシャルイノベーション。ソーシャルビジネスの手法を使って自分たちの力で社会問題を解決していくこと。日本は今後どんどん人口が減っていきますが、誰かに頼るのではなく自分たちで智恵をしぼって、地域にある資源を地産地消で自立していくことが必要なんです。3つ目が文化のイノベーション、温故知新で人間が持っていた五感を取り戻すことです。

雨水の文化的イノベーションは『雨水』から『天水』と呼び方を変えたことでした。『天水』と呼ぶことで人々は空を見上げ、自然環境や水の循環を想像することができる。いま多くの人は明日の天気を知るためにテレビやインターネットで天気予報を見ますが、本当は空を見たり自然を注意深く観察していれば分かることなんです。僕はいま御殿場に住んでいますが、雨が降る前にはカエルがなくし、空気の匂いも変わります。しかしそういうことが高層ビルの中だけにいると分かりません。頭でっかちで、視覚だけの人間になってしまいます。

雨が降って森や大地を潤し、川の運ぶ栄養分が農業や漁業を育み、海で蒸発した水蒸気がまた雨になって降る。私たちは水の循環の中でしか生きていけません。水を汚したりその循環を破壊したりするとエコシステムが全て破壊されて、人間は命を取られるしかない。水の循環の中で生かされているという謙虚な気持ちがとても大事なことだと思うのです。

孔子の『温故知新(故きを温ねて新しきを知る)』という言葉はだれでも知っていますが、本当はその後に『可以為師(もって師となるべし)』という言葉が続くのです。つまり『先人の知恵をもって100年後の先生になれ』ということ、そこに本質があるわけです。これからの未来でサステナブルになり得るものは何かというと、やはり命をつなぐその環境があるということです。その大前提が健全な雨水の循環があるということです。

バングラデシュでは、貧しい農村でエネルギーやお金をかけずいかに安全な水を確保するか、他の貧しい国でも使える世界モデルをつくろうとしています。ものづくりには人づくりが必要です。そのために研修センターをつくろうと考えています。持続可能な仕組みとして未来に残していくには人を育てるしかない、そのために自分ができる限りのことをやっていきたい。

一方、東京ではいまからリストラクチャーが起きます。20世紀につくられたインフラが寿命を迎えつつあり、もう粗悪なストックしか残っていません。今後、コンパクトシティーのような新しい都市計画が必要になってきます。そのコンセプトとして、自然の循環や温故知新といった考え方がベースとしてあるべきです。今まで下水道や上水道やダムなど大きなインフラに頼った都市でしたが、これからは地域で自立可能なものになっていくでしょう。エネルギーもそうですよね。そのような発想をすれば、今までと違ったビジョンが見えてくるはずです。」

村瀬さん宅の雨水を利用したトイレ。水道水と雨水の両方が使えるようになっている。

先進国の都市と途上国の農村、全く正反対の環境で起きている問題を解決する雨水利用という叡智。自然と水の循環を断ち切ることなく、先人の知恵を現代に活かす叡智。そしてビジョンを実現するためにとった村瀬さんの行動の中に潜む叡智。これらは全て、同時代に生きる人々に伝え、そして後世に伝えていくべき叡智だ。

読者のみなさんも、ぜひ梅雨の空を見上げて自然の壮大な水循環を想像してほしい。そして、実際に雨水タンクを設置すれば、雨水で世界を変える取り組みにも参加できる。雨水利用の助成を受けられる場合もあるので、ぜひ一度自治体のホームページをチェックしていただき、雨水利用の実践者が一人でも増えればと願う。

【Back Issues】

雨水を天水に墨田区から世界に拡がる叡智(1/5)“東京で謎の洪水が起こる”へ

雨水を天水に墨田区から世界に拡がる叡智(2/5)”流せば洪水、貯めれば資源”へ

雨水を天水に墨田区から世界に拡がる叡智(3/5)”国技館を雨水タンクに”へ

雨水を天水に墨田区から世界に拡がる叡智(4/5)”途上国をAMAMIZUで救う”へ

 

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