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なぜ科学は人間に必要なのか?(2/3)オープンシステムサイエンスの時代へ

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【満員御礼】なぜ科学は人間に必要なのか?

オープンシステムの問題を解くためのアプローチ

なぜ科学は人間に必要なのか?(1/3)からの続き

それでは、オープンシステムの問題を解くために、どのようにアプローチして行ったらいいのでしょうか。

まず、先人たちの考えを知ることから始めたいと思います。先人たちの中にも、クローズドシステムだけでなく、もうちょっと違ったアプローチをしなければならない、と考えた人はもちろんいます。その中から、特徴的な方を二人あげます。

まず、カール・ポッパーというオーストリア出身の哲学者です。「反証可能性」というものを科学の基本的な性質と考えました。

デカルトは「間違いなく真だと思えることだけをベースにして始めなさい」と言っている。何百年も積み重ねて出来てきた今の科学の体系はとても揺るがすことができないよう見える。しかし、ある仮説が間違っていることが分かったら、それをもって全部ひっくり返せる。一回正しいと思えたことは永劫不変正しいのではなく、真ではないという反証があったら、それに基づいてシステムを作り直していかなきゃいけない。それが科学の持つ「反証可能性」という性質だと言うんですね。

自分が本当に正しいか、ということには常に懐疑的であるべきで、その中で新たな議論が出てきたら建設的に取り入れるという方法です。

それから、トーマス・クーンという人。この人はアメリカの科学史家・科学哲学者なんですけど、1962年に「科学革命の構造」という本を出しまして、科学の発展を「パラダイムの変化」だと捉えました。

ある新しい発見があると、それが本当に受け入れられるまで何年もかかる。その間にいろんな変化が徐々に起こる。その変化がある程度出尽くしたところで、定常状態になって一時安定する。しかし、そのうちにまた別の新しい発見がされて、変化の時代になる。安定期と変化期がそうやって交互に来る、そういう中で科学は発展していく、と述べています。

カール・ポパーとトーマス・クーンはよく似たことを言っている。カール・ポパーの方がずっと年上なんですけど、同時代の人でもあるわけですね。たぶん、考え方が近いと思うんですけど、二人の間にはかなり激しい論争があったようです。

先人たちもこういうことを考えていたわけですが、新しい科学の方法を示してくれなかった。ポパーもクーンもやろうとしてかもしれない、あるいは知っていたかもしれないが、残念ながら発表してくれなかった。

だから今日は私から、新しい科学の方法としてこういう案はどうでしょう、という提案をしたいと思います。

これからの科学方法論「オープンシステムサイエンス」

今までの科学というのは、まず解析をする、つまり分解して考えること、そしてそれらを合成する。この2軸でできていた。これは要素還元主義そのものですね。

オープンシステムサイエンスでは、「運営(マネジメント)」という新しい軸を追加して3軸で考える。つまり、「解析」と「合成」によって静的な答えを導き出すのではなく、時間の経過とともに変化する答えをマネジメントしていく。運営、マネジメントというのはビジネス的な言葉ですが、サイエンスもビジネスのマネジメントと本来はよく似ていると僕は思っています。

では、オープンシステムサイエンスの具体的な方法です。

まず、問題が存在する領域を暫定的に提示する。オープンシステムサイエンスでは、領域は決められないはずですが、ひとまず決めてやる。次に、この領域の中で問題をモデル化します。数式で表したり、他にもいろんな表し方がありますが、問題を詳細かつ正確に表現してやる。そして、3番目。モデルの振るまいが時間経過とともに自己矛盾を起こしてないかチェックする。それから、実システムの挙動と乖離することがないか。つまり、実際の世の中の動きと違う振る舞いをモデルがしてないかをチェックする。

もしも、許容範囲を超えた矛盾や乖離があれば、その2に戻ってモデルを変更する。正しい振る舞いをするように修正してやる。

今までも(4-ⅰ)まではやっていました。従来と違うこの方法の大きな特徴というのは、「問題が存在する領域」を積極的に変えてしまうことです(4-ii)。モデルを変更してもどうしてもうまく行かないときは、そもそも領域の定義が違うんじゃないか、と懐疑的に考える。実際に本当の問題を解こうとしたら、問題領域をもう一度考え直す、これをしていかなければならない。

オープンシステムサイエンスの方法というのは、無限のループに入るということです。満足がいく結果が得られるまで、何度も「領域の変更」に戻って繰り返す。満足がいく結果というのは人によっても違う。そして、無限に答えを探し続けるシステムだから絶対的な答えはいつまで待っても出て来ない。だから、ここまでで役に立つから実際に行動を起こしてみようか、それとも、まだもうちょっと調べてみようか、という判断も必要となってきます。

方法序説に始まる要素還元主義の方法では、問題領域を定義して、問題を分割して、再構成することによって基本定義を解決する。一方、オープンシステムサイエンスでは境界、機能、構造が変化する。あるいは未定な対象に対して適切な問題領域を見つけ出すこと自体が科学の目的になる。そして説明可能な方法によって、状況をよりよい方向に持っていくわけです。

ちょっと文系的ですよね。でも、僕はサイエンスとは本当はこういうものなんだと強く思っています。要素還元主義とオープンシステムサイエンスでは、意識のレベルというか、生き方のレベルで考えていることがかなり違うんです。

オープンシステムサイエンスのもとで、これからの科学者は観察者でなく行為者になる。行為者になると責任が発生する。価値観は、合意形成だとかヒューマニティというところに置かれなきゃいけない。

そして、態度としては職業としてではなく、生き方としての科学になる。職業として、というのは分業です。分業で仕事をして、仕事と家庭は別。うちに帰ってくると仕事で言っていることと違うことを言っているかもしれない。そういうことはなるべくやめにしたい。オープンシステムサイエンスの方法をとれば、生き方として矛盾のない科学の形になるんじゃないかな、と思うんです。

科学の役割はエビデンスを示すこと

さて、「いかに合意を形成するか」という課題はすごく難しい。自分はいいと思っても、他の人はそうではない。直接的に関係する人もいれば、間接的に影響を受ける人もいる。その人たちすべてで合意を形成するのだから、非常に難しい。

例えば、事故原発周辺の避難地域。設定したときには、その判断が正しいかはよく分からない。時間が経過してみないと本当に正しいかは分からない。CO2の増加と地球温暖化の関係も予測はありますが、それが本当に正しいかどうかは時間が経過しないと分からない。しかし、時間が経過して結果が分かったときには、もう手遅れです。元に戻すことはできない。

したがって、結果が分かる前に行動を起こさなければならない。我々がみんなで、あるいは行政などを通じて何かを決めて実行する。そのとき、どのように合意を形成するか。必要になるのは、議論の方法と根拠。それをもとに議論をして、みんなが合意をすれば先に進める。そういうことになると思うんですね。

実は科学の役割というのは、そのとき、みんなが合意できるようなエビデンス(証拠)を科学的に示すことじゃないかと思います。もちろん、病気を治すとか新しい素材を創るとか、そう言った役割もあるにはありますが、認識の異なる問題に対してエビデンスを示すこと、それもみんなが納得できるようなエビデンスを示すこと。それが一番重要だと思うんです。特に21世紀の科学の役割として重要になってくるのだと思います。

未来は予測可能か?

未来は予測可能だという人もいますし、それは神の領域で立ち入ってはいけない、という人もいます。しかし、現実には未来はそう簡単には予想できません。

科学者は何百年の間、自然の仕組みを理解しようと一生懸命やり続けているのですが、その全てが分かったわけではないし、将来的にも、これで全部分かった、となることはない。それから世界で起きている全ての現象を計算することができるかというと、スーパーコンピューターがあっても無理なんですね。つまり、計算で未来を正確に予測することはできない。

我々には未来を正確に予測することは不可能なんですが、では何ができるかというと、最善を尽くしてプロセスを実行し続けることだと思います。

オープンシステムサイエンスによって可能になるのは、現実の問題のよりよい未来予測を説明可能な方法で行うこと。過去のできごとの説明がよりよく行えて未来予測に役立てることができる。これが我々の最善の努力ということができると思います。

科学は何のためにあるのか。それは、説明可能な方法で実世界の相互依存性を理解することによって、社会の合意を形成し人類のよりよい未来をつくる。そういうことではないかと思います。

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