spacer

ARTICLES

Event report

オフグリッドの世界と、その可能性~総論編~

Published on

<ゲスト>

孫泰蔵氏(Mistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEO)

前野隆司氏(慶應義塾大学大学院教授)

<モデレーター>

井上高志氏(株式会社ネクスト代表取締役社長、当財団代表理事)

 

私たちNext Wisdom Foundationは「100年後の社会をより良いものにするために、これから必要であろう叡智を探求すること」を掲げて活動をしています。その100年後の未来社会の想定のひとつに「人が自由に生きる社会」があると私たちは考えています。「自由」。それは、一体どのような状態なのでしょうか。私たちが生きる現代社会は、インターネットをはじめとしたテクノロジーの進化により、モノやコトが国境を越えてシームレスに行き来しています。

一方、「ヒト」はどうでしょう。生命が地球上に誕生してから、社会が形成され、整備されていく過程では物流網、交通網、エネルギー網、情報網、金融網など様々な網が張り巡らされ、それが文明の進化の象徴でもありました。そして今その網からも自由になりたいという欲求が生まれ、「ヒト」もまた技術の進歩により、網からの解放=オフグリッドの世界が可能になってきました。ただ、私たちはその世界を断片的にしか感じていなかったり、知識として十分に知らなかったりする状況にあります。

今回は、これからの「オフグリッドの世界と、その可能性」を、テクノロジーだけでなく、思想、文化、エネルギー、環境等あらゆる視点から考察し、そのために必要になるであろう叡智を掘り起こしていきます。本テーマの第1回目は総論からスタート。

ゲストに、現在、「Living Anywhere(どこでも好きなところに住む)」というコンセプトを社会に浸透させることを目指し、ライフライン、インフラに関するテクノロジーを開発する企業を支援するMistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEO孫泰蔵さん。

そして、現代世界が直面する環境・安全・健康・平和・幸福等に関わる複雑な問題をシステムとして解決し、より良い世界を築く研究を行っている慶應義塾大学大学院教授 前野隆司さんを迎えます。

 

既存の「グリッド」を解体するテクノロジー

井上:今日のテーマは「オフグリッドの世界の可能性」です。スマートグリッドという言葉を聞いたことのある方も多いと思います。この場合の「グリッド」とは電力線などのインフラの編み目(グリッド)ことですが、今回はいわゆる電力網だけではなく、既存の流通網や通信網、金融やエネルギーシステム、社会統治のシステムに至るまで、より広い意味で「グリッド」を捉えて、そのような既存のグリッドの制約を受けない自由な未来社会が来るのか、それはどのような社会なのかを考えてみたいと思います。

まずは最新のテクノロジーで社会課題を解決する様々なスタートアップの支援をしている、連続起業家の孫さんのお話をお聴きします。

孫:私はMistletoeという会社をやっています。もともと20年前にヤフージャパンの立ち上げに関わってから、ずっとインターネットの分野で新しい価値を創ろうとしてきました。

Mistletoeがどんな会社かと聞かれると難しいのですが、スタートアップを支援したり自身でも事業を行うなどさまざまな活動をしています資金も出せば人も出すし、共同開発もする。「コレクティブインパクトスタジオ」という新しい業態として自分たちのことを発信していこうとしています。

私たちのミッションは新しいイノベーションをさらにネットワークして一つの大きなインパクトを生み出すこと。“オーケストレイション・イノベーションズ”と僕らは呼んでいますが、ひとつ一つの事業や才能をオーケストラにして交響楽を奏でる、コレクティブインパクトを生み出すことを目指しています。今日はその中からいくつか、スタートアップの事例を紹介します。

まず一つ目、最近ではドローンがポピュラーになってきていますが、世界初の国営で救急ドローン網をアフリカのルワンダで提供しているZiplineという会社に出資をして、いろんなサポートをしています。アメリカのシリコンバレーにある会社です。

このドローンはカメラやセンサーだけでなく人工知能も積んでいて、プロペラではなくグライダーのような形をしています。これはなぜかというと、グーグルやアマゾンなどは物流でドローンの実験をしていますが、だいたい荷物を運べる航続距離は5kmくらいしかないんです。しかしZiplineのドローンは150km飛べるんです。

なぜなら、人工知能が風を読んで、いざ風に乗ったらプロペラを止めてシャーっと滑空する。風がなくなったらまた自分で飛んで風を探す。まさに鳥と同じように目的地まで最大のエネルギー効率で到着できるんですね。

スマートフォンのアプリを見せてもらったんですが、20km先のドローンが地図上をまっすぐ飛んでこちらに近づいてくるんですね、そして空を見上げると、遠くの黒い点がだんだん大きくなって、そしてまさに自分の上空で旋回し始める。旋回している間に風を検知して計算して、僕の目の前に落とすんですね。アプリから「お届けに参りました、サインを下さい」と言われてサインをすると、品物が自分のところに落ちて来て、そしてまた帰っていく。

なぜこのようなサービスが必要だったかというと、アフリカのルワンダでは内戦がずっと続いていたので、ほとんどの交通インフラが破壊されているんです。車で行くとほんとに4~5時間くらいかかるようなところを、このドローンだと15分で到着できて、血液やワクチンを運べるんです。

創業者のケラーさんはまだ29歳と若いんですが、元々は人工知能の研究者でした。彼の描いているビジョンというのは病院から冷蔵庫をなくすことなんですね。どういうことかというと、血液やワクチンというのは“コールドチェーン”といいまして、冷蔵で運ばないといけないんですね。ところがルワンダではユニセフから医療物資が送られても冷蔵庫がないので、その6割以上がまったく使われないまま腐ってしまっていたんです。でも、冷蔵車を国内各地に配備するのもほぼ不可能。

そのような課題を解決するためにこのドローンが活用されています。国内の2カ所に冷蔵施設を作り、このドローンを使って国内に新たな物流網を作るんですね。その結果、病院で保管する必要がなくなって劇的に人の命を救うことができる。3ヶ月前から実際に現地に配備されて稼動しています。いまルワンダからベネズエラやコスタリカなど他の国々にどんどん広がっていて、ビル・ゲイツさんの財団も支援してくださっていて、普及が加速しています。

二つ目に紹介するのはZooxという自動運転車のスタートアップです。レベル4“の自動運転技術を開発している会社です。テスラモーターズなども自動運転の開発をしていますが、あれはまだ”レベル2“なんです。

”レベル1“は自動ブレーキなどの安全運転支援。”レベル2“では自動で高速道路を走れる。”レベル3“になると市街地でも走れる。ここまでは運転者がひつようなのですが、”レベル4“はハンドルもアクセルもブレーキも何もなくなって、ただ人が座るだけの完全自動運転が可能なレベルになります。

デザインプロトタイプを見ると、車に前も後ろもないんですね。前後左右自由に動ける。電車のボックスシートのように乗客は向かい合って座るだけです。

彼らはあくまでも自動車メーカーなのですが「車を販売しない」と言っています。ではどうするのか聞いてみると「サービスを売るんだ」と。つまり、ロボットタクシーとして運用するということです。既存のタクシーのコストは8割が運転手の人件費なんですね。それが自動運転になると要らなくなります。

例えば、500円初乗りのタクシーが100円になってしまうとうことです。その100円についても、例えば車内で広告映像が流したりコーヒーを売ったりなど、別のビジネスモデルを入れることで最終的には無料にしたいというビジョンがあります。

彼らのミッションは「人類が移動にお金を払っていた時代を終わらせる」ことなんですね。もし人の移動が無料になったら誰も車を所有しなくなる。車を所有しなくなると駐車場が要らなくなる。路上で常に自動運転タクシーが乗客の需要を予測しながら移動して、人が乗りたいなと思ったらすぐに乗れるようにする。

東京のような大都市では市街地の面積に占める駐車場の割合が約30%くらいらしいんですね。レベル4のタクシーが普及すると、その30%をすべて緑に変えて公園にできたり、地価も含めて都市の環境ががらりと変わります。

NY1900.jpg
(public domain, https://www.archives.gov/exhibits/picturing_the_century/newcent/newcent_img1.html)

面白いスライドをお見せしたいのですが、この写真は1900年、今から116年前のニューヨーク五番街のイースターの朝の景色なんですね。多くの馬車が走る中、一台だけ車が写っています。T型フォードという自動車が走りました、というニュースの写真なんです。

これが1913年の同じ日の五番街の景色です。全部自動車になって、馬車が1台だけになってしまった、という象徴的な写真です。ここまで変化するのにたった13年しかかかっていないんですね。

(public domain,

https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Ave_5_NY_2_fl.bus.jpg)

世の中を大きく変えるインパクトを持つ技術が生まれた時、馬車から自動車への変化がそうだったように、10年くらいでまったく世界の風景が変わるようなことが起きてしまう。これが100年に1回くらいある、あっという間に変わるんです。

未来社会の課題を解決するオフグリッド“Living Anywhere”

私も20年間インターネットの進化の歴史を見てきて、おそらく私が見てきたこれまでの20年の進化よりも、これからの10年の方がすごいです。いままでのインターネットというのは所詮ブラウザの中やスマホのスクリーンの中の話でした。これからはIoTといって、あらゆるものがネットワークに繋がってくると風景が変わってくるんですね。私たちが見る風景、働き方や生活の仕方が劇的に変わってきます。

2030年くらいになると「昔の人は大変だったらしいよ、自分で車を運転しないといけなかったらしいよ、自分で車を買って自分で駐車場代を払って…」みたいなことを言っていると思うんですよね。私たちが馬車のことを言うみたいに。

そのような未来社会、人工知能やロボットが発達した社会はどうなるのでしょうか。私が考えているのは、仮説ですが、2040年頃の社会の一番の問題というのは「雇用がなくなる」ことと「過度な都市化が進む」ことなのではないかということです。

現在ある仕事の80%が無くなるとTEDで言っている人もいますし、ハーバードビジネスレビューでは21世紀の最大の課題は雇用が無くなること、失業した人が街に溢れかえること、これをどうするかが一番の課題だと言われています。

仕事が無くなると都市に人口が集中するのですが、都市で過度に人口が集中してしまうと渋滞や大気汚染、治安が悪化したりスラム化が起きたりします。一度スラムができてそこに人が入ってしまうと、そこから二度と出て来れなくなってしまうんですね。スラムで生まれた子どもは一生教育も医療も受けられない可能性がある。

つまり、格差が非常に拡大していく社会です。人工知能やロボットを使いこなしてビジネスをする人はものすごく儲かるけど、それに取って代わられるような人たちは全く収入がなくなるかもしれない。みなさんもよくご存知だと思いますが、トマ・ピケティという人が資産を持つ人ほど豊かになり格差がどんどん大きくなっているという事実をデータで証明してみせました。

とにかく20世紀型の産業モデルというのは維持できなくなります。先進国でも途上国でも、21世紀型の価値モデルに変えなければならない。ではどのように変えたらいいのか?それがポイントなんですね。僕もここ何年も「どうやったらいんだろう」とずっと考えているのですが、最近これが糸口かもしれないと思ったアイデアをお見せします。

青が収入、赤が支出、黄色が可処分所得です。可処分所得が多いと自由に物事を選択できる、自由に生きるための経済的な下支えになるのですが、仕事がなくなってワークシェアリングなどが進むと、労働時間が半分になって収入も半分になるかもしれない。収入が生活コストよりも低くなると可処分所得がなくなる、みんな苦しくなる。これをどうすればいいんだろうかと。

そこで気が付いたのは、たとえ収入が減っても生活コストがガクっと減れば可処分所得も変わらない、支出が減ってもいいじゃないかと。つまり私たちが生きている生活コストを1/5とか1/10にできないかなと思っているんです。例えば月30~40万円くらいかかっている家賃などの固定費を、月3万円にできないか、ということなんです。そこをテクノロジーで解決できるんじゃないかと。

では現在のライフスタイルで大きなコストは何かというと住居や車や水道光熱費、住まいや移動に関わる部分に一番お金がかかっています。例えば一戸建てを住宅ローンで買うと、20年とか30年とか、それだけで借金をロックしてしまう、大きな支出がフィックスされてしまいます。このコストが全体の約42%くらいなのですが、これを5%くらいにできないか

そこで面白いのが、チェコスロバキアのデザイナーとスタートアップが作っているものなのですが「エコカプセルと言いまして、ちょっとビデオを見ていただきたいのですが、風力発電と太陽光が躯体の上にくっついているんですね。カプセルみたいになっていて、トイレもシャワーもクッカーも付いています。21世紀の人たちはこれに住めばいいんじゃないのか、土地代もない、電気代も水道代もかからない、月々払うものがなくなります。どうですか、みなさん。21世紀にはこれに住みませんか?劇的にコストが下がりますよ。

でも、20世紀的な価値観の眼鏡で見ていると抵抗があるかもしれません。20世紀的な考え方で“ラグジュアリー”といえば、スリーベッドルームでプールと庭があってホームシアターがあって…、と考えてしまいますが一度それを捨ててください。

21世紀型の価値観で見てみると、土地を買うのに大きなお金を使って、20年借金にロックされて土地に縛られて、もし環境が悪化しても引っ越しもできない。そういうリスクがあるということです。

土地にお金を使うくらいなら、そのお金で世界中好きなところに行って、好きなように過ごして、いろんな人たちと出会って楽しく暮らしていけばいいじゃないかと。そっちにお金を回した方が豊かなんじゃないか。このエコカプセルだけがその答えだとは思いませんが、未来のライフスタイルを考えるきっかけ、マインドシフトのきっかけを与えてくれているんだと僕は思うわけです。

私たちは今のところグリッドにつながってないと生きていけません、水道管、ガス管、電気線…。日本の国土を見てみると、その中のごく一部、インフラのあるところにしか人は生きられないようになっているんですね。そのグリッドから離れて暮らすことができれば、好きなところに移動できれば、どこにでも住むことができます。

そこでどんなに豊かな暮らしができるか。生活コストも下がるし、自由度も上がります。そして、そのようなところからブレイクスルーが生まれるんじゃないかと思っています。僕はそれを実現するためのテクノロジーを応援したい。そこでLiving Anywhere(リビング エニウェア)」という標語を創って、それを前倒しで実現できるように応援しようと、こういう暮らしが誰にでもできるようになったらどんなに素晴らしいだろうと、いままさにその研究を進めているところです。

人間の心をオフグリッドする

前野:私は元々カメラメーカーのキヤノンで技術者としてテクノロジーに携わっていた人間です。最近は幸せについての心理学的研究や、人を幸せにするためのシステムはどうあるべきか?というような研究をしています。今回のテーマ、オフグリッドの世界はどうあるべきか? ということは、未来のテクノロジーと人の幸せはどうあるべきか、という議論だと思います。オフグリッドは世界を幸せにするのか? まずは「幸福学」とは何かをお話しして、オフグリッドの話に繋げていきたいと思います。

幸福学を研究する以前はロボティクスの研究をしておりまして、「ロボットの心をつくる」というところから人間の心の方に興味が湧き、人の幸せについて考えるようになりました。幸せとはなんだろう、日本人にとって幸せとはなんだろう、ということが興味の中心です。一方でイノベーションをどう起こせば良いか、つまり、ゼロから新しいものをつくるための教育についても研究しています。

まず、幸せについてのお話をしたいと思います。拙著『幸せのメカニズム』という本の内容をスライド1枚にまとめてみましたのでご覧下さい。これだけ見ればこの本のダイジェストが分かるようになっています。

幸せの研究というのは、実は私だけがやっているのではなく、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン先生や、幸福学の父と言われるロバート・ビスワス・ディーナー先生、その応用分野であるポジティブ・サイコロジーという分野ではマーティン・セリグマン先生やチクセントミハイ先生など、多くの先行研究があります。

このように心理学者、経済学者、経営学者、私のような工学者など、さまざまな分野の人が幸せについて研究をしています。その成果として、人はどうなれば幸せになれるのか、ということがだんだん分かってきました。

それをまとめたのがこの図なんですが、「地位財型の幸せ」は長続きしないことが分かっています。「地位財」というのは他人と比べられる財のことです。他人よりもお金持ちになりたい、より大きな家に住みたい、より出世したい、というような他人と比較した幸せは長続きしないんですね。

なぜでしょう。原始時代を思い浮かべてください、例えばライオンが襲ってきたときには闘って勝たなくてはいけない、攻め込んできた他民族と闘って勝たなければならない。生存のための本能によって、勝ったり逃げ延びたりすることができれば幸せなんですが、それは長続きしないように我々の脳はプログラムされているんです。なぜなら次の敵がすぐに襲ってきますから、いつまでも喜んでいられないわけです。

世界が右肩上がりに発展している時はついつい地位財型の幸せを目指してしまう。10%豊かになってもその幸せはすぐになくなって忘れ、もう10%豊かになりたいと思うようになる。その繰り返しで、どんどん収入も財も増やし続けなければ幸せになれない。そう思われた時代が、産業革命の頃からもう200年くらい続いてきました。

ところが、みなさんご存知のように地球の容量も一杯になってきた。先進国と呼ばれた国々でも争いはなくならないし、実は幸福度というものを測ってみると100年前や200年前とそんなに変わっていないんです。日本の幸福度も、終戦直後だろうとバブルの時期であろうと失われた20年だろうと、ずっと横ばいです。右肩上がりの成長が続いても、私たちは全然幸せになっていないんです。

これが、私が幸せの研究をするようになった理由の一つなんです。エンジニアとしてカメラやロボットを一生懸命作って、財を作り出して、日本は資源が乏しいから技術で日本人を幸せにするんだ、といってやっていた。なのに日本人は全然幸せになっていないんです。これでは停めた自転車をこぐ空回りみたいなものです。自分の一生を空回りで終わらせたくないと思ったんです。

それに対して、非地位財型の幸せというのは長続きするんです。例えば、環境と身体と心による幸せ。環境というのは、たとえば安全な環境。戦争中の国の人は平和な国の人よりも幸せ度が低い。当たり前の話です。大気汚染が多いことや治安が悪いことも幸せのアンチ要因になります。つまり平和で安全な環境にあることが幸せということです。

それから、健康は幸せとの相関が非常に高いことが分かっています。「Happy people live longer」という論文がありまして、幸せな人は不幸せな人よりも7年から10年長生きだといわれています。また、利他的な人は幸せだという研究もあります。利他的な人は他人に近づいても病気をうつされないために免疫力が高まるみたいなんですね。

そしてもう一つは心の幸せですね。例えば楽天的な人は幸せであるとか、自己目的的な人は幸せであるとか、肯定感が高い人は幸せであるとか、世界中の心理学者が心的要因の幸せの研究を数多くしています。そこで私は、それらを多変量解析にかけて因子分析を行ったのですが、どうも大きく四つの因子にまとめられるということが分かりました。

一つ目に、夢や目標をもっている人は幸せなんですね。自己実現できた人、あるいは自己実現しようと何かをワクワクしながら目指している人、そういう人たちは幸せです。これは「やってみよう因子」と名付けました。

二つ目につながりと感謝。「ありがとう因子」と名付けたのですが、感謝をしている人は幸せです。人に感謝をすると脳内ではオキシトシンセロトニンという脳内物質が分泌されることが分かっています。そして「つながり」です。友達は少ないより多い方が幸せだという研究結果もあります。うちの学生がやった面白い研究では、友達の人数が多いことよりも、友達の種類が多様であることの方が幸せに影響することがわかりました。様々な分野の人と友達になること。これはイノベーションの条件にも当てはまります。

三つ目には、前向きと楽観。「なんとかなる因子」です。

そして四つ目が独立と自分らしさ。「ありのままに因子」と名付けましたが、人の目を気にしすぎない人は幸せです。人の目を気にしすぎる人は「地位財」を意識している人、人に勝ちたいとか人より多く稼ぎたいと思っている人です。

こういう条件を見ていくと、先ほど孫さんのお話に出て来たように、大きな家に住むよりも、場所を選ばないコンパクトな家の方が未来的、というオフグリッドなライフスタイルの方が、これら四つの因子をより満たした生き方だという感じがしませんか?

「オフグリッドは人々を幸せにするか?」に対する私の答えは以下のとおりです。20世紀型の価値観というのは富を求めて大きな家に住んで金持ちになることを目指した「地位財型」的な価値観でした。一方、21世紀は非地位財型の幸せ。それぞれがそれぞれのイノベーションを目指す。新しいことにチャレンジして、しかも自分のためではなく利他的に、みんなのために何か新しいものを創り出す、ということをそれぞれの人がやっていく。みんなが楽観的にサポートし合う時代になるのではないかと思うのです。

いま「幸せの経営学」という分野が盛んになっていまして、幸せな社員はパフォーマンスが高く創造性も高いことが分かってきました。さきほど申し上げたように、創造性の条件と幸せの条件というのは一致していますから、幸せな人は創造性が高いんですね。そして部分ではなく全体に着目しますからリーダーシップも発揮できます。

販売員だったら売上額も多いし、求められた以上の働きをする。顧客からの評価も高い。幸せな人は“うつる”と言われていて、幸せな人がどんどん増えていく。心の病にもならないので欠勤もしないし、仕事が楽しいから離職もしない。いまアメリカの経営学会に行ってみると、従業員満足度から従業員幸福度に指標が移りつつあります。福利厚生や職場環境の満足度ではなく、ライフもワークも含めて全部幸せかどうかを測るようになっています。幸せな社員が増えれば当然イノベーションも起きやすくなります。

現在のエネルギー競争、すなわち、石油という資源を奪い合ってグリッドという覇権を制する者が勝ち、というような価値観から離れて、多くの人が自分の幸せを目指せるようになれば、幸せ度は高まると思います。例えば新しいテクノロジーによって、誰もがアクセスできる再生可能エネルギーが普及してエネルギーコストが安くなれば、他人との競争ではなく自分らしい生き方をうまくできるようなきっかけになるとは思います。

しかし気になるのは、歴史は繰り返すということ。人類は農業革命の前は狩猟生活でした。完全にオフグリッドな生活をしていました。農業革命によって一人当たりの食料生産コストがものすごく小さくなって、当時としては革命的に生活が楽になるはずだったのに、実際に社会では権力の格差が発生して階級間の争いが絶えなくなってしまった。わたしなんかキャンプ好きですから、原始人のように生きたいなあと思ってしまうのですが。

産業革命も同様です。一人当たり利用できる動力が爆発的に大きくなって、動力コストがものすごく安価になった。しかしそれで幸せな社会になったかというと、ここでも持てる国と持たざる国の間で争いが起こった。本当は安価な動力を平等に分配されて世界中が発展できればよかったのですが。

ジニ係数が高い国、つまり格差が高い国ほど幸せ度が低い傾向があるという研究データがあります。一方で北欧など格差が低い国は幸せ度が高い。今後もし自然エネルギーが普及すればエネルギーコストが低くなりますが、今までの歴史を振り返ると、そのエネルギーを無駄遣いしてまた格差を広げるような新たな問題が発生してしまうのではないかと危惧されます。

非地位財型の幸福へのシフト、つまり、地位財型の金や地位よりもみんなのために新しい夢を持ち、つながりを作り、楽観的に自分らしく生きる方が幸せだという人が増えたらいいなと思います。しかし、僕の本を全部読んだ読者でも、給料はできる限り増やしたい、といったように地位財型の価値観から逃れられない人も多いんですね。多くの人が非地位財型の幸せを目指すような仕掛けが、オフグリッドのような新しい生活スタイルをきっかけにして作られるべきだと思います。そして、そこから、幸せとは何かの議論がわき上がるべきです。格差縮小と心の幸せのために、私たちの意識を改革することが必要だと思います

 

ディスカッション:テクノロジーは人を幸せにできるのか?

井上:お二人ともありがとうございました。前野先生のお話でハッとしたのは、 「歴史は繰り返すという」ことで、革命によって潤沢な世界になったはずなのに、ぜんぜん幸せ度が上がってないじゃないかと。ではどうしたらいいのか? ご提示頂いたのが格差は少ない方がいい、富を再分配したほうがいい、ということでしたが、先日僕も社会主義が色濃くのこるキューバに行ってきたんです。みんな貧しそうに見えるのですが、すごく幸せそうなんですね。人の絆も強くて、とても素敵だなと思いました。

その一方で心の方の問題、非地位財型の幸せに変えていきましょうということでしたが、これをどのように広めていけばいいのか。より具体的に、どのような社会システムにしていけばいいと思いますか? 前野先生はシステムデザイン・マネジメントの第一人者でもあるので、ぜひお聞きできればと思います。

前野:まさにそれは私のライフワークですからね、すぐには答えが出せませんが、最近は、新しい平等主義による正しい分配に可能性を感じています。限られた尺度で測られた能力によってではなく、一人ひとりがそれぞれの固有の能力を持っているという前提で、それぞれに価値のある人生があっていい。現代社会において、「平等がいい」と大きな声で言うと、共産主義的な考えと誤解されては困ります。そこで、言い換えますと、いまの資本主義社会でジニ係数を小さくしていくようなやり方を選択すべきではないかということです。

社会を平等に近づけるということ。それを実現している一つの例は北欧型の社会資本主義ですよね。税金も高いですが高福祉社会になっています。安心感が高くて、実際にデンマークの幸せ度は世界1というデータもあります。安心なんですね。教育もタダ。医療費もタダ。個人は税金をたくさん払っているけど、その分返ってきます。そういう安心感があります。異論もあるでしょうが、幸福学の立場から見ると、日本も消費税をもっと上げるべきだと思います。

井上:ピケティの本によると、資本を持っている人たちはますます富を増やしていって、これから成長しようという人たちはなかなか豊かになれずにどんどん格差が広がっているということでした。アメリカでも国全体のGDPは伸びていますが一人当たりのGDPや幸せ度というのは過去40年くらい横ばいのようです。

前野:調査によっては、アメリカは日本より幸せ度が高いという結果もありますが、実際には格差がとても大きくて日本よりも幸せ度は低いんですよ。そっちのデータの方が妥当だと僕は思っています。

井上:いろんなデータを見ていらっしゃる前野先生からすると、提案としては北欧のような社会システムを作っていくというのが良いのではないかということですね。では心の方はどうでしょうか?

前野:昔から哲学者がいろんなことを言ってきましたが、なかなか理想の社会にはなっていない。以前は社会が右肩上がりになることを信じることができたからそれを目指せばよかったんですが、地球が危機的状態になってこのままでは立ち行かないということになれば、みんなで力を合わせましょうということになるのではないか、と思っています。

私はこのままいくと人類は滅びてしまうと思うんです。温暖化ももう間に合わないところにまで来ているのではないか。ただし、人類が滅ぶと青い緑豊かな地球がまた戻るので、そっちのほうがいいといってもいいかもしれません。しかし、会社や組織もそうだと思いますが、危機的な状態になるとみんな火事場のクソ力で頑張る。危機が起こらなければ多くの人はどうしても保守的になってしまう。ですから、危機的状態に陥ることは変化への引き金になるかもしれない。

孫:先生に質問があるのですが、先ほどの歴史は繰り返すというところで、エネルギー革命が起こってコストがゼロに近づいて、そこまで来た時に人は何を争うことになると思いますか?エネルギー以上に軋轢を生むものというのはない気がするんですが。

前野:一見、争う必要はなさそうでが、それでも争うのが人間です。人間の欲がどこに向かっていくのか。

井上:人類の危機が訪れた時に地球人として人類が一致団結して立ち向かうのではないか、というお話が前野先生からありましたが、「マズローの5段階欲求説」には実は6段階目に「共生欲求」というのがあるのではないか、という説があります。自己実現の先に共生欲求が生まれる、より高次の欲求に移っていくのではないかと。それが人間本来の姿なのではないかという議論もあります。食料も潤沢にある、働く必要もない、エネルギーもある、そういう世界になったら人は何のために競争したり争ったりするのでしょうか?

前野:自己顕示欲や名誉欲、人に勝ちたいという欲。多くの人はそういう欲は無意味だ、共生したほうが幸せだと気が付くのかもしれません。しかし、果たしてみんながそうなるかというと、そうなるわけではない、というのが今の社会、ないしは未来社会のような気がします。

井上:そこにテクノロジーによるソリューションは考えられますか?

孫:それは教育の話なのかもしれませんね。人間の本性という部分もあるのかもしれませんが、小さい頃から新しい価値観に基づいた教育を受けて、自分の頭で考える癖がついていれば、悲観的な未来にはならないのではないかとも思います。究極のソリューションは教育、人が育つ環境を創ることなのかなと思います。

前野:そういう意味では戦後の日本では倫理教育が失われました。戦前に戻れと言いたいわけではないのですが、アメリカはキリスト教型の道徳教育の上に資本主義が成り立っています。その道徳の部分がないままシステムだけ輸入したのが日本なわけで、そういう意味では戦後の日本はまさに心の教育が半分足りないのかもしれません。技術を高める教育はされているけど、そもそもその技術をどう使うか、何のために使うかという教育のようなものが抜け落ちているのです。

井上:ところで、孫さんがまだ紹介しきれなかった事例、ワクワクする事例をここでご紹介いただけないでしょうか?

孫:彼はオランダ人の青年で、ボイヤンくんといいます。19歳のときに始めたNPOを立ち上げた社会起業家です。ですから出資という概念がなくて寄付で応援するという形をとっています。起業のきっかけは、彼が海水浴に行った時に海にたくさんゴミが浮いていて、とても残念に思ったらしいんですね。それで海を掃除してやろうと、Ocean Cleanup(オーシャンクリーンアップ)という事業を立ち上げました。

これは全長が2kmくらいあるんですが、潮の流れで動いて、その中心にゴミが集まってきて溜まったゴミをガバっと取る。効率よく海に浮かぶゴミをさらえるんです。

まず自分でプロトタイプを作ってプールの中で動かした様子をYoutubeにアップして、このアイデアいつか世界の海をきれいにしたいんだ、と訴えたんです。 するとその動画が爆発的に拡散して、動画を見た研究者たちが世界中から集まってきたんですね。ある海洋研究者は潮の流れのシミュレーションモデルを彼に提供したり。

 

一ヶ月ほど前にお会いしたら、アメリカ海軍が偵察機を無償で出動してくれて 太平洋上のゴミをすべてスキャンしてくれたそうです。そのデータを見せてもらったのですが、すごい。太平洋上にゴミがベルト状に溜まっているのが可視化されていました。

彼は500万ユーロを調達して、23歳、始動4年目の来年からいよいよ実際の海を掃除するプロジェクトが始まります。その最初の場所がなんと日本の対馬なんです。オランダと長崎は昔から仲が良いと、対馬市長から依頼があって。日本の企業も手伝ってくれないかと、僕もいま声をかけはじめたところです。

2035年までには太平洋すべてのゴミをルンバみたいに掃除すると。もしお金が多く集まればもっと前倒しできる。既にいろんな企業家が集まり始めています。

これと同じような文脈で、Hyperloop(ハイパーループというプロジェクトがあります。

リニアモーターカーよりももっと速い超高速移動技術を研究していたチームが、特許を取るのではなくオープンソースにしてみんなでやろうと。そのメンバーの1人にイーロン・マスクもいました。

このプロジェクトに世界中から優秀な人材が集まってきて、ドバイでこれが実現する予定なんです。何が凄いかというと、パイプの中が限りなく真空に近くなって空気抵抗がなくなる、その中を超高速の列車が走るんですね。リニアモーターカーよりもスピードが速いけど、建築費は1/4から1/5くらいだそうです

このプロジェクトの中でいくつかの会社ができたのですが、その中で一番大きなHyperloop Oneという会社には800人スタッフいるんです。そして全員が兼務です。普段はボーイングにいたりアップルにいたりグーグルにいたりスペースエックスにいたりテスラにいたりしますが、 このプロジェクトも手伝っています。彼らにストックオプションを渡してスタッフになってもらっているんですね。

このように「コミュニティ型スタートアップ」という新しいかたちの組織が生まれています。コミュニティ型でみんな兼務なので、正社員だけの集団に比べてスケジュールがかっちり組めないという点がデメリットなんですが、そのかわりに世界中の優秀な技術者が集結して、とてつもない叡智が集まっているんですね。

普通の会社だったらありえない動きでプロジェクトが進んでいて、そのCEOにお話を聞いたのですが、これからはアップルのスティーブ・ジョブズのようなカリスマ型のリーダーは要らないのではないかと。

彼にはCEOの肩書きはありますが、実際にやっている仕事といえば800人のスタッフが快適に働けるための環境をつくること。事務局的な機能しか果たしていない。ですから「サーヴァント型リーダーシップ」お世話係ですね。実はこのCEOはクラウドソーシング会社の出身で、だから人にうまくお願いして動いてもらうのがうまいんです。彼自身に特別な技術や知識があったわけではないんです。これも最新型のガバナンスのかたちです。
Ocean CleanupもHyperloopもコミュニティでボランタリーの力を集めることですごい価値を生み出す、最新型のスタートアップのあり方だなと思って非常に注目しています。

井上:すごくワクワクしますよね。1人のカリスマCEOだけが世の中を変えているんじゃなくて、多くの人が共感して関わっていくことで新しい価値を生み出す。

孫:みんな楽しいから集まっているんです。はっきり言って、お金なんてどうでもいい、地位や名誉じゃない。実現したらすごいよね、というワクワクを感じた人たちが集まって組織になる。これから会社のあり方自体もじわじわ変わっていくと思います

井上:凄い時代になってきましたね。ところで、前野先生にお聞きしたいのが、ご著書の本の中で70億人総オタク化」というお話がありました。かなりのページを割いて熱く語おられていたので、そのあたりのお話をお聞かせいただけますでしょうか。

前野:幸せになるためには、ワクワクすること。既存のパイを奪い合ってレッドオーシャンで戦うから、勝ち負けを競うしかなくなる。そうでなく、全員ブルーオーシャンでやればいいんです。そこにワクワクがあればいい。そんなことはあり得ないと言う人もいるけど、インターネットの技術によって世界の70億人が好きなことや得意分野を突き詰めて、同志がつながりあうことができれば、理想的には全員がワクワクすることが可能だと思うんです。それで成り立つような組織体、オープンな連携関係というものができればいいわけです。

例えばいま大企業では、好きじゃない仕事を分け与えられて、社員はイヤイヤそれをこなすだけ、という状況があるのかもしれません。

井上:生活のためにやらなくてはならない、というプレッシャーもありますよね

前野:むしろAIやロボットがそのような仕事を奪ってくれて、人間は本当にアートなど文化的な活動や、面白くてクリエイティブなことだけやればいい。それが70億通りあるような世界を僕は夢見ているんです。そのためにはまさにインターネットの助けで、いかに連携して想いをシェアするかということがキーになると思っています。

井上:たとえ自分の身の回りに同じ趣味を持っている人がいなくても、インターネットだったら世界中で自分と同じことをやっている人を見つけられるかもしれない。70億人の中で、例えば1000人ずつが共通の趣味を持った人たちが集まれば、700万個のサークルができますよね。

ではもう一度お二人にお尋ねします。イノベーションやテクノロジーが人をどこまで幸せにできるのか?例えば宗教や文化の対立をテクノロジーが解決できるか、民族や人種や国家間の対立をテクノロジーで超えられるのか。

孫:僕は日本人の叡智や宗教観というものが、世界のさまざまな課題を解決するために貢献できるのではないか、そういう時代がそろそろ来るのではないかと感じています。それが何かというと、例えば八百万(ヤオオロズ)の神を信じるような感覚です。

神道とか仏教とか、様々な宗教観がミックスされて培われてきたのが日本人の宗教観だと思っていて、アニミズム、全てのものに神が宿っているという感覚ですね。クリスマスを祝ったり初詣に行ったり、よく海外の人からは日本人は無節操だと言われますが、それは八百万の神を受け入れているということですよね。

日本食と言われているようなものでも、トンカツとか天ぷらとかカレーライスとか、元々は海外から入ってきた料理を受け入れて日本独自のものに改良していったり。そのようなことに、日本人の宗教観や考え方というものが深く影響しているんだと思います。そのような感覚を持っているというのはとてもハッピーなことで、一神教的に他の文化や宗教を許さないということもなく、それが日本人の寛容さに繋がっているのではないでしょうか。

例えばIoTというテクノロジーも、日本人が非常に得意とすることなのではないかと感じています。すべてのものにスマートインテリジェンスが宿るということは、八百万の神の精神に近い。日本から今後IoTの素晴らしいテクノロジーやプロダクトが出てくるのではないかと期待しています。

前野:私も全く同じ意見です。世界中の多くの知識人が、日本人に頼らなければならない時代が来たと言っています。日本人の和の精神に学ぼうと。それから、最近ブータンとかフィジーとかハワイに行ったり、ネイティブアメリカンの話を聞いて感じたのは、彼らもやはり多神教的だということ。

フィジーで印象に残っているのは「私」という言葉と「私たち」という言葉が一緒だということです。だから店でビールを飲んでいると、隣の客が勝手に私のビールを飲んだりする。それは私のだと言うと「いいじゃないか」と。和の精神というのは日本だけではなく環太平洋にも広がっている。

 

でもとりわけ日本が凄いのは、彼らのような少数民族ではなく、1億人以上ものまとまった人たちがそのような考え方を持っていて、しかもテクノロジーも持っている。これは世界の歴史上の奇跡だと思います。西洋の文明を受け入れた和の文化の国であること、非地位財型の考え方を日本が広めようとしている点は全く同意します。

 

孫:そして「日本人は凄いんだ」で終わらずに、世界に貢献しなければならないですよね。

MONDO(問答)

井上:和を以て尊しとなす、という精神性と先端技術のかけ算をやったときに、 世界に対してよい貢献ができるということですね。それではみなさんお待たせしました、問答タイムに移りたいと思います。会場から質問のある方はどうぞ挙手をお願い致します。

問:前野先生にお伺いしたいと思います。お話を伺って、幸せを突き詰めていくと個が独立して組織的な要素はなくなっていくのかな、というふうに理解したのですが、70億人という数を考えても、人間というものには何かしら統治が必要だと思うのですが。

 前野:例えば法政大学の坂本光司先生が『日本でいちばん大切にしたい会社』という本を書かれたり、天外伺朗さんが「ホワイト企業大賞」という取り組みをなさっていたり、私もいま幸福経営の研究をしているのですが、ものすごく幸せな組織がすでに存在しています。これらがヒントになると思っています。

例えば、伊那食品工業さんや、ネッツトヨタ南国さんなど、数百人の社員がみんなやりがいを持って働けるような会社もあります。報・連・相禁止の未来工業さんなど、社員の幸福度が非常に高い企業があります。

そのような事例からわかることは、組織的な統治は絶対ダメというわけではなくて、社員が管理されてイヤイヤ仕事をするのではなく、みんながやりがいをもって働けるようにするための工夫が組織や統治には必要だということです。

問:孫さんにお聞きしたいのですが、「Living Anywhere」というプロジェクトにとても共感したのですが、現実的に多くの一般の人々がそれを所有できるようになる時期というのはどのくらいを想定していますか。

孫:いつになるかは分からないのですが、それを予測することに意味はないと思っています。逆に、予測というものは人を不幸にするのではないかと思っています。どこかに絶対的な答えがあって、それをどうにかして知りたいという姿勢です。この世に黄金の方程式というものはないし、そのような発想は人を不幸にしてしまう。

僕が座右の銘にしているアラン・ケイ「未来を予測する最良の方法は、未来を発明することだ」という言葉があります。未来は自分たちで創るものなんですね。そのためにいま全力でがんばることです。
僕が父にいまとても感謝しているのですが、父は僕をとにかく褒めてくれたんですね。昨日習ったばかりの漢字で誰でも満点が取れる小テストで満点を取っても、「お前は天才ばい!」と褒めてくれたり、絵を描けば「お前はピカソのごたるばい」と額縁に入れて飾ってくれたり。それがずっと続いたので、本当に自分は天才なのかと勘違いして、もっと頑張ろうと思えるようになったんです。

親に褒められ続けたおかげで、自分が本当に頑張れば世界を変えられるという感覚があるのかもしれません。先ほど紹介した人たちもみんな「自分は世界を変えられる」と本気で思ってるんです。もしかしたらそれは妄想かもしれないのですが、周りの人はその人を見て、面白そうだと集まるんですね。そして実際に人が集まると本当に実現に近づいていく。そのことを父は教えてくれたんです。

だからいつ「Living Anywhere」が実現するか分かりませんが、できる限り早くやるだけだと思っているんです。

問:世界の幸福度グラフを見ると、幸福度の高い国は2種類に分かれています。ブータンやナイジェリアやガーナのようないわゆる「開発途上国」と、北欧のようにテクノロジーと資本主義の先端を行くような国です。日本は今後そのどちらの方向に進んでいくと思われますか?

前野:ブータンと北欧は一見違うように見えますよね。去年ブータンに行ったのですが、ブータンの人はお寺に行くと「うちは大乗仏教だから自分の幸せだけじゃなくて世界中の人の幸せを願うんだよ」と言うんです。また、「本当にあなたが困っている時に信頼できる人が何人いますか?」という調査では、平均50人という結果がでたそうです。農業も盛んで備蓄もあって、しかも家族・仲間が50人もいるような信頼感もある。日本の方が科学技術の面では進んでいるかもしれませんが、心の温かさや、日本にも昔あった古き良き心という面では、一つの理想かもしれません。
一方北欧では、北の国は環境が過酷ですから、みんなで力を合わせながら社会制度をきちんとつくることによって幸せになろうとする。全く異なる社会のように見えますが、両方とも先ほどの幸せの条件を満たしていると思うんです。だから日本が目指すべきなのはブータン型でも北欧型でもなくて、日本らしい日本型の幸せだと思います。

日本で高齢者の幸福度調査があったのですが、90歳くらいが一番幸せだという結果が出ました。60歳くらいだとまだ欲が強いのですが90歳くらいになると生きているだけで幸せになる。日本が高齢化先進国になって90歳が一番幸せだということになると、他の国の人々も希望が持てます。これに科学技術や文明が合わさって、世界がうらやむような新しい形の幸福度の高い国になる。このように楽観的に僕は考えています。

孫:私もブータンに行って強いショックを受けました。実は日本のODAのおかげなんですが、水力発電の設備が非常に優秀で電気が余っているので下流のインドに売電しています。だから産油国と同じくらい経済的に豊かなんです。そのおかげでブータン国民は全員大学まで出ています。大学まで学費が無料で医療費も無償だから病気になった時の不安や教育の不安がない。

美味しいお茶を淹れてくれるからと、畑で作業していた70歳くらいの腰の曲がったおばあちゃんをガイドさんが紹介してくれたのですが、そのおばあちゃんがすごくきれいなクイーンズイングリッシュで話しかけてきて。驚いて聞いてみると、オックスフォード大学に留学していたそうです。

電気も通っていないような質素な家でマテ茶をごちそうになったのですが、彼女は洗練されていて教養もあるけれど、そのような生活を自ら選んでいるんです。本当にみんな幸せそうで、文明とはなんなのかと凄く衝撃を受けました。日本人が持っている発展途上国という尺度とは全く逆なんだという気がしました。

また、去年キューバに行ったのですが、キューバは共産主義で食事も配給制です。観光客向けと国民向けの2種類の通貨、一つの国で二つの経済が回っていて、国内用の物品は国内用の通貨でしか買えません。街にはボロボロのビルが並んでいて、ぱっと見はすごく貧しい印象を受けますが犯罪がほとんど発生しないんですね。なぜならみんな食えてるから。だから人のものを奪うというような犯罪はほとんどないそうです。

この二つの国には、日本のようにモノで溢れてはいませんが、とても穏やかで幸せそうでした。私たちの目線で文明が遅れているとか、文明をシャットダウンしているとか、そういう見方は完全に改めた方がいいなと感じましたね。

井上:お二方の話を聴いて、未来に対してワクワクするような気持ちにさせてくれる非常にぜいたくな時間だったなあと感じました。孫さんが紹介してくださったアラン・ケイの言葉「未来は創るもの」ということ。当財団が目指すのは、幕末の志士たちが喧々諤々と語り合った「現在の寺田屋」ですから、今夜のこの時間が、みなさんお一人お一人が未来をつくりだすためのきっかけになればと思います。

<考察>

人の心を変えることで、社会を幸せにするのか

社会の仕組みを変えることで、人の心を幸せにするのか

前野さんのお話では心の幸福のための「四つの因子」が挙げられた。この四つの因子を自分の心の中に持つことができれば幸せになれる、というのが幸福学の考え方。一方、孫さんのアプローチは、テクノロジーによって社会の仕組みが変わることで、人のライフスタイルが変わり、価値観が変わり、人も幸せになるというもの。

未来の社会で起こりえる様々な課題に対して、今までのように技術革新だけで対応しようとしても、前野さんのおっしゃるように「非地位財型の幸せ」というものを設計変数に組み込まなくては、過去の歴史とデータが示すように本当に人は幸せになれない。幸福学とテクノロジーの両輪が回ることで初めて、人類に取って幸せな未来が訪れるに違いない。

<ゲストプロフィール>

・孫泰蔵氏(Mistletoe株式会社 代表取締役社長兼CEO)

1972年生まれ。佐賀県出身。東京大学在学中にYahoo! JAPANの立ち上げに参画。その後、インターネットのコンテンツ制作、サービス運営をサポートする会社を興す。2002年、ガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社を設立、デジタルエンターテインメントの世界で成功をおさめる。その後も、様々なベンチャーの創業や海外企業との大型JVなど、ある時は創業者、ある時は経営陣の一人として、一貫してべ ンチャービジネスに従事した後、2009年に「2030年までにアジア版シリコンバレーのベンチャー生態系をつくる」として、スタートアップのシードアクセラレーターMOVIDA JAPANを設立。2013年、単なる出資にとどまらない総合的なスタートアップ支援に加え、自らも事業創造を行うMistletoe株式会社を創業。21世紀の課題を解決し、世の中に大きなインパクトを与えるようなイノベーションを起こす活動を国内外で本格的に開始、ベンチャーの活躍が、豊かな社会創造につながることを目指している。

 

・前野隆司氏(慶應義塾大学大学院教授)

1984年東京工業大学卒業、1986年同大学修士課程修了。キヤノン株式会社、カリフォルニア大学バークレー校訪問研究員、ハーバード大学訪問教授等を経て現在慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授。博士(工学)。著書に、『無意識と対話する方法』(ワニプラス、2017年)、『無意識の整え方』(ワニプラス、2016年)、『幸せの日本論』(角川新書,2015年)、『システム×デザイン思考で世界を変える』(日経BP、2014年)、『幸せのメカニズム』(講談社現代新書,2013年)、『脳はなぜ「心」を作ったのか』(筑摩書房,2004年)など多数。日本機械学会賞(論文)(1999年)、日本ロボット学会論文賞(2003年)、日本バーチャルリアリティー学会論文賞(2007年)などを受賞。専門は、システムデザイン・マネジメント学、地域活性化、イノベーション教育、幸福学など。

 

<モデレーター>

・井上高志氏(当財団代表理事、株式会社ネクスト 代表取締役社長)

株式会社リクルートコスモス(現コスモスイニシア)勤務時代に「不動産業界の仕組みを変えたい」との強い想いを抱き、97年株式会社ネクストを設立。不動産・住宅情報サイト『HOME’S(ホームズ)』を立ち上げ、掲載物件数No.1(※)のサイトに育て上げる。現在は、国内・海外併せて15社の子会社を展開、世界46ヶ国にサービス展開している(2016年6月時点)。個人の活動として、ベナン共和国の産業支援プロジェクトを展開するほか、民意を直接政党に届けるプラットフォームを提供し、直接民主制の実現を目指す一般社団法人デモクラティアン 代表理事も務める。※産経メディックス調査(2016.1.23)

 

当日の動画はこちらから↑ (トークセッション)

当日の動画はこちらから↑ (問答タイム)

MORE ARTICLES

NEWSLETTER