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【SOW! Vol.3】株式会社ニューキャンバス 杉山文野氏

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【満員御礼】Vol.3「SOW!」Share Our Wisdom

「SOW!」は、これからの未来を切り開くための叡智や、失われそうな叡智を持って取り組む人・団体(プレゼンター)に対し、各分野の専門家、日本を牽引する起業家(プロフェッショナル)が、自身の叡智をアイディアとしてシェアするサロン的セッションです。
 3回目の開催となる今回は、5組のプレゼンターが5分間のプレゼン後、プロフェッショナルによるディスカッションタイムを開始し、各プレゼンターたちが今抱えている悩み・課題解決への糸口をその場で探っていきました。

<プレゼンター>
株式会社ニューキャンバス代表取締役 杉山文野氏

<プロフェッショナル>
加治慶光氏・飛鷹全法氏・小野裕之氏・齋藤貴弘氏

「株式会社ニューキャンバス」プレゼン動画

<今回の課題>
・セクシュアリティは目に見えない
LGBTは自己申告制であり、周りに言えない現実がある。LGBTの可視化が必要

・LGBTは自殺率が高い
LGBTをカミングアウトして活躍している人がいない、見本がいない。仲間がいる場所づくりが必要

・そもそもマイノリティの課題なのか? マジョリティの課題なのか?

LGBTという言葉が無くなればいい

飛鷹:シンプルな質問をしていいですか? レインボープライドのレインボーは白色になるということですか?

杉山:6色のレインボーは性の多様性やグラデーションを表す世界共通のフラッグですね。

飛鷹:杉山さんのプレゼンでなるほどな、と教えられたのは、セクシュアリティは見えないってこと。同じように白色光も見えないけれど、プリズムを通すと虹色に見え、多様性が可視化されるわけですよね。

近代以降は目に見えるものが、そのまま存在につながるという世界観に支配されていますが、仏教の世界では見えないものに対する気付きを重要視するんです。そう考えると、直接的な活動によって社会を変えていくことももちろん大事だけれど、人々がこれまでと違う視点や感覚をどのように獲得して共有化していくかが、大事なポイントになるんじゃないかなと思いました。

杉山:仰る通り、目に見えないことを課題化していくのは本当に難しくて、どっかで忘れちゃうんですよね。たとえば、今回このイベントに参加させてもらったのは、運営に関わっている10年来の友人に呼ばたのがきっかけなんです。彼とはLGBTの話を何度もしているのに、今回のアンケート用紙には性別欄に男性・女性を選ぶようになっていると(笑)。

飛鷹:分かること、理解することって、仏教では分別(ふんべつ)と言って、ネガティブなことなんです。認識って基本的にAとBを分けるってことなんですよね。だけど本来、世界は全てが繋がっていて、仏も宇宙もすべての存在はひとつで一緒なんだという感覚がまずある。だからこそ全ての命に対して共感を持つこともできるわけなんですが、。人間の社会というものは、個人と個人を分けることで共同体の調和を図り規制していくという部分があります。ただ分ける以前に、本来はすべてがつながっているんだという感覚は、今後、私たちが社会をどうデザインするかイメージするときに大切になってくるのではないかなと思いました。杉山さんは、「分ける」っていうことに関してご自身の経験で、何か思い当たることはありますか?

杉山:分けるってことでいうと、LGBTという言葉を使うこと自体が、人と分けていることですよね。本当は使いたくないけれど、言葉にしないと伝わらないので便宜上使っています。今後はLGBTという言葉が無くなればいいなと思いながら、あえて分けて使っています。

飛鷹:皆が無意識で差別しているということを顕在化させるためには、まず言葉にしなければいけなかったわけですね。ただそれによって、LGBTという言葉をみんなが普通に使えるようになったのは、大きな一歩だと思います。

LGBTを知ってもらうには、教育に入っていかないと

杉山:知ってもらうってことでいうと、教育に入っていかないと、どうしても知る機会が無いと感じています。同性愛の話は子どもにとって悪影響ではないかとか、早いのではないかとか、LGBTの話をしたときに大人のベッドの上の話と思いがちです。でも、性行為の話だけでなく、アイデンティティーの話であると伝えていかないと、学校のクラスにも必ず数人はいるであろうLGBTの子どもたちが傷ついてしまったり疎外感を感じたりしてしまう。また、周りの子ども達が加害者にならないようにするためにも必要なことです。教育の指導要領に入れようという話もあるけれど、なかなか入らないのが現状です。

斎藤:教育というところで言うと、LGBTとの接点の持ち方が重要かなと思っていて。アート界にはLGBTの方がたくさんいて、僕はアートが好きなのでLGBTの友だちが多いんです。僕がそういう人たちと違和感なく接しているのは、僕の周りに普通に存在しているからだと思います。周囲に普通にLGBTの方がいて、普通に付き合うなかで特別な感性や才能も感じることができる。指導要領というよりも、日常的な接点を持つというアプローチのほうが分かりやすいかなと思いました。

小野:ひとつだけ、これを聞きたい! というのはありますか? やったらやった分だけいいですよねという話をしていても、あまり議論にはならないです。

杉山:明確なゴールがあると走りやすいのですが…。アメリカでよく議論されるのは、全州で同性婚が可決されたけれど、そうでもしないとLGBTは殺されるかもしれないという危険性があるからです。でも日本では、殺されるほどの危険性はほぼないですし、実際にはいろいろあるのですが、何と戦っているのかが分からない。なので、ひと言で「課題はこれです」とは言いづらいです。

スーパースターがいれば

オーディエンス①:僕は車椅子なんですが、その界隈にスターがいるかどうかは重要だと思います。車椅子界でいうと、僕が小学校のときに乙武洋匡さんというスターがいたから人生やってこられたというのがあって。彼はスーパースターで、金持ちで周りに女の子もたくさんいて(笑)、そういうところに憧れるんです。LGBTでもそういうスターの存在がいると良いなと思いました。LGBT枠や車椅子枠としてメディアで活躍できるスターがいたら、LGBTのほうが良かったっていうことになるかもしれない。マイノリティーこそマジョリティになれるかもしれないと思いました。

杉山:有名になるというのは大切ですが、LGBTのメディアの扱いは、お涙ちょうだいの苦しんでいる当事者という表現か、バラエティで笑い飛ばすものです。これはよく言われるのですが、、ターニングポイントだったのは、とんねるずの「みなさんのおかげです」の保毛尾田保毛男なんですよね。これがLGBTは笑い飛ばしていい存在というイメージを根付かせてしまった大きな原因のひとつだと言われています。セクシュアリティとは違うところがしっかり評価されてメディアで活躍するヒーローがいれば良いですね。例えば、僕がフェンシングの五輪でメダルを取って、実力のあるスポーツコメンテーターとして有名になって、でも実は昔女の子だったんですよね、くらいだったら…残念ながら僕はスーパースターになれなかったですけれど(笑)。

LGBTに対する認識のレベルは上がってきているではないか

井上:ふわっとした提案ですが、基本的人権というのを私たちがしっかりと考えなきゃいけなのではないかと思って。今日ここにいる皆さんでも、見方や角度を変えれば、学力や趣味嗜好や思想などで全員がマイノリティーである可能性がある。世界中を見ると全ての人類は実はマイノリティーの一部なのではないかと思います。であれば、全ての人類の基本的人権を尊重しましょうねという社会をつくっていくことが重要です。LGBTの話だけでなく、教育や身体障害や精神疾患も、いろんな意味で認めていって、基本的人権が脅かされない社会を叶えていかないといけない。そこについてコメントはありますか?

杉山:まさにそうです。憲法で、すべて国民は法の下に平等であって〜と言っていますが、すべての中にLGBTが含まれてこなかった。同性婚とは言うけれど、異性婚とは言わないですよね。今は婚姻の平等という呼び方に変わってきていますが、それは特別な権利を主張しているわけでなく、特別な人たちのために何かを作っているわけでもない。すべてといっているのに、まだ足りていないところをきちんと、すべてにしましょうと言っているだけなんですよね。

小野:LGBTに対する認識のレベルは、けっこう上がってきているのではないかと思っていて、あとはどうやってスケールさせるかという領域に入っているのではないでしょうか。渋谷区のパートナーシップ証明書発行制度は始まっていますが、それをまずは23区に47世道府県へと具体的な課題設定をしてもいい時期にきているのではとないかと思います。LGBTの雇用が採用力アップに繋がっていることもあると思うし。
エモーショナルではなくて、理性的な広げ方のフェーズに変わってきていると思いますね。

楠本:うちの会社はLGBTの子が多いんですけど、社内でスーパースターなんですよね。クリエイターにLGBTが多いのは、ある意味必然だと思います。なぜかというと、相手の心に寄り添える、センスに寄り添える、感じられる角度が広いというのは、圧倒的な強みだろうと思うから。LGBTであることをカフェの世界では意識したことがないです。ヒーローを作っていくという部分で言うと、これからのクリエイティブ競争の時代では、LGBTのヒーローは必然的に出てくると思うので、それを表現する機会を作っていくのが大切かなと思います。あと、僕は今度LAに出店するのですが、あちらでは法律でLGBTの取り決めがあるんですよね。トイレはLGBT用を作ることとか、それはオーストラリアも同じです。LGBT用というのがアイコンで分かるようになっている。そうすると、その状況が当たり前だと社会が認識するんですよ。なので、制度としてそういう方向に持っていくことが大切です。
クリエイティブ社会ではマイノリティーは優位性を持っているから、僕はそういうコミュニティを会社として作りたいと思っています。そのほうが圧倒的に強いので。

杉山:嬉しいお言葉なのですが、一点注意点としては、ひと言で「LGBT」と言ってもいろんな人がいるという点です。ゲイがみんな感度が高くオシャレでお金持っているわけではなく、そういった方だから自信をもってカミングアウトしやすいだけであって、当然おしゃれじゃないゲイの方もいます。最近ではキラキラ系LGBTなどと言われるのですが、一方でLGBTと貧困は密接な関係もあり、格差があります。でもそれはLGBTだからということではなく、社会全体の格差でもあるのですが。

小野:LGBTのトイレ普及プロジェクトはいかがですか?(笑)

杉山:LGBTのトイレ問題は最近よく議論されていますね。例えば経済産業省の職員の方が男性から女性に移行しても、まだ戸籍上は男だから女性用トイレに入れないということで訴訟がおこりました。僕は普段男性用のトイレで個室を利用していますが、戸籍上は女子なので、もし男性用のトイレが使えないと言われれば、それはもうトイレに行くなと言われているようなもので、一体どうやって生活していけばいいのでしょうか? かと言ってトランスジェンダー専用のトイレですって言われても、入る度にカミングアウトになってしまうわけで使いづらいですね。

小野:それは分からないですよね。人によりませんか?

杉山:それが良いという人もいるのでしょうが。単純に男女兼用のトイレが増えたらいいなと思います。それであれば費用もかけずプレート一枚張り替えるだけでできることですので。

オーディエンス②:わたしはゲイです。で、ティム・クックがゲイをカミングアウトした時は勇気をもらいました。僕は、普段は関係の無い人・触れない人のことを考える時間と場所、まさに今ですが、そういう場が大切だと思います。もし自分の子どもがLGBTになったら? 親友がLGBTだったらどうする? すごく考えますよね。LGBTの問題は簡単ではないから、自分が普段考えないことについて考える場を作って欲しいなと思います。

あるがままに人を受け入れる風土づくりが大切

加地:この間、杉山さんとレインボー国会に行って国会議員の方と盛り上がりました。新しい法律を作ったり、制度を変えることは大切ですがとても大変です。局地戦としては重要なことですが、まずは風土づくりが大切ではないでしょうか。普通に、自分と違う人と受け入れる風土を作る。自分たちが傷つけられない・差別されない・安心できる社会を作る、普通に人をリスペクトする風土を作ることが大切だと思います。

オーディエンス①:違う観点から話すと、LGBTのブランディングやマーケティング観点が重要ではないかと思いました。情緒的ではなく、もっとシャープなブランディングが必要かなと。
ゲイ・ホモ・オナベって既にブランドイメージが出来上がっていますよね。
マーケティング観点で言うとできることは2つあって、まずはLGBTのブランドイメージを変えること。LGBTでもヒエラルキーはあると思うけれど、いろんな強みがあるならそれをきちんと可視化していく。たとえば男性も女性も両方の気持ちがわかるLGBTがいるなら、ヒューマンプロフェッショナルのような、人間のプロですといったタグをつけていくと、LGBTというワードから外れてリブランディングになる。

あとは、LGBTの機能性を伝えたほうがいいです。そうするとどんなエンドメリットがあるのか分かるから。僕はそこに、科学とか脳科学観点を持ってきたらいいと思っています。幸福学研究は世界中で行われていますが、人が幸福になる軸として、自分と属性が違う人と分かり合えたときに幸福度が上がると言われているんですよ。LGBTと分かり合えて、同じタイミングで笑いあえた時に幸福度が上がるというLGBTの機能性です。

杉山:シャープに科学的にもやりつつ、情緒的アプローチも、両方が必要かなと思います。そもそも活動する理由やモチベーションは情緒的なんですよね。全てを端折って言うと、一人でもLGBTの友達ができるといいんです。渋谷区のパートナーシップの条例も、もともと何だったかと言うと、現区長の長谷部健さんグリーンバードの活動で一緒にごみ拾いしたときに、長谷部さんはLGBTについて全く知らなくて、僕の性別がどうこうと言うよりも、毎週の掃除の活動でいろんな話をして仲良くなったことからパートナーシップ条例のアイディアに繋がったんです。
LGBTがどうのというよりも、身近な友達が困っているなら出来ることやってみよう、ではどんなことができるかな?と、そんな一歩を踏み出すことが大事なんだと思います。どうもありがとうございました。

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