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Next Wisdom Gathering003 “創造都市論から叡智を模索する”

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創造都市といわれるオレゴン州ポートランド。人口60万人(船橋市くらい)とアメリカで29番目の人口規模であるにも関わらず、NIKEやWieden+Kennedy(ワイデンアンドケネディ)、Kinfolk Magazineなど、世界に影響力を与える企業やカルチャーが生まれ続け、日本でも「街づくり」「クリエイティブ」「DIY」など多様な切り口で注目を集めています。一方、日本の石巻市。震災で被災後、悲しみを乗り越えて、新しいまちづくりの運動が民間レベルでスタートし、いま大きなうねりになっています。今回の「Next Wisdom Gathering」では、石巻のまちづくりに関わる3名をゲストに招き、ポートランドとの比較をしながら、これからの創造都市とはなにか、それに必要な要素はなにかを探りました。

石巻とポートランドの類似性

・ゲスト:岩井俊介氏(クリエイティブディレクター)

東京生まれ。電通のコピーライター/CMプランナー、Wieden+Kennedy Tokyoのコピーライターを経て、現在は外資系企業の日本市場担当クリエイティブディレクター。2011年の東日本大震災後より個人のプロボノ活動として宮城県石巻市のコミュニティ創造団体であるISHINOMAKI2.0に参加し、そのクリエイティブ、ブランディング、マーケティング活動や教育プログラムに関わる。2014年より理事。作家の航空アドバイザーを務めるほどの航空ギーク。

・ゲスト:飯田昭雄氏(一般社団法人ISHINOMAKI 2.0理事/アートバイヤー/キュレーター/編集者/プロデューサー)

大学卒業後、エロ本編集者からキャリアを開始。2005年Wieden+Kennedy Tokyo入社。アートバイヤー部署の立ち上げから参加。在職中は主にNIKE、Google、Sony Playstationの広告クリエイティブに関わる。2011年、東日本大震災直後、仲間と共にキャンピングカーで救援物資のデリバリー活動を開始。同年、一般社団法人ISHINOMAKI 2.0を地元と東京の仲間と共に立ち上げる。アートバイヤー/キュレーター/編集者/プロデューサーとして、ストリートから現代美術他、様々なアーティストやクリエーターのネットワークを構築し活用しながら、広告からNPO活動まで横断的に関わる。

左がポートランド、右が石巻市。二つとも川を中心に発達した都市で、地形も似ている

ポートランドの地図

石巻の地図

・地形
ポートランドのダウンタウンにはウィラメット川が、石巻市の中心には旧北上川が流れて太平洋にでます。ウィラメット川を西に辿ると太平洋につながっていて、ポートランドは歴史的に河川運輸の要衝として、海からくる魚介類と、木材や農作物の交易の場として栄えました。一方の石巻も山と海に囲まれ、海の幸と山の幸に恵まれた街です。また、二つの都市ともにアウトドアを楽しむための環境に非常に恵まれていて、ポートランドはダウンタウンから車で10分走ると周りは森ですし、石巻も同じくらいの距離に森や山があります。

・巨大なライバルの存在
ポートランドは舟運と産業の中心地だったのですが、すぐ北のシアトルに非常に大きな港ができ、また航空機の発達とともに大きな空港ができて、人の流れとお金の流れが奪われてしまった過去があります。石巻市のライバル都市は仙台です。石巻は江戸時代には海運による交易の集積地で非常にリッチだったそうですが、鉄道の開通によって仙台にその座を奪われたという歴史があります。

・まちづくりの盛り上がり
ポートランドはシアトルに対してサイズ的にはかなり小さい街です。人口でいうと船橋市くらいと聞いています。しかし最近は非常に面白いカムバックをしている。地域の住民による自治が非常にしっかりしていて、彼らの独自なライフスタイルが注目されています。また、クリエイティブエージェンシーのWieden+Kennedy (ワイデンアンドケネディ)や、Kinfolk Magazineなどのクリエイティブなビジネスが集積して、いま猛烈に人口が集まり始めていて中心地は若干バブル気味なほどです。さびれて廃墟になっていた場所が、おしゃれなセレクトショップや美味しいレストランになっていて、全米でもユニークな都市になっています。

一方の石巻はご存知の通り2011年3月11日に大変なことが起きました。中心市街地は2mの津波を被って街の大部分が被災しました。石巻はいま奇跡の復活を目指して活動をしているところです。その石巻で、私たちは2011年の夏から「ISHINOMAKI 2.0」という団体をつくって活動をしています。メンバーには私たちのようなワイデンアンドケネディ出身者も多く、ポートランドのDNAが石巻に入ってきています。

石巻で生まれた新しいプロジェクト

石巻ではいまISHINOMAKI 2.0をきっかけに生まれたプロジェクトや、その周辺で様々なアクションが起きています。

石巻VOICE

飯田さんはそれまで、被災地に救援物資を届ける活動をしていたが、自身が培った編集やクリエイティヴの力で石巻のために何かできないかと考えていた。街の人が集まる寄り合いに参加して聞いた「フリーペーパーをつくりたい」という要望に飯田さんが応えて生まれたフリーペーパー。当時の街の人たちの声が集められている。

復興バー
もともとスナックだった被災した店をDIYで作ったバー。復興のために日本各地、海外から来た工事関係者やボランティアたちが、仕事のあとの一杯のビールを飲むための店。様々な人が酒を飲み交わし、お互いの出身地の話をすることで、バーを中心にしたコミュニティが生まれた。

IRORI
Interaction Room of Revitalization and Innovationを略してIRORI(いろり)。東北地方の民家には囲炉裏があり、そこに夜な夜な家族があつまって大人から子供へ昔話が伝わった。そんな場所をつくろうということでできた場所。誰でも利用可能なシェアオフィスでWiFiやコーヒーが提供されている。

石巻工房
ISHINOMAKI 2.0のメンバーと石巻工業高校の生徒たちが、家具メーカーのハーマンミラー社の協力で、祭りのためのベンチをつくったことから始まった工房。現在は石巻出身の元寿司屋の千葉さんが工房長として引き継ぎ、日本だけでなく世界中で石巻工房の家具が販売されている。

STAND UP WEEK
毎年7月下旬に石巻で行われる「川開き祭り」に合わせて開催しているお祭り。震災直後は子供たちが楽しめるエンターテイメントがなく、映画会社から子供向け映画の提供を受けて被災したビルの壁をスクリーンにした上映会や、クリエイティヴチームのライゾマティクスによるVJ、石巻工房と石巻工業高校の生徒たちによる手づくりのベンチもつくられた。

イトナブ
震災後10年で、石巻に1000人のIT技術者を育てようというプロジェクト。モバイルやウェブのアプリケーションのつくり方を若い世代に教えている。イトナブで学んだ小学生のつくったアプリケーションがGoogle playで公開されたり、イトナブをきっかけに進路を考える学生が現れている。

日和キッチン
ISHINOMAKI 2.0のメンバーでもある女性建築家が経営しているレストラン。石巻の郷土料理と、牡鹿半島で増え過ぎて困っている鹿の肉を提供している。石巻駅徒歩5分、築100年の古民家を改装してできた。日和キッチンのあるストリートにはおしゃれな雑貨屋や料理屋が集積しはじめている。

四季彩食いまむら
もともと千葉県出身で、石巻にボランティアに来ていた料理人の今村さんが、石巻という街に惚れ込み「自分の料理店を開く」という夢を石巻でかなえてしまったというお店。

寿ダンスホール
石巻にダンスホールをつくろうというプロジェクト。「楽団ひとり」さんという石巻で唯一のラッパーが鮮魚店に勤めながら、音楽で街に恩返しをしようと様々なイベントを催している。

いしのまき学校
石巻の高校生に、学校では教えてくれないことを教えようというプロジェクト。いまは2年目に入り、震災に負けずがんばっている地元企業のかっこいい大人と高校生の出会いの場をつくり、大人の持つスキルやナレッジを伝えている。

この他にもISHINOMAKI 2.0をきっかけにして生まれたプロジェクトや、その周辺で様々なアクションが起きています。詳しくはISHINOMAKI 2.0のホームページを御覧ください。

「ISHINOMAKI 2.0」の中にある、ポートランド的な価値観

岩井氏)2011年の夏に僕のお付き合いのあったクライアントさんや大学の先生、作家の方などにお手紙を書きました。これを読むとなぜ僕たちが石巻にここまでとりつかれているのか分かるかと思います。
——

「ISHINOMAKI 2.0」の目的は、街を元に戻す、ということではありません。元の街よりもっといい街にしたいのです。震災前から石巻は中心地が空洞化して疲弊した典型的な日本の地方都市でした。豊かな歴史や美しい風景、食など、魅力に満ちているのに、有効な発信ができていませんでした。石巻のような街は被災地以外にもこの国には数限りなくあります。つまり、石巻の未来の考えることは、この国の未来を考えることです。

ジャンルと国境を越えて人々をつなぎ、アイデアを持ち寄る、共感の連鎖を力にする。顔の見えない組織のロジックではなく、一人ひとりの人間の発想と能力を集めて組み立てる。慣れ親しんだ過去を基準にするのではなく、まだ誰も知らない未来を基準にする。出る杭を打つのではなく、出る杭をみんなで作る。ありとあらゆる価値と発想のデフォルトが崩壊し、四方八方で壁にぶち当たっている今の日本。その壁を乗り越えるための様々なインスピレーションが石巻で生まれています。

「ISHINOMAKI 2.0」とは、そのインスピレーションの名前でもあるのです。

——
このような手紙を送ったら、様々な会社が「じゃあ応援してやる」と言って大きな支援をしてくれたり、いろいろなアクションにつながりました。いまポートランドを僕たち日本人は注目していますが、なぜこんな魅力的なのか。やはりポートランド的な価値のようなものが、今のポスト311の日本にすごくシンクロするんだろうと感じています。

ここでご紹介するのは「Wiedenism(ワイデニズム)」といいまして、こういうスピリットで仕事をしようと、Wieden+Kennedyの社員たちに伝えるためのスローガンです。

・Fail harder(思いっきり失敗しろ)
・Find people who make you better(君をよくする人を見つけろ)
・Independence is everything(永遠に独立する)
・Stay foolish(馬鹿であれ)
・The nail that stands up cannot be hammered down(出る杭は打てない)
・Walk in stupid(頭を空っぽにして出社しろ)

これらが「Wiedenism」なのですが、実にポートランド的な価値を反映していると思います。このポートランド的な価値を今まさに体現しているのが石巻なのではないでしょうか。

石巻工房のミッション

ゲスト:松崎勉氏(ハーマンミラージャパン株式会社代表取締役社長)

宮崎県生まれ。ハーマンミラージャパンの代表に就任する以前は、東京とサンフランシスコで経営コンサルティング、ITベンチャーの経営・起業などに関わる。ハーマンミラーでは、「For a better world」というミッションを実行すべく、通常業務の合間を縫って石巻工房でプロボノワークに没頭。企業を経済的に成功させつつ社会的な問題も同時に解決する事業の創出を目指している。

ポートランドには都市として素晴らしい求心力があります。しかし、地方都市に人を集めるというのはとても大変なことです。では、石巻はどうか? 石巻の1つの要素である石巻工房を例に挙げて、石巻工房がどうして人を惹き付けるようになったかについて考えたいと思います。

石巻工房では、まず最初に下記のミッションを設定しました。

①  復興のための住民の自力の家具製作支援
②  人材の育成
③  工房の解放、世代間交流の場
④  地域の現金収入と雇用

①は公共的なミッションで、自力で、Do-It-Yourself一緒に作っていきましょうということが重要です。②も社会性が高いミッションです。③と④は長期的な話で、現金収入と雇用産んでいこうというミッションを立てて公表をしました。それらのミッションは、石巻の仮設住宅に住んでいる方々と一緒に行ったディスカッションも元になっています。震災でコミュニティがなくなって、隣近所がシャッフルされてしまったという話。住む場所はあるが、仕事なくなってしまってやることがないという話など、とてもチャレンジングな課題が出てきました。これらの課題とミッションを掛け合わせながら、新しい家具をつくっています。

なぜ石巻工房に人が集まるのか?

石巻工房の設立メンバーである建築家の芦沢啓治さんと話をしていて、一度だけ石巻工房の将来について悲観的になったことがあります。震災後1年くらい、ボランティアさんの数が激減した時期があったんです。今までの石巻工房の賑わいは一過性のものだったのかと。そこで彼と話しをするなかで出てきた、復興に関わる人とモチベーションを時系列的に図式がしたのがこのグラフです。

震災後に集まった人たちの情動的な関心や同情というファクターは時が経つにつれて落ちていきます。義援金を送ってくださるとか、瓦礫の撤去ですとか、多くの方々にたくさんの作業にご協力いただきましたが、復旧の作業自体が減っていったこともあり、石巻に集まるボランティアさんや義援金も減っていきました。その一方で逆にこれから増えていく人材やお金もあります。

例えば、2014年からクラウドファンディングを始めたのですが、出資者がどんどん集まってきています。つまり、震災後3年も経ったのに、お金が集まり始めている。明らかに義援金とは違うわけです。また、クリエイターの方々から「手伝わせていただきたい」、「石巻工房の家具をデザインさせてほしい」という声も頂くようになりました。また、石巻工房の顧問弁護士やアカウンターの方々など、普段は大変な給料もらって仕事をしているプロフェッショナルな人材も手伝ってくださるようになりました。もしかすると、この支援のエネルギーというのは、震災後の石巻のまちづくりが一過性ではない、持続可能ということ意味しているのではないかと考えるようになりました。また、そういう未来を作る上で「自分が当事者になれるかもしれない」という価値が新しい人材を惹き付けているのだと思います。

会社の外にある「幸せ」

支援する企業にとっての意味合い:社員も仕事に「意味」や「幸せ」を見出したい/社会の問題を解決する企業風土は強力な差別化要因になる/前者は生産性を高め、後者は希少性を高める

いま東京や大阪などの大都市で素晴らしい仕事をしている人たちが石巻に集まってきています。石巻で起こった事は大変悲惨ではありますが、震災でぽっかりと何もなくなってしまったその場所で「私」というものが活きるかもしれない、と思う瞬間がみなさんあったのだと思います。人はどういうことに幸せを感じるのでしょうか? 衣食住が満たされた上で、「自分が素晴らしいと思っていることのために、自分が役に立つ存在であること」なのではないか、と私は幸せを定義しています。日々の仕事や生活の中でその幸せが完璧ではない場合、もしかすると幸せは自分の普段の行動範囲の外にあるかもしれません。

また、企業は営利活動をするための組織ですが、石巻の復興や石巻工房のプロジェクトに参加することで「社会の問題を解決しているんだ」という姿勢を社員全体に見せることができる。それは実は社外に対して強力な差別化要因になるのだと思います。という事は、社員も仕事に「意味」や「幸せ」を見出すことで会社の生産性は高まり、社会問題を解決する企業風土は差別化になるということです。

考察:石巻とポートランドの叡智

3名のゲストが語ってくださったように、震災後の石巻は「世界で一番面白い街をつくろう」という希望に満ちた街の人たちと、「未来をつくる当事者になろう」という気概をもった人材や企業を、日本だけでなく世界中から集めています。石巻の中の人と外の人、民間と行政と企業がいっしょに未来を考えながら、いままでにない新しい価値をつくる。そこで生まれた成果がさらに創造的な人々を惹き付けるという循環が起き、石巻をさらにパワフルにしていく。この創造的循環が起こっているという点が、ポートランドとの大きな共通点であり、叡智なのかもしれません。

“創造都市論から叡智を模索する” 岩井俊介氏/飯田昭雄氏

創造都市論から叡智を模索する” 松崎勉氏

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