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ゲスト:生駒芳子(いこまよしこ)さん
ファッション・ジャーナリスト、一般社団法人フュートゥラディションワオ代表理事、Next Wisdom Foundation評議員
VOGUE,ELLEでの副編集長を経て、2004年よりマリ・クレール日本版・編集長に就任。2008年11月独立後は、ファッション、アート、ライフスタイルを核として、社会貢献、エコロジー、社会起業、クール・ジャパン、女性の生き方まで、講演会出演、プロジェクト立ち上げ、雑誌や新聞への執筆に関わる。伝統工芸を開発、世界発信するプロジェクト、地方創生の地域プロジェクトに取り組む。内閣府クールジャパン官民連携プラットフォーム構成員、国連WFP(国際連合世界食糧計画)顧問、NPO「サービスグラント」理事、JFW(ジャパンファッションウィーク)コミッティ委員等。
「ファッションは時代を映す鏡」。そう表現されるように、社会情勢や文化に色濃く影響を受けながら、その時代を表現し続けてきたファッション。今回は、ファッション・ジャーナリストの生駒芳子氏をゲストに迎え、いま、「エシカル・ファッション」が話題となる背景と意味、そして日本初のラグジュアリーブランドの可能性など、ファッションの視点からこれからの社会の流れを探っていきました。
「エシカル」とは?
「エシカル」という言葉をご存知でしょうか。「エシカル」とは英語で「倫理的に正しい」という意味で、ファッションには硬派すぎる不向きな言葉のように思われますが、2000年を過ぎた頃から一般化し、2016年のいま、世界的に拡散してきています。地球にも社会にも優しい、内側から輝く、サステイナブルでトレーサブルな美しさ。それらを兼ね備えたファッションを、私たちは「エシカル・ファッション」と呼びます。20年ほど前から、「ファッションって綺麗で格好いいもののはずなのに、裏側を覗いてみたらそうではなかった」、という一面にみなさんが気づき始めました。ちょうどインターネットの普及と時を同じくしています。インターネット社会になるまで、あらゆる実情は隠れていたのです。
ずっとパリ・コレクション、ミラノ・コレクションを追いかけてきましたが、2000年を迎える頃に「何かが変わるぞ」という直感がありました。ファッションは絶対このままうまくいくはずがない、と。パリやミラノのコレクションはいまだに元気ですが、この20年で、主役がデザイナーから消費者の手に渡ってしまった。かつてのショー会場では、雑誌の編集長や小売店のディレクターなどがフロントロー(最前列)を埋めていましたが、今ではブロガーやネットエディターが並んで座っています。クローズドのショーも多くありましたが、今はランウェイと同時にネットで配信出来てしまうという状況となりました。
同時に、ラグジュアリーブランドも変わってきています。2000年代に入ってからは「伝統と革新」という言葉が鳴り響くクラフツマンシップの回帰が起きています。何もしなくても売れた時代から、意味付けや物語、背景、トレーサビリティが重要視されるようになったのです。
一方で、ファストファッションブランドが台頭してきました。今や銀座でラグジュアリーブランドの路面店とファストファッション店が軒を連ねているのは当たり前ですが、17年ほど前に大型ドラッグストアがエルメスの横にできたときはメディアで大騒ぎでした。リーマンショック後は何にしても価格ばかりが注目されてきましたが、いま、クオリティ競争の時代に突入しています。もっと本物が欲しい、温もりがあり、ファストでなくスローなものが欲しい、とういう気運が高まってきています。社会貢献、文化貢献がファッションの世界でも重要になってきました。
いま人工知能を中心とする第四次産業革命が起こるといわれますが、並行して、エシカル産業革命、グリーン産業革命もありうるわけです。エシカル・ムーブメントの発端は90年代のスポーツブランドの生産背景が明るみになったことだとも言われています。とあるスポーツブランドが、途上国で靴を履けない子どもに一日中スニーカーをつくらせる重労働を課していたことが、ネット上で知らされたのです。それを機に、環境の問題に限らず人道問題も叫ばれるようになりました。「エコ」と「エシカル」の違いはそこです。「エコ」は環境保全を指しますが、「エシカル」という言葉は人道に関わる問題も内包している。「エシカル」は日本語に置き換えられる際には「思いやり」と言われることもあります。
深刻な環境汚染問題と人道侵害問題
ファッションの生産過程における環境の汚染は見逃せない現実です。例えばコットン。アメリカにはコットン畑がたくさんありますが、各地で農薬による人的被害が深刻化しています。農薬の空中散布が人間の健康被害に繋がっている問題が、長い時を経て表面化してきた。ファブリックを染めたり洗ったりする過程でも、環境に有害な薬品が数多く使われてきました。
児童労働の問題も深刻です。世界で9人に1人の子どもが、教育を受けることができずに、危険で有害な仕事を強制されています。カカオ畑やコットン畑の労働には特に多く、大人の手ではやりづらい作業を、手の小さな4、5歳の女の子が代わりに負担させられています。農薬にまみれて正常に成長出来ず、結婚や出産の前に命を終えてしまうようなことも起こっています。そうした問題が判明し、最近になってようやくインドで無農薬のオーガニックコットンの畑が増えてきました
映画『トゥルー・コスト』でも環境と人道に関わる問題を映しています。ここまで直接的にファッションの裏側を描いた映画はそうなかったので、私も強く衝撃を受けました。映画の中では、バングラディッシュの縫製工場での崩落事故の背景を伝えています。設備費の削減、低賃金生産の行く末に起こってしまったこの事故が世界中に報じられて、過度の安値を追求してしまうアパレル企業の責任も問われましたが、法律上彼らに責任が及ばない仕組みになっていることがわかります。
「500円のデニム」なんて、よく考えたら不思議な話なんですよね。生地を1メートル買っても500円するかもしれないのに、なんで500円でつくれるのか。その裏側の実情を暴いたのがこのドキュメンタリー映画です。低コスト商品を求める消費者のプレッシャーがアパレルメーカーにのしかかり…という風に考えると、私たちにも責任の一端があると思い知らされます。
エシカルのルーツ
最初にエシカルという言葉が世に出たのは、ブレア政権下でアフリカ諸国の貧困対策として「エシカルポリシー」を謳ったときです。イギリスでエシカルという言葉が、一般語となり、それ以来イギリスの企業にエシカルの風潮が広まったのです。ロンドンでは「エステティカ」というエシカルの大規模な展示会が、フェアトレードとかオーガニックコットンのブランドだけ集めて開かれています。
パリは2004年から「エシカルファッションショー」がパリコレの後に定期開催されています。ニューヨークで「フューチャーファッション」と題して、大勢のトップデザイナーがオーガニックコットンを使ったトップトレンドの作品を発表したのが2008年です。バーニーズのウィンドウにオーガニックコットンのルックが飾られました。
一方、日本のファッションウィークはあまり動きがつながっていなくて、デパートなど小売の現場で少しずつ発信が始まっています。ここ2、3年は小さな催しが盛んにリピートされて、徐々に一般の方にも広まってきたかなと感じています。イギリスのフェアトレードの認知度って90%ぐらいあるんです。消費者がみんな意識して買っている。それに対して日本は20%〜30%ぐらいです。なぜ広がらないか。
私見ですが、もちろんイギリスはブレアのアフリカの対策として始まっているわけで、その背景には植民地時代の影響が色濃くあると思っています。インドにしてもアフリカにしても、植民地時代はイギリスがかなり非エシカルな政策を強いていた背景があって、それを払拭するためにブレアがこの政策をつくったので、国民的に納得感を得ているわけです。アジアやアフリカの環境をもっと良くしていこう、応援しようということで、明快な理由があってイギリスではエシカルが広まってきているのです。
エシカルのルーツをもっとさかのぼって見ていきましょう。70年代のヒッピー文化の渦中で環境運動も盛んに行われましたが、そのバイブルとして読まれていたのが、ニューヨークの科学者レイチェル・カーソンが1962年に出した『沈黙の春』。当時のアメリカでは食産業の経済効率が良くなった反面、便利さや利益の効率を考えて食べ物に様々な保存料、着色料など化学物質が入れられていたのですが、彼女はその危険性を指摘し、業界から袋だたきに遭いながらも生涯を貫いて謳い続けました。
それから、フランスの哲学者フェリックス・ガタリによる『三つのエコロジー』(1989年)。エコロジカルな地球を体現するには、自然環境、社会環境、人の心、この3つの要素が重要だと唱えました。自然と社会と人の心が三つ巴に、ここが健全にならないとエコなんか成り立たないよって本だったんです。このことは、大胆なリストラのおかげで、会社は生き残ったけれど、人は沢山切られて人の心はボロボロになった、というリーマンショックのころに起こったことが思い起こされます。
西海岸のオーガニックコットン畑の開拓者である、昆虫学者のサリー・フォックスも紹介させてください。農薬でどんどん死んでいく昆虫に危機感を覚えて、農薬を使わないコットンが必要だ、自分でやるしかないということで、1989年にオーガニックコットンの畑を作ります。オーガニックコットンは普通のコットンより高くて、実際マーケットの中で売れづらいのですが、たとえ価格が高くても、環境に負荷の低い安全な方法でつくられた服を着ることこそが、本当のラグジュアリーなのではないでしょうか。かつて「エコ」いう言葉には質素で地味、ラグジュアリーとは対極にあるもの、と広く認識されていましたが、今ではトップデザイナーが当たり前にオーガニックコットンを使うようになってきています。
ステラ・マッカートニーは、ファッション界のエシカル・ムーブメントを牽引する存在です。2005年にファッションショーの舞台を全部グリーンで埋めたりして世界を驚かせ、子供服は全てオーガニックコットンで作っています。
Stella McCartney west hollywood
私は、日本も実はものすごくエコでエシカルな国だと思うんです。「三方良し」という言葉があるように、売り手良し買い手良し世間良し、みんなを幸せにしていこうって考え方は昔からありました。日本でエコとエシカルがなかなか広がらない理由は、当たり前だからなのではないでしょうか。足元にある精神だからこそ、意識的に再生させて、今の社会に適切な形で発信していけたら、と思うのです。私はエシカルは一過性のトレンドではなく、より人間らしい社会を築くためのルネッサンス運動、哲学的命題かな、と思ってます。例えば、ファストアイテムが、一つの商品を100万枚つくる。そうすることによって500円という価格が可能になるんです。でも100万枚の服は全て着られるでしょうか? 着られないですよね。
行き過ぎた大量生産・大量消費の時代を終わりにし、もう一度ヒューマンスケールに戻す。ファッションにおいては「エシカル」がそのためのキーワードはなのではないかと思っています。
『マリ・クレール』誌の取り組み
私は2004年から2008年までフランスのmarie claire(マリクレール)という雑誌の日本版で編集長を担当しており、社会派のファッション誌をやってみたくて、毎年キャンペーンを行いました。
一年目は「ホワイトキャンペーン」と称して赤ちゃんと子供の命を守ろうという活動を応援しました。私が子育てを経験して、私の目が届かないところでも他人の子供も育てるような社会になればよいかなと思ったのです。
二年目は「ラブキャンペーン」。日本がセックスレスの時代に入って韓流の男優さんに全員日本の女性が走った時代、まずいと思って、日本人の男女の愛のエンゲル係数を上げようと考えました。
三年目は「プラネットキャンペーン」です。映画『不都合な真実』が話題になった2007年、環境の風が吹いた年でした。モデルの太田莉菜さんを、地球温暖化で一番最初に沈む島ツバルで、環境問題に熱心なダナキャランの服でシューティングしました。
また、2005年頃、ルイ・ヴィトンがCO2削減のため、全商品を空輸していたのをやめて、半分を船便にする取り組みについて取材した際、今後はエコとラグジュアリーがつながるぞ、と考え、「エコリュクス」という言葉を考えました。この言葉環境省からも評価され、タイアップも実現しました。
『マリ・クレール』2007年3月号(アシェット婦人画報社)
エコライフとラグジュアリーは相反するものではなく、エコを考える事がラグジュアリーであり、ラグジュアリーにエコ、エシカルの発想は欠かせないというのがこれからの考え方だと考えたんです。
このころから、ハリウッドセレブのあいだで「社会貢献しない人はセレブじゃない」という空気が当たり前になってきました。レオナルド・ディカプリオ、アンジェリーナ・ジョリー、エマ・ワトソンが代表的ですね。エマ・ワトソンに電話でインタビューした際は、「私が有名になりたいと思ったのは、世界中の困っている人たちをいろいろな形で助けるのに有名であることが役に立つと思ったから」と話していました。彼女はピープル・ツリーでファッションのブランドを作って、バングラディッシュで生産者のみなさんを実際に見て、彼女なりの可愛いカレッジデザインでブランドを作りました。日本では黒柳徹子さん、知花くららさん、滝川クリステルさん、伊勢谷友介さんなど…。やはりメディアを賑わす方がこういった形で社会貢献するととても影響力があるので、もっとこういう例が増えれば、と思います。
21世紀のラグジュアリー
とはいえ、「エコリュクス」が、都合の良い、いい加減な概念と思われないかと、少し不安に思う時期もありました。そんなとき、「MOTTAINAI」をひろめた環境活動家ワンガリ・マータイさんをインタビューする機会があり、意見を伺うことが出来ました。すると「あなたの提案は正しい。なぜなら、人は今ある生活を全て捨てることはできませんし、少しずつでいいから取り入れて馴染ませていくことが重要だから。全然間違ってないわよ」と。そう言ってくださって以来、エコでエシカルなスピリットを活かしたライフスタイルが、私は今の時点で21世紀のラグジュアリーであると確信しています。
「エシカルファッション」とは、地球に優しい素材を用いたファッションのこと。オーガニックコットンをはじめ、環境に負荷をかけない染料、皮加工…。ルイ・ヴィトンも自然染めの皮のバッグを作ってます。あと天然原料による天然素材。土に還る素材、トウモロコシからポリエステルが作られる時代なんです。まだまだお値段は高いですが、そうした工夫が繊維メーカーのほうでも進んでます。
SA8000やISOなど、企業の中でステークホルダー、関連する全ての人達が犠牲にならないように労働環境を守るという、そういう事を約束する認証制度も普及してきています。あるときボッテガ・ヴェネタは、「SA8000を取得しました、私たちのブランドに関わる全ての人が良好な労働環境を持っています」とプレス関係者にメールを送ってきました。SA8000とは、就労環境評価の国際規格です。そういう目に見えない部分のエシカルというのも進んできています。
http://www.bottegaveneta.com/us/Help/LegalArea/SupplyChains
新しい「エシカル」の概念
人にも優しいアクションというのが大切で、フェアトレード、これは途上国の人々の経済自立を支援するファッションの作り方なんですけど、ピープル・ツリーさんが最大手です。サフィア・ミニーさんっていう方がプロデュースされていますが、彼女に誘われてネパールのスラム街に行ったんですね。六畳間に6人ぐらい住んでいる古くてボロボロのお家、トイレもお風呂も無いところに行って、一日中家でニット編みをしている家族にお話しを聞きました。
すると、ほんとに素晴らしいなと思ったんです。「このニット編みをしているから、子供たちを全員学校に通わせることができています」と。子供たちに何になりたいか聞くと、弁護士、とか雑誌の記者、とか結構夢が豊かなんですよ。サフィア・ミニーさんは、途上国の人々には家で仕事をすることを推奨しているんです。なぜなら貧しい人達は工場に勤めると、家の世話が出来なくて老人の面倒も見れない、子供も育てられなくて、家が崩壊するケースが多いんですね。だから途上国に工場を作れば雇用を創出するという事だけではないということを、こういう事実が教えてくれるんです。
リデュース、リユース、リサイクル、これは3Rと言われてますが、今はもっと沢山あって、物を循環させるだけじゃなくて、もっと付加価値を付けておしゃれにすることを「アップサイクリング」と言います。パリのセレクトショップ、メルシーが広めた言葉なんですが、物々交換もこの中に入ります。
それから今、スローファッションと呼ばれる伝統世界の「手作り」が非常に注目され、その価値が見直されています。ファストファッションの機械で大量に作るのに対してスローファッション、そして伝統工芸。これは私が今一番注力している領域なんですけど、伝統工芸やクラフツマンシップも自然の素材を使って手で作るものですからエシカルの傘に入っています。また最新の動きで言うと三宅一生さんが2011年から「132 5.」という再生ポリエステルを使ったブランドを発表されました。彼が今話されていることは、これからモノづくりに携わる方は表面の美しさより先に、そのものがこの世に出ることで、環境や社会にどんな負荷をかけるか、かけないかという点をまず、第一に考えてものづくりしなさいと。そのものがどういうふうに社会に影響を与えるか、考えることから始めてほしいと、一生さんは宣言されているんです。自ら再生ポリエステル、それから照明のラインはペットボトルを再生させた素材で作ってらっしゃる。また、ルイ・ヴィトンも、エシカルブランドのEDUNを買収しています。これはアフリカ支援のブランドです。
EDUN
そのほか、オーガニックコットン界の開拓ブランドっていうのをいくつかご紹介しますね。PRISTINE(プリスティン)っていうんですけど、渡邊智惠子さんという方は90年代頭に非常に早い時期にオーガニックコットンが必要な時代が来る、と察知してアバンティという会社を立ち上げた。綿は今日本でとれないんですよ、だからアメリカから輸入して、それを日本で糸にして布にされてるんですが、日本の繊維産業の素晴らしい洗練があるので、彼女の作るオーガニックコットンはオーガニック界のロールスロイスと呼ばれていて、ステラ・マッカートニー、バーバリーも使ってますし、海外のトップブランドが買いに来るんですね。自らはプリスティンっていうブランドで殆どオーガニックコットンを染めないでベージュとか生成りを活かして赤ちゃんのお洋服から、下着からお洋服まで作ってらっしゃいます。オーガニックコットン界の神様のような方です。
PRISTINE ホームページより引用
フェアトレード界をリードしているのは先述のピープル・ツリーです。サフィア・ミニーさんが90年代半ばに東京でブランドを立ち上げました。ザ・ボディショップで働いていて、元々ロンドンの方なので、東京とロンドンの2拠点で世界中自ら回って途上国の人達に手を差し伸べて、このブランドを稼働されているんですね。彼女の一番素晴らしい功績は、トップデザイナーをどんどん投入していること。地味でかっこ悪くて着たくないフェアトレードからガラっと変わって、ツモリチサトの可愛いワンピースとか沢山出てきているんですよ。彼女はエマ・ワトソンも引き込みました。宣伝は打たずに、生産者に素早く利益を還元することを第一に考えているため、経済構造上もぎりぎりの形で運営しているので、マーケットの中に見合う値段にするためには、ほんとに厳しい状況だと想像しています。だから、カタログも、サフィアさん自身が撮影しています。ネパールに行ったときには、段々畑の中にモデルが立たせ、私も手伝ってスタイリストになって、段々畑に服置いて、「生駒さん、次どれがいい?」とかいって、彼女が自ら写真を撮るんです。とても熱心でチャーミングな方。ほんとに、フェアトレードのイメージ、存在を進化させた方だと思います。
大阪発のフェアトレードブランド、セレクトショップの「Love&Sense」。高津玉枝さんという女性なんですけどね。缶のプルタブを使った有名なプルタブバックで話題になりました。バッグの制作はブラジルの職人さん達に依頼していて、ヨーロッパのデザイナーが気に入って発注したので、それまで仕事が無かった職人さんたちがものすごく仕事が増えてきているんです。Love&Senseということで、途上国の人達に、そこの土地の素材でデザインは都会から指示してあげておしゃれなものを作るというのが始まっています。
プルタブバッグ(Love&Senseホームページより)
エシカルジュエリー、HASUNA。代表の白木さんは、もはやブランドのことをエシカルとは言っていないんですけど、途上国支援、それからいち早く紛争鉱物、紛争のある地域の鉱物は使わない。今ジュエリーの世界では当たり前になりつつあります。そういう怪しい素材は使わないっていうことを彼女はいち早く謳って、アジアや途上国をサポートしながらパーツを作ってもらって、最終的に日本で製造して仕上げます。やり方は二つあるんですね、途上国ですべて作るケースと、途上国で途中まで作り、最終仕上げは先進国でやる。途上国で全てつくってしまうと壊れやすかったりする場合が多いんです。だから最近の傾向は、パーツや装飾の部分、布とかを途上国で作っていただいて、製造は先進国でやって仕上げる、そういう形も増えています。
三宅一生さんの「132 5.」、色んなパターンを紹介していきますが、これは畳むとまっ平らになるんですね。アルゴリズムと再生ポリエステルと、あと非常に軽くて洗濯もネットに入れて洗うと5分で乾くような非常に機能的で、造形的にも面白いもの、これ今非常に注目をされています。こちらが和紙風の風合いがあるペットボトルの再生素材を使って、これも数々のデザインの賞を取られてます。
アニエス・ベーさんもチャリティー活動熱心でね、エイズ撲滅から紛争地域の支援まで。どこかで紛争があるとテレビでみると、その場でブローチを作って翌日から店頭に並べて難民キャンプにお金を送るんですよ。彼女は筋金入りです。私一度対談したことあるんですけど、私がファッションやる理由は誰かを助けるためよ、と、エマ・ワトソンもそうなんですけど、「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者に伴う義務)」っていう考え方は今も根強くあって、クリエイションと社会貢献が完全に一体化している。海の探査船を購入して、地球の海を調査し、事あるごとにそれを報告して、徹底的に環境問題に取り組んでいます。
あとセレブが愛するCHAN LUU、ベトナム出身の方です。ロス在住で、ビーズを何重にもぐるぐる巻くブレスレットなんですけど、彼女にもインタビューしたときには、ビーズを編むのは誰でもできる作業だから、途上国の仕事をしたいと思っている女性たちも特別な技術が無くても取り組めるだろうということで、いろいろな途上国の女性に頼んで作ってもらっています。そのビーズのブレスレットを彼女がハリウッドのセレブたちに紹介したら、これが受けた。セレブたちがこぞって巻いたことで世界中でブレイクして、バーニーズで取り扱ったり、東京の骨董通りにお店が出来てますね。
ヴィヴィアン・ウエストウッドもアフリカ支援活動をしています。アフリカの女性たちとものつくりが組めるのは幸せよ、とかつてのパンクの女王は彼女自らアフリカに行き、ヴィヴィアンのマークの刺繍なども頼んで、バッグを作っています。彼女のような人が、エシカルなアクションをとると非常に影響力があります。
(Vivienne westood ホームページより引用 )
グジュアリーブランドもクラフツマンシップに注力しはじめています。エルメス家の第6世代として生まれたパスカル・ミュサールが、世に出なかった素材や製品に、新たな命を吹き込む革新的プロジェクトとしてはじめたのが「プティ・アッシュ(petit h)」。エルメス中のごみを持ってこさせて、職人とアーティストに、このゴミで世界一素晴らしいものを作りなさいって指示を出したそうです。エルメスのブランドロゴは大文字ですが、プティ・アッシュは、新しいエルメスのコンセプトなので、小文字のhという意味のブランド名なんです。パリではお店にもなっています。
彼女にも、3.11の後、このコレクションが初めて日本に来たときに会って話をしました。このブランドどうして作ったの?って。すると彼女は「私たち傲慢だったわ。永遠に新しくて素敵なものが作れると思ってたでしょ、違うのよ、3.11の映像みたでしょ、ショックだった。地球はこのままいくはずがない、だから私たちもっと謙虚に、質素にものと暮らしていかなきゃいけないって思ったの」と、天下のエルメス一族直系の彼女がそう言っているんです。
ヨーロッパではフェンディもクラフツマンシップにすごく光を当てて、私も実は金沢の職人さんとフェンディをつなげて、催しも5年前させていただいたんですけど、伝統工芸とファッションをつなぐ私のプロジェクトは、そんな事から始まっているんです。
これは高級リサイクルバックブランドのCARMINA CAMPUS(カルミナ・カンプス)といいます。フェンディ家の三女です。彼女も2000年までフェンディの靴とバッグをデザインしてたんです。でも突然、このままいくわけないって。みんなアンテナ持ってる方はその頃感じていたんでしょう、皆さんも同じだと思います、このままどんどんものを産み出してどうなるんだろうって。彼女はデザイナーを辞めてオーガニック農場にこもって5年間農業やってたんです。でもやっぱりバッグと靴を作っていたから何か作りたくなるんですね。そして目をつけたのは、隣の家の納屋に置かれていた残布。そこからものづくりが始まって、素材は全部リユースものを使うブランドを立ち上げたのです。アフリカの女性にも素材を作ってもらって、バッグを作る。デザインは、とてもお洒落です。そういう意味でエコとファッション性が両立しているブランドですね。彼女の場合はそういう素材を全部フェンディの工場で作るので、つくりは非常にラグジュアリーです。
あと「買わないで」って広告をパタゴニアが出しました。パタゴニアはCSRのお手本のような企業です。このジャケット買わないでくださいって、DON’T BUY THIS JACKETって、ちょっと考えられないですよね。でもこれをよーく読んでいくと、僕たちは正しいジャケットを作っているから買ってね、っていうことなんですけど(笑)、あなたのワードローブもういっぱいでしょ、買わなくていいのよって。広告界では、こういう事も起こってます。必要のないものは買うなってメッセージ、新しいですね。
(Patagonia ホームページより引用)
ファストファッションの是非とか言われていることはあるんですが、H&Mは北欧のブランドでものすごくエシカルに熱心な企業で、エシカルの専門家からの問いただしはよくあるんですよ。チャリティーは売名行為だとか、っていう人がいるんですけど、でも私の見解からすると、もしも売名行為であったとしてもやらないよりはいいんじゃないかって。これは「コンシャスコレクション」というラインを出して、2020年までに全ての商品にオーガニックコットンを使う。なかなか大きい企業になると宣言するのが難しいじゃないですか。言ったはいいけどやれるかな、みたいな。でもH&Mは、リサイクルもとても熱心に取り組んでいます。
エシカルラグジュアリーブランドMAIYET(マイエット)が3年くらい前に生まれました。これはちょっと面白いですよ、「世界中の職人」と仕事をするんです。アフリカやタイには、ビーズをちくちく手縫いする刺繍がありますよね、そういう職人がいなくなるんじゃないかという危機感から、世界中の職人に発注して、その素材を最後ニューヨークに集めて、縫製を仕上げるんです、テーラリングの長けた人達で。だから価格はそれなりにラグジュアリー。彼女は、このブランドをエシカルとは呼ばずに、新しいラグジュアリー・ブランドと言い切っています。このブランドも、ハリウッドセレブが注目して、着ています。
From India With Love from MAIYET on Vimeo.
ブラジル発のエシカルブランドはOSKLEN(オスクレン)、ブラジルを代表するデザインブランドです。OSKLENは遊び心があるんですね。デザイナーのオスカル・メツァヴァトは元々アウトドアの人なんです。そこから端を発してセレブ向けのファッション、リゾートファッションまで行きついて、熱心に本格的にブラジルで環境保護活動をされてます。e-fabricsでは全て環境に負荷をかけないファブリックということで活動してます、とてもおしゃれで人気のあるブランドです。
3Dプリンターのクチュールドレス。3Dプリンターも実はエシカルの一端です。なぜなら無駄が出ないから。大量生産とは一線を画しています。必要な分だけ作れるという意味で、3Dプリンターやレーザーカッターもエシカルの傘に入っています。これはイリス・ヴァン・ヘルぺン(Iris Van Herpen)というオランダ出身のデザイナーが作ったオートクチュールのドレスです。ストラタシス社という3Dプリンターの最大手がサポートして、パーツをつくる、それを組み合わせてドレスにする。そういうクリエイションが今始まってます。
(http://www.irisvanherpen.com/couture)
高級注文服であるオートクチュールは、いったん2005年に死滅しかけたんです。元々150ブランド程あったのが5ブランドくらいになって、もう終わるかと思われたときに、敷居を下げて、いまでは若いクリエイターの実験場になっているんです。今年の7月のパリ・オートクチュール・コレクションには、日本から森英恵さん以来12年ぶりにユイマナカザト(YUIMA NAKAZATO、というデザイナーがデビューします。彼はEXILEの衣装も全てデザインしているすごい才能の持ち主で、今後も是非注目してください。
エシカルにはいろいろな入り口があって、セールの時期を守るのもひとつの取り組みと考えています。日本はセール大国で、海外から来たブランドの経営者は不思議がっています。日本は年中セール、どうなってるのって、セールの時期もどんどん前倒しになってる。これじゃあ上代が割れてしまう、あり得ないと疑問視する声も多いんですけど、その中でルミネと伊勢丹がセールの時期を後ろに倒したんですね。これものすごい勇気がいる事だったんです。2年前からかな、でも上手くいっているんです、売り上げは落ちていないと聞いています。お客さんも理解してくれるし、それで今もなお彼らはセールの時期を守ってるので、こういうやり方もマーケットを正常に保つ意味で、エシカルと言えるのではないかと思います。
また「rooms(ルームス)」という日本最大のファッションの展示会では、エシカルコーナーを3、4シーズン前から作って、ものすごく成長しています。参加ブランドも増えていますし、取引も増えています。ルームスのようなファッションのメッカのようなところにエシカルというコーナーが出来たのも象徴的かなと思います。
私も伝統工芸とファッションをつないで、日本発のラグジュアリーブランドを作り始めています。伝統工芸もその意味では非常にエシカルだと感じているんですが、素材が自然由来で丁寧な手作業ということ、ナチュラルでオーガニックでクラフツマンシップ、これは時代のキーワードですね。ただ今までは、デザインがとても古かった。そこを変えられないかなと思って、2011年から自分のWAOというプロジェクトをやっています。
イメージカラーには、ショッキングピンクと黒を使ったんです。赤と黒じゃ、いかにも昔からある日本のイメージなので、イヴサンローランカラーでもありスキャパレリカラーでもある、ショッキングピンク×黒は、モード的にコアな配色なのでこれでやってみようかなと。キーワードは「フューチャー・トラディション」、未来に伝統になるもの。これは和紙作家の堀木エリ子さんから学んだんですけど、「今壊さないと未来の伝統はないのよ、今伝統をただ守っているだけだと、未来にはもう終わってしまうから。今起こす革新が、未来に伝統になるのよ」と言われて、フューチャー・トラディションというテーマを思いつきました。ファッション感度の高い伝統工芸品がもっともっと出てきてほしい。伊勢丹ではポップアップショップを開催した際に、安倍昭恵さんも来てくださって、「私も日本のものづくりを応援したいわ」と言ってくださいました。
私たちは日本に生まれて、日本人のアイデンティティー探しが、いまとても大きなテーマだと思うんです。ファッションに限って言うと、着物の文化から洋服の文化につながっていないんですよ、実は。70年前の第二次世界大戦、終戦のときに分断されたままバラバラにきちゃったんですね。伝統工芸も全く隅に追いやられて、生活が全部モダンになって、着物と伝統工芸が取り残された。産業的にも10分の1になってる、どうしようもないです。ただ私は5年前に金沢の伝統工芸を見て衝撃を受けて、こんな美しいものならば、欧米のラグジュアリーブランドに負けないぞ、というそんな美しさ。ただ発信が無い、ブランディングが無いという事で、自分のプロジェクトを考え始めました。
これはフェンディのバックですが、金沢の着物にする刺繍、加賀縫いの刺繍を付けています。
そして、バカラの茶器です。春海藤次郎という100年前の大阪の茶人がバカラを輸入してたんですけど、お茶室で使う茶器を注文して、「晴海好み」というシリーズになりました。今でもバカラで売られているんです。
ルイ・ヴィトンと輪島塗の重箱もご紹介します。これはルイ・ヴィトンが能登半島の震災のときに、輪島塗の職人さん支援のプロジェクトで作ったもので、限定で今売ってないんですけど素敵なものです。
こういうふうに欧米のラグジュアリーブランドこそが、日本の伝統工芸の価値を理解しています。それをきっかけに私も色々探し始めて、ピンクの南部鉄器とか、こんなカラフルなマカロンみたいな漆の小箱が会津にあったり、これは有田焼、金色のグラフィックが施されていたり、藍染だったり、可愛いものいっぱいあるじゃない、みたいな形でフューチャー・トラディションを探してきました。
あとキティちゃんの漆のブローチとかね、色々可愛いものも沢山見つかりました。このような商品を集めてご紹介して、一方でエターナル・ビューティーにも光を当てる。たとえば、輪島塗の赤木明登さん、彼は漆界のスターですよ。シンプルでミニマルで、たとえば台湾で発表すると、すぐに売れると聞いています。茶箱作るとすぐ売れちゃうんですね。ドイツでもスイスでも発表している、こういう新しいヒーローも沢山います。こういう人達にもっと光を当てられたらいいかなと思っています。
ぬりもの 赤木明登 ホームページより引用
今後お洋服を買われる時にはタグをチェックしていただいて、どこで作られているのかを見ていただきたいです。私はよく店員さんに聞きます。そしたらちょっとタジタジになって、「ウ、ウクライナです」と話されたりする。それでも現実をわかっているだけ良いなと思います。ファッションも食と同じで、トレーサビリティを気にとめていただいて、価格に対しても敏感になっていただいて、ファッションが、どこから、どんな形で生まれているのか想像力を働かせて、消費のチャンネルの中に加えていただければな、と思います。ありがとうございました。
<考察>
時代の流れに最も敏感に反応し、新たな流れを最も早く創りだすのがファッションだとすると、そのファッションが「エシカル」という方向を指し示しているという事実は、現代社会にとって非常に象徴的なことだ。人間の身体を内側からつくる「食」の分野でも安心や安全、トレーサビリティや持続可能性が重要になってきているのと同じように、人間の身体の表面を包み、私たちの外面をつくる「衣」の分野でもいま同じことが起こっている。
ファッションを通して私たちが消費者として一番実践しやすい行動は、まず食と同じように「何を買うか」ということ、購買行動によって社会を動かすこと。そしてさらに、ファッションを身に纏うことで「自分が何を選んだか」ということを他者に伝えることができる。
服を着ることで、ただ流行にうまく乗っていること、「私はオシャレです」という見た目のセンスだけをアピールするだけではなく、そのファッションがどのような思想やストーリーの結果生まれたかを理解し、自分の生き方や社会への態度を表明すること。これからのファッションのセンスは、生き方のセンスを表現するツールになる。