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2016年7月末~10月末、東京駅から丸の内側に伸びる地下通路・行幸通りにて、世界初のデジタル地球儀「触れる地球」のプロデューサーであり、当財団の評議員でもある竹村真一氏のチームが企画する「丸の内・触れる地球ミュージアム」が開催された。「触れる地球」を5台設置した体験ミュージアム、そして全長220m にもおよぶ通路空間に「海・森・生物多様性」、「防災・減災・レジリエンス」、「未来技術」等をテーマにした演出がなされ、子ども向けから大人向けまで様々なイベントが開催された。
Next Wisdom Foundationは、8月末から毎週水曜、全9回にわたってソーシャルデザイン・ワークショップ「未開の未来」を共催。竹村氏が多彩なゲストとともに、想像力の飛距離を思い切り伸ばして未来を語り合うトークセッションだ。
第一回のゲストはジャーナリストの堀潤氏。VR(バーチャルリアリティ)、ドローン、雨水利用の最先端、等々、最先端の技術が切り開く未来の希望について縦横に語り合う刺激的な時間となった。
【ゲスト】
堀潤氏(ジャーナリスト・キャスター)
1977年生まれ。元NHKアナウンサー、2001年NHK入局。「ニュースウォッチ9」リポーター、「Bizスポ」キャスター。2012年米国ロサンゼルスのUCLAで客員研究員、日米の原発メルトダウン事故を追ったドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作。2013年、NHKを退局しNPO法人「8bitNews」代表に。現在、TOKYO MX「モーニングCROSS」キャスター、J-WAVE「JAM THE WORLD」ナビゲーター、毎日新聞、ananなどで多数連載中
竹村:みなさんこんばんは。「未開の未来」の記念すべき第1回にようこそ。本日は私が尊敬するジャーナリスト、堀潤さんをお招きしました。ご登壇いただく前に、ここにある「触れる地球」について簡単に説明させてください。
これは21世紀のためのインタラクティブな地球儀です。温暖化による気温や降水量の変動、大気汚染物質の移動、過去の台風や津波の発生状況など過去のデータをシミュレーションできるほか、世界中のライブ画像を映し出せますし、船舶や航空機の運行状況といった人間の活動もほぼリアルタイムで確認することができます。
以前は青かった地球が温度上昇でだんだん赤くなり、上昇が激しいところでは黄色や白にまで白熱する、そんな地球温暖化の推移も見ることができます。
地球温暖化の原因物質といわれるCO2の増加は、20世紀型の大量消費文明の産物です。そして温暖化は、すでに我々の暮らしに大きく影響しています。
たとえばシリアの内戦とISの台頭と気候変動の関係。
赤道付近は温かくて局地は寒いという温度差により上空で偏西風ジェット気流が発生しますが、温暖化が進み温度差が小さくなって熱交換の勢いが減ると、このジェット気流が停滞して、さらにゴムがゆっくり大きくたわむように蛇行が大きくなります。
これまでは、ある地域で熱波や干ばつなどの異常気象があっても、ジェット気流に吹き流されて数週間で気象が推移していたのに、一箇所で停滞するようになってしまったんです。
これにより、2010年、ロシアは大変な熱波干ばつに見舞われ、穀倉地帯で大きく小麦の収量が減ってしまいました。その結果、中東諸国に小麦の輸出ができなくなって食糧不足や水危機が激しくなり、大きな政変を招きました。みなさんご存知の「アラブの春」です。
また、2006年以降シリアでも干ばつが続き、それが2010年頃に激化して内戦につながりました。
CO2は、都市部だけでなく、アフリカやブラジルの熱帯林からも大量に排出されています。原因は森林火災。特にここ数十年、肉食の増加という、都市に集中した食糧需要を満たすために過剰な牧場開発が加速しているからです。
人口増加は大きな課題です。20世紀初頭の世界人口は16億人。現在は今73、4億。1年8000万人、毎日22万人増えています。
特に1980年代から現在までグローバル貿易額が約1.5倍に拡大しているので、港湾地帯に人口が集中しています。日本も、洪水時に河川の水位より低くなる場所に人口の半分、社会資産の75%が集中しています。
つまり日本も世界も、海面上昇や洪水などに対して脆弱な場所に多くの人口を抱えているわけです。
また、単に人口が増えるだけではなく、高齢化も急速に進んでいます。
日本では3人に1人が高齢者という予測が現実のものとなりつつありますが、韓国やシンガポールでも同様の傾向で推移しています。
特に中国は70年代初頭から一人っ子政策を推進していましたし、人口が日本の10倍ですから、大変なインパクトが予想されるのです。
「触れる地球」では、温暖化が進んだ状態とは別のシミュレーションもできます。もし2015年のパリ協定の目標が実現されたら、という未来の地球の姿です。温暖化の進行がストップして、温度上昇がほとんど見られません。あくまでシミュレーションですからその通りにいくかどうかわかりませんが、私たちにはこんな風に未来を変えられる可能性もある、ということを可視化できるわけです。
今日から全9回にわたって開催する「未開の未来」では、「いかに大量消費を前提とした20世紀型文明を脱衣するか」をテーマに、その叡智を持った方々と語り合っていきます。
まず第1回目は、堀さんと、20世紀文明への問題意識を踏まえつつ、未来に向かう話をしていきたいと思います。
わくわくする未来につながる革命は、もう始まっている
堀: この地球儀、とてもすばらしいですね。メディアを発信する僕らの役割とは、普段は見えないけれども確実に存在しているものを可視化して、みなさんの日々の生活に生かしてもらうことだと思うんです。この地球儀も、普通であれば見えない時間の変化を、目で見て、触ることができるようにしている。そこに大きな可能性を感じました。
竹村: 私がこの地球儀を発想したのは、ボルネオの奥地での体験がきっかけです。電気も水道もないけれど、週に一回は発動機を動かしてみんなで白黒テレビを見る、そんな環境です。そこで僕は彼らと一緒に、ワールドカップでのマラドーナの5人抜きを目撃したんです。子供達がマラドーナの名を連呼して夢中でテレビを見ていることに驚きました。文明からいちばん遠いこんな奥地ですらこうなんだから、地球上の何億、何十億という人が同じようにあのシーンに震えたんだろうと思い、「地球共感圏」が実現しつつあると直感したんです。その新しい未来を開くための僕なりのソリューションがこの「触れる地球」。堀さんがやってらっしゃる8bitNewsも根底は同じではないかと感じます。
堀: いまご紹介いただいたので少し説明させていただきますと、僕が代表として運営しているNPOが提供している8bitNewsというニュースサイトでは、ニュースの発信者は僕だけじゃなくみなさんです。
今まではマスメディアが取材したものを映像化、記事化して、それを視聴者や読者のみなさんに発信する、いわば一方通行が当たり前でした。しかしながら今や誰もが高機能なスマートフォンを持っていて、だれもが発信者になれる時代です。僕はそこにすごく可能性を感じたんです。
マスメディアから発信されるニュースは売れ筋のものに限られてしまいますが、本当は世界は多様性に富んでいて、しかも小さなストーリーや変化が世界中で起きている。それが発信されないのは非常にもったいないと思ったんですね。そこで、みなさんとフラットな関係でそうした情報発信をしていくことを目的に立ち上げたのが8bitNewsなんです。
先日、台風が東北から北海道に大変な被害をもたらしました。特に岩手県の岩泉という町がほぼ冠水して孤立して、電気、ガス、水道、電話が通じない状態なんです。その情報を伝えなくてはと思ったものの、自衛隊も入れないので、僕らメディアは現場に行けません。ではどうしたか。現場にいるみなさん方にお願いして、LINEやメールで現場の写真や動画をどんどん送ってもらったんです。「この情報の発信が必要と思っている方は僕に連絡をください」「あとひとふんばりして力を貸していただければ、全国の人が支援のために動き始めてくれますから」と伝えたら、被災して大変な状況でも「私ができることがあるならやりたい」と言ってくださる人がいるんです。熊本地震でもそういうことをやってきました。
一人一人がメディア発信者になれる今、マスメディアのあり方が大きく変わろうとしていると感じます。活版印刷が発明されて以来の変化じゃないでしょうか。
竹村: 本当に革命だと思います。地球の裏側の災害なんて、今までは他人事だった。だけどそれを自分の出来事として感じられるような距離感も生まれていくのかもしれない。
堀: 大事な観点ですよね。僕は一昨年、アメリカのスリーマイル島で1979年に起こった原発事故の現場を取材しました。そのとき、現場をずっとウォッチしている市民グループの人たちに話を聞いたとき、最初に謝られたんです。「僕らが1979年のあの事故の知見をもっと多く発信できていたら、日本での事故は軽減できたかもしれないし、その後の対応も変わったかもしれない」と。今と比べ物にならないほど手段が限られていた当時、彼らの発信には大変な苦労があったと思うんですよ。今はデジタルの信号で瞬時に世界がつながる時代ですから、このテクノロジーを最大限に活用すれば、僕らが危機に直面した経験は、明日の誰かの危機を救うかもしれない。これからのニュースメディアには、そういう価値が求められるんじゃないかなあ。
竹村: 5年前の東日本大震災で東北にある一つの工場が大きな影響を受けたために、トヨタがアメリカ、中国、インドで半年間自動車が作れなくなっただけじゃなく、世界中の自動車メーカーも影響を受けました。つまり僕らは地球的に一連托生になっているんですね。
人類が「ガリバー化した自分」に気付き始めた
堀: 先生の話を聞きながら、皆さんにこんな感覚を持ってもらえたらと思いました。
僕らは自分の手で火を起こしているだろうか? って。
僕ら生身の人間が等身大でできることって、実は1000年前と同じような火起こしくらいではないでしょうか。でもいつの間にか、一人一人の能力以上の「火」を作れるようになり、なんでも手に入るし知ることができるし、高速で遠くまで行けるようになった。生産者から消費者になってしまったんです。僕らが生産者の感覚を取り戻すことが、ひょっとしたら地球規模にものを見るという感覚につながってくるのかもしれません。
竹村: 今おっしゃった状態を、僕は「ガリバー化した人類」と表現しています。20世紀初頭に16億しかいなかった人間が75億になった、それだけでも人類は地球上で大きな存在になったわけですが、それだけじゃない。100年ほど前、身近な移動手段は2頭立ての馬車でしたが、小さくても200馬力ある自動車の普及によって、人ひとりが扱える力がいきなり100倍になりました。人口も5倍になり、寿命も1.5倍に伸びた。地球での人類の存在はガリバーのように巨大化したのに、それに気づいてないんです。大型犬がいつまでも子犬のつもりでご主人に飛びかかって、ご主人に怪我をさせちゃうのに似ています。
たとえば自動車って大量のエネルギーを消費しますが、エンジンで燃焼しているエネルギーの9割は、排熱されたりタイヤの摩擦で失われたりして、ヒートアイランドの原因のひとつとなっています。残りの1割は走るために使っているけれど、そのほとんどは重い車体を運ぶために使われている。簡単に言うと、タンカー100隻で石油を運んでも、99隻分は東京を温めるために使っている。無駄の多い文明なんです。
逆に言うと、99隻分の伸び代があるということです。ガリバー化した人類がようやく自分の大きさを認識して、新しい未来が始まろうとしているのが今なんです。
堀: ドローンって、総理大臣官邸に落ちたとか、犯罪に使われるんじゃないかとか、監視体制強化されるのでは、等々、どちらかというとネガティブに取り上げられがちですが、実は自然保護に役立つと言われています。たとえばアマゾンは、経済発展のために輸送用道路が必要でも、むやみに森を切り開いてはいけないというのはよくわかると思うんです。それが今、軽トラ並みの輸送能力を持つドローンの開発が進んでいて、つまり森を飛び越えられるので、わざわざ道路を作る必要がなくなるんです。
さらにインドネシアなど小さい島々で構成されている地域がさらに経済発展をするために、化石燃料を燃やしてタンカーを走らせたり、大規模な空港や橋を建設する必要があるのかというと、そうじゃない。ドローンが島と島を結んで輸送できればいいんです。
竹村: ドローンによって輸送費も輸送エネルギーも相当低減されます。店へのアクセス手段がなく買い物難民と言われていた人たちにとっても役立つでしょうし、人がいろんな場所に分散して住める可能性も出てきます。
僕らはいろんな技術を駆使して、ようやく地球の体温と体調の変化を感じられるようになってきた。堀さんも地球を動き回って、今地球でなにが起きているかを取材し、発信していらっしゃる、グローバルセンサーの一部です。でもお一人の力は限られているから、新しい技術や8bitNewsという場を通していろんな人が当事者になる新しい形を実現しています。
そんな動きを見ていると、宇宙大のスケールで鳥瞰図と虫瞰図が成立しつつある感じがするんです。
堀: そうですね。この「触れる地球」、いいですね。話題に合わせてすぐデータがビジュアライズできる。このデータも、これまでのさまざまな自然現象や人間の活動の蓄積ですよね。それを刻み込んできたから、私たちはその資産をこんな形で共有することができるんですね。
竹村: 人類が5万年ほど前に生み出した言語というものは、人の経験が自分の経験になるというすごい飛び道具だと思うんです。爺さんの代にすごい津波が来たらしい、そういうときは丘に登った方がいいらしいとか、人の経験資源を自分のデータベースにしていける。それが文字になり、さらにグーテンベルグの活版印刷で量産できるようになった。今度は様々なメディアで映像や音声から衛星データまでシェアできる。我々は地球大の脳の脳細胞みたいな形で繋がっている、そんな表現が大げさではない時代にきたなと思います。
一人一人が経験を伝えていくことで、どこかで誰かが救われる
堀: 今日は取材先で撮影した写真を持ってきました。熊本市のある農家さんの家屋です。100年以上農業を営んでいらっしゃるお家で、非常に立派な日本家屋でしたが、先の地震で全壊してしまいました。
熊本の家屋って、台風の風雨から家を守るために屋根瓦が非常に重たいんです。地震の揺れにはそれが仇となり、多くの古い建物が倒壊しました。この家も今は取り壊されて更地になっていますが、その前に僕が撮影した写真です。
東区7 #theta360 - Spherical Image - RICOH THETA
360度カメラってご存知ですか。リコーが開発したもので、周辺360度の写真と動画が撮れるんです。天井も足元も全部写ります。平面のスクリーンで見ているのでこういう見た目ですけど、最近普及しつつあるVRの機器でも投影できまして、ヘッドマウントディスプレイを着けると、実際に見上げると天井が、左右を向くと壁が見られる。
なぜこんなことをするかというと、みなさんにお伝えしたいという一方で、このご家族に記録を残して差し上げたいと思ったからです。今360度のデータをきちんと残せば、何十年後かに、子供に地震があったこと、親世代が苦労したことを伝え、代々一家が住んできた家を見せてあげることができます。つまり、未来の誰かに今を伝えることができるんですね。なので、被災地のみなさんからリクエストがあれば、撮影したデータを差し上げています。
一人一人が発信したり、ほうっておいたら流れていってしまう今を刻みつけることは、とても大きな資産を繋ぐことになるんです。技術はこれからどんどん発達して、そうしたことがもっと容易になると思います。
竹村: 今までは口頭の言い伝えや古文書という形で残っていたものが、自分があたかもその場所にいたかのような映像で残せる。しかもこれをGPS位置情報と紐づければ、この辺りを何十年後に通りがかった人が、何十年前にこういうことがあったということをスマートフォンで確認することができるようになる。僕はそれをどこでも博物館、ユビキタスミュージアムなんて言っています。
この会場の周辺は、400年前まで海で、徳川家康が埋め立てて丸の内を作った、そんな土地です。だから30年後、50年後にまた海に戻るかもしれませんが、そうなってもへっちゃらな東京をつくることが僕は東京オリンピック後のミッションだと思っています。
たとえばオランダは国土の7割が海抜の低いところですから、最近はマンションも浮体式です。洪水や海面上昇が起こっても浮いちゃえばいいという発想です。
堀: 都市のあり方ごと変える!
竹村: そうです。そういうことを東京はなんでやらないの?とちゃんと言っていく場が「未開の未来」なんです。
堀: わくわくしますね。
竹村: まさに生産者になる。人任せで誰かが決めたことに従うだけじゃなく、自分で考え行動する。そうすれば、おのずといろんな発想が出てくると思います。
堀: そうですね。僕が目指しているのも、まさに一人一人が当事者になることなんです。
さっき言ったように既存のメディアによる発信は一方的で、受け手の声がなかなか届かず、不信感が増幅されてしまった。でも今は誰もが発信者になれる。その発信によって支援物資が届いたとか、世の中が動いてくれたとか、そういう成功体験が積み重なって当事者性を持った発信者が増えていけば、社会は前進するんじゃないか、そんな風に思っています。
竹村: 原発事故を体験して得た最大の教訓は、「遠くからエネルギーや食料、水を運ばなければならない社会構造である限り、絶対的な安全はありえない」ということ。しかも、少子化が進み経済も停滞する中で、果たして高度成長期のような巨大インフラを使って遠くからエネルギーを運んでくる、そんな無駄ができるでしょうか。
東京の水道水の需要は年間約20億トン。一方、東京に降る雨は25億トンあります。つまり降水量のほうが多いので、そのうち4分の1でも5分の1でも使えれば、水道への依存度が下がるわけです。
雨水利用のトップランナーはご存知ですか。スカイツリーです。墨田区のあの一帯は海抜0m地帯で洪水が起こりやすいので、区内のすべての大きなビルは巨大な雨水タンクを備えています。コンクリートで固められた都市では、かつては土に全部染み込んでいた水が表面を流れて下水に集まり、それが溢れて都市型洪水が起こりやすい。でもすべての建物が少しずつ水を集めて下水に流れ込む量を減らせば、洪水は相当軽減できる。墨田区は20年前からそういうことに取り組んでいて、その集大成が2600tもの巨大な雨水タンクを持つスカイツリーです。自分たちでなんとかしようと、彼らは「生産者」になったんですね。
東京全体やアジアの都市も墨田区と同様に生産者になれば、巨大な水道インフラがなくても衛生的な環境や最低限の水を確保できるなど、やれることはあると思うんです。
堀: 今がんばれば、きっと次の世代や、どこかの国の誰かが助かる。僕らの一つ一つのアクションにかかっている。この地球儀はそう考えるきっかけになりそうです。
竹村: 地球儀と同時に、この地球儀があるこういう空間にいろんな人が集まってこういう話をして、未来に向けてボールを投げ続けていきたい。堀さんのメディアとも協業していけたらと思います。
堀: ぜひぜひ。
竹村: ここでご質問ご意見を募りたいと思います。どなたかいかがですか。
——「触れる地球」で過去の様子を見ることができましたが、未来の地球も見られるんでしょうか。最近日本だけでなくイタリアやミャンマーでも大きな地震が相次ぎましたが、そういったものを事前に予測することは可能なんでしょうか。
竹村: 先ほどお話しした、地球温暖化が進行したシミュレーションと、パリ合意を実現して温度上昇が抑えられた状態のシミュレーション、あれは、僕らの行動によってこんなに未来が変わるということを示したものです。ほかにも台風の進路予測も示すことができます。
地震の正確な予測はなかなか難しくても、過去の歴史を見れば、日本列島が繰り返してきたパターンがある程度わかります。
今ちょうど大河ドラマでやっている慶長の頃は、実は熊本地震など災害が連鎖しました。貞観の頃にも、東北の津波や富士山の噴火が立て続けに起こったんです。
これまで人間は、災害が起こってから逃げることしかできませんでしたが、大災害がある程度予測できれば、予防減災もできるようになるでしょう。
堀: 今回の熊本地震では陸側で液状化が発生しました。海側じゃないのは意外かもしれませんが、改めて地質学者のみなさんが調査すると、かつて川だったとか、地下水脈が浅いところを通っているとか、いろいろな事実がわかってきました。実は資料も残っていたんですが、それが現代に引き継がれていなかったばかりにそんな土地が宅地になり、液状化が起こってしまった。データが共有されて誰でも利用できるようになり、自分たちの未来を選択していくことが容易になれば、いろいろな負担の軽減につながると改めて感じています。
竹村: さっきもお話しした「どこでも博物館」により、この場所が10年前、100年前、1000年前はどうだったか、すぐブラウジングできるようになる。そういう意味で、地球全体が生きた経験資源の博物館になる、経験資源のデータベースになる、これはむちゃくちゃエキサイティングな時代じゃないですか。
堀: わくわくします。
竹村: 技術自体はなんでもいいんです。それをなにに使うか、どんな社会を作るか。……こんな感じであと1時間ぐらいやりたい(笑)。ほかにご質問いかがですか。
——360度の視界が映し出されていますが、これで宇宙の映像を見ることもできるようになるのでしょうか。
堀: すでにVRのプラネタリウムがありますね。今は、味とか触感とか、人間の五感をダイレクトに刺激するような試みがどんどん始まっています。僕のNHKの同期も、触感のある映像を研究しています。ホログラムはもう当たり前で、触って柔らかいとか、動物に触れたらビリっと跳ね返ってくるとか、そういうもの。VRの技術は今後もっともっと進化するでしょうね。
竹村: 技術のお話をされたので、宇宙という観点でお話ししましょう。生命がいるかもしれない星って結構たくさん発見されていますが、宇宙探査が進めば進むほど、地球のように豊かな生命システムを持ち、安定した気候という好条件下で進化の実験をしている星なんてなかなかないということがわかってきました。水があっても相当な偶然が重ならないと、生命進化がここまで進むことはまずない。地球は宇宙の宝で、僕らは宇宙全体に対して責任を持っているんです。
人類が宇宙に出て行くとしたら、地球が汚れたから脱出とかそんなつまらない理由じゃなくて、地球をしっかり保全しながら未来に繋げ、同時に地球生命のOSをほかの星にも種まきしていくためであってほしい。地球がはぐくんだ生命のOS、あるいは生命のインテリジェンスを広げていくということが、多分21世紀の人類の大きな仕事になるんじゃないかと思うんです。
こんな未来について、今回も含め全9回に渡ってお話ししていきます。
堀: 面白そうですねえ。
竹村: 堀さんもお時間のゆるす限りぜひ元気のでるお話をしにきてください。
堀: ありがとうございました。みなさんもお疲れ様でした。