「科学の本質というのは、未知の既知化ー知らないことを解明していく・既知にしていくことだと誤解されますが、実は既知の未知化です。知れば知るほど未知が増えていく。ソクラテスじゃないけれど、我々が本当に何を知らないのかという、知らない領域がより解像度を増して広がっていく、創造的に、クリエイティブに。そういう過程を、今の地球環境の爆発が教えてくれている感じがします」
「言ってみれば、1年で大きくなるゴールデンレトリバーみたいに、人類というのは急に大きくなりすぎた。大きくなったレトリバーは、自分が大きくなったことが分からずにご主人に子犬のつもりで甘えて抱きついてご主人に怪我させてしまう。人類と地球の関係にはそんなところがあって、何百年前・何千年前・何万年前の教養は今に生きることがたくさんありますが、同時に、これだけ変化が激しくなっていて我々自身も変わってしまっていることもきちんと踏まえたうえで、地球と人間の関係や人間のあり方などをリデザインしていかなければいけないと考えています」
Q:マクロの視点・ミクロの視点を行き来する、一つの事柄を横から見る・縦から見るというような視点を移動させるコツ、また、文脈を繋げて一つのストーリーを作っていく能力・思考回路を持つコツを教えてください。
「コツやノウハウはないですが、少なくとも自分に正直にあるということではないでしょうか。例えば、触れる地球儀(SPHERE)で見ると地球の空気の層は0.5ミリぐらいです。ISS(国際宇宙ステーション)や地球観測衛星は2〜3センチ上ぐらいです。なぜそんなふうに言えるかというと、私自身が、例えば500キロ上空とか、月は38万キロ離れていると言われてもピンとこないんです。そんなに理系に頭が働かないので、自分が実感できるものを作るしかないんです。自分が納得できる・腑に落ちる形にしないといけない。”とりあえず38万キロだ”と暗記しても血肉にはならないですよね。
なにかの知識を知識として得て分かったつもりになるんじゃなくて、自分が納得できるまで、分かるまで自分なりに再編集していくというか、そのために必要なことに労を厭わないことが大切なのではないでしょうか。
もう一つは、僕は新しいことを学ぼうとするときに1・2冊の本を読んでも分からないんです。だけど、同じテーマについて5冊10冊と読んでるうちに分かってくる。つまり、著者によって同じことを扱うのでもコンテクストが違います。その違うコンテクストをクロスリファーしていくことによって、像が立体化していくんです。立体像を作るときに、こっちから撮ったりあっちから撮ったりと、四方から撮ったものを編集しますね。それと同じです。コンテクストをたくさん自分なりに複合させていくことで、やっと自分なりの3D映像が、新しい知識とかテーマについて生まれていくということです。それなりに時間はかかると思いますが、そんなことに時間をケチってもしょうがないですよね」
どんぐりが木から落ちて動物たちが食べる、食べられず残ったどんぐりからは芽が出て新しい木に成長する。そして、お腹を満たした動物は頭数を増やす。頭数が一定以上増えるとどんぐりが食べ尽くされてしまい、新しい芽吹きがなくなる。どんぐりが減り、動物たちがお腹を空かせた結果、頭数が減る。頭数が減ると、食べられないで残るどんぐりから芽吹く。
自然の循環の繰り返しで植物と動物の暮らしが成り立つ。さて、人間はどうだろうか? パンデミックは自然の循環なのだろうか?
また、戦争はそんな自然の循環ではないはずだ。
この本は子ども向けの絵本ではあるが、自然の営みについて大人にも考えるきっかけを与えてくれる。SDGsという言葉が巷に溢れる中、本来の意味を問いかけてくれているようにも思う。
『どんぐりかいぎ』(文:こうやすすむ、絵:片山健・福音館書店)
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=633