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2016年7月末~10月末、東京駅から丸の内側に伸びる地下通路・行幸通りにて、世界初のデジタル地球儀「触れる地球」のプロデューサーであり、当財団の評議員でもある竹村真一氏のチームが企画する「丸の内・触れる地球ミュージアム」が開催された。「触れる地球」を5台設置した体験ミュージアム、そして全長220m にもおよぶ通路空間に「海・森・生物多様性」、「防災・減災・レジリエンス」、「未来技術」等をテーマにした演出がなされ、子ども向けから大人向けまで様々なイベントが開催された。
Next Wisdom Foundationは、8月末から毎週水曜、全9回にわたってソーシャルデザイン・ワークショップ「未開の未来」を共催。竹村氏が多彩なゲストとともに、想像力の飛距離を思い切り伸ばして未来を語り合うトークセッションだ。
第2回のゲストは、株式会社本田技術研究所の岩田和之氏と、アマネク・テレマティクスデザインの今井武氏。車はこれから、環境問題やエネルギー問題を解決し、自然災害による被害から人を救う「生命維持装置」に進化するのではないか、そんな希望に満ちた未来が語られた。
【ゲスト】
岩田和之氏(株式会社本田技術研究所四輪R&Dセンター 執行役員 ARD担当)
1986年明治大学工学部卒。同年本田技研工業㈱入社後,ライディングシミュレータの研究開発を経て㈱本田技術研究所に異動。初代i-VTECなどのエンジン本体の設計に従事。その後アコードPHEV・Fit EVなどの開発を経て、2012年から超小型EVの開発を陣頭指揮。2013年本田技研工業㈱スマートコミュニティ企画室に異動し,スマートモビリティ/コミュニティ分野の事業化を担当。2016年4月、㈱本田技術研究所に戻り現職。
今井武氏(株式会社アマネク・テレマティクスデザイン 代表取締役社長)
1976年本田技研工業株式会社に入社し、情報・ナビゲーション分野の企画開発に携わる。2002年にはHondaテレマティクス「インターナビ」立ち上げ。2011年 自動車技術会フェローに認定。2012年 役員待遇参事・グローバルテレマティクス部部長に就任。2015年に定年退職。同年、モビリティ向けデジタルラジオ放送局 アマネク・テレマティクスデザイン創業。2016年 7月「Amanekチャンネル」放送グランドオープン。2011年、第61回自動車技術会開発技術賞受賞、東日本大震災による取り組み『通行実績情報マップ』でグッドデザイン賞 大賞を受賞。2015年3月「第6回国際自動車通信技術展」で特別功労賞を受賞した。
自動車は、既存の概念を超えて進化している
竹村: みなさんこんばんは。「未開の未来」第2回のテーマは「自動車社会の未来」です。
20世紀初頭にフォードが開発した自動車は、今、概念そのものが大きく転換しつつあり、まったく違うものに進化しようとしています。「自動運転できるようになる」などという車単体の要素技術の進化ではなく、車社会が進化しつつあるのです。そういう流れを、大きなビジョンを持って議論してみようと思います。
このテーマを思いついたのは、今日のゲストであるホンダの岩田さんから自動車の進化についてうかがったときのことです。
ホンダは1970年代から排ガス規制にチャレンジしてきた企業で、今や大気汚染の激しい北京などの外気より、ホンダ車の排ガスのほうがきれいなんだそうです。ということは、その車が走れば走るほど空気がきれいになる。「車が空気清浄機になりつつある」「車はそこまで来ているのか」と感じたんです。
今までは、車は動いてこそ価値があるものでした。ところが今や、EV (Electric Vehicle/電気自動車)やPHV(Plug-in Hybrid Vehicle/プラグインハイブリッド車)が登場し、家に停めておけば充電器として機能するようになり、ある意味、住宅や都市のエネルギー機関としても進化しています。従来の自動車の概念を超えてきているわけですね。
最近は停まっているだけの「空き箱」は減らしたいということで、ライドシェア、カーシェアも進んでいます。
さらに将来的には、車は人の体に融合するサイボーグ的に進化するかもしれません。パラリンピックの装具の進化やパラリンピアンの活躍を見ていると、「ネオ・ヒューマン」の姿ではないかとも思えてきます。
これまでは、単体としての車がどう性能進化していくか、どうかっこよくなっていくかが問われてきましたが、今は車一台一台が社会の赤血球や免疫細胞のようにネットワーク化しつつあり、それにより有機体のような存在となった車社会がどう進化していくかという次元になっています。
このようなテーマについて、最前線にいるお二人から意見を聞きながら、ビジョンとして深めていきたいと思います。
自動車は「動く発電機/蓄電池」になる
岩田: みなさんこんばんは。本田技術研究所の岩田と申します。
私からは、次世代の車は停まっているときにどんなことができるようになるか、ご紹介させていただきたいと思います。
地球温暖化をストップするために、CO2、温室効果ガスを削減していかなければいけない。そんな状況下、車は悪者になっています。IEA(国際エネルギー機関)が、2050年までに自動車産業のなりゆきのCO2排出量を現在の3分の1まで下げなさいという指標を出していますが、それは普通のガソリン車では達成困難なものです。そこで燃料電池車や電気自動車などを普及させなければいけない。そんな状況に自動車メーカーは置かれています。
燃料を燃やすとCO2が出ます。それを減らすということは燃費をよくしていくということになりますが、
多くの方がご存知と思いますが、電気自動車のCO2排出量はゼロと思われていますが、厳密には、走行中に排出しないということ。でも地球単位で考えてCO2削減を目的にするのであれば、発電方法まで考えなければいけません。つまり化石燃料を燃やして作った電気で走ったら、CO2排出量ゼロとは言えないのです。
ガソリンだと燃料を採掘・輸送・精製する過程でCO2が出ます。これをWell to Tank(井戸からタンクまで)と呼びます。対してTank to Wheelが車のタンクからタイヤまで、つまりその車が走るときの燃費のこと。このトータルがWell to Wheel です。このWell to WheelでCO2排出をゼロにしなければいけないのです。
ゼロエミッションビークルと言われている電気自動車の排出量は、Well to Wheelでミニマムですがゼロじゃない。しかも原発が止まり、火力発電が主になっていますから、Well to Wheelで考えるとCO2発生量はガソリンハイブリッド車とほぼ同じくらいです。
ですから、アップストリーム側も再生可能エネルギーにすることが不可欠なんです。
3.11後も地震は頻発し、水害などもたくさん起きています。震度7の首都直下型地震が30年以内に起こる確率も70%以上と言われています。そんな中、「国土強靭化」「レジリエンス」などと言われるようになり、国は、例えば1000年に一度の大津波に備えた堤防ではなく、平時に活用して有事にも利用できるものを求めています。
ひとつのアイデアが次世代自動車、燃料電池車や電気自動車の新しい使い方です。停車中ガソリン車は何の役にも立たないんですが、燃料電池車や電気自動車であれば、排気ガスが一切出ない発電機や蓄電池として機能し、停電時に家に電気を供給することができます。車を移動させれば、インバーターを介して避難所などにも電気を供給できるんです。
これらをエネルギーのV2Xと言います。VはVehicleで、Xは home(家)、 road(往路)、grid(送電網)等々。車は動く電池、発電機になっていくということですね。
現在、次世代自動車を普及させることで、国全体としてこのようにレジリエンス性能を高めていこうという動きがあります。
他社さんと異なるホンダの特徴は、車以外にオートバイを作っていたり、高齢化社会に向けたロボティクスのような技術もやっているところにあります。それとあまり知られてないんですが、Well to WheelでCO2排出量を下げるため、エネルギー作りからやっているんです。
たとえば太陽電池や天然ガスを使った内燃機関コジェネレーションシステム。お湯と電気をいっぺんに作るので非常に効率的です。
それと水素エネルギー。当然、水素を作るときにCO2を大量に出したらWell to WheelでCO2ゼロになりません。ですからホンダは、再生可能エネルギーを使った電気で水素をつくる、いわば地産地消に取り組んでいます。
昨年、トヨタさんがMIRAIという燃料電池車を発売しました。ホンダも今年3月にクラリティという新型車を発売しました。
クラリティがMIRAIと大きくに違うのは、車でいうエンジンにあたるFCスタック(※)を小型化し、ボンネットの中に収めたことで、一般的なセダンと同じパッケージを実現したことにあります。FCスタックを床下に配置したMIRAIは4人乗りですが、クラリティは5人乗れるようになっています。
(※)FCスタック=水素と空気中の酸素の反応により電気を起こす発電システム
ここからが今日の主題です。
水素は自然界に存在しないので作らなきゃいけない。ですからホンダは、パッケージ型の、コンビニに置けるくらいの小さな水素ステーションを作り、水素社会の拡大に貢献したいと考えています。
これもあまり知られていませんが、ホンダは、燃料電池車や電気自動車につなぐインバーター「パワーエクスポーター」も量産しています。これにより、車が発電または蓄電した電気を家庭の電気機器などにも使うことができるようになるんです。
地震などによる停電時は、人工透析や酸素吸入器が不可欠な人たちにとって死活問題です。ホンダでは鳥取大学医学部付属病院と連携して、避難所で使用が想定される医療機器がこの電力供給システムで問題なく動かせることを確認しています。燃料電池車や電気自動車は、有事にもこのような形で役立つんです。
ちなみに、燃料電池車や電気自動車による電力供給では、ガソリンエンジン発電機につきものの騒音や排気ガスが出ません。ですから有事以外、たとえば野外イベントなどにも親和性が高いんですよ。
このように次世代の車は、単に「走る」「人を運ぶ」だけでなく、停まっているときに今までなかった価値を生み出せます。CO2を下げるだけではないんです。
以上となります。短い時間でしたがありがとうございました。
竹村: 今聞いていただいたとおり、従来の車という概念を超えているとともに、自動車メーカーも従来の枠組みを超えて、総合的に都市を新しい形でデザインしていく、そんな活動をされています。
では次に、車が都市の感覚神経系になっていく、そんな画期的な取り組みを始めた今井さんにお話をうかがいたいと思います。
渋滞を防ぎ、自然災害に負けないための情報伝達システム
今井: みなさんこんばんは。
私は、ホンダでは情報ナビゲーション分野を担当していました。去年2月に定年退職して新しい会社を立ち上げました。モビリティ(自動車)向けのデジタルラジオ放送局「アマネク・テレマティクスデザイン」です。
※テレマティクス:自動車などの移動体と通信システムを組み合わせ、リアルタイムに情報サービスを提供すること
ホンダ時代に研究していたのは「インターナビ」です。カーナビと情報通信を融合させ、ホンダに設けた情報センターを介してさまざまな情報をタイムリーにカーナビに配信するというもので、これによってさまざまな社会課題を解決することをめざしました。
その一つが渋滞の解消です。情報センターにリアルタイムでプローブデータ(車の走行軌跡のデータ)をアップロードして独自の交通情報システムを作り、渋滞を避けた最適な道路のデータをインターナビ会員同士で共有し、最適なルートを検索して誘導する、というサービスを提供してきました。
もう一つが自然災害対策。大雪やホワイトアウト、地震といった気象データのカーナビ配信も行いました。
3.11の震災のとき、私たちもなにかしなければと、さきほどお話ししたプローブデータを徹夜作業でオープンにしました。災害時、どこの道が通れるか、どうやって被災地に入れるか、あるいは脱出できるかなど、道路の情報は極めて重要です。自衛隊や消防団の方々に使っていただくため、オープンにしたんです。
これは被災後の支援という形でしたが、その後、交通工学の大家でいらっしゃる東北大学の桑原先生(※)に協力を仰ぎ、被災しないためにどうしたらいいかという研究にも手弁当で取り組みました。
(※)東北大学情報科学研究科の桑原雅夫教授
ここに示したのは、3.11の地震前後の石巻市の走行データです。見ていただくとわかるように、大渋滞が発生したところを津波が襲ってしまったんです。もしドライバーたちが、津波が来ることをリアルタイムで把握できれば、あんなに被害は出なかったと思っています。
その思いから立ち上げたのが、車向けのデジタルラジオ放送局「アマネクチャンネル」なんです。
震災のとき、「インターナビ」はサーバーからカーナビに大津波警報を配信したんですが、後から調べると、被災地にいた人は誰もこの情報を見ていませんでした。
なぜかというと、通信網が全部やられていたからです。先日の熊本地震でも、通信網がダウンして一部地域で通信ができないという状況になってしまいました。
そういうときに強いのは、通信より放送です。
特に、デジタル放送なら、通信と同じフォーマットのファイルをそのまま放送波に乗せて配信できます。これを使えば災害時でもさまざまな情報を車に配信でき、被災を未然に防ぐことができるのではないか。その私の思いに賛同した14社に出資していただいて、「アマネク」がスタートしました。
まだあまり知られていないと思うんですが、i-dioという新しいメディアが誕生しています。放送を土管として、そこに通信と同じフォーマットのファイルを流すことができるという、世界で最も優れたデジタルラジオのプロトコルです。
3月1日からプレ放送を開始していて、7月15日からはアマネクのチャンネルもスタートしています。ここでめざすのは、7500万台の車の安全安心、快適なドライブです。
アマネクはスタジオを設けており、車が走行するのに必要なデータと位置情報をくっつけて放送ができる仕組みを持っています。たとえば走行中、音楽を聴きながら地図のアップデートができるとか、クーポンなど、今いるエリア特定の情報も取得できます。
アラートという観点では、15分先の未来の情報を伝えています。今は晴れているけれど、15分走行した先では時間雨量50mmの激しい雨がきますよ、などと予測して配信する機能です。
このようにアマネクは、高音質の音楽や楽しい番組を放送しつつ、タイムリーにデータを配信するサービスです。スマホのアプリがありますので、ぜひ「アマネク」で検索してダウンロードして使っていただければと思います。
ありがとうございました。
水素エネルギーが自動車のあり方と社会を変える
竹村: みなさんどうですか、自動車会社の発表らしくなかったと思いませんか(笑)。
今までは自動車社会が人間のスペースを奪ってきたという声もあるかもしれませんが、人間のあり方へのリスペクトがあるビジョン、情熱が感じられました。
特に激甚災害が立て続く今、車は、特殊な状況下だけでなく日常的に住まう場所として、あるいはエネルギー機関として、人と人とがつながりあう情報ネットワークとして、命の安全保障装置としても期待されます。そんな車の進化、あるいは車社会の進化について、お二方から一言お願いします。
岩田: 災害が多い日本で車になにができるんだろうと考えたとき、いろんな実験を通じてわかってきたのが、本当に車や電気が必要とされるのは災害が起きてすぐなんです。
3.11の震災では、ガソリンの供給が止まってしまった影響が大きかった。最初の3日は電気もガソリンもどうにもならなかったんです。
そんな中、先ほど今井からの話にもあったように道路情報が提供できたことは、ガソリンに限らず物資の運搬にものすごく役に立ったということです。
エネルギーの供給については、コミュニティにひとつホンダが開発した水素ステーションがあり、太陽電池が無傷で水さえあれば、電力系統や道路が寸断されても水素を作り続けることができます。
その水素を燃料電池車に貯めて避難所に行けば、車はエネルギーのキャリアになれる。CO2フリーの地産地消エネルギーを提供できるんです。
さらにそこに電気自動車があれば、燃料電池車を母艦として、電気自動車に充電して地域のコミュニティの足として使う、そうやって命を繋いでいくことができるようになると思うんです。
竹村: 雨水でもいいんですか。
岩田: 基本的にはフィルターにかければまず大丈夫。日本は水だけはありますので、地域地域に適したアプローチがあると考えています。
病院なんかは非常用にディーゼル発電機を準備していますが、これも燃料供給が止まると使えません。その代わり、水素ステーションを備え、水と太陽電池があれば水素製造ができるわけです。
竹村: 車は、私たちがこれからデザインする文明や都市の中で、命の安全を保障する細胞として多面的で不可欠な役割を果たす。そのビジョンを実現するには、日本は実験場としておもしろい条件を備えていると思うんですが。
岩田: 水素に関しては、CO2削減だけではなくエネルギー問題の側面もあります。原油を輸入に頼っている日本で水素を作れるようになれば、エネルギーの安全保障上もありがたい話なんです。ですから国はものすごく積極的です。
車が健康管理し、気分に合った音楽を提供する未来
竹村: 世界で10億台あるといわれる自動車すべてに重要な情報が届き、しかもその10億台の情報がシェアされていくと、今とは全く違う世界ができるように思います。
今井: ホンダを退職する前の最後の開発が、通信、携帯電話がダウンしたときに放送波で情報を送るというものでした。車同士がWi-Fiダイレクトで繋がって、車が受けた情報を隣の車やすれ違う車に伝播するという技術の開発をやっていたんです。今はそれが実証実験の段階に入っています。
竹村: 基地局を経由しなくても車同士がデータを交換できるということですね。面白いですね。
今後は自動運転によってドライバーを前提としない車社会が出てきますよね。それぞれのご専門と絡めながら、将来像についてお話いただけますか。
岩田: 個人で所有するより、公共交通機関的な意味合いが非常に強くなるでしょうね。コミュニティ単位で車をシェアすることになるかもしれません。
電気自動車の場合、充電にはある程度時間がかかりますし、その間は必ず停車することになります。ですがバッテリーを着脱式にしたり、充電時間そのものを短くすることで、車の稼働率を高めることはできるようになると思います。
いずれにしろ自動運転は、自動車メーカーの歴史始まって以来のドラスティックな変化をもたらずでしょう。
また、一朝一夕には行きませんが、自動運転が主流になりドライバーが運転から解放されたとき、車の中でどういうサービスを提供していくかが我々の生き残る道なのかなとも考えています。
竹村: 運転に集中しなきゃいけない今までの車とは全く違う機能を有する可能性も出てくるかもしれないですね。
岩田: 大概の人は、スマホをいじるか仕事をしちゃうんじゃないかと思うんですが、車を運転する楽しさは捨てたくないという思いは大切にしたいです。一方で、車に乗る楽しさという定義そのものが変わっていく可能性もあります。
竹村: スマホはどこでもいじれるが、車は現実世界を実際に移動してものごとを経験できる。そこに期待したい思いもあります。
今井: 昔は恋人とどこかに行くときなど常に車中心で考えていて、目的地やシーンにあわせて車内ではこういう音楽を流そうとテープを編集したりしていました。
これをもう一回、アマネクのデジタル放送局を使ってやれないかと思っています。この場所にいったらこういう曲をかけようとか、こんな天気だったらこれがいいとか。もう一度、車に乗る体験を素敵なものにできる番組を作ろうというプロジェクトを進めて、改めて車の楽しさを伝えていけたらと思っています。
竹村: 室内にいるのと違って、自分が動き、風景が変わり、天候も変わっていく。その状況に合わせた音楽シーン、サウンドスケープを設計できるようになると、車が地球と対話していくようなメディアになっていくのかもしれません。車が特別な地球経験、世界経験の媒体になっていくような、そんな可能性を期待したいところです。
人の体の一部して、人とともに進化していく車の可能性はどうでしょう。
岩田: 自動運転になるとドライバーの監視機能が要求されます。たとえばハンドルを握れば体温を測定できるとか、カメラで脈拍がわかるとか、車に乗ることでドライバーの健康状態を監視できるシステムを、たとえば今井がやっているような通信とリンクすることで、病院にいち早く異常を伝えるとか、そういうこともできるようになるかもしれません。先生がおっしゃるように、車が社会あるいはドライバーのセンサーになっていく可能性は十分あるだろうと考えています。
今井: ラジオは、リスナーとの距離が近いメディアだと思います。それを生かしながら、いかにドライバーに寄り添えるか。健康状態を監視するだけでなく、気分を察知してその状態にふさわしい音楽を流すなど、そんなこともめざしたいと思います。
いずれにしても、人が素敵に過ごせて、豊かになるものを作り上げたいと考えています。
竹村: そうですよね。それが究極だと思います。
10年ほど前は脱・車社会と盛んに言われていました。若い人は車に乗らなくなったとか、環境を考えれば車は減らしたほうがいい、など。
その一方で、日本だけでなく世界的に高齢化が進み、移動の補助手段を必要とする人口が増えています。
さまざまなハンディや障害を持つ人が地球人口のマジョリティになっていくということは、多様な補助手段を用意しないと、クオリティオブライフは保てない。その上で、サステナビリティや人間の命の安全保障も担保する必要があります。
そういうとき、お二方が取り組んでいるような、人間を中心においた次世代ビークルの開発が、今までとはまったく違う人間中心の車社会のあり方を開いてくれるように思います。
最後にお二方から未来に向けてコメントをお願いします。
岩田: ホンダの創始者である本田宗一郎さんの言葉で一番好きなのは、「研究所というのは商品を創るところじゃなく人を研究するところだ」というものです。
これが基本だと思います。燃料電池でもEVでもガソリン車でも、人を幸せにするための手段なんですよね。これがホンダという会社の存在意義だと考えていますし、人を幸せにしていく新技術や新しい価値を世界に先んじて開発していきたいと考えています。期待に応えられるようにがんばりますので、これからもよろしくお願いいたします。
今井: 岩田が締めてくれましたが(笑)、改めて。技術は人のため、技術は手段ですね。やっぱり人が中心だと思います。その上で面白い車、かっこいい車を作り続けてもらいたいし、僕もそれを支えるビジネスに取り組みたいと思いました。
竹村: 今日いただいたキーワードやテーマを、来週以降も展開したいと思います。ありがとうございました。