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経済の語源は「経世済民:世を経(おさ)め民を済(すく)う」から来ている。ただし、その意味は単にお金の話ではなく、政治学・政策学・社会学など広い意味を持っていたという。さて、現在。民を済うなんて上から目線なことは言っていられない。
歴史的にも、夜の経済はまさに官ではなく民によって作られ、時に権力に抗いながら行われた民衆の自発的な宗教活動や文化活動が、結果的に経済活動と結びつくことで市場が形成され、夜の経済は発達してきたとも言われている。
そして現在、人々の経済活動は9時~17時では終わらない、むしろアフターファイブからが本番なのではないか。飽和状態にある昼間の経済から、市場の拡大余地がある夜の経済が欧州を中心に注目されはじめ、アムステルダムでは「ナイトメイヤー」と呼ばれる夜の市長も誕生している。
今回のイベントでは、そのような「夜の経済」に光をあてることで、これからの叡智を掘り起こす。さあ踊りながら真面目な話をしてみよう。
<ゲスト>
梅澤高明氏(A.T.カーニー 日本法人会長)
齋藤 貴弘氏(ニューポート法律事務所 第二東京弁護士会所属 弁護士)
<モデレーター>
小西利行(POOL INC.CEO/NEXT WISDOM FOUNDATION 理事)
小西:風営法が改正されましたが、それによって日本の夜に何が起っているのかということ。そして、これからの日本の夜、世界の夜を作っていく上での示唆とかアイディアとかを教えていただきたい、と思っています。
まず僕が素人的に聞きたいのは、今の日本で「この街が好きだ」「この街の夜はいいよ」という街はどこでしょう、ということです。
齋藤:本当は「秘密」って言いたいところなんですけどね(笑)。追々話していきますが、わりと隠れ家的なところです。
小西:梅澤さんはどうですか?
梅澤:今は正直言って、あまり無いんですよね。僕は美味しいご飯が好きだから、よく外に食べに行くんですけど、その後に行くお店が無い。「すごく行きたい」と思うお店が正直あんまり無いですね。
小西:最近無い、ということですか? 昔はあったけど。
梅澤:若い頃は、一の橋や六本木に行きつけのクラブなんかもありましたしね。「あなたが老けただけじゃないの」って言われるかもしれないけど、そうは思わないことにしています(笑)。自分が行きたい場所を作ることも含めて、街をもっとおもしろくして行こう、と思うようにしています。
小西:始まる前に齋藤さんとも少し話したんですけど、どうしても夜の話をすると過去の話になってしまう、と。「昔はよかったね」って。梅澤さんはどう感じていますか?
梅澤:僕も同感です。僕が好きだったクラブは、一の橋のエンドマックス。あと、芝浦GOLDもおもしろかった。昔はこういう感じにおもしろい店の名前を次々並べることができたけど、今は思いつくところが無いですね。まあ、ライブを見に行ったりはしますけどね。
齋藤:僕は今40歳なので、梅澤さんより少し下の世代になります。僕らの世代だと、YELLOW とか西麻布のあたりにおもしろいクラブがあったんですけど、無くなったところも多いですね。今でもがんばって続けてるところはありますけど、やっぱり減りましたよね。
小西:減っていった原因というのは、今回改正されますけど、風営法の影響があるんでしょうか。
齋藤:思いっきりあると思いますね。風営法の改正前は、基本的に夜12時以降、お酒の提供にDJ(、ダンス、ライブ、エンターテイメントが加わるお店は法的にグレーでした。つまり、夜12時以降のナイトエンターテイメントっていうのは適法にできなかったわけです。
昔、おおらかだった時代はそんな中でもやってきていたんですけどね。警察の摘発が強まったり、コンプライアンス遵守が厳しく言われるようになったりして、クラブを続けることのリスクが大きくなってきた。それで、みんなだんだんモチベーションも下がり、撤退するところが増えていきました。
梅澤:結局、当時はグレーゾーンというか、ほぼブラックに近い営業なわけですよね。そうすると普通の会社は入れない。それで、玉石混淆のまま、どっちかっていうと石の方が多いんですけど、なんとなくぬるく守られてたっていうことでしょうね。
小西:齋藤さんにお聞きしたいのですが、風営法はいったい何を守ろうとしていたんでしょうか。法律である以上は、何かの権利や利益を守ってくれていたんだと思うんですけど。
齋藤:風営法は、ダンスを風俗営業として規制していたんです。夜12時以降ダンスをさせる営業、クラブ営業もそれに該当するんですけど、これらはすべて違法とされていました。その他、パチンコだとかキャバクラだとか、ああいうところは全部規制対象になっています。要は善良な風紀っていうんですかね、性的な風紀、それを守ろうという法律ですね。
梅澤:「公序良俗」ってやつです。言葉は知ってるけど、意味はちょっと分からない(笑)
小西:公序良俗を守ろうとした風営法も、もう時代的に古くなっていた。お二人の活動も含めてさまざまな人たちが動いて、少し前に改正されました。これは僕らにとってすごく朗報だったんですけど、実際にどういう活動をされて、どんなことが起って改正に至ったんでしょうか。
齋藤:実際はいろんな話があるんですけど、かいつまんでお話しします。
4年くらい前に警察の摘発が強まって、一つのエリアが壊滅するくらいのクラブの摘発がありました。特に大阪、京都、それから福岡もそうですかね。それに反対する声が全国からあがりました。坂本龍一さんとか文化人もそうですね。そういう人たちが立ち上がって署名運動を行いました。それで、15万筆くらい署名が集まって、ダンス議連という国会議員のもとに届けられました。
一方、経済と関係するところでは、ちょうど安倍政権の成長戦略でGDPを600兆円増やす、というのが打ち出されました。テクノロジーで新しい産業を作るというもの、地域的な意味で新しい市場エリアを拡大していくというもの、あとはグローバル戦略とかですね。いろいろな種類の成長戦略を積み上げないと600兆円いかないわけですね。
その中で時間市場の拡大というのが出てきました。つまり、夜の時間帯が十分活用されていないんじゃないか、そこをもっと活用して経済を活性化しましょう、ということです。規制改革会議の一つのトピックに、時間市場をもっと盛り上げましょう、というのがあがって、その障壁となる風営法を改正しようというところに至ったわけです。
梅澤:ここまでに4年かかりました。その間、ずっと齋藤さんは尽力されていたわけですよ。
小西:本当に頭が下がります。風営法が変わったことで、これから日本の夜はどうなっていくのか、何が変わっていくのか、ということが気になっています。インバウンドも含めた観光だったり、ファッションとか音楽業界、さまざまな分野がどんどん変わっていくと思うんですが。
梅澤:ひと言でいうと、朝まで多様な業態のお店が多彩なコンテンツを提供できるようになります。もちろん、繁華街を中心に、という場所の制約はあるんだけどね。
クラブが朝まで営業できるのも大きな意味があるけど、それだけじゃなく、食事とパフォーマンスを組み合わせて提供するお店だったり、それを船の上でやるとかね。いろんなことが朝までの時間帯でできるようになる。それぞれの企業が工夫次第で無限大に可能性が広がります。
小西:逆に言うと、今までそういうことができなかったんですよね。僕たち一般の人からすると、確かに「夜楽しいなあ」っていう感覚があまり無いんですよね。だけど、これから楽しいものがどんどん生まれてくると思っていいんでしょうか。
梅澤:そうですね。僕はしばらくアメリカに住んでいて、その頃は日本には出張で来てホテルに泊っていたんです。それで、夜1時くらいに外に出てタバコを吸っていると、外国人のカップルが寄ってきて、「ねえ、これから踊りに行きたいんだけど、どこ行ったらいいの?」って聞いてくるんです。コンシェルジュに聞いたら「無い」って言われた、と。
うーん、まあ無くはないんだけど、コンシェルジュ的には教えてあげられないんだよね、合法的じゃないから。「分かった、僕が合法じゃないとこ教えてあげるよ」って言って(笑)。それで、「今から外国人二人を送り込んでいいですか?」ってクラブに電話したら、すごくあやしまれた。そんな昔のことじゃないですよ。ついこの間のことです。
小西:文化都市としては、すごく不思議な感じがしますね。
齋藤:今までのクラブは、基本的に夜12時以降の営業が法的にグレーだったので、アングラな存在で、そこに参入できるプレイヤーが限られていたっていうのは大きいと思うんですよね。
本当にクラブが好きで、ときに法的なリスクを負うこともいとわない、そういう濃い人たちが夜の文化を作り上げてきた。そこが、日本のすごく独特なところなんだろうと思うんです。今までは大きな資本が入らなかった。だから、濃いものはあるんだけど大きな産業とか経済に発展するには至らなかった。あるいは市民権を得られなかった。それこそ観光で来た外国人がどうやってアクセスしていいか分からなかった。
今後は適法に営業できるので、大きな資本が入るようになる。それによって、今まで濃い人たちが地道に作り上げてきたいろんなコンテンツが花開いてくれればいいなあ、と思っています。
それはクラブに限ったことではなく、ライブハウスやショーだとかいろんなエンターテイメントがあって、そこに今までとは異なるプレイヤーが入ることによって、さらに多様なコンテンツが出てくるのではないかと思います。
小西:お話を聞いていると、夜の可能性が大きくなることの期待感はみなさんに伝わっていると思うのですが、市場規模でいうとどれくらいのインパクトがあるのでしょうか。
梅澤:いくつか参考になる数字を申し上げます。
ロンドンの市場をちょっと調べたんですが、約2600億円だそうです。ナイトクラブだけで、です。それから、インバウンドで外国人旅行者が2000万人来てますよね。それを2020年には4000万人にしましょう、と言ってがんばっている。この人たちが一人当たり14万円ぐらい日本でお金を使う、という統計があります。
ここに、夜の遊びの品揃えがものすごく増えたら、もっとお金を使ってくれると思うんですよね。今14万なのを15万にできると思いませんか?一人当たり1万円遊んでくれれば、4000万人で4000億ですよ。2万円なら8000億ですよ。それくらいの規模のホワイトスペースがまだあるから、いろんな企業が知恵を使って参入していくと思いますよ。
小西:なるほど。ちなみに、世界的に見るとどの都市が一番先進的なんですか?
齋藤:一番おもしろい文化を発信しているのは、ベルリンだと思いますね。クラブカルチャーという意味では、すごくおもしろいアーティストをいつも輩出していますし。経済規模ってどこからどこまでを切り取るのかによって、数字が変わってしまうわけですよね。クラブの場合、エントランスフィーと中でのドリンク、そこだけで切り取られがちです。
このあいだ、ベルリンの人たちと話をしていたら、「クラブ経済の一番おもしろいところは、その広がりなんだ」って言うんですね。たとえば、クラブに置いてあるDJ機器ですね。世界シェアの9割が日本製ですけど。それから、文化を発信するという意味では、ファッション、アパレルっていうのもクラブ文化とすごく密接ですし。
ベルリンだと、IT関係の人が集まって昼間はビジネスのディスカッションをする。その続きで夜はクラブに行く。そうすると、日帰りじゃなくて宿泊になりますよね。それで、レストランやホテルにもお金が落ちる。シーン・エコノミーって言うんですけどね、そんなふうにクラブカルチャー、クラブシーンの周辺の経済の広がりを強調していました。
小西:夜の経済価値が上がることは、都市の競争力を向上させる力も大きいのでしょうか。
梅澤:大きいと思いますよ。『MONOCLE』という雑誌がありますね。この雑誌で、クオリティ・オブ・ライフ・サーベイという調査をやっています。東京は去年、今年と1位にランキングされています。なんだけど、『MONOCLE』の評価指標は4つあって、そのうちの1つが「クラブが何時まで開いてるか」っていう指標なの。
小西:ええっ!
梅澤:よく東京が1位になったなあ、と思って詳しく見たら、東京の欄には「朝5時」って書いてあった(笑)。本当はグレーゾーンでやってるのに、知らずに「朝5時まで開いてる」って評価してくれたんですね。リアルな話を聞いたら、ガツーンと落ちると思いますよ。だから、僕黙ってますけど(笑)。
小西:世界的には、「クラブが開いてないなんて、都市としてどうなの?」という感じなんでしょうか。
梅澤:そのとおり。『MONOCLE』だと、昼間の指標としては「空港に国際線のルートがどれくらいあるか」「路線バスの定期券が安いか」という2つがある。あとの2つは「クラブが何時まで開いているか」と「独立系の本屋がどれだけあるか」。『MONOCLE』はカルチャー系の雑誌だから、指標として文化的なところをフィーチャーしているわけだけど、都市の文化度を測る重要な指標としてクラブが取り上げられているわけですよね。
僕の会社A.T.カーニーでも実は「グローバル都市指標」という調査を出していて、それでは残念ながら東京は万年4位なんですね。この調査はわりと固いので夜の指標値は無いんです。でも、ちょっとカルチャーの方に評価軸が振れると『MONOCLE』みたいな指標になってくる。それくらいクラブって重要なんですよ。
小西:世界のルールはクラブシーンで回っていて、日本の夜はそこに遅れていた。
齋藤:遅れてたんだけど、世界的に評価されてるクラブはいくつかあるんです。最初に言うのをはばかった隠れ家的なクラブでは、お忍びで訪れた世界的な著名人に会ったこともあります。
スピークイージーといって、アメリカの禁酒法時代には床屋だとか薬屋だとかを隠れ蓑にして酒場を営業していたんですね。酒場だと分からないように酒場をやっていた。昔のお酒のビンが薬っぽいのはその名残りらしいですけど。まあ、それのクラブ版ですね。
見た目は普通の日本家屋です。入っていって奥の扉を開けると、中がクラブになっている。ものすごく有名な人もいれば、地元の若い人もいる。とにかく、いろんな人がいる。そういう濃いところがありますね。
札幌に住んでたときは、プレシャスホールっていうところに行っていました。これも世界的に伝説になってるクラブです。クラブの創始者のひとりにデビッド・マンキューソという人がいるんですけども、その人のために最強の音響設備を使っています。東京をすっとばしてわざわざ札幌まで遊びに来る人がいる、というクラブです。それがあるからわざわざ来るっていうことは、もはや街のブランディングになっていますよね。
梅澤:昼の文化と夜の文化は明らかに違うし、同じ夜でも早い時間と深夜とではまた違うじゃないですか。夜中になればなるほどニッチなものがたくさん出てくるし、実験もできるし、見る側もそういうものを求める気分になる。それらの多くはロングテールなんだけど、やっぱり夜中ってすごくディープなものが出てきやすいですよね。
今までの東京はそれをやる場所があまりにも少なかった。東京というか日本全体少なかったんだけど。これから深夜の時間帯がオープンになると、そういう場所もどんどん増えます。「コンテンツ持ってる人集まれ」っていう箱がどんどん出てくると思いますよ。
小西:そうなってくると、いろんなビジネスのアイディアを持った若い人たちにガンガン参入してきて欲しい。
梅澤:そうですね。さっきファッションって話をしましたけど、ファッション産業って5兆円くらいの産業だから、一個当たると数千億規模になりうるんですよ。だけど、日本って裏原のあと、ちょっと停滞している。
昼間のファッションと夜のファッションは全然違うから、夜のニッチなカルチャーから派生した新しいファッションが出てくる期待は十分あるし、10年後にはそれがメインストリームになってるってことも起こりうる。夜の文化シーンは、そのような意味で他の産業にとっても重要です。
小西:ファッションを例にとって、夜の文化と他の産業との連携のお話をしていただきましたが、今まで夜の時間帯に進出していなかった産業にとって、参入障壁はまだ残っているんでしょうか。それとも、風営法の改正によって、誰でも入っていける時代が来たと考えていいのでしょうか。
齋藤:法律自体が変わって、参入が容易になりましたね。営業許可を取らないといけなかったり、地域的な規制があったりしますけど、それも繁華街であればおおむね大丈夫だと思います。
今までは風俗営業だったんですね。風俗営業ってなるとそれだけで参入障壁が高い。今までは入るのが難しく、入れば風俗営業という枠の中に閉じこめられていた。その枠が外れて、いろんなプレイヤーが入って来やすくなった。ホテルだったり、クラブまではいかない飲食店だったり、カフェやバー、ギャラリーみたいなところだったり、いろんなところでパーティーを開きやすくなってきたと思います。
梅澤:たとえば、ビームスがカフェをやってますよね。あれは、まあ昼間のスタイルを作りに行ってるんだと思うんだけど。そういうファッションの会社が夜中も営業をするということが当然出てくると思うし。
それから、齋藤さんと僕とでサポートしてるフード&エイターテイメント協会というのがあります。やろうとしていることはフード業界とエンターテイメント業界を融合して新しい業態を作り出す、ということ。この二つの業界を組み合わせれば、パフォーマンスレストランのいろんなパターンとして、たとえばパフォーマンスカフェのようなお店ができますよね。
齋藤:ホテルでも飲食店でも箱を持ってます、飲食を提供してます、そこにプラスアルファでエンターテイメントが加わると付加価値になる。ロケーションを持ってる飲食業界とコンテンツを持ってるエンタメ業界、この二つが一緒に何かやるってことが今まであんまり無かったんですよね。
風営法改正がきっかけでしたけど、実は夜だけじゃなくて昼間もそういうニーズがあるんじゃないかという話になったんですね。それで、飲食業界は楠本さん(カフェカンパニー代表取締役社長/NWF代表理事)、エンタメ業界はフェイスの平澤さん(創/フェイス・グループ)と、あと『週刊ホテルレストラン』っていうホテルとレストランの業界紙をやっている太田さん(進/オータパブリケイションズ代表取締役社長)という三者が理事になって、フード&エンターテイメント協会を作りました。
グランドハイアットでもディスコパーティーをやってますけど、そこは僕よりも年上の大人がお洒落して一晩遊ぶっていう感じですね。そこに集まる人というのは、若い頃遊んでたんだけど、仕事だったり子育てだったりが忙しくなって夜の遊びから離れてしまった人。
忙しいのが一段落して時間の余裕はできたんだけど、今度は遊ぶ場所が無い。今さら若い人に混ざってクラブに行くのは抵抗あるけど、グランドハイアットであればお洒落して往年の名曲を踊ったりできるわけですよね。そういう業態もどんどん開拓していけるんじゃないかと思っています。
小西:僕は普段広告をやってるもので思うんですが、企業のブランディングに活用できないですかね。たとえば、パーティーですけど。お茶とかビールとか。自動車は・・・車にお酒はダメだから、あんまりできないかもしれないですけど(笑)。とにかく、他にも日本にはいろんなブランドがあるわけですから。
梅澤:お酒のブランディングで夜の時間を使えないって苦しいですよね。
小西:苦しいですよ。夜できないブランドなんて9時台で終わるわけですから。「いつ飲むの?」「昼間から飲んでます」「逆でしょ!」みたいなことが普通に起こる。でも、これからはいろんなビジネスが参入しやすくなるから、ブランディングにはいいですよ。広告代理店の人いたら言いたいですね。
梅澤:これからは、毎日やってるクラブ以外のところもどんどん開発したい、って本当に思うんですよ。「ユニークベニュー」って言い方しますけど。たとえば、美術館でやるパーティーだとか、お城でやるとか。僕は皇居の中でやりたいな、って思いますけど。そこにしかない普通の箱じゃないところでパーティーをやる、ということですね。
小西:それが今まではできなかったんですもんね。
梅澤:それから、船の上の夜中以降は絶対できなかった。それができるようになる。ちなみに齋藤さん、東京湾の上って全部OKなの?
齋藤:警察と深夜営業できるエリアの交渉をする中で、これからウォーターフロントは絶対遊び場としておもしろくなるので東京湾をエリアに含めて欲しい、ということを言ってたんですね。そうしたら本当に東京湾、海の上全部を営業可能エリアにしてきて。
小西:ええっ!
梅澤:屋形船産業がこれから大きく変わるかもしれない。
小西:ものすごく浮かべちゃえばいいですよね。筏でもなんでも、とりあえず浮かべちゃえ、って。
梅澤:小西さんも一隻買ったらどうですか。
小西:プール付きの屋形船とか作ろうかなあ。うちの会社がPOOLだけに。何の話ですか(笑)
夜の文化って都市でこじんまりと発展してきたと思うんですけど、大資本が参入するとそれが壊れちゃうんじゃないか、と懸念を示す人もいます。ショッピングモールが来ると、地元の商店街が死んじゃう、というのと同じ構造だと思うんですが。それに対するお考えはありますか。
齋藤:僕は逆だと思っています。今まですごく好きな個人がものすごく大きなビジネスリスクを背負ってやっていたんで、そこに大きな資本が入ってくることによって、そういう人たちがちゃんと活躍できる土壌ができるようになってくるのかなあ、と思っています。
クラブってやっぱり独特なので、大きな資本がカラオケボックスみたいなの作っても成功しないと思うんです。コンテンツが絶対的に重要なので。そのコンテンツを作れるのは、クリエイティブなところのこだわりを持ったかなり特殊な人たち。つまり、今まで小さくやってきた人たちのことですね。そういう人たちを抜きにして、お金だけでできる世界ではないし、それをやったら価値が無くなってしまう。
梅澤:ゾーニングは変えた方がいいと思うんですよね。クラブを作っていい場所が今は条例で決まっているんですね。つまり、自治体が決められる。
東京だったら、六本木、渋谷のような分かりやすい繁華街が中心です。そこに大箱を作っていいよ、という話になりました。面積規制も半分に緩和されたんですよね。33平米以上あればよくなった。
だけど、一番おもしろいのは住宅地と繁華街のキワみたいなところにある個人でやってるような小箱なんですよ。そういう店が何千とあるとおもしろいのね。どっちにしろ大資本入って来れない部分なんだけど、もうちょっと中小企業や個人が合法的にできるようになって、小さい箱がたくさんできると一個一個キャラが違うから、その多様性の中から本当に新しい文化というのが生まれてくると思うんですよ。
でも、今のゾーニングだと六本木の街中に作りなさいってなっちゃってるから、地価が高すぎて零細企業には無理なんですよ。
小西:ある意味、中小企業、零細企業みたいな小さな箱でやってる人たちが、クリエイターとかコンテンツメイカーってなって、彼らが大きな資本と繋がることで、大きく広がって行ける。そう考えていいですか。
梅澤:そういう人たちが自分の箱を住宅地のキワに持ってます。毎日そこでやってるんだけど、いいコンテンツ持ってるから、たまに大きな箱に行って客演します。みたいな感じができますよね。そういう生態系を作らなきゃいけないと思います。
小西:時間がもう無いので、最後にひとつだけお聞きします。2020年、その以降もありますが、東京がどんどん世界と繋がっていく時代が始まっていくときに、どんな東京を作っていけばいいのか。または、これだけは言っておきたいってことがありましたら、ひと言ずつお願いします。
齋藤:夜の価値って、昼間の肩書きを取り払って、もう少しダイレクトにフィジカルにコミュニケーションを取れることが大きいのかなあと思うんですね。結構、素になってみんな昼間の堅苦しいやり方とは違うコミュニケーションがとれる。しかも、そこには外国人も含めて多様な人が集まる。そういう場所がもっともっと増えていくことが、これから一層重要になっていくのかなあ、と思うんですけどね。
小西:直に会うってやっぱり夜の効果だと思います。
齋藤:さっき、お忍びで訪れた有名人と会うという話をしましたけど、昼間だと「すみません」みたいな感じになっちゃうと思うんですよ。でも、夜だと全然普通に話せるじゃないですか。僕あんまり英語得意じゃないんですけど、酔っ払うと英語話せるようになるんですよね。酔っぱらいイングリッシュっていう。そういうありえない近さがあるのが夜の効果だと思います。それで、いろんな意見が生まれてきたり、今度一緒に何かやりましょうって、昼間との接続の入り口のひとつにもなる。
小西:昼間との接続。いいですね。
梅澤:東京を世界一のクリエイティブ・シティにしたいですね。僕はクールジャパンって活動ずっとやっていて。齋藤さんも入っていただいて、NEXTOKYO という、東京の将来都市ビジョンを提案する活動もしています。そこでの最重要キーワードが、クリエイティブ・シティなんですね。
日本のクリエイティブの強みって何かというと、むちゃくちゃ質の高いロングテールがあることなんですね。ものすごく品揃えが多い。そして一個一個のクオリティが高い。ファッションでもアニメでも食でも全部そうです。それで、ロングテールって昼間より夜の方がもっとディープに行ってるわけですよ。だから、夜の経済は夜の文化と表裏一体ですごく大事だと思います。
小西:みなさんも聞きたいことがあると思いますので、質問タイムを設けようと思います。いかがですか。
オーディエンス1:まず、新規参入が増えていくことで、お金の出し手が誰になっていくか、というお話をもう少し伺いたいです。それから、ゾーニングのお話ありましたけど、他にボトルネックがあるとしたら何があるのでしょうか?
齋藤:お金の出し手について言うと、今、ディベロッパーが街を作って、道路を作って、箱を作って、箱を作ったけど中で何をしたらいいのか、となってます。だから、ディベロッパー、不動産開発の人がお金を出すということはわりとあるのかなあ、と思います。たとえば、丸の内ハウスとかもカジュアルなクラブみたいなことをやってますけど。
あとは、客層のサンプリングがしやすいってことで企業の協賛を集めやすい。ファッションとかもそうですけど、このDJ、このアーティストにはこのファン層がある、と。たとえば、「20代女性」のようにターゲットを絞ったイベントを作ることができる。だから、スポンサーがいろいろ入って来るのかなあ、というのはあります。
梅澤:箱は新しく作らなくてもいいわけですよ。昼間しか営業していないレストランみたいなところが、二毛作、三毛作の形で深夜営業をする。そういうのが結構大きいと思っています。だからこそ、フード&エンターテインメントになってくるんです。
齋藤:ボトルネックになってくるのは、さっき言った多様な箱をどう作るかという問題ですね。資金力が無いところを含めて、たくさんの箱を作ろうと思うと、やっぱりゾーニングになってくるのかなあと思うんですけど。
梅澤:あとは面積制限ですね。33平米以上って言っちゃうと、本当の小箱はできないですね。
齋藤:営業許可を取らないといけないわけですが、警察的にはハードルを高く設定しておきたいものですよね。ですから、一応法律は変わりましたけど、もう少し規制緩和というか、適正な規制になるように働きかけをしていかないといけないと思っています。
小西:残念ながらお時間が来てしまいました。夜を経済活動の時間と捉えることで、経済だけでなく文化の面でも可能性が広がるんだということをあらためて感じました。今後さらに規制緩和と企業の投資が進めば日本の夜がもっと楽しくなりますね。お二人にもう一度大きな拍手を!(拍手)
<ゲストプロフフィール>
梅澤高明氏(A.T.カーニー 日本法人会長)
東京大学法学部卒、マサチューセッツ工科大学経営学修士。日・米で20年にわたり、戦略・イノベーション・マーケティング・組織関連のコンサルティングを実施。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」コメンテーター。クールジャパン関連委員会の委員を歴任。オリパラ組織委員会「テクノロジー諮問委員会」委員、内閣府「税制調査会」特別委員。「NEXTOKYO Project 」で、東京の将来ビジョン・特区構想を政府・産業界に提言。
齋藤 貴弘氏(ニューポート法律事務所 第二東京弁護士会所属 弁護士)
2006年に弁護士登録の後、勤務弁護士を経て、2013年に独立し、2016年にニューポート法律事務所を開設。各種訴訟から日常的な契約関係、個人トラブルまで幅広い分野の法律業務を取り扱うとともに、近年は、ダンスやナイトエンターテインメントを広範に規制する風営法改正をリードするほか、外国人の就労ビザ規制緩和などにもかかわり、各種規制緩和を含む各種ルールメイキング、さらには規制緩和に伴う新規事業支援にも注力している。
<モデレーター>
小西利行(POOL INC.CEO/NEXT WISDOM FOUNDATION 理事)
コピーライター&クリエイティブ・ディレクター/京都府出身。博報堂を経て2006年POOL Inc.設立。主な仕事に、サントリー「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」、トヨタ「もっとよくしよう」、PlayStation4「できないことができるって最高だ」。また「こくまろカレー」や「伊右衛門」、「マスターズドリーム」、「SUGAO」などのヒット商品を開発。数々の商業施設プロデュースも行い、08年に担当した「イオンレイクタウン」で国際SC協会世界大会「サステナブルデザインアワード」最高賞を受賞。一風堂の店舗&世界戦略、吉野家なども手掛ける。2015年『伝わっているか?』を上梓