ARTICLES
人類や地球的視点から、未来に必要なエネルギーとはどういうものか、それらが文明の発展にどのように関与しこれからも関係してくるのか。実際にいまハワイで進められている再生可能エネルギーの取り組みの事例を三好琢氏から、新しい地球儀「触れる地球」を見ながら自然エネルギーについてNWF評議員の竹村真一氏にお話しいただきました。
ゲスト:竹村真一氏(京都造形芸術大学教授、Earth Literacy Program代表)
東京大学大学院文化人類学博士課程修了。地球時代の新たな「人間学」を提起しつつ、ITを駆使した地球環境問題への独自な取組みを進める。世界初のデジタル地球儀「触れる地球」や「100万人のキャンドルナイト」、「Water」展(07年)などを企画・制作。2014年2月、丸の内に「触れる地球ミュージアム」を開設。環境セミナー「地球大学」も丸の内で主宰。東日本大震災後、政府の「復興構想会議」検討部会専門委員に就任。
わたしたちは500年前の地球儀を見ていた
これは「触れる地球」です、見たことがある人ももしかしたらいらっしゃるかもしれません。私たちが普段使っている地球儀は、実は16世紀の信長の時代のまま変わっていません。それで地理歴史や環境問題を勉強してきたということです。これはどう考えても時代錯誤ではないでしょうか。「21世紀のグローバルな人材育成」などといわれますが、「グローバル」という語源が「グローブ」つまり球なのです。球の中でこうやって地球を見るといろんなことが分かります。
触れる地球:黄色い部分はPM2.5、青い部分は硫黄、緑の部分は窒素酸化物
例えばPM2.5、こうやって偏西風に乗って、中国からたくさん来ているね、と思いがちですが、普段見ている天気予報の画角は日本と中国東部までですから、ついそういう見方をしてしまうのですが、地球目線で見てみるとインドの方からもかなり来ていたり、硫黄(青い部分)、窒素酸化物いわゆる酸性雨(緑)などもロシアや東ヨーロッパからも来ているんです。だから天気予報の狭い画角の中で心配したってしょうがないんです。
この赤い部分は南極上空にあるオゾンホールなのですが、オゾンホールの原因はフロンガスです。北半球の生活から出てきたものが南半球に移動してきたものです。この辺には人が住んでいないから関係ない、と思いきやそうではありません。この辺の南極海というのは世界1番プランクトンが繁殖する場所です。そこに紫外線がどんどん入ってきてしまうと、プランクトンが減り、それを食べる魚も減って、巡り巡って南極はどうなろうと関係ないと思っている北半球の我々が非常に大きな影響を受けることになります。
日本に降る、インド洋の雨
梅雨時の雲の動きを見ると、日本に来る雨は梅雨前線に沿ってインド洋から来ていることがわかります。インド洋で蒸発した水蒸気が、雲の流れがヒマラヤにぶつかって日本に流れてくる。ヒマラヤというのはこの触れる地球のスケールに直すとわずか0.9mmほどです。低い、と思うかもしれませんが、空気の層が約1mmなので、0.9mmというヒマラヤはもうほとんど壁のようなものです。だからこの壁にぶつかって日本に来る。梅雨時に日本で降る雨のほとんどはインド洋から来ているということです。これはイメージではなくて、東大で研究している人がいるのですが、水分子の同位体で水の由来を調べると、本当にインド洋から来ているそうです。だからポジティブな面でもネガティブな面でも地球目線でお話ししなくてはならない。
宇宙から見た、雲のうごき
また、日本の多くの食べ物は世界からやってきます。例えばサーモン、サケ弁当を買ってもサケは大体ノルウェーやチリなど地球の反対側から来ている。焼き鳥も鶏肉は国産だとしても、その飼料はほとんど外国から来ています。醤油ダレの醤油の原料である大豆は90%以上がアメリカ産のようです。僕らは毎日地球を食べて地球を飲んでいるわけです。その私たちが日本とその周辺だけが見える小さな地図では生きていけない。ですので、エネルギーについても地球目線で考えたいと思います。
宇宙船地球号のエネルギー源
例えば地震のデータを見てみます。20年分の地震データをこの触れる地球で見るとプレートの境界が浮かび上がってくる。4つのプレートの交差点に日本列島があって。そのおかげで日本には地震が多いのです。地震と今日のエネルギーの話は関係ないと思うかもしれませんが、そうではありません。地球目線でエネルギーの話をする時にまず言わないといけないのは、この地球は絶対にエネルギー切れが起こらないように最初から設計されている「宇宙船地球号」だということです。ではエネルギー源はどこにあるのか?
黄色い点:地震発生のポイントと規模
それは地球の中と外にあります。外のエネルギー源は、地球から約1億5,000万km離れた場所にある太陽です。ピンと来ないので、この触れる地球のスケールに直すと、ココ(紀尾井町)から羽田空港のあたりに直径100メートル位の大きな球があると思ってください、それが太陽です。ちなみに月はココから道路を渡って10〜20m位の場所にバレーボールが浮かんでいると思ってください。ですから、原発なんかつくらなくても、1億5,000万km離れたところに今後数十億年は絶対になくならない太陽という核融合炉があり、そこから膨大なエネルギーが届けられているということです。
どれだけ膨大かというと、いま人類は石油換算で約130億トン分のエネルギーを使っています。つい20年ほど前は90億トンでした。すぐに想像もできない数値ですが、実は太陽から届いている太陽エネルギーはその1万倍です。ですので、そのエネルギーの1万分の1、0.01%でも捕まえることができれば、全人類のエネルギー需要は太陽エネルギーだけでまかなえてしまうのです。
赤いエリア:海水温の高い水域
では地球の中からくるエネルギーはどうでしょうか。さきほど地震の様子をお見せしましたが、プレートが動くことでエネルギー、熱が出ている。つまり地熱です。地熱発電というのは特に日本では有効です。他の自然エネルギー、風力、水力、バイオマスがありますが、これらは全部太陽からきたエネルギーです。太陽エネルギーを利用するということは、ソーラーパネルだけではないんです。例えば風力を考えると、風というのは太陽が温めて空気が軽くなって、その隙間に横から風が吹いて空気の循環が起こり風になる。その風でタービンを回して発電ができるということは、風に変換された太陽エネルギーだということになります。そして、太陽エネルギーが植物に変換されたものはバイオマス発電になります。
発電する海
太陽からみると地球も月もほぼ同じ距離にあります。月では太陽光が当たっている側では約150度、夜になるとマイナス150度になる。地球がもしそうなったら生きていけないですよね。なぜ地球がそうならなくて済んでいるのかというと、水があるからなのです。水はエネルギーをスポンジのようにため込んで地球の表面を守り、気候を安定させる装置にもなっています。海水の表面と深層の温度差を利用する潮力発電という方法もあります。実は、日本の排他的経済水域を有効に使えば、海の発電だけでも日本のエネルギー全部をつくれてしまう。その技術は日本の佐賀大学が実用化してビジネス化もしていたのですが、政治的な理由でその技術は残念ながら韓国に渡ってしまいました。
みんなが知らない風力発電先進国、中国
いま太陽光パネルと並んで普及しているのは風力発電です。ドイツとスペインを合わせて原発数10基分の風力発電設備があります。一つの大きな風車が原発10基分の発電の力を持っています。また意外なのが中国です。中国には原発62基分の風力発電があります。日本の原発は54基あって、いま止まっていますが、中国では日本の原発より多い発電能力を持った風車が既に存在するのです。
電力に詳しい方は、それは発電能力であって風車は回るとき回らない時もあるということをおっしゃいますが、設備稼働率を掛け合わせた発電量でも実はもう2010年、5年前に中国では風力発電が原発を追い抜いています。世界の風力発電能力が3億kwを超えています。いま世界中に原発が400基近くありますが、一基当たり100万kwぐらいです。400基×100万kwでおよそ3.7億キロワットぐらいなので、風力発電が世界の原発の発電能力にかなり近づいています。風力だけでなく太陽光などの他の再生可能エネルギーを全部合わせると、はるかに原発より大きい。このような事実が意外と知られていないのです。
これは中国の風力と原子力の発電量のグラフです。2010年には風力が原発を追い抜いてしまいました。そう考えるとすべて自然エネルギーでやっていけるよ、ということはもう楽観論ではないんです。楽観論どころか、未来予想でもなく、もうすでに現実なのです。世界中で大量の石油を抑え、原発を新たに作っている中国ですら、風力が原発を追い抜いている。
ドイツのエネルギーシフト
これは環境エネルギー政策研究所の飯田哲也さんにスライドをお借りしたのですが、ドイツでは原発ブームだと言われた時代でもあまり原発の割合は上がらなくて、逆に再生可能エネルギーの割合が上がっていきました。その結果、再生可能エネルギーは1割あるかないかという10年前の状況から、いまは3割まで増加し、2020年には半分近く、2050年にはほとんどが再生可能エネルギーでまかなわれる予想です。
早い、安い、うまい、自然エネルギー
なぜ風力発電がこれだけ増えているのか?それは、自然エネルギーは導入が簡単だからです。僕は「早い、安い、うまい」という牛丼的な言い方をしています。まず「早い」という点ですが、原発は増設しようとしても最低20年かかります。今までのデータだと30年くらいです。ですから、安倍政権を皆さんが支持して原発を作るぞといっても、いま生まれた赤ちゃんが20歳を超えた位にならないとその原発は発電できないのです。それまでの20年はどうするのか、という問題に対して解決が全然ない。それに対して風車は1年で立てられる、そしてすぐに発電を始められるわけです。ソーラーパネルにいたっては1ヶ月で立ってしまいます。だから一つひとつは小さな発電でも、それをジグソーパズルのように集めて行った結果、全体で膨大な量の発電をすぐにできるようになるのです。
いまあらためて原発を考えるいまあらためて原発を考える
原発は3.11の後、その処理に膨大なコストが発生していますが、たとえ事故が起こらなくても大きなコストがかかっています。つまり、原発とは止まれない魚みたいなもので、夜間ほとんど誰も電気を使わなくても、余り続けることがわかっていても止めるわけにはいかない。廃棄物処理の問題もいまだに大きい。そのような問題を後回しにして、約60年前に見切り発車した技術なのです。
当時「Atom for Peace (アトムフォーピース)」というスローガンで、アメリカのアイゼンハワー大統領などが核を平和利用に使おうという政策を進めました。広島と長崎の後の冷戦時代、ソ連とアメリカの間で核戦争への脅威がエスカレートしていました。お互いが何十回滅ぼし合っても使い切れないほどの核兵器開発が続いていた。そこで、原子力技術を兵器にこれ以上使わずに平和利用の発電に使うという方向に転換したのです。1950年代当時、原子力発電はまだまだ未熟な技術で、廃棄物処理の問題もあり時間がかかるという意見を無視して、とにかく見切り発車しないことには核戦争で人類が滅びてしまう状況でした。問題はいずれ将来世代が解決してくれるだろう、という見通しの元に原発を進めたわけです。
また日本でも、つい20年30年前にオイルショックで石油を止められて一度追いつめられた経験がある。石油から自立していくためには、当時は原発しかなかったのです。そして原発の見切り発車の結果、いまに至っている。しかし、現代には原発以外に自然エネルギーという強力な代案があるんです。日本は前例のないものはやらないというスタンスですが、既にドイツや中国という例があるわけです。だったら何を迷っているのか、もう準備は整っているのです。
また石油は今後さらに高騰していきます。2014年末の現時点では原油価格が急落していますが、それは瞬間風速であり、今後数十年スケールで見るとさらに上がっていきます。50年前は1バレル2,3ドルという世界だったのですが、オイルショックで急上昇して、2000年を超えてから急激に上がってきています。今後もこのトレンドは大きくは変わらないでしょう。それはなぜか。中国やインドなど多くの人口を抱える国の経済が伸びてきて、石油が不足します。食料もそうです。昔は先進国だけで10億にも満たなかった人々だけが石油を使っていましたが、いまでは中国、インド、インドネシアを始め新興国の30~40億人もの人々が使っている。それらの国々の石油の需要が今後さらに増えていく一方で、石油の供給量はそこまで増えることはありません。そう考えると、もう石油には未来がありません。
3.11は日本のエネルギーのあり方を大きく方向転換するチャンスだったのですが、そのチャンスをいまほとんど逃しつつあります。もう一回チャンスが巡ってくるとすれば、それは東京オリンピックの時だと私は思っています。原発はコストがかかり、処理の問題も解決していないし、新設して発電までには20年かかる。近未来の一番地球が大変な時期には全く役に立たない。今ある原発を動かそうにも、もうすぐ寿命が来るわけです。日本の原発で比較的新しいものでもあと10年ほどで寿命を迎える。老朽化した原発は未来のお荷物にしかならない。僕らの子供の世代は発電の恩恵には浴せず、お荷物だけを引き継ぐわけです。これは感情的な反原発だとか、価値観の問題ではなくて、どう考えてもこんなに損な選択は無いという本当にシンプルな話です。
エネルギーの99%を捨てている、わたしたちの文明
エネルギーの問題は発電だけではありません。使う量をいかに減らせるか、効率化できるかということも大きなテーマです。例えば、いま僕らの部屋を明るくしている照明、この照明に使われる電力は発電所で生まれるエネルギーの何割くらいが使われているか分かりますか? 実は、火力発電所に石炭や石油を投入したエネルギーの1%以下、0.7%くらいしかありません。0.7%といってもピンとこないので、別の言い方をしましょう。中東から100隻のタンカーが石油運んできたとしましょう、そのうち99隻分の石油は捨てているということです。
石油を燃やして僕たちの手元に届くまでに、そのほとんどのエネルギーは排熱で失われています。車も同じです。従来のガソリン車は燃料の約1〜1.5割しか走ることに生かされていない。エネルギーの約9割が車を運ぶために使っているわけで、その車の10分の1が皆さんの体重だとすると、10分の1×10分の1で100分の1、つまり1%ということです。電気も車も実は99%のエネルギーが捨てられている、僕たちはこれを「文明」と呼んできたんですね。ただ、これは批判ではなく、ポジティブに捉えると、相当な省エネの伸びしろがあると言うことです。未来にはまだ希望がある。いまからの若い人たちには、この捨てられている99%をもっと有効活用できるような美しい文明をつくって「宇宙船地球号」を操縦してほしいと願っています。
- Text / Photo:
- KIYOTA NAOHIRO
- Plan:
- Mirai Institute