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SOW!〜SHARE OUR WISDOM〜開催レポートPart2「都市に生息する微生物を調査し日常との関わりを解明する!」

EVENT

Vol.4「SOW!」Search Out Wisdom

SOW! はこれからの未来を切り開くための叡智や、失われそうな叡智を持って取り組む人・団体(プレゼンター)に対し、各分野の専門家や参加者のみなさんとブラッシュアップをしながら、クラウドファンディングをその場で行うイベントです。

会場で応援したいプロジェクトの立案者から直に話を聞いて、心打たれて賛同したくなった企画に、その場でファンディング参加ができる形式です。みなさんのイベント参加費3,000円のうち1,000円を支援金として、ゲストにお渡しします。

開催5回目を迎える今年のテーマは、『アップデイト』。2019年の財団の大テーマ『人間にしかできないこと』をもとに、これまでの伝統や技術、活動をこれから100年先を見据えながらアップデイトしようとしている人やチームをプレゼンターにお呼びしました。

プレゼンター
GoSWAB代表 慶應義塾大学環境情報学部4年 伊藤光平さん

ゲスト(プロジェクト応援)
・楽天株式会社 常務執行役員 CDO(チーフデータオフィサー) グローバルデータ統括部 ディレクター 北川 拓也さん
・スーパーイノベーター ヤフー株式会社 SR推進統括本部 沼田尚志さん
・ファッションジャーナリスト、一般社団法人フュートゥラディションワオ代表理事/NWF評議員 生駒芳子さん
・カフェ・カンパニー株式会社 代表取締役社長、当財団代表理事 楠本修二郎
・株式会社LIFULL 代表取締役社長、当財団代表理事 井上高志

【プレゼンターN0.2】都市に生息する微生物を調査し日常との関わりを解明する!

・GoSWAB代表 慶應義塾大学環境情報学部4年 伊藤光平さん

高校1年から慶應義塾大学先端生命科学研究所で特別研究生として微生物の研究を始め,その後,慶應義塾大学環境情報学部に入学.大学2年次に都市環境の微生物群集を調査する「GoSWAB」プロジェクトを立ち上げ,東大・慶應大・上智大の学生と活動している.自身は環境微生物についての論文を2報出版しており,2018年にはForbesが選ぶ世界を変える30歳未満の30人「30 UNDER 30 JAPAN 2018」を受賞した.

▶▶︎ プロジェクト概要https://readyfor.jp/projects/14786

ディスカッション

生駒:シンプルなことを聞いていいでしょうか。以前ネパールに行った時に、お腹を壊すんじゃないかと行く前から怖くて。でも一週間後帰る時には全く考えが逆になって、ネパールの人は強いな、日本人は弱ってるなと思って帰ってきました。全般的に日本だと抗菌や無菌をウリにした商品がたくさんあって、潔癖症のような人がすごく増えている印象です。私も周りにいるんですよ、ビニールを通してしかモノを触れない人が。そのような状況で、微生物が人間にとって必要なんだろうなとは想像するんですが、どのようにお考えですか?

伊藤(GoSWAB):そうですね、まず僕は微生物の多様性こそが大切だと思っています。微生物を滅菌や殺菌できるんですが、それをやったところで数秒後にはまた新しく微生物が降ってきます。僕たち自身ものすごい数の微生物を体から発し続けているんですよ、実は。だから殺菌、抗菌は一時的なものでしかないし、僕としては根本的な解決にはならないんじゃないかなと思っています。

生駒:潔癖症的な人が他の国より、日本は多いような気がするんです。

伊藤:そうですね。まず、免疫疾患などもアスファルトに囲まれた環境でずっと住んでいる都会の方には特に多いですよね。アレルゲンや微生物に幼い頃から触れ合っていることによって、ある程度免疫が可能になって、大人になっても例えば花粉症などのいろんな免疫疾患にかかりにくいと言われています。

生駒:田舎に育った人の方が花粉症になりにくい印象ですよね。都会でクリーンに気を遣っている人ほど、アレルギーや花粉症になりやすい。付き合い方が難しいですね。

伊藤:そうですね、悪い微生物はもちろん消すべきだと思うんですが、今のところ選択的に微生物を削除することがなかなか難しい。ですので、腸内細菌も抗生物質を飲んでしまうと体にいい菌も悪い菌も全部いなくなっちゃう。僕はそれに対して「どうかな?」と。なるべく微生物の多様性を上げて、悪い菌が入ってきても、それだけが一種類で増え過ぎないという環境を作ってあげることが、僕は抗生物質などを摂るよりももっと大切なんじゃないかと思っています。

北川:僕は仕事でAIのデータを扱っているのですが、人がどういう風に行動変化するのか、昔から興味を持っています。例えば、ある微生物の環境下にある人間が、通常とは違うタイプのホルモンを出しているとか、ある遺伝子型の人間と特定の遺伝子の微生物が一緒に共生した場合において非常にオキシトシンが出やすくなって、人を愛することができるだとか。人に対してどのような影響を与えるのかという研究は、いまどれくらい進んでいるんですか?

伊藤:実際に都市環境微生物や、屋内の微生物に関しては分かっていることは非常に少なくて。腸内細菌もそうなんですが、ある程度データが集まってきたときに、爆発的に何かが見えるんじゃないかと僕は思っているんです。今の段階では『ネイチャー』のような科学誌に出てくるレビューを見ても、都市環境微生物の研究に継続的な投資が必要だと言われています。

あくまでいま分かっているのは、例えば農家の家のホコリと、都会のホコリをマウスに食べさせるみたいな実験があります。それぞれのマウスに対してゴキブリのアレルゲンを与えてあげると、農家の方のホコリを食べたマウスはアレルゲンに反応しない、というような免疫の方からアプローチすることが都市環境微生物では一つありますね。

北川:スタンフォードにマイケル・スナイダー というちょっと変わった教授がいて、彼は微生物ではなくてケミカルを研究しています。ケミカル環境において、知られていることはあまりにも少ないということで、その教授は24時間ケミカルを検出する装置を常に持ち歩いて、確か10年くらい自分の生活環境がどういう影響化にあったかというのを調査したんですね。その彼のアプローチもすごく面白いなと思ったのでシェアしたいのですが、同じようなやり方でケミカルを微生物に置き換えて研究すると面白いのかなと思いました。

伊藤:ありがとうございます、サーヴェイしてみます。

井上: 山手線6駅で微生物を採取して、未知のものが17%もいたということなのですが、世界中で未知の領域はどのくらいあるんですか?

伊藤:実際に僕たちが知っている微生物、既知の微生物というのは、本当に存在する微生物の数よりまだまだ少ないと言われています。というのも、やはり微生物はライフスパンが短いのでどんどん新しいものが出現して増えていく。一匹の微生物を見つけて特定するためには培養しなければなりませんが、培養した微生物のゲノムを読んで初めてこういう機能がありますとレポートできる。ですので、一匹の微生物を特定してゲノムを調べるだけでも膨大な時間がかかってしまうんです。

井上:なるほど。もう一つ質問として、微生物を取るのには綿棒を3分間ずっとこすりつける方法しかないんですか?

伊藤:もちろん他にもあって、空気を吸い上げて空気中の微生物分子を解析する方法もあります。でも実は都市の微生物は非常に少ないんですね。床をこすってゴミを取ってもその中で見つかる微生物のDNAはほんのわずかで。だから空気を吸い上げるには大きな装置を動かさなければならないのですが、それを街中で無許可にやるのは難しい。なので、綿棒でこすってゴミを端っこの方からバンバンとっていくやり方が今のところベストなんじゃないかなと考えています。色々検討した結果が綿棒になりました。

井上:最近IoT関連の機器のコストが安くなってきています、例えばそのような装置を各都市に設置しておいて、刻々と変わる微生物の状況がデータで送られてくる、みたいなことができるとすごく速くなるなと思ったのだけど、ちょっと難しいのかな?

伊藤:そうですね。微生物は難しいですが、微生物のデータと同じくらい大切なのがメタデータなんです。どこで採取したか、どのくらいの湿度か、どのくらいの温度か、人の混雑度はどのくらいか、といったメタ情報がとても大切です。そこをリアルタイムでIoTデバイスを使ってセンシングするのはいいんじゃないかと思っています。

井上:技術的な見通しがあったりするんですか?

伊藤:実際に僕たちはその場でサンプリングした時に、デバイスを使って全部のデータをリアルタイムで取っていて、そこで機械学習などを使って主な湿度とかの関係性だったり、そのサンプルがどの都市由来かを予測したりといったモデルを作っています。実際にそれはそこまで困難なことではないのですが、微生物をリアルタイムでセンシングすることが非常に難しい。先ほどの解析プロセスを全部やると一ヶ月くらいかかるんです。リアルタイムでできるデバイスができればブレイクスルーが起きると思っています。

井上:とすると、今のやり方で、例えばさっきのビデオで綿棒を持ってみんなで街中に出ていく様子がありましたが、ちょっとポケモンGO的な感じのムーブメントにして大勢に参加してもらって、3,000円かかるけれど綿棒キットを送りますと。その中にIDが入っていて、この中で一番レアな微生物を持ってきた人には賞金10万円をあげますみたいプロジェクトにして、それ自体がニュースになり「全国各地で微生物を採取する若者が繁殖しています」みたいな感じになると面白いですね。

伊藤:実はそれに近いことはもうやっていまして、まずみんなで微生物を採ろうと渋谷に50人ぐらいが集まって微生物を採るイベントを行いました。そこで採った微生物のデータはいま解析中です。もう一つの企画としてMetaSUBコンソーシアムが実施している「Stuck on you.」という企画を行いました。皆さんスマートフォンお持ちですか? スマートフォンの表面にいる微生物とそのゲノムを採って調べることで、あなたのライフスタイルが予測できます。例えば、朝ごはんに何を食べたか、納豆だったら納豆菌のDNAが出てくるし、オレンジを食べたらオレンジのDNAが出てきます。僕たちの生活、食べ物は全てゲノムを持っているので、そういう企画を実際にやっています。

井上:なるほど。それを面白がって、1,000円、2,000円なら出すみたいな人たちが10,000人くらい参加したら分析機械が買えるんじゃないですか?

伊藤:そうなんですよ。ただなかなか微生物って今イメージが良くないじゃないですか。見たくないっていう人が多いんですよね。多分ここにきていらっしゃる方は、割と興味があるかなと思いますが(笑)。微生物のことを知りたくないという人がまだたくさんいるので、微生物の印象を良くしたいというのも、僕たちのプロジェクトの目標の一つでもあります。

沼田:スーパーイノベーターの沼田です。二つほど質問があって。一つは、新しい微生物はいつ生まれるのか? ということ、もう一つは解析が大好きっておっしゃってて、実際解析のどの辺に面白みがあるかを伺ってみたいです。

伊藤:まず、新しい微生物が生まれるというところ。微生物はライフスパンが短くて新しい微生物が生まれて死んでいくんですが、新しい機能を持つ微生物が生まれたり、水平伝播といって、微生物同士が遺伝子を移動させるなど、それが新しい微生物の機能が生まれるきっかけになったりします。

もう一つは、解析ですが、まずDNAをつくっているのはATGCという4つの塩基だけです。その4つから、この微生物は何かというのが分かるんですよ。4つの塩基だけで構成されているのに微生物の種類は膨大にあって、メタゲノム解析をやると株レベルの個体差まで分かるんですよ。遺伝子が分かると、どの微生物がどういう機能を持っているかということが予測できます。微生物の分類ができること、微生物が持っている機能がわかること、それが面白い。さらに微生物から都市を予測したり、4文字のATGCの配列を見ながら「これはどんな生物かなぁ」と言っています。

楠本:微生物の多様性が重要だとおっしゃったんですが、微生物って悪者扱いされますよね。潔癖症の人も僕は理解できないのですが、これからの人間、ウェルビーイングの本質を考えた時に、野生の復活じゃないかと思っているんです。人間も良い面と悪い面あるけど、まとめてリスペクトしようぜ! みたいなことですが、微生物になると悪玉菌だって思った瞬間に微生物みんな潰そうぜということになる、微生物はどうなればハッピーなんでしょうか?

伊藤:まず、微生物の良し悪しは僕たち人間が主観的に決めていることで、微生物がちょっとかわいそうだなとか思います。微生物にも日和見菌がいて、普段は悪さをしないんですが、時々環境が悪くなるとちょっと悪い方へ行こうぜみたいな微生物もいます。今知られていないような微生物を見つけることで、もしかしたら工業的に利用できるかもしれません。僕たちも人生を幸せにするために、微生物を道具として利用するっていうことは一つ考えとしてあります。

楠本:とにかく、多様性のある微生物たちのそれぞれの側面に光を当てて、僕たち人間のためにこんなに良いことをしてくれる微生物もあるんだよ、だからお互い愛し合おうぜということですね。

司会:では、最後にワンメッセージあれば。熱く!

伊藤:語りつくした感じなのですが、僕たちに何が足りないかといったら、お金なんです。そこをもう一度よろしくお願いいたします。以上です。ありがとうございました。

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