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雨水を天水に 墨田区から世界に拡がる叡智(1/5)“東京で謎の洪水が起こる”からの続き
都市の地表がアスファルトで覆われたため、降った雨が土壌にしみ込まずそのまま下水道に流れ込み、下水処理場の許容量を超えたため、下水が逆流して街が浸水してしまう。それならば、雨が下水道に流れ込む前にどこかで貯めておけないか?と村瀬さんは考えた。
「そもそも墨田区にどれくらい雨が降るのかを計算したら、2,000万トンいう数字が出たんです。どこかで聞いたことのある数字だなと思っていたら、なんとそれは、墨田区が1年間に使っている水道水の量と同じだったんです。東京都は水道水の多くを利根川から引いていて、渇水に備えて上流に大きなダムをつくりました。しかし、遠くのダムに頼るのではなく、本当は自分のところに降る雨を利用すればいいのではないか『遠くのダムより軒の雨』というわけです。
農家の人たちは雨に感謝しますが、都会の人間だけですよ、嫌がっているのは。お百姓さんは雨が待ち遠しくて、雨は作物を育てる命の水ですが、都会ではまるでゴミのように捨ててしまう、そのことに違和感があったわけです。自分たちが水道で使う水と同じ量の雨水をゴミとして下水に流していたわけです。そこでふと浮かんだのが『流せば洪水、貯めれば資源』というキーワードです。
そこで東京都全体でどのくらいの雨が降っているのかを計算しました。当時30年平均で東京の降水量は1500ミリでした。この数字に東京の面積を掛け合わせると25億トン。一方、東京都で使われる水の量は20億トンでした。
東京都に降る雨量と水道水の利用量を比較
当時の墨田区では水不足に見舞われて、子供がプールで遊べないことがありました。その一方で下水が溢れ出して水害が起きる。これは都市計画が根本的に間違っていたのではないか? これからの都市は雨を流すのではなく、とにかく貯めること、そういう考え方に切り替えるしかないと思ったわけです。ちょうどその時、全く偶然なのですが、日本相撲協会の国技館が台東区の蔵前から墨田区の両国に移転するという話が持ち上がったのです。」