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里山と日本の未来③〜行政と民間、二人三脚の方法

里山と日本の未来 〜西粟倉村取材レポート②からの続き〜
西粟倉村の地域再生の大きな特徴が、行政と民間企業の二人三脚がうまく機能しているところ。行政の不得意な部分である新たな人材の受け入れや情報発信、木材の加工と販売などを「株式会社西粟倉・森の学校」という企業が行っています。その会社の代表取締役(校長)であり、西粟倉村の長期ビジョンである「百年の森林構想」の発案メンバーでもある牧大介さんにお話を伺いました。

森の学校の主力商品

ユカハリ・タイル

製造現場、細やかな作業が要求される工程で、女性作業員の方が多い。

牧 大介さん 西粟倉・森の学校 代表取締役(校長)
1974年生まれ。京都府宇治市出身。京都大学大学院農学研究科卒業後、民間のシンクタンクを経て2005年に株式会社アミタ持続可能経済研究所の設立に参画。2009年に株式会社西粟倉・森の学校、2015年10月に株式会社森の学校ホールディングスを設立。森林・林業、山村に関わる新規事業の企画・プロデュースなどを各地で手掛けている。
*西粟倉・森の学校HP

地域・行政との関わり方

地域活性の仕事では、地域で起業する場合、企業側がクライアントの場合、自治体がクライアントの場合があります。僕の場合は、最初はコンサルタントとして行政から請負うかたちで地域との関わりがスタートしました。自治体の中で動いてくれる理解者がいたからいまがあるのだけど、本当は役所を動かすのは大変なんですね。もしこれから地域で新しい事業を起こすとしたら、役所と関係ないところで動きをつくったほうが早いかもしれません。どれだけ行政のお金に依存しないでビジネスができるかということが重要です。
例えば、新しく猟師のビジネスをつくろうとしていますが、有害鳥獣の捕獲駆除に対して自治体の報奨金はあてにしないでも成り立つ方法があるはずです。それが本来は一番早いし、報奨金というのは猟友会の利権なので、新参者を増やすというのは必ず軋轢が生じるのが目に見えています。新規参入者がいないと地域は盛り上がりませんが、うかつにはいると痛い目に合う。西粟倉村について例外で、猟友会も非常に柔軟ですが、ほとんどの地域でとても閉鎖的です。

どうしても役所に動いてもらわなければビジネス化するのが難し過ぎる場合は一緒に動きますが、行政を動かすのは民間企業側に実績や裏付けがないとなかなかしんどいですね。もともと役所とのつながりで始めた事業でも赤字のうちは何をいっても聞いてくれませんし、そういう事業に役場が関係していると役場も思われたくないんですね。潰れた時に責任を負わないように安全を確保するんです。黒字化して簡単には潰れないという実績ができれば、役所も聞いてくれないこともない。その前に事業として自立した形態になっていることが重要です。役所と関わりがなくても地域のためになって、他の地域にも展開できるような仕組みや方法を考えていきたいですね。

 

山から伐り出してきた材木が集積する貯木場。加工工場と同じ敷地内にある。

実は地方はお金で溢れている?

実は地方の自治体は補助金などを使っていくらでも資金調達できるんです。例えば過疎の自治体は「過疎債」を発行できます。金利も低いうえに、後から地方交付税として7割が国から戻ってくる。つまり10億円借金して7億は国が負担してくれる、そういう資金調達が許されているんです。

しかし自治体や政治家は、そのお金を不必要な土木事業に回したり、あとで自分たちの首を絞めるような、財政を圧迫することになる事業に誘導したがる。事業として自走できる、利益を生むインフラをつくる、という情熱がない。だからせっかく借金をしても、また借金が増えていって財政も悪化する。真剣に将来の利益と経済的にプラスになるような事業に投資するべきです。いままで中山間地域の民間経済といえば土木や建設業の割合が多く、それ以外にお金を回せる経済がなかった。だからベンチャーが必要なんですね。

国の予算を消化する仕事ではなく、新しい仕事や新しい価値をつくるということが田舎でもできる、それを私たちは示したいと考えています。例えば、森の学校でもお世話になっている農林中央金庫には90兆円の運用資産がありますが国内で投資する先がない。だからその90%は海外で運用され「ノーチューマネー」として世界的に知られています。私たちは木材加工業といういままで大きな変化がなかった業種にちゃんと投資をして、来年から売上高営業利益率10〜20%を目指しています。これからの地方に必要なのは、大変そうなことをちゃんとやる、真剣にやる人にうまく予算をつけていく、そういう事だと思います。

西粟倉の温泉施設「元湯」の薪づくり担当、関西弁のダニエルさん。カナダでレストランオーナーをしていたが、日本に移住。大阪での生活を経て西粟倉へ。

なぜ西粟倉村には人が集まるのか?

「おもしろい人が増えると地域がおもしろくなる」という、とてもシンプルな理由です。最初の頃は西粟倉のビジョンに共感してくれそうな人を一本釣りで誘っていましたが、それを続けるうちに地域自体が外の人を受け入れるのがうまくなってきました。
村としても合併せずに単独で生き残ることを決めた以上、人口を維持していかなければ地域の暮らしを維持できません。人口が減るとお祭りもできないし、学校も維持できなくなるし、地方交付税が減って役場の歳入も減る。いま役場の職員は38人しかいませんが、人口が減っても仕事の総量が減るわけではないので1人で10〜20の仕事を兼務しています。一定の人口を維持できるかどうかが死活問題なんです。

いま西粟倉村では1500人の人口に対して、移住者による新たな雇用が100人以上生まれました。仕事を生み出せるようになって新たなネックになってきたのが、彼らの住める家が足りないということです。初期は空き家を利用していましたが、全ての空き家が利用な可能というわけではありません。特に、移住をしてくるようなクリエイティブ志向の高い人たちにとって、自分で手を入れる余白があるか、絵の具とキャンパスがあるかが重要で、彼らは自分たちの手でつくりたいという意識が強い。

そこでいま私たちは家をつくっています。20坪程度の平屋で自給できるくらいの菜園があって、内装はスケルトンにして自由に自分たちで手が入れられるようにする。まずは森の学校の社員用の家として、そこに住む予定の移住者の意見を聞きながら作っています。幸い私たちは材木屋でもあるので材料は自前で調達できる、1000万円で販売しても十分に利益が出せるぐらい、低コストかつ高性能の木造住宅を開発しています。

自分らしく生きることを応援する

都市住民を地方自治体が受け入れて地域協力活動を行う「地域おこし協力隊」という制度があります。総務省が地域活性化と定住政策の一環として行っている事業で隊員一人当たり年間400万円の予算がついていますが、うまく運用できている自治体はそれほど多くないようです。

西粟倉村は地域おこし協力隊の予算を、若い人が自分の人生をかけて真剣に勝負をするために必要な予算として位置づけています。小規模なビジネスを始めるときに、3年間で1200万円の資金が準備されていると考えると大抵のことができるのではないでしょうか。

年間400万円のうちの約半分が人件費に充てられていますが、月15万円の給料を確保されたうえで夢にチャレンジできる制度だと思うのか、月に15万給料で役場の仕事をするのかで地域への効果が大きく違います。協力隊を受け入れている多くの自治体では隊員を役場の臨時職員的な扱いにしていますが、西粟倉村の場合は起業したい人にお金をつけるからお金が死なない。ちゃんとビジネスになって新たにお金を生んでいきます。

総務省は定住政策としてやっていますが、西粟倉は「定住しなくていいんです」というコピーをつけて地域おこし協力隊の募集をしています。あなたがやりたいと思っていることを西粟倉でやってくれるだけで価値がある、という意味です。そもそもベンチャーなので全ては成功しないと思いますが「役所が金を出しているんだからやれ」というよりも「応援するから精一杯やってみてよ」というスタンスです。

若い時期の3年間で、いかに隊員本人にとって納得感のある時間を過ごせるか。定住しなくていいとは言っていますが、自分が自分らしく生きていくことを応援してくれた地域を出て、他の場所で一からやるかというとそうではありません。結果的に西粟倉村を好きになってもらえるから、意外と外の地域に出ることもなくて、定住してくれるのではないかと考えています。

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