2022年2月21日に配信したメールマガジンを紹介します。
第1期研究員プロジェクトフェローJensen Anna Groenkjaerさんがdeschoolingの第一人者Manish Jainさんにインタビューしたレポート、同じくプロジェクトフェロー天野恭子さんが一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン代表理事・坂野晶さんにインタビューしたレポートの紹介です。
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デンマークのビジネスデザインスクールKaospilotを卒業したAnnaは、第1期研究員の募集段階から研究テーマは教育にしたいと言っていました。『TAKIGAHARA FARM』を舞台に、学びの場を通して食分野の発展を支援しているAnnaは、当初からManishさんへのインタビューを希望していました。
※Annaの詳しい自己紹介はこちら
https://note.com/nwf/n/n9717d28f83ac
NWFの研究活動でAnnaのフォローをしつつ、Manish氏のオンラインインタビューにも参加した研究員・小柴に話を聞きました。
学歴社会というピラミット構造はもう忘れて、自身がどう生きたいのか考えよう
Next Wisdom Foundation設立時の2014年、イヴァン・イリイチの「脱学校」からインスピレーションを受け、a.school代表取締役校長の岩田拓真さんをゲストに「学びとは何か」というテーマで話をしてもらって以来、NWFではいくつか学びをテーマにしたインタビューを行っている(※)。というのも、「これからの叡智」を問い、見つけていく過程やその叡智らしきものを未来の誰かに読んでもらうという行為は、その人それぞれの寛容と好奇心が非常に重要になってくる。そのために学びを問い直すことはとても意味があることではないか、と思っているからだ。
どのような学びをするかによってその人の人生の幅が広がり、さらには一国や世界の有様にも影響する。今回のManishさんのインタビューは、まさに学びの本質とは何かを再度私たちに問うものではないかと思う。学歴社会というピラミット構造はもう忘れて、あなた自身がどう生きたいのかというところをスタート地点とした学びができる社会を作っていくためには、どのような要素が必要なのか。また、現在の学びや教育が非常に西洋によるところが多いことに対して、インドをはじめ非西洋文脈でオリジナリティや多様性について言及をしているところもとても興味深い。
Manishさんがはじめている「学びの都市」は、さまざまな職業や専門家たちがフラットに子どもたちと接する環境がある。それは上から教えるものではなく、互いに学び合うコミュニティが存在していることが個人的には聞いていて羨ましく思えた。最近日本もオルタナティブ的にイリイチの脱学校を目指したような学びの場ができてきている。その中には一部アクティブラーニングという名のもと表面的な学びの場があることも否めない。学びは次世代の未来を作る種だ。これは今私たちの世代がしっかりと本質を見つめ直さないと犠牲になるのは子どもたちなのだ、そんなことをManishさんの話や実践を通じて強く感じ取ることができた。(研究員・小柴美保)
※
・米国イェール大学卒業後、三井物産入社。そして落語家となった立川志の春さんが語る「噺の話」
https://nextwisdom.org/article/1008/
・「オフグリッドの世界と、その可能性」~教育編〜
https://nextwisdom.org/article/2068/
・ベーシックインカムより適用拡大を! AI時代の働き方と学び方 〜立命館アジア太平洋大学(APU)学長・出口治明さんインタビュー
https://nextwisdom.org/article/3331/
「ハーバード教授よりおばあちゃんの方が賢い」インド人教育者が辿り着いた学びの真髄
「学習に関してセルフドリブンラーニング(自己推進型)とセルフデザインラーニング(自己設計型)という2つのコンセプトがあります。セルフドリブンラーニングは既存のカリキュラムを元に他者が決めた方向性に従って自由な場所で自分のペースで学習する伝統的な通信教育のスタイルです。私は後者のセルフデザインラーニングの考え方を大切にしています。セルフデザインラーニングは学ぶ人自身がどう学ぶかプロセスをデザインし、自分の未来はどうあるべきか、成功とは何を意味するのか自己決定権を持って考えます。他者のつくった枠組みの中での学びではなく自発的に学習方法を考え、工夫し、他者と協力して学んでいくのです。これは人生を自分自身で描き、能動的に生きていくことに繋がっていきます。
このアプローチは真新しいものでもなく、西洋から入ってきたものでもありません。古代文明を有する国では文化の歴史の一環として進化を遂げてきたコンセプトで、インドでは文化的アイデンティティの一部なのです」
「見落とされがちですが教育と経済はつながっているのです。哲学者イヴァン・イリイチ著『脱学校の社会』 (Deschooling society, 1971)では学校の目的は生徒たちの本来持つ神聖性を失わせ、経済社会的奴隷に変えることだと警告を鳴らすコンセプトが展開され、非常に衝撃的です。例えば名称ひとつをとってもインドでは昨年まで教育省はヒューマンリソースデベロップメント省でした。人は資源でありその資源の発展=教育と捉えていたんです。そこにはインドやアジア諸国特有の、人は神聖なものと捉えるスピリチュアルで伝統的な価値観はありません。学校教育普及前にあった学びの環境が学校教育に置き換わった流れは、進化ではなく唐突な断絶だったと私は考えています。」
「産業社会の発展とともに従順で「良い市民」をつくる次のステップとして世界中で地域言語や絆が失われ、権威主義体制が強まってきました。スカンジナビア諸国などは顕著です。現代の学校教育は単一文化を作り出すことには長けていますが多様性を大切にはしていません。多様性を管理することは非常に難しいからです。世界中で失われている言語は数え切れません。インドでは3千を超える地域言語を15〜16に標準化しようとしています。言語など文化の多様性を失わせ、単一化を広めるとより簡単に人々を管理して支配することができるからです。この最終段階として過去30〜40年の大量消費主義の流れがあります。消費者は経済成長の持続に必要不可欠です。以前は服は3・4着あれば十分幸せでしたが今はどうでしょう?」
「宿題をして提出しなさい、というのが現代の学校ですから。しかし本当にそれは子どもたちのためになるのでしょうか? 子どもたちは目的もよくわからず言われるがまま宿題を提出するよりも意味のあることをしたいのです。ものづくりに関わることはつながりや目的意識をもつことで尊厳を築き、本物の技術を磨く中で様々な体験をすることができます。そして人脈が生まれます。そういった学びが世界をより良くすることにつながると思うのです。」
「現代人は8割の人が自分の仕事を嫌い、生きる気力を失っています。また多くの仕事が環境破壊に繋がっている残念な現状があります。一体何のために教育があるのか考え直すべきではないでしょうか。もし大学や教育が人を助けるものでなかったら、心の中の一番深いところにあるいのちの輝く力を引き出すものでなかったら、それは意味がないのです。いのちとはお互いがつながり合っているということであり、自然の中のすべての生命との繋がりです。これを理解することを手助けすることが教育でなければ暴力的な事業であると言っても過言ではありません。
私たちは自然なしに生きていくことはできません。現代人はそれを忘れてしまっています。自然を支配できるという考えこそが近代の根本的な傲りであり、近代教育が植えつけたアイディアそのものです。大切なことは生態系の多様性の尊さを知り、私たちは貧しくなく本当は豊かであるということに気がつくことなんです。」
▷全文はこちら https://nextwisdom.org/article/4824/
ゼロ・ウェイスト・ジャパン坂野晶さんインタビュー
「上勝町のゼロウェイスト活動は「45分別」や「リサイクル率80%以上」などが分かりやすさで有名なのですが、それは単に分かりやすさがないと飛びついて来ないメディアがいるからです。その構造自体がおかしいと感じています。リサイクルや分別をすることは分かりやすいし大事なことの一つなのですが、一番大事なことではない。分別するだけではごみは減らないんですよ。」
「都会ではどうかと考えると、最終的にどうしても出てしまうごみをできるだけ資源化できる仕組みを作ることは大事です。今はいろんなリサイクル技術があって、特に都市部の方がものを集めやすいので、リサイクルの循環の仕組みは作りやすい。と同時に、私たちの暮らしの中で、モノを長く使う工夫をすることや、使い捨てを減らす工夫も同じようにやること。都会に住む方は忙しく、買い物や暮らしについて考える時間を割けず、自分の時間自体を消費して暮らしているので、ごみを減らすことを考える時間が無いのだと思います。とはいえ、ある程度思考と時間さえ割くことができれば、東京の方がよっぽどオーガニックやパッケージレスの買い物のオプションは増えてきています。」
「いま問題になっているプラスチックのパッケージなどは、回収しても企業にとってメリットが少ないので対応が難しいのですが、そもそもプラスチックの原価が安すぎるので、ここの価格崩壊が起こった時点で止まるとは思っています。そして、その未来は意外に近いのではないかとも思っていますし、企業にとってはそのようなケースを考えておくことが長期投資につながります。例えば、サプライチェーンを考えたときに、原料が石油由来なのかどうか透明性が問われているので、そこに対して説明できないことは止めていかなければなりません。そして石油製品を使うことが難しいならば何で代替するのか、その検討を始めること自体が企業にとってのリスク回避になります。」
「上勝町の現場で分かったことは、環境や社会に良いことを理解して実践できる方は多くても2割、1割は何をやっても伝わらない人、マジョリティの約7割の人たちは無関心。この8割の無関心な人たちをどう動かすかが大事だということです。ちょっとは関心を持ってくれる人もいれば、仕組みに組み込まれていればなんとなく行動をしてくれる人もいる。環境に対して関心が無くても地域への貢献ということであれば協力してくれる人たちもいる。そういった選択肢をいくつ用意できるかだと思います。」
▷全文はこちら https://nextwisdom.org/article/4806/