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NEXTWISDOM CONSTELLATIONS 2014-2018

編者: 一般財団法人Next Wisdom Foundation

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第1章 地球の目でみる

『宇宙船地球号を動かすエネルギー』
竹村真一 京都造形芸術大学教授、Earth Literacy Program代表

エネルギーがこれまで文明の発展にどのように関与してきたのか、これからどう関係してくるのか、人類や地球的な視点から考える「これから必要となるエネルギー」とはどういうものなのか。地球時代の新たな「人間学」を提起しつつ、ITを駆使した地球環境問題への独自な取組みを進める竹村真一氏によるエネルギー論。(【EVENT】Next Wisdom Gathering “これからのエネルギーと文明の発展” / 2014.12.22 講演を元に記事化)

 

球(グローブ)の中で地球を見る

これは「触れる地球」というデジタル地球儀です。もしかしたら、見たことがある人もいるかもしれません。地球に触って、球の中でこうして地球を見るといろいろなことがわかります。

たとえば、PM2・5は偏西風に乗って中国からたくさんやってくると思いがちですが、普段見ている天気予報では日本と中国東部までが示されるため、ついそういう見方をしてしまうのです。地球目線でこうして見てみると、かなりインドから来ているんです。硫黄や窒素酸化物いわゆる酸性雨(緑)はロシアや東ヨーロッパからも来ています。

南極上空にあるオゾンホールの原因はフロンガスです。北半球の生活から出てきたものが南半球に移動してきたものです。南極には人が住んでいないから関係ないと思いきや、そうではありません。この辺の南極海というのは世界で一番プランクトンが繁殖する場所です。オゾンホールから紫外線がどんどん入ってきてしまうとプランクトンが減り、それを食べる魚も減って、巡り巡って、南極はどうなろうと関係ないと思っている北半球の我々が非常に大きな影響を受けることになります。

梅雨時の雲の動きを見ると、日本に来る雨は梅雨前線に沿ってインド洋から来ていることがわかります。インド洋で蒸発した水蒸気が雲となり、雲の流れがヒマラヤにぶつかって日本に流れてくる。ヒマラヤというのはこの触れる地球のスケールに直すとわずか〇・九ミリメートルほど。そう言うと低いと思うかもしれませんが、空気の層が約一ミリメートルなので、〇・九ミリメートルのヒマラヤはもうほとんど壁のようなものです。この壁にぶつかって、インド洋で発生した雲が日本に来る。梅雨時に日本で降る雨のほとんどはインド洋から来ているのです。これは導き出したイメージから言っているだけではなくて、水分子の同位体で水の由来を調べると、梅雨の雨は本当にインド洋から来ているそうです。

また、日本で消費される多くの食べ物は世界からやってきます。たとえばサーモン。シャケ弁当に入っているシャケは、大体ノルウェーやチリなど地球の反対側から来ています。焼き鳥もそうです。鶏肉は国産だとしても、その飼料はほとんど外国から来ています。醤油ダレの醤油の原料である大豆も、九〇%以上が外国産と言われます。

私たちは毎日地球に暮らしていて、地球を食べて、地球を飲んで生きている。日本とその周辺だけが見える小さな地図で生きているわけではないのです。そこで、エネルギーについても地球目線で考えようというのが今日のテーマです。

 

宇宙船地球号のエネルギー源

ここで地震のデータを見てみます。二〇年分の地震データをこの触れる地球で見ると、プレートの境界が浮かび上がってきます。日本列島は四つのプレートの交差点にあり、そのおかげで日本には地震が多いのです。

地震と今日のエネルギーの話は関係ないと思うかもしれませんが、そうではありません。地球目線でエネルギーの話をするときにまず言わなければいけないのは、この地球は絶対にエネルギー切れが起こらないように最初から設計されている「宇宙船地球号」だということです。では、エネルギー源はどこにあるのか?

それは地球の中と外にあります。外のエネルギー源は、地球から約一億五千万キロメートル離れた場所にある太陽です。この触れる地球のスケールに直すと、ここ紀尾井町から10キロ以上離れた羽田空港のあたりに、直径百メートルくらいの大きな球があると思ってください。それが太陽です。ちなみに、月はここから道路を渡って十〜二十メートルくらいの場所にバレーボールが浮かんでいると思ってください。原発なんか作らなくても、一億五千万キロメートル離れたところに、今後数十億年は絶対になくならない太陽という核融合炉があり、そこから膨大なエネルギーが届けられているということです。

どれだけ膨大かというと、いま人類は石油換算で約一三〇億トン分のエネルギーを使っています。つい二〇年ほど前は九〇億トンでした。すぐには想像もできない数値ですが、実は太陽から届いている太陽エネルギーはその一万倍です。ですので、そのエネルギーの一万分の一、〇・〇一%でも捕まえることができれば、全人類のエネルギー需要は太陽エネルギーだけでまかなえてしまうのです。

では、地球の中からくるエネルギーはどうでしょうか。先ほど地震の話をしましたが、プレートが動くことでエネルギー、熱が生じます。つまり地熱です。特に日本では、地熱発電は有効です。

自然エネルギーは他にも、風力、水力、バイオマスがありますが、これらは全部太陽からきたエネルギーです。太陽エネルギーを利用するのはソーラーパネルだけではないんです。たとえば風力。太陽が温めた空気が軽くなって上がり、その隙間に横から空気が入り込み、空気の循環が起こり風になります。その風でタービンを回して発電ができるということは、風に変換された太陽エネルギーだということになります。そして、バイオマス発電は太陽エネルギーが植物の光合成によって有機物(糖)の化学結合エネルギーに変換されたものを燃やして解放して取り出していることになります。

太陽から見ると、地球も月もほぼ同じ距離にあります。月面の温度は、太陽光が当たっている側(つまり、昼)では一〇〇度以上、夜はマイナス一五〇度になります。地球がもし自転して昼夜が交代する度にそうなったら生きていけないですよね。なぜ、地球がそうならなくて済んでいるのかというと、水があるからです。地球には海があり、海水がエネルギーをスポンジのようにため込んで、月のような温度の激変を吸収し、緩和して地球の安定した気候を守っているのです。

この海水に蓄熱された太陽エネルギーを使って発電する方法もあります。海水の表面と深層の温度差を利用する海洋温度差発電です。もちろん月の引力や地球の自転が生みだす潮力発電もあります。実は、日本の排他的経済水域を有効に使えば、これらの発電だけでも日本のエネルギーが全部作れてしまう。海洋温度差発電の技術は、日本の佐賀大学が実用化してビジネス化もしていたのですが、この技術は残念ながら韓国に渡ってしまいました。

 

いま、太陽光パネルと並んで普及しているのは風力発電です。ドイツとスペイン、さらに急伸する中国を合わせて世界に原発数百基分の風力発電設備があります。意外なのが中国です。中国には原発六十二基分の風力発電があります。日本には五十四基の原発がありますが、中国では日本の原発より高い発電能力を持った風力システムがすでに存在するのです。電力に詳しい方は、それは発電”可能”能力であって、風車は回るときと回らないときがあるということを言いますが、中国では設備稼働率を掛け合わせた発電量でも、実は二〇一〇年に風力発電が原発を追い抜いています。

 

世界を見ても、全体の風力発電の能力は三億キロワットを超えています。世界中に四百基近い原発がありますが、一基当たりの発電量は百万キロワットぐらいです。四百基×百万キロワットで、およそ三・七億キロワット。風力発電の能力が世界中の原発を合わせた発電能力にかなり近づいています。風力だけでなく、太陽光などの他の再生可能エネルギーを全部合わせると、はるかに原発より大きい。このような事実は意外と知られていませんが、そう考えるとすべて自然エネルギーでやっていけるよというのはもう楽観論ではないんです。楽観論どころか未来予想でもない。すでにもう現実です。

 

ドイツでは原発ブームだと言われた時代でもあまり原発の割合は上がらなくて、逆に再生可能エネルギーの割合が上がっていきました。その結果、再生可能エネルギーは一割あるかないかという一〇年前の状況から、いまは三割まで増加し、二〇三〇年には半分近くまで上がるだろうと予想されています。二〇五〇年には、電力のほとんどが再生可能エネルギーでまかなわれると言われています。

 

なぜ風力発電がこれだけ増えているのか? それは、自然エネルギーは導入が簡単だからです。「早い、安い、うまい」という牛丼みたいな感じですが、まず「早い」という点でいうと、原発は増設しようとしても最低二〇年はかかります。ですから安倍政権をみなさんが支持して「さあ、原発を作るぞ」となっても、いま生まれた赤ちゃんが二〇歳を越えた頃にならないとその原発は発電できないのです。それまでの二〇年をどうするかという問題に対する解決策が全然ないわけです。それに対して、風車は一年で立てられます。そして、すぐに発電を始められる。ソーラーパネルに至っては一ヶ月で立ってしまいます。一つひとつは小さな発電でも、それをジグソーパズルのようにたくさん集めていけば、全体で膨大な量の発電をすぐにできるようになるということを、世界の現実が証明してしまったのです。

 

いまあらためて原発を考える

三・一一の後、原発の処理には膨大なコストが発生しています。しかしまた、原発はたとえ事故が起こらなくても大きなコストがかかり続ける技術です。つまり、原発とは止まれない魚みたいなもので、ほとんど誰も電気を使わない夜間に余り続けることがわかっていても止めるわけにはいかない。廃棄物処理と廃炉の問題もいまだに大きい、解決していない問題です。そのような問題を後回しにして、約六〇年前に見切り発車したのが原発なんです。

一九五三年、アメリカのアイゼンハワー大統領(当時)等が「Atom for Peace(アトム・フォー・ピース)」というスローガンで、核を平和利用に使おうという政策を進めました。

第二次世界大戦後の冷戦時代、ソ連とアメリカの間でお互いが何十回滅ぼし合っても使い切れないほどの核兵器開発が続き、世界は核戦争への脅威に陥っていました。そこで、原子力技術をこれ以上兵器には使わず、平和利用に使おうという方向に転換しようとしたのです。国際的な原子力機関(IAEA)を設立し、電力供給がその目的の一つとして提案されました。

当時、原子力発電はまだまだ未熟な技術で、廃棄物処理など未解決の問題もありましたが、とにかく見切り発車しないことには核戦争で人類が滅びてしまうという状況でした。問題はいずれ将来の世代が解決してくれるだろう、という見通しの元に原発を進めたわけです。また、日本にも太平洋戦争への引き金となったABCD包囲網(※1)で石油を止められて追いつめられた経験があり、二度と戦争の道に踏み出さないためには石油から自由になる必要がある、石油から自立していくためには、当時は原発しかなかったのです。

こうした原発の見切り発車の結果、いまに至っているわけです。しかし、現代には原発以外に自然エネルギーという強力な代案があります。日本は前例のないものはやらないというスタンスですが、すでにドイツや中国という事例があります。元は日本が先行した技術ですし、であれば何を迷っているのか。もう準備は整っているのです。

今後、石油はさらに高騰していきます。二〇一四年末の現時点では原油価格が急落していますが、それは瞬間風速であり、今後数十年のスケールで見るとさらに上がっていく可能性もあります。五〇年前は一バレル当たり二、三ドルという世界でしたが、オイルショックで急上昇して、以降も二〇〇〇年を超えてから急激に上がってきています。短期的にはこのトレンドは大きくは変わらないでしょう。それはなぜか? 中国やインドなど、多くの人口を抱える国の経済が伸びてきて石油が不足しているのです。昔は石油を使うのは十億にも満たない先進国の人々だけ。それが、いまでは中国、インド、インドネシアをはじめ新興国まで、三十〜四十億人もの人々が使っています。それらの国々の石油の需要が当面はさらに増えていく一方で、石油の供給量はそこまで増えることはありません。そう考えると、温暖化などの環境面だけでなく経済的な面でいっても、もう石油には未来がありません。

 

三・一一は日本のエネルギーのあり方を大きく方向転換するチャンスでしたが、そのチャンスをいまほとんど逃しつつあります。もう一回チャンスが巡ってくるとすれば、それは東京オリンピックのときだと、私は思っています。

原発は廃棄物処理の問題も解決していないし、コストもかかり、新設から発電まで二〇年かかります。近未来の、一番地球が大変な時期には全く役に立ちません。今ある原発を動かそうにも、もうすぐ寿命が来てしまう。日本の原発で比較的新しいものでも、あと一〇年ほどで寿命を迎えます。老朽化した原発は未来のお荷物にしかなりません。僕らの子どもの世代は発電の恩恵には浴せず、お荷物だけを引き継ぐわけです。これは感情的な反原発だとか、価値観の問題ではなくて、どう考えてもこんなに割に合わないことはないという本当にシンプルな話です。

 

エネルギーの問題は発電だけではありません。使う量をいかに減らせるか、効率化できるかということも大きなテーマです。

たとえば、火力発電所で石油を燃やして電気を作っても僕たちの手元に届くまでに、そのほとんどのエネルギーは発電時・送電時・発光時の排熱で失われています。いま、日常生活で有効に使われる電力は発電所で投入されるエネルギーの一%以下、〇・七%くらいしかありません。〇・七%といってもピンとこないので、別の言い方をしましょう。中東から百隻のタンカーが石油を運んできたとしましょう。そのうち九九隻分の石油は捨てているということです。

車も同じです。従来のガソリン車が「走ること」に使うのは燃料の投入エネルギーの約一〜一・五割で九割近くは排熱で失われています。車はエネルギーの約九割をムダに都市を暖めることに使っているわけですが、走ることに使われる一割のエネルギーも、それはほとんど重い車体を動かすために使われている。乗る人の体重が車の重さの一〇分の一だとすると、一〇分の一×一〇分の一で一〇〇分の一、つまり一%ということです。

電気も車も実は九九%のエネルギーが活用されていない。僕たちはこれを「文明」と呼んできたんですね。ただ、これは批判ではなく、ポジティブに捉えると、相当な省エネの伸びしろがあるということです。

未来にはまだ希望がある。いまからの若い人たちには、この捨てられている九九%をもっと有効活用できるような、美しい文明を作って「宇宙船地球号」を操縦してほしいと願っています。

 

※1 ABCD包囲網:日本と中国の紛争を機に、一九三〇年代から日本に対しておこなわれたアメリカ・イギリス・中国・オランダの四カ国による経済制裁のこと。石油製品の輸出禁止、石油の禁輸措置などが段階的に進められた。経済制裁に参加した頭文字をとって、ABCD包囲網と名付けられている

書籍説明

Next Wisdom Foundationは、「未来に残すべき古今東西の叡智を集める」ことを目的に設立された一般財団法人です。2014年の設立からこれまで、様々な人や場所に宿る叡智を探り、数々のトークイベントや取材を重ね、それらの活動をレポート記事としてウェブサイトにアーカイブしてきました。本書は、2014年から2018年の記事を中心に再編集し、書籍として編みなおしたものです。今を生きる私たちが、百年前に生きた人々の叡智に触れるための一番よい方法は、本を読むことです。この本が読者の知的好奇心に火を点け、これからの百年に必要な新たな叡智を生みだすきっかけの一つになれればと願っております。

目次

  1. 地球の目でみるー『宇宙船地球号を動かすエネルギー』『三十億年を三十分でー藻類が生み出す石油』『地球目線で地域を創る』『再エネ論二〇一七冬の陣』『つながり始めたエコロジーとエコノミー』『雨水を捨てる社会から天水を活かす社会へ』『私たちはレアな宇宙人だ』
  2. 生命を考えるー『生命をつくるための 二、三の補助線』『人生百年時代の健康格差』『看取り世代の医療ニューノーマル』『“人工知能の未来“ 』
  3. 命をつなぐー『なぜ「タネが危ない」のか』『うまい野菜を追求すると自然栽培になる』『「おいしい」とは何か』
  4. 人のこころー『AIで人は生きやすくなるのか?』『生き方としての「科学」へ』『ヒトとAIの幸福論』『空海の思想と高野山の世界観』
  5. 人間があつまるー『コミュニティは「下部構造」がつくる』『ヒトと社会と「夜」の関係』『「拡張家族」という共生の形』『国境を超える秩序を作ろう』『AIが市長になる日』『インフラ化するAIの「人権」と責任』『雅楽の歴史に見る、伝統芸能が"伝統"になるまで』『「日本人」というフィクション』『ART WORK”metaphorest(流動的多様性)”シリーズ』
  6. 社会を営むー『人はどこでも住めるんだ』『都市の文化度をクラブシーンから測る』『夜に花開く街・文化・カネ』『人工知能の現実[二〇一八年]』『現金なき後の経済をデザインする』『お金の起源を考える』『giveがつなげるもう一つの経済』『お金のかたちが変わる』
  7. 社会とわたしー『「不安な個人、立ちすくむ国家」から見る「働く」のいま』『働き方の文化人類学』『働かない未来は来るか』『代々木公園に住みながら考える「働き方」』『お客様は神様か? 酒場の叡智』『資本主義に対抗する小さなファンタジー』『グローバル視点でみる「働き方改革」』『「タテ・ヨコ・算数」でベーシックインカムやAI時代を考える』
  8. まちをつくるー『変わらない風景から生まれる豊かさ』『情緒で街の魅力を測ろう』『燕三条の温故知新、地場産業に潜む叡智』『地方創生の雄・西粟倉村の挑戦』『ISHINOMAKI2.0』
  9. 次世代に伝えるー『教えるから学ぶへ、変化する「学校」』『アイビーリーグと徒弟制』『はじまりの学校 a.school』
  10. 想像とクリエイションー『デザインの思考と越境の作法』『時代がファッションを創る』『「伝える」から「伝わる」へ』『AIは美意識を持てるか』『映画は世界を動かす』『デザイン再考ー普遍性、時代性、個性』

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