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テクノロジーの進化によって、今後私たちを取り巻く医療の環境はどのように変わっていくのでしょうか。ITの進歩や制度的な変化によって、“病気にならない”という予防医療が重要性を増すのか。または、専門家による医療をどこでも受けられるようになっていくのか。そのような変化によって、私たちの生活はどう変わるのでしょうか?
医療編では、これらの観点を中心に医療の現状の状況を踏まえつつ、多方面から医療の今後について考えました。
<ゲスト>
予防医学研究者 石川善樹氏
1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学など。
著書に『どうすれば幸せになれるか科学的に考えてみた』(角川)、『仕事はうかつに始めるな』(プレジデント社)、『ノーリバウンドダイエット』(法研社)など。
MRT株式会社 代表取締役社長 馬場稔正氏
福岡県八女市出身。The University of Wales経営大学院修士課程修了(MBA)、2000年365日9-21時診療のセブンデイズクリニック・東大医学部発ベンチャーのMRT(株)立ち上げに参画、2007年(株)東京医療研究所代表取締役社長就任、2014年MRT(株)東証マザーズ上場。3つの医療情報プラットフォームを展開(①医師と医療機関を繋ぐ「Gaikin」②大学医局と企業を繋ぐ「ネット医局」③医師とコンシューマを繋ぐ「GoodDoctors」「ポケットドクター」)。大学病院200医局、医療機関1万施設、医師2万人(東大医学部卒の医師3人に1人)、薬剤師・看護師等コメディカル1万人が会員登録。2016年3月日本初の遠隔診療・健康相談サービス「ポケットドクター」が経済産業省主催(厚生労働省協力)第一回ヘルスケビジネスコンテストにてグランプリ受賞。NHK「おはよう日本」、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」「ミライダネ」、BSジャパン「未来EYES」等多数のメディアに出演。
予防医学を研究している石川です。今日はよろしくお願いいたします。
MRT株式会社の馬場です。僕は20歳で大事故を起こしまして、たまたま目の前に救急病院があって奇跡的に命を救われました。その事故をきっかけに医療に目覚めて今に至ります。MRTは東大医学部を卒業した医師と、医師がそばにいる安心感を広めたいという思いのもとに設立しました。
かかりつけの医師に遠隔で診療を受けられたり、専門医に健康相談ができる「ポケットドクター」、医局業務をサポートする「ネット医局」、医師と医療機関をマッチングさせる「Gaikin」と、ITで医師とコンシューマーや医局をつなぐプラットフォームがMRTの主なサービスです。
2030年、国別の長寿ランキングで日本は3位に転落
石川:つい最近、2030年の寿命がどうなっているのか、国別のランキングが発表されたのですが、日本は第3位に転落するという研究が発表され衝撃をうけているところです。
ちなみに第2位は、フランスです。何故、フランスが2位か? おそらく恋愛が自由なのが理由でしょうか?!(笑)
そして第1位に躍り出るのは、なんと韓国です。それだけ聞くと「じゃあキムチがいいのか?!」とか「美容整形がいいのか?!」とかいう話になるのですが(笑)、これもまだ理由は不明です。あくまで推測でいうと、おそらく韓国は年金制度がうまくいっていないから、歳をとっても働かないといけない。働くことは人を健康にする、ということかもしれません。
予防医学を学問として立ち上げた人とは?
石川:じつは、学問としての予防医学を立ち上げたのはロックフェラーです。そして、ロックフェラーが嫌ったのが福祉です。彼は、施しを与えても、それは対処療法でしかないと考えました。
そして、本当の意味で社会を良くするのは「予防」であるとして、ロックフェラー財団の援助のもと予防医学が立ち上がったのです。
福祉はどこが担うべきか? 平和とは何か?
会場から質問:石川さんは、福祉はどこが担うべきだと考えていますか?
石川:歴史的には福祉は宗教が担っていましたが、イギリスが初めて福祉を国として始めました。日本は戦後に国が福祉をすべしと憲法で定めました。さて、これからはどこが担うべきでしょうか!?
それを考える前に、そもそも福祉って何でしょうか? 予防医学の大前提は「人間は弱い」ということです。環境次第で、悪いほうにも良いほうにもいく。だから環境を整えよう、それでもこぼれた人を救おうというのが福祉なのではないでしょうか。だとすると、まずは物理的・社会的環境を整えるのが、何より先決になりますね。
井上:Next Wisdom Foundationは、世界平和に必要な叡智を古今東西から集めていく活動をしています。僕は世界平和への第1段階は施しだと思っています。世界73億人中40億人は水と食料が足りていない。その人たちが自立できるレベルまで、食物や教育を提供する必要があると考えています。第2次世界平和は「Living Anywhere」、何の条件も制約もなく、すべての人が住みたいところに住める世界です。他人と比べたり争ったりするのではなく、自分のありたいままに暮らせる世界です。そのためにNext Wisdom Foundationでは、古今東西の叡智を集めています。
石川:平和とは何でしょうか? 僕は、多様性の共存ではないかと思います。そのような意味での「平和」をもっとも体現したのは、ウォルトディズニーだと思います。ニューヨーク万国博覧会で発表された「イッツ・ア・スモールワールド」は、「たとえ喧嘩したとしても、すぐに誰とでも仲良くなる子どもたちの世界」こそ平和の象徴だと考えて創られたパビリオンです。
とはいえ、多様な存在が共存するに至るまでの道のりは、大きな障害がいくつもあります。予防医学の観点から言っても、高い死亡率の山、貧困の谷などここを乗り越えないとどうしようもない障害です。まずこれらを解決することが、世界平和への最初の一歩かもしれません。
馬場:ただ、私たちがよかれって思ってやることが、本当に良いのかわからないこともあります。僕は、年間600万人も亡くなっているアフリカの現状をどうにかしたいと思って現地に行ったのですが、農村部で「子どもが死ぬのは仕方がない」と言われました。衛生面を少し工夫するだけで助かる命もあると思うのですが、神が選んだ子が生きて抜くのだと言われました。私たちとは全く違う価値観なんです。
石川:私たちの価値観が正しいかというと、必ずしもそうとは言えない。たとえば、よかれと思って福祉的に手を差し伸べてしまっても、結果として人を不幸にしてしまうかもしれない。よくいう、地獄への道は善意で敷き詰められている、というやつですね。だからこそ、科学の力でたゆまぬ検証・改善を行っていくことが必要なのです。
健康の概念を変えてみる
会場から質問:医療におけるグリッドとは何だと思いますか?
馬場:例えば、お腹が痛かったら病気かもしれないから病院に行く…私たちは、病気だからこうすべきという固定観念に縛られています。僕は、医療制度や保険制度がグリッドだと思います。疾患が出てきて医療制度が出来た、疾患が出て人に薬の耐性が出て、また新しい疾患が出る…これこそグリッドではないか。そうではなく、疾患は人の個性と捉えたらどうでしょうか。老化も思い込みで、老化という概念にグリッドされているのではないか。疾患と老化というグリッドを無くせば、生きると死ぬしかないんです。
ポケットドクターの取り組みは、遠隔診療でいい人と、医師の対面診療をうけるべき人を分けることで、医療の生産性をあげることが主旨です。遠隔診療だと、場所を選ばずにママさんドクターが診療できます。医療のオフグリッドの一歩ですね。
会場から質問:「持てる者・持たざる者」で、お金があれば命は助かるという流れに止めることはできると思いますか?
石川:資産を持つという時、それは有形資産と無形資産に分けると、どちらも健康に影響するというのが21世紀の予防医学の大きなテーマです。
無形資産とは、人との繋がりや教養、コミュニティーの大切さを理解していることです。タバコよりも孤独のほうが健康に悪いという研究結果もあります。
結論としては、お金をたくさん持っていても、友達がいないと意味ないぞということです(笑)。
あらためて、最後に、予防医学とは何でしょうか? 狭く捉えると病気を予防すること、広く捉えると病気ではない普通の人を見ることです。人には不調・普通・好調があって、不調も好調も続きません。人を普通に戻してあげることが予防医学の本来の役割だと考えています。