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“人間らしさ”とは一体なんでしょうか。それを解明するために今回お話ししてくださったのは、元トップホストの手塚マキさん。歌舞伎町で長年様々な人間模様を見てきた手塚さんに、人間らしさの特徴かもしれない“愛”“色恋”というキーワードを交えてお話しいただきました。夜の歌舞伎町に集う人々が抱えるモノ、お金、そして社会情勢……、その先に見えてきた“人間らしさ”とは?
〈ゲスト〉
手塚 マキさん
Smappa! Group会長/歌舞伎町商店街振興組合理事
1977年生まれ、埼玉県出身。大学中退後、歌舞伎町のホストクラブで働き始め、一年後にナンバーワンに。2003年に独立し、現在はホストクラブ、バー、ヘアメイクサロンなどを展開する『Smappa! Group』を経営。ホストが接客を務める書店『歌舞伎町ブックセンター』や、ホスト業界初のボランティア団体『夜鳥の界』の結成、デイサービス施設『新宿デイサービス早稲田』のオープンなど、新たな試みを続けている。
女性を社会的な抑圧から解放するホストクラブ
Next Wisdom Foundation事務局(以下、事務局):ホストって、端的に言うとどんな仕事ですか?
手塚マキ(以下、手塚):男性が女性をチヤホヤすること。風営法の1号では「接待をすること」とされています。では接待とはなにかというと、歓楽的遊興な時間を提供する……といった感じで、曖昧なんです。接客ビジネスで、どこからが風営法の範疇なのかというと、グレーなんですよ。例えば寿司屋はどうか、レストランはどうか……となるので、そこで“歓楽的雰囲気”という定義が一応あるんですね。
ではホストクラブとはどんな場所か? と聞かれたら「女性が社会的な抑圧から解放される、非現実的な場所」というのが一番わかりやすいかもしれないですね。
事務局:一般的にはそうだとして、手塚さんから見たホストクラブとはどういう場所ですか?
手塚:ホストクラブは歌舞伎町だけで約250軒あって、5,000人程度ホストがいると言われています。250軒すべて違うどころか、ホスト一人ひとり、関わるお客様によってもまったく違いますね。Aさん、Bさん、Cさんと関わるときで、全部関係性が違うんですよ。だから、一概にホストクラブ全般がどういうところ、とは一言で語れません。
それを踏まえた上で話すとしたら、先ほども少し触れましたが、やはり「女性が自分の肩書きや役割を捨てて、素の状態でいられる場所」かな。ホストクラブでは、年齢を聞かない、職業も聞かない、僕たちの名前が偽名でも構わない。「あなたは何者なのか」ということを、基本的には明らかにしません。その上で、新しい自分として接する。そういう点では今の社会において、とても意味のある場所だと思っています。
事務局:非現実的な場所だけど、そこに人間の本質が現れる。一方でクラブやキャバクラなどでは、客である男性が自分の肩書きや仕事の自慢をすることでちやほやされて、プレゼンスが生まれる……ということがありますね。
手塚:多分それはホストクラブやキャバクラというものが大衆文化であって、お店側が何かを提供する場所ではないから、という理由があるように思います。もっと言うと、ホストクラブやキャバクラに限らず飲み屋、ひいては歌舞伎町という街自体が受け皿で、社会がどういう状況かによって常に変化し続けているからではないでしょうか。
例えば最近、ホストクラブの数が増えて売り上げが上がっている現状というのは“女性の社会進出”という、名目上はいい話かもしれないですけど、逆に社会的な抑圧が強くなっているという現実がある。ゆえに、彼女たちが気を抜く場が必要になっているのです。
でも女性がひとりで歌舞伎町を歩いてホストクラブに行ったなんて聞いたら、何か悪いことをしているのでは……と周りに疑われる。男がひとりで銀座のクラブに飲みに行っていても何も言われないのに…というギャップは既にありますね。
常に値付けをされる、ホストという職業
事務局:ホストの歴史についてですが、どのくらい前から職業としてのホストはあったのでしょうか。
手塚:60年代ごろから、社交ダンスができるダンスフロアに今のホストの原型となる男性がいたようです。現在のホストクラブのようにお店がチーム戦でお客様を獲得するというよりは、ホストが個人戦でスケコマシのような感じだったのではないでしょうか。80年代あたりから徐々に今のホストクラブのような場所が増え始めますが、90年代に入っても歌舞伎町でマックス30軒ほどだったと言います。
僕がよく言うのは「暴対法とSNSでホストクラブが増えた」ということです。2000年ごろから暴対法で裏の世界とのつながりが断絶され、歌舞伎町でいろいろな人がお店を出しやすくなったことがひとつ。それにより、安全だと思ってこの街に来る人が増えたことと、SNSで情報が開示されるようになって、ホストが「会えるアイドル」のようになったことも大きいのではないでしょうか。
実際に地下アイドルのような仕事をしているホストもいますし、SNSのフォロワー数が多ければファンが会いに来ることも珍しくなく、むしろ今はそれが主流になっているんですよね。だから「接客をきちんとしている」といった、ホストとしての理想的な流れにはあまりなっていないかもしれません。
事務局:素の人間に戻る女性が訪れる中で、ホストもビジネスを超えた人間臭い接客というものを行うのでしょうか。
手塚:それしかないです。なぜなら、こちらはビジネスだと思っていないから。
例えば保険の商品を売っていれば、保険の商品の言い訳ができる。お茶を売っていれば、お茶の品質を言い訳にできる。でもホストは、基本的に「僕」の値段なんです。自分自身の価値じゃなければ言い訳ができるんですけど、そうじゃないから言い訳ができない。
「僕は5万円の価値しかない男なんだ」という時点で、ビジネスというより自分の問題になるんですよ。でも「僕は100万円の男だ」と思ったところで「100万円もの価値が本当にあるんだろうか?」と、どちらにしても悩むんです。「僕には1000万円の価値があるのか? いや、ない。ということは、お客様に悪いことをしている可能性がある……」という風に、常に自分に返ってきちゃう。
だから、ビジネスという感覚はないんですよね。常に自分に値段がつけられるから、その数字と自分を一致させながら、ずっと向き合っていかなきゃいけないんです。
事務局:お客さんに追いかけられて大変、というようなことはありますか。
手塚:たぶん、そういう状況を作ってしまう自分が悪いとみんな思うと思います。思わない人は、源氏名を使って、ホストの自分と素の自分を切り分けてる人。でも、そんなにきれいに切り分けられない人が9割以上でしょうね。特に今はSNSがあって顔もみんな出しているので、ほとんどできないはずです。
ホストとの色恋沙汰から考える“愛”について
事務局:お客さんと恋愛に発展することはあるんですか?
手塚:あると思いますよ。でもお互い「これは本当の恋愛なの?」ってずっと思っていると思います。「しょせん私はお客さんでしょ」「お前はどうせ客だから」って。
そんな中でも結婚しちゃう人もたくさんいるし、女の子がお店に来なくなっても一緒に住み続けている子もいるし、彼女がお店に来なくなったら辞めちゃう男の子もいるし、人それぞれですよね。
「本カノ営業」って言ったりしますよ、本当の彼女相手の営業のこと。「私は本カノ!」っていうような格付けを、みんなしたがる。女の子だけじゃなくて、男の子も「あいつが本カノ」っていう感じで。でも僕はそんなのナンセンスだと思うし、そもそも売れっ子はそんなこと言わないと思いますけどね。
事務局:ホストクラブから生まれる愛や恋愛は、どこまでリアルなんでしょう?
手塚:それも人それぞれだと思います。みんなわからなくて、むしろ自問自答しているのではないでしょうか。
ホストもお客様もキャバ嬢も「自分にとっての愛って?」「彼女は僕のことを愛していると言うけど、それは本当の愛なのか」「お金を使わなくなったら、愛していないのか」「でも僕は彼女と一緒にいる時間が長い」「でも、彼と一緒にいるにはお金がかかる」「愛とは一体なんなのか」……などとずっと考えている。
事務局:ある種、お客さんの中では恋愛関係になることがひとつの目標という人も……。
手塚:いっぱいいらっしゃいます。愛はお金で買えないという人がいるけど、僕はそんなこともないと思う。金持ちがグラビアアイドルと結婚して、家事もやらせてなかったりするでしょ。それって、周りが言う「買ってる」ことと同じじゃないですか。
事務局:お寿司屋さんは毎日ネタのことを考えていて、八百屋さんは野菜のことを考えている。ホストは愛について考えているのかな、と思うと、手塚さんの中で愛ってなんですか?
手塚:それで言うと、僕、お寿司屋さんも八百屋さんも、ネタや野菜のことじゃなくてお客様のことを考えていると思いますけどね。お客様のことを考えていて、そのツールとしてのネタと野菜だと思うんですよ。
そうするとホストは、お客様のことを考えて、その上で自分のことを考えていると思います。自分が商品だから。お寿司屋さんだったら寿司が好かれないとダメだし、八百屋さんだったら野菜が好かれなきゃダメだし、ホストは自分が好かれないとダメ。それだけなんですよね。
事務局:ホストは自分が好かれるために、どんな努力をするんですか?
手塚:自分磨きの方法として、格好良くするとか、話術を鍛えるとか知識を蓄えるといったことは、純粋にお客様の数を増やすための話だと思うんですよ。それは入り口としてすごく正しいんですけど、それよりもたぶん関わった人たちのことを深く考えて、その人のことを察して行動できるかが大事。それって、ぶっちゃけ難しいことではないと僕思うんです。相手に対して嫌な思いをさせないっていうことを、ずっと地道にやっていけば問題ない。
自分磨きのためにムキムキに鍛えてSNSで発信してお客様が増えれば、毎月いろんなお客様が入れ替わり立ち替わり来てくれるからリスクヘッジにはなる。けれど、本当の意味でのホストの面白さや価値というのは、人と深く付き合っていきながら、自分自身も悩んでいくようなところだと思いますけどね。
ホストに必要なのは集中力、観察力、そして、愛
事務局:お客さんが個々に求めていることも違うでしょうね。
手塚:例えばたくさん時間を使ってほしいというお客様もいれば、楽しく飲みたい人もいるだろうし、ただそれらは日によっても、その方が置かれている環境によっても違いますから一概には言えないですよね。
売れないホストの中には「お客様にたくさん時間を使えばいい」と思っちゃってる子もいますが、そんなことを求めていない方もいらっしゃるんですよ。ホストにとっては生活の中心でも、お客様の生活の中心ではないんですよね。そこを履き違えちゃうホストも多いんです。ホストクラブやキャバクラは所詮まだ社会の中心ではないし、何かすごく付属品ですよね。
事務局:付属品。面白い表現ですね。
手塚:付属品というか……、僕は「嗜好の商売」と呼んでいます。要は、なくてもいい商売。でも、変な言い方ですけど、畑を耕して飯を食って寝るだけの人生で、幸せを生み出すことって難しいと思うんですよ。一生懸命に畑を耕している時に土が変化したら楽しいとか、芽が出たらその美しさに感動するとか、ちょうどいいタイミングで降ってくれた雨に感謝するとか、そういう部分だと思うんですよ、人生における幸せって。
そう考えた時に「人生の中で幸せを見いだせない人たちが、ちょっと外れたところでいろんなことを考えられるスペース」という意味で、ホストクラブやキャバクラは付属品。スターバックスも言うじゃないですか、サードプレイスって。みんな、自分のメインストリートでなかなか生きる喜びを見いだせなくなっているのかもしれないです。
事務局:ホストのモチベーションはどこにあるんですか?
手塚:たくさん稼ぐ、というモチベーションはひとつあると思います。給与体系の話ですが、一人ひとりが個人事業主、売上げの半分が男の子に入るんですよ。そのせいで、売上げ争いがバンバン起きている。そのせいでホストもしばしば、お客様より売上げを見てしまうということがあります。
事務局:ちなみに、ホストが「売れる、売れない」の差って、どのへんにあるのでしょうか?
手塚:難しいですね。僕が昔からよく言っているのは「売れる子は素直な子」。お客様が嬉しい時に一緒に喜べて、悲しい時に一緒に悲しめる、同調できる子ですね。
事務局:その日に来たお客さんのニーズやテンションを分かってあげられる、察してあげられる人ということですね。それは、やはり素質ですか?
手塚:僕は集中力と観察力、あとは相手のことを考えてあげられる愛があれば大丈夫だと思ってます。
事務局:それを新人さんに教えるときは、どうされるのでしょうか。
手塚:文章で教えるというよりは、口承で伝わっていくんじゃないでしょうか。例えばウチの会社のミッションステートメントにも「素直であれ」と一応入れていますが、そうはいってもなかなか伝わらないですよね。問題が起きたときに隠し事をしようとするヤツがいたら「とにかく起きたことを全部素直に話せ」というようなことを言いますから、やはり良くないことが起きたときに教えていくケースが多いかもしれないです。
そういうときに「そんなカッコ悪いことすんなよ」っていうことをみんなで教えていくから、その会社や店ごとのカラーが出ますよね。
事務局:山でもあり谷でもある感情をきちんと表現する、ということは、人間としてすごく真っ当ですよね。
手塚:そうしないと、ホスト、水商売、歌舞伎町……という時点で、最初からナメられて見られちゃうんですよ。その中でどれだけ自分を卑下しないで「ちゃんと自分もひとりの人間なんだ、社会人なんだ」と自信を持って人と接することができるか。そういう人がいいホストであり、いいキャバ嬢なのだと思います。
ホストへの投資は、アイドルやゲームへの課金に似ている?
事務局:お客さんもホストといろんな関わり方をしている方がいると思うんですけど、その中でかなりの金額を使っていらっしゃるのはどのような方ですか。
手塚:それも人によると思いますが、最近はホストクラブでもキャバクラでも「お金を使っている自分が楽しい」と思う方が男女問わず増えている気がしますね。
事務局:前はもっと違ったんですか?
手塚:昔からあったと思うんですけど、SNSの力も強いと思います。「これだけホストクラブで使った」って、ツイッターに平気で女の子がアップしてますから。
あとは、ホストのことを思って使ってらっしゃる人も沢山いると思うんですよ。「これだけ使えば仲良くなれる」と思っているのかな? でも、100万200万使う方は、もうそのレベルじゃないですね。そのホストに投資している感覚に近いと思いますよ。だってただ単にセックスしたいためだけに、100万も200万も使わないですよね。
事務局:アイドルの握手会のためにCD買っちゃう人と同じような感覚で、アイドル化しているということでしょうか。
手塚:一緒だと思います。
事務局:その欲求って、なんなんでしょう?
手塚:自分の投影じゃないですか。ゲームに課金するのと一緒だと思います。みんな自分のアバターにどんどん課金して、武器買ったりするでしょう。そうじゃなくても昔から、若い歌舞伎役者を捕まえてお金を投じたり、ジャニーズJr.のグッズを大量に買ったりライブに行ったり……ということは、普通にされていることです。
もっと言ってしまえば、みんな、自分の子どもにお金を使うでしょう? 子どもに貢ぐことは何も問題ないのに、なぜ今日出会った人に貢ぐことはダメなのか? 血が繋がっていない子どもならいいのか? その差異を言っていくと、何に奉仕するのは良くて何がダメなのかの基準がわからなくなる。
事務局:何か対価を得ようとしている、とか……。
手塚:子どもに将来面倒を見てもらうためなら、別にお金を取っておけばいいことです。
事務局:そう考えると、夫婦であれば奥さんにはいくらお金を使ってもいいし、家事もさせなくていいけど、これがホストとお客さんになるといきなりいけない話になるのはどうしてなのか。
手塚:おかしな話ですよね。みんな同じでいいんじゃないでしょうか。なぜ会ったばかりのホストにそんなに貢ぐのか……って言うけど「君にとっては短い30分かもしれない。でも僕にとっては奇跡的な30分なんだ」って思うかもしれないじゃないですか。出会って30分でその人のことを好きになって、1000万円使う人がいてもおかしくないと思いませんか? それは人それぞれの価値観であって、分からないですよね。
もう10年も前の話になるんですけど、40代くらいのお客様で、旦那さんもお子さんもいらっしゃるのに定期的に通って結構な金額を使ってくださっていた方がいらしたんです。その方が、あるホストを指して「旦那でも子どもでも彼氏でもないけど、一番大事なのは彼だ」とおっしゃった。そのホストは特に彼女の家庭を崩すこともしないし、彼女は彼女で家庭生活はしっかりされているんだけど、毎月100万も200万も使って……っていう関係を続けていて、すごくいいなと思いました。わからないものですよね、人それぞれの生活があるのだと思います。。
事務局:逆に現代のほうがもしかしたら窮屈で、ホストクラブという場所が必要とされているのかもしれない。最初にホストクラブが生まれたのもちょうど高度成長期で、世の中の人が息苦しくなってきた時期。そういう欲求があったのかもしれませんね。
ホストでも結婚できるんだよ、しちゃえばいいじゃん
事務局:ちなみにお客さんの年齢層は、ホストより年上の方が多いですか?
手塚:今は幅広いですね。だから、マーケットが広くなったのは事実です。SNSのおかげで敷居も下がり、全国から歌舞伎町にお客様がいらっしゃるので。昔は水商売の方か、お金持ちのマダムかだったのが、普通の会社員の女性も月に1〜2回程度遊びにいらっしゃいます。
事務局:今まで、手塚さんに一番投資をしてくださったのはどういう方でした?
手塚:一番はわからないです。ただ僕が意識していたのは、あまり長くお客様に依存させないこと。依存されるくらいなら循環させる、という言い方は変ですけど、そうしていたかもしれないです。
事務局:手塚さん的に「依存」ってなんでしょう?
手塚:慣性の法則? というか 新しいことをするより、同じことをしていた方が楽だから、繰り返す、というだけの話じゃないでしょうか(笑)。
事務局:そこに安心感を得るというか、居場所を感じるということでしょうか。
手塚:それもそうだし、依存と愛着は何が違うんでしょう? ただ言い方が違うだけで、表裏一体じゃないですか?
事務局:いまの奥様と恋愛をなさったと思うのですが、お店で接客する女性と奥様と、接し方に区別はありましたか?
手塚:全然ないですね。自分の歳と周りの環境と、これから先の未来を見据えて結婚という選択をしただけです。
僕の場合は、ホストをやって歌舞伎町に残って、お店作って無責任に仲間増やして安心感を得て、それが自分の居場所になっていった時に、村を作ってしまった責任を感じるようになったんです。もうちょっと今と違うことを、僕はみんなに対してやっていかなきゃいけないなって考えた時に、僕自身はカテゴライズされずに自由に生きていけるけれども、そうじゃない子もいっぱいいるわけですよ。「水商売が嫌だ」「裏社会だ」と思っているような。でも、ホストでも結婚できるんだよ、結婚しちゃえばいいじゃん、っていう姿を見せた。僕の結婚には、そういう要素もあったんです。
本当は結婚システムなんて僕は反対だし、みんなする必要なんかないって思うけど、どうしようもない資本主義社会の中で生きざるを得ないし、違う国に行こうにも日本が好きだし、変な仕組みだと思いながらもこの中でサバイブするのもある意味楽しい。その上で、組織のトップとして結婚を実践してみせるという選択をしました。今はみんなどんどん結婚しだしているから、あんまり深い意味はないですけどね。
事務局:手塚さんがご結婚された時は、ホスト界の中ではご法度というか……。
手塚:あまり結婚を公言している人はいなかったです。なんとなくわかっているけど、隠しておくのが礼儀、みたいな。僕は結婚したらお客様とも連絡を取らなくなったし、日本の中で違う国に暮らすような感じで、自分の生活を変えましたけど。
事務局:お客さんの中には、恋愛成就がゴールの方もいる?
手塚:いますよ。そういう子もいるから、成り立っている部分もありますよね。「いつかこの人と結婚したい」って。
グレーな世界を、見て見ぬ振りしてほしくない
事務局:今後はさらにどんなことをしていきたいですか?
手塚:特にないんですけど、僕はやっぱり人間が面白いと思っているので、僕自身は仲間たちに対する責任を持ちながら面白いことを提案し続けて、楽しく笑って幸せにみんなが生きていけたら嬉しい。
事務局:本屋『歌舞伎町ブックセンター』も経営されていますよね。
手塚:今はクローズ中ですが、また復活させます。こういうことを、みんなが面白いと思ってくれていたら嬉しいですね。僕自身は、いろんな人間がいる中で、知らないことがまだたくさんあると思うので、もっと知りたいです。
事務局:人間について、ということですか? 人間の心の微妙な動きとか?
手塚:それもそうですね、楽しいと思うんですけど、今は例えば耳が聞こえない人や、あとはぜんぜん違いますがダウン症の人たちの考えていることなどに興味があります。
事務局:なぜそこに興味を?
手塚:人間だから、じゃないですか? 耳が聞こえない世界って、同じ世界で生きていても全然違うものなんですよね。「その角度で僕も物事を見てみたい」というより、その方たちがどういう心の持ちようなのかということに興味がある。たぶん、風が吹いても僕らとは感じ方が違うと思うんですよね。それを知った上でどうこうしよう、というものではないんですが。
事務局:世界が色とりどりになりますね。
手塚:なると思います。いろんな人いますもんね。
NWF事務局のみなさんのようにちゃんと会話できる人とか、ちゃんと教育を受けて言葉を知っている人って東京にはたくさんいると思うんですけど、おそらく日本の8割くらいの人は何も考えていない。思考停止を小さい頃に余儀なくされていた人がほとんどじゃないでしょうか。水商売って、男も女も基本的にそういう子たちの溜まり場なんです。
僕は20年間水商売の世界を見てきましたが、今、風俗の景気がとてもいいです。それはおそらく、女性の仕事がないからなんですよ。女性の社会進出と言われていますが、実は貧困が進んでいて、みんな隠れて、週に1回バイトに行って……という方々が結構いると思います。
そういう風に女の子が性を売っている現状に気づいているはずなのに、女の子たち自身も口を閉ざしているし、偉い方々も目をつむっているから、そこが社会の見えないセーフティネットとなっている。これで「AIがエロ産業を代替する?」みたいな話になった時に一番困るのは、仕事を取られる女の子たちです。
じゃあ彼女たちがストレス発散でどこに行くのかといったら、相手が風俗嬢でも気にしない水商売の男の子たちのところ。そんなふたりがマッチングして問題が起こり、それが顕在化された時だけ「水商売が悪い」「風俗が悪い」と言われることに僕はいつもイライラしているんです。目に見えない、わかりづらい、グレーな生きづらい人たちを見て、みんな見ぬ振りをしているんだから。
事務局:そのような若者たちがホストになることに対して、何か思うところはありますか?
手塚:どんどん受け入れていって、教育してあげたいです。みんなほとんど、本も読まないし。ウチで10年以上頑張って働いていて、イケメンで売れっ子の男の子がこの間「明治維新ってなんでしたっけ?」と言っているのを聞いて、同じ場所でこの10年間一緒に生きていたのに、不思議だなって思いましたね。僕らが見ている世界なんて、ほんの一部でしかない気がします。いろんな人が、いろんな世界を見ている。
僕は強者側だと思う。物事を俯瞰して見たり考えたりできる教育を受けて、これまで生きてきたわけですから。そういう人間たちが、目を背けちゃいけない場所を見ないで100年後の未来を語るというのは、おこがましい話だと思います。目の前にこんなに弱者たちがいるのに。
一方で昔は近所の頑固な魚屋のおやじ、みたいな人がたくさんいたと思うんですけど、今考えると変わった人ですよね。でも今やもう、変な人が変なところを隠して生きていかなきゃいけない時代じゃないですか。
電車で騒いでる人も喧嘩してる人も「あいつらおかしい」と思われるわけですけど、本当はそういう人が普通にいることが自然な気がするんです。それを社会が抑圧しているだけであって、逆に何も気にしないで満員電車に乗っている我々こそどうなんだろう? と思うし……。とにかく普通・普通じゃないっていう二元論から解放して「いろんな人がいるなあ」と思える世界にしたいですね。