ARTICLES

Event report

Design is not for the better life but the life itself. デザイン再考(1/3) 時代の空気と「デザイン」

EVENT

【満員御礼】Design is not for the better life but the life itself. -デザイン再考-

身の回りのありとあらゆる物は何らかのデザインを経て手元に辿りつき、デザインは私たちの生活を豊かにしてくれているが、そもそも「デザイン」とは何なのか? 最近は、プロダクトだけでなく「食のデザイン」「デザイン思考」や「デザインで問題解決をする」などデザインの幅は広がり、その言葉は生活の中に溢れてきている。そこで、デザインとは何か、一度立ち止まって考えてみたい。そしてデザインを通じて社会や生活を再考してみよう。

ゲスト:黒﨑輝男氏(流石創造集団株式会社C.E.O)

1949年東京生まれ。「IDÉE」創始者。オリジナル家具の企画販売・国内外のデザイナーのプロデュースを中心に「生活の探求」をテーマに生活文化を広くビジネスとして展開。 「東京デザイナーズブロック」「Rプロジェクト」などデザインをとりまく都市の状況をつくる。2005年流石創造集団株式会社を設立。廃校となった中学校校舎を再生した「世田谷ものづくり学校(IID)」内に、新しい学びの場「スクーリング・パッド/自由大学」を開校。「Farmers Market @UNU」「246Common」「IKI-BA」「みどり荘」「Commune246」などの場を手がけ、新しい価値観で次の来るべき社会を模索しながら起業し続けている。

デザインとは日本語で言うと「意匠」なんですが意匠がどうだというよりも、作り手の生活やその人の人生が入っているかどうか。職人さんの顔を見たり、工房の空気感やどんなふうに道具を片付けているか。料理でも、おいしい料理を食べるというよりも、そのキッチンやそこでどういう風に料理を作ってるか、というところに僕は注目をしてきました。そこで「デザインとは何か」、「何を持ってデザインと言うか」ということを、僕が今までやってきたデザイナーとの仕事についてお話することで「デザイン」というものが浮き上がってくるのではないかと思います。

1980年代、コム・デ・ギャルソンイッセイ・ミヤケヨウジ・ヤマモトなどの日本のファッションブランドが世界に評価されはじめた時、コム・デ・ギャルソンがパリでショーをやりたいというので、当時僕は通骨董りで骨董をやっていたんですが、英語が話せたこともあってショーのお手伝いをすることになった。その経験が僕がデザインをやるきっかけになったのですが、その頃はまだアメリカの60’sとかレイモンド・ローウィがカッコいいとされていた時代でした。その頃フィリップ・スタルクという家具のデザイナーがいて僕は彼の家具に興味があって、ちょうど彼がデザインした「カフェ・コスト」というカフェがオープンするというので見に行ったんです。するとスタルク本人がいて、話をしてみると「東欧の薄暗い駅みたいな感じの雰囲気のカフェを作りたいんだ」と。これはなかなか面白いこと言うなと思い、意気投合して日本で展示会をやることになりました。スタルクを日本に呼んで京都などいろんな場所に連れて行って、日本のインスピレーションで何か作れないかということを考えたんですね。

そして、彼の展覧会を六本木のAXISというギャラリーでやっているときに、ちょうどアサヒビールの社長さんがやってきたんです。当時サッポロビールの建物を建築家の伊藤豊雄さんが設計したり、キリンビールは高松伸さんで、建築家とビールブランドがつながっていた時代だったんです。アサヒビールも新しい建物をつくりたいというのでスタルクを紹介しました。スタルクがアサヒビールに見せたプレゼンテーションがカッコよかった。彼は持ってきたカバンをバンと開けて、アルミニウムで作ったビルの模型を取り出すと、社長の前でボンと置いたわけです。普通は建築家のプレゼンテーションというのは図面や絵で説明するんですが、3次元のものを机に置いてこれを作ったら良いのではないでしょうかと。そういうプレゼンテーションの仕方というのも当時としては面白かった。その後もスタルクと一緒にホテルや家具の仕事をしました。

CC BY 2.1 JP, rsk, Asahi Beer and Sky Tree.jpg

デザイナーに課題やテーマを出して、彼らのアイデアと創造性を引き出しながら、一緒に作っていくということを初めてスタルクとやったんですね。すると、スタルクは僕のことを「Editor(編集者)」だというんです。僕はそれはいい言葉だなと思って、家具の編集者になろうと思ったんです。それからも倉俣史朗さんや、エットレ・ソットサスなどいろんな作家と仕事をしました。エットレ・ソットサスは当時「メンフィス」というムーブメントを作った人です。彼らの作品は今ではオークションでものすごい高値になって、美術史に残るものになっています。コム・デ・ギャルソンの川久保さんも自分で家具のデザインをしたり、80年代から90年代はアートとファッション、空間や家具のデザインが一体になって、時代の空気になっていました。

CC BY-SA 3.0, Dennis Zanone, Memphis-Milano Design Collection.jpg(

その時代に、マーク・ニューソンという当時無名のデザイナーも東京に来ていて偶然知り合いました。今ではアップルコンピュータの時計などを手がけているデザイナーですが、彼が学生時代から温めてきてお金がなくて作れなかったものを僕たちが作るようになりました。その中の一つがLockheed Lounge(ロッキード・ラウンジ)というイスですが、マドンナがプロモーションビデオに使ったり、サザビーズのオークションで家具として歴史上最高額の値をつけました。彼はサーフィンが好きで無重力状態や流体力学に興味があると。スタルクのお父さんが飛行機の設計士だったり、僕の大叔父もむかし三菱重工で戦闘機を作っていて子供の時から流体力学の話を聴いて育ったので、彼らとつながりを感じたんです。

CC BY 2.5, I, Sailko, Ngv design, marc newson, lc2 lockheed lounge 1985-86.JPG

マークとはオーストラリア中をまわってサーフボードを集めて「1968」というテーマで展覧会もやりました。1968年にサーフィンの世界では、ロングボードがショートボードになって、クイックターンという技ができたり、それまでのスタイルが一気に変わる革命的な出来事がありました。時代の流れを考えると、1950年代後半から米ソの宇宙開発競争が加熱し、キューバ革命があり、60年代に入ってからはキューバ危機、1968年にパリでは学生運動と5月革命が、チェコスロバキアでプラハの春があり、政治が熱い時代があった。その時に現代のデザインの原点みたいなものがあって、その時代のヒッピーの子供たちの世代がマーク・ニューソンだったり、ロンドンの若いデザイナーだったり、当時はそういうデザイナーたちと私は親しくしていたわけです。彼らが持っている空気感みたいなものが彼らのデザインにもつながっているのではないかなと思っています。

 

フランス パリ 五月革命 – 1968

例えばジョナサン・アイブというアップルコンピュータのデザイナーがいて、ジョナサンもマークなんかと一緒に東京に来てよく会っていました。とにかく日本という国が凄く面白いのではないのかと彼らは思っていて、当時ジョナサン・アイブにとってはソニーが手本だったわけです。骨董市場に行っては昔のソニーのトランジスタラジオを買い漁っていました。アップルのiPodも、元はといえばソニーのトランジスタラジオからインスピレーションを得ているのかもしれません。また、マーク・ニューソンは時計が好きで、時計のデザインにどんどん入り込んでいて、今やアップルの時計を作ったり。彼が最も尊敬するのは日本の職人の技術のようなもので、刀やナイフも好きで日本の包丁を集めていました。そういうつながりみたいなものが、東京というところ起きている時代が90年代でした。

CC BY 2.0, raneko, Early iPod

1993年にはパリのグラン・パレで「デザイン・世紀の鏡」展という家具を中心に建築やプロダクトを並べて分析する展覧会が開催されたのですが、1980年代の家具が10個並んでいる中で、僕らが作った家具が4個並んでいた。その時、間違いなく僕たちが作った家具は歴史の中心にあったという自負があります。当時までは家具が時代の中心にあってそれを囲む建築とプロダクトがありましたが、今は時代を象徴するような家具というものはなくなったように思います。むしろ、壊れた家具を直したり、家具がどう作られたかとかいうストーリーや、手作りというプロセスが重要になったり、そのような時代へと急激に変わってきている。店舗のデザインにしても、スタルクが作り込んだ1分の隙もないデザインではなくて、隙だらけでどうしようもない拾ってきたようなものを、うまく魅力的に取り合わせをして良い空間を作るほうがいい。

 

食の分野でも、クラフトフードやクラフトコーヒーといった「クラフト」という概念が出てきています。アメリカのポートランドのデザイン学校では、デザインを「Design as a contemporary craft」(現代のクラフトとしてのデザイン)として定義しはじめています。作り方や個性、意匠なども全部が合わさって流れができているというのが現代のデザインであり、時代の空気やその背景にある経済や政治の流れ、時代の思想とつながっている。現代はいろいろと混迷しているわけですが、さまざまな考えが入り混じってる中で、ナチュラルで自然な方向だったり、古いものもそのまま大事にしたり、人工的なものよりもクラフト的なものに人々の志向が流れ始めているのではないでしょうか。

Next Wisdom Foundation

地球を思い、自然を尊び、歴史に学ぼう。

知的で、文化的で、持続的で、
誰もが尊敬され、
誰もが相手を慈しむ世界を生もう。

全ての人にチャンスを生み、
共に喜び、共に発展しよう。

私たちは、そんな未来を創るために、
様々な分野の叡智を編纂し
これからの人々のために
残していこうと思う。

より良い未来を創造するために、
世界中の叡智を編纂する
NEXT WISDOM FOUNDATION

記事を検索