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Next Wisdom Gathering”越境する思考〜MONDO(問答)〜”

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【満員御礼】Next Wisdom Gathering “越境する思考“

問)今日お話しされた内容は比較的、個人のデザインシンキングの話だったと思うんですが、これがチームになった場合、取るべきメソッドが変わってきますか?

また、いろいろなアイディアが出る中で、自信を持ってこれで行く、最後のスイッチとしてキーワード的なものがあれば教えてください。

 

答)チームのメソッドは、個人の場合と全く違っていますね。

我々は企業の方からご依頼をいただく仕事が9割くらいあるんですね。その場合、我々のチームもあるし、クライアント側のチームもある。チームの間の垣根をどう取り払ってひとつのチームにするか、ひとつのモメンタムを作っていくか、ということが大切なんですが、これは今日ご紹介したものとは全く別のメソッドがあって、紹介すると2時間くらいかかっちゃう(笑)

 

基本的には、一般的な企業ではドラスティックにものごとを考えて変革するやり方に慣れてない方が多いので、それを徐々に慣らして行って一緒におもしろいこと考えていきましょう、という方向に変えていく。なので、自分たちのやり方に固執するより、どうやって他の人に変わってもらえるか。その作法みたいのが10箇条くらいありますが、それは別の機会にご紹介できると思います。

 

でも、そこはすごく大事なポイントで、チームとして集まったときにメンバーが自分なりに越境性を有してないとコントリビューションできなくなっちゃう。おれはプロダクトしかできない、おれはサービスしかできないという人はチームとしても働きづらいので、やっぱり全員が越境性を有してる方がチームとしても働きやすいかな、というのはありますね。

 

あと二つ目の質問の、「これでいこう!」というスイッチを入れる瞬間はすごく難しい。やっぱり我々がやりたいこととクライアントさんがやりたいことが一致しないことが結構あるので、一回スイッチを入れてゴーになることはほとんどありません。だから、多段的にスイッチを用意して、これダメだったらこれ押そうみたいな感じでやってますね。

 

また、作っている対象物を愛しすぎないということが大事です。愛し過ぎちゃうとダメだったとき失恋したみたいになっちゃうので、適度な距離感で、これがダメならこれ行こうみたいな感じの柔軟性がすごく大事かなと思います。

問)今日ご説明にあったような越境する人、佐々木さんのような人をどうやったらたくさん作れますか? 例えば、BCT人材の話や振り子の話など、僕も経営者として、どれか一個の専門性だけではダメだよね、ということはいつも言っていて、会社でも社会でもそういう人材を増やしていきたいと思っています。

 

もう一つはこの財団で世界を平和にしていきたいという大きな目的があるのですが、世界中に越境していく人たちが増えていくと、お互い相乗りしながら社会をどう変えていくか、それをシステム思考でどう解決していくか、すごく建設的な社会になるし、平和な世界に向かっていくと思うんです。

 

答)世の中的に主流、正しいとされている道の歩み方がありますよね。例えば、高校出たら偏差値の高い大学に入って、一流企業に入ってとか、パートナーとして選ぶのは収入高い方がいいとか。

 

そういうメインストリームの幹がひとつだけじゃなくて、いっぱい出てくるとおもしろいなと思っています。そういう多様性が社会の中にあれば、おもしろい人がたくさん出てくるんじゃないかと思ってます。

 

ちょっと話を広げて、何で日本は画一的なのかと思うこともありますが、例えばロンドンに行くといろんな人種、民族がいていろんな価値観がある。ニューヨークもサンフランシスコもそうです。個人が変わろうとすると難しいかもしれませんが、社会がそうなってくると自然とそうなる人が増えていくかもしれない。

 

僕もシカゴやシリコンバレー、インテルに行ったりしましたが、やっぱり大変なんですよね。アメリカの大学院はものすごく授業料が高いし。そういうコストが低い社会になっていくと、おもしろい人がどんどん増えていく気がします。

 

問)日本にいながら異文化コミュニケーションを日常の中でできるような、例えば留学してくる方や外国人のビジネスパーソンをどんどんいれればいいと思うんです。

 

答)仰るとおりだと思います。外国人とコミュニケーションするとおもしろい気づきが多いですね。ガーナでホームステイしたときなんですが、ホストファミリーと一緒に晩ご飯で鶏肉を食べてたんですね。彼らは、貴重なカルシウム源だといって鶏の骨まで食べるんです。それで、「なんでおまえ食べないんだ」と言われて。そういう細かいところから大きな収穫を得るみたいな感じ方をたくさんすると自分が生きてきた世界がいかに狭いかということに気づかされて、越境のレベルが大きくなるみたいなことがあると思います。

 

問)「人生が変わった3つのエピソード」のお話がありましたが、先生の体験談とご自分自身の体験と、すべて体験が絡んでいると思うのですが、例えば世界情勢など規模が大きくなると自分が体験できないことも多いと思います。入ってくる情報がどこまで本当なのか分からない場合も多いと思います。佐々木さんはそういう情報とどのように向き合おうと考えていますか?

 

答)すごく難しい質問ですね。例えば、フェイスブックのプロフィール画像をフランスの国旗にするというのが流行っていますが、なんでレバノンは無いんだ? という意見もあります。実はあの規模のテロは毎日、中東で起きています。あれもある種の想像力の欠如と関係してると思います。

 

今の質問に関して申し上げると、自分で経験してないことに対して本当の意味で共感するのは、僕は無理なんです。だけど、それが必要な状況は生まれてくるわけですね、例えば妊婦向けになにか作りましょう、みたいな。自分は性別も違うし妊婦にはなれないけど、彼女たちが暮らしている場所に行くことで疑似体験をする。そうやって、なんとか自分と対象の垣根を減らしていくことを努めてやるようにはしています。

 

自分が経験しないことは想像力を膨らませて、と言うと、たぶん嘘になっちゃうので僕は言いません。だから必要になったときにどれだけ近寄れるか、そのためのアプローチの仕方を持っているかが大事かなと思っています。

 

問)カーネマンの話が出ましたが、彼が言っているのはオートマチックに単純に考える思考と、複雑に考える考え方の使い分けみたいなことだと思いますが、複雑に考えてばかりいると疲れちゃうし、どっちらを使うかという切り替えの判断はどのようにされていますか?

 

答)初めての方のために何を話しているか説明すると、人の脳の機能は、さっき分解できないと言ったのと矛盾するんですが、システムⅠとシステムⅡに分けられるといわれています。システムⅠは直感や自動的な反射。それに対してシステムⅡは理性によるコントロール。例えば自分はすごく怒ってるんだけど、怒ると周りの空気を壊しちゃうからちょっと我慢しようとか。

カーネマンという人がファスト&スロー(http://www.amazon.co.jp/ファスト-スロー-上-あなたの意思はどのように決まるか-ダニエル・カーネマン/dp/4152093382j)という本の中でこの図式を書いたんですが、彼が言ってることは人間がシステムⅡで理性的に判断してると思っていることも実は全部システムⅠの仕業なんだよ、ということ。さっきの株価の例もそうですね。人が理性的に行動しているときも無意識に影響されているし、大統領選でどの大統領に投票しようかというときも、実はカッコイイ人の方が票が集まりやすいとか。

 

質問に対しての答えで言うと、僕は自分がシステムⅠ人間だということをなるべく自覚するようにしています。だから、あるものを買う、買わないという判断をするときにシステムⅠの影響を受けていることを自覚するようにしています。その上で、自分の本能に従ってもいいし、自分の理性を作動させてもいい。さっきスイッチの質問がありましたが、基本的に人間のスイッチはシステムⅠの方についている。だから、どうやってシステムⅡを作動させるかというところを意識的にやっていますね。

~考察~
越境をすべき「境界」というものは組織や社会の中だけではなく、自分の中にもある。ビジネスのフィールドや職能など水平的に広がる境界、デザインプロセスのような垂直に分かれている境界。国や文化、立場によって変わる視点。デカルトのいう心と身体の境界、左脳と右脳、脳機能局在論、脳の中の境界。越境をするということは、多様性を自分のものにする、ということなのかもしれない。組織の中に単機能人間として埋没するのではなく、自分の中の多様性を認めて、仕事としてアウトプットできるまで伸ばすこと。

その一方で、越境には終わりがない。無限に広がる多様性に範囲をもうけるために、新たに線を引く必要がある。その線の引き方が新しい知性なのかもしれない。いままでのカテゴリーや常識の枠組みを再構成すること。

様々なステイクホルダーの立場や視点、社会的、文化的背景をふまえて越境的な思考で解決策を考えると答えは無数にできてしまう。そこに一つの解を与えるためのプロセスが佐々木さんの言う「デザイン」なのではないか。それは従来のマーケティングやリサーチによるアプローチではなくて、無意識であったり客観的な理性ではなくて主観的な感情からのアプローチをとる場合もある。

ものづくりのプロセスも、あるべき機能やニーズを踏まえた完成形を目指してかたちを作っていくのではなく、偶然性や不確実性に身を委ねて、瞬間的に湧いたアイデアをすぐにカタチにして、そのカタチからフィードバックを受けて、くりかえし手(身体)と頭で思考していくということ。彼が挙げていた、越境するための3つの作法を多くの人が実践していけば、これから世の中はもっと面白くなるし、「イノベーション」と呼ばれるものも起こりやすくなりそうだ。

Next Wisdom Foundation

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