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【理事・評議員の今! Vol.5】POOL inc.ファウンダー。コピーライター/クリエイティブ・ディレクター小西利行さん

Next Wisdom Foundationは、発足して5期目を迎えました。今まで私たちは、「これから必要な叡智とは何か」をテーマにイベントを開催し、皆さんと学んできました。今後、さらに叡智の探求を深めるために、Next Wisdom Foundation事務局で、理事・評議員が現在地で考えていること、見ている未来をリレーインタビューする『理事・評議員の今!』を連載しています。5回目は、Next Wisdom Foundationの理事で、POOL inc.ファウンダー。コピーライター/クリエイティブ・ディレクターの小西利行さんに話を聞きました。

街づくりがしたかった。でも、「人」は街はつくれない。

Next Wisdom Foundation事務局(以下事務局):
私たちが小西さんと出会ったのは10年以上前ですが、その頃に比べると小西さんの活動の幅は広がっていますね。2020年ドバイ国際博覧会日本館のクリエイティブ・アドバイザーに選出されたり、2019年1月に京都にオープンした『THE THOUSAND KYOTO』など、いろいろなプロジェクトを手がけています。

小西利行(以下小西):
本当は、大学を卒業して都市開発がやりたかったんですが、マーケティングに惹かれて博報堂に就職し、ずっとコピーライターとして広告をつくってきました。でも人生は意外と「やりたい」と思っていると繋がっていくもので、イオンレイクタウンのプロデュースから始まり、今年、『THE THOUSAND KYOTO』のコンセプト開発&施設開発ディレクションをさせてもらいました。ホテルは(都市開発の)究極のかたちの一つだと思うので本当にうれしかった。ロゴやネーミングはもちろん、全体コンセプトからインテリア・デザイン、部屋の調度品、WEB、カフェのアートまですべてやりました。
今の僕の最終目標は自分の会社でホテルをつくること。もちろんプール付きでね(笑)。

実は、僕は「街づくり」という言葉が好きではないんです。街って誰か意図した通りにつくるものではなくて、街自身が、数十年かけて良いものを選び、悪いものを淘汰してつくられていくもの。きれいな並木道が1本あるだけじゃなくて、その道の途中に変な飲み屋さんがあるかどうかで良い街って決まる。こうしたい! と思ったのと違うから、面白い街になるんです。だからそもそも人や企業が「良い街」をつくるなんてエゴだと思うんです。なのに今の東京は、素敵な下町がどんどん再開発されて、誰かの「良い街」にされてる。街の本当の価値も、つくることの難しさもわかってないんだと思います。

でも、いい街ができる「きっかけ」はつくれると思っています。京都にできた『THE THOUSAND KYOTO』は、何十年後かに、その街の人が誇りを持てるホテルをつくろうと意識していました。どこかの街で成功した何かのマネをして建てても、街の誇りにはならないから、必死で京都のオリジナリティを追いかけました。

新しいホテルづくりのアプローチ。建築家と分かり合えるためのストーリーをつくる

小西:
『THE THOUSAND KYOTO』は、ありがたいことに海外から大人気で、オープンしてからずっと稼働率が高い人気ホテルになっています。
僕たちがこのホテルでつくりたかったのは、古い京都を味わうホテルでなく、京都のエッセンスが感じられる新体験のホテル。そして、パーソナル・コンフォートなホテルでした。ニューヨークのAce Hotelのようなソーシャライズドなホテルも素敵なのですが、それとは逆の、パーソナルな心地よさを追い求めたいと思いました。そこで、エントランスを入ったら静かで、きちんとプライベートの空間が保たれていて、サービスもできるだけパーソナルに期待に答える。そんなパーソナルコンフォートを目指したわけです。

設計も、京都らしい新体験になるようにいろいろやりました。ホテルの設計部門とは最初、ちょっとした小競り合いもありましたが(笑)。「ここにドデカイ階段ほしい」とか「ここに吹き抜けの緑がほしい」とか変なことばかり言って、「そんなのできるわけ無いじゃん!」みたいに言われていました。
最終的には「つくり上げていく過程の視点が違うから新しくて面白かった」と言われたし、すごくいい仲間になりましたけど。

事務局:
現場から「できるわけないじゃん!」と言われるなんて、従来のホテルづくりとは違うアプローチだったのだろうと推察します。どうやってホテルをつくっていったのでしょうか?

小西:
まず「小説」をつくりました(笑)。もちろんホテルのコンセプトもつくるのですけど、それをリアルに共感してもらうために物語を書くんです。広告ではよくある手法だけど、これを徹底的にやったら、みんなとつくりたい空間のビジョンが共有できた。

“夕方にホテルを訪れると、すぐにホテルマンに声をかけられ、京都の町家の庭ように細く暗い通りを抜ける。目の前には季節を感じる植栽があり、振り返ると、京都の神社のような大きな階段。圧倒されるような美しい階段の先には、大きなガラスから自然の光が入り、その周りにある京都の格子のような壁からは、優しい光がゆらゆらと見えている”。

たとえばこう書くと、暗くて細い通りは天井も少し低くて暗くしよう。光はこのぐらいの照度で。植栽は吹き抜けにあり、階段の大きさはこのぐらい、階段の幅と段数はこれくらい……と、建築的に変換されるんです。

広告手法の一つにペルソナの設定があるけれど、それを、より場面設定が詳細な小説として書いた感じです。で、それをみんなで読んでから実際に設計図面に落とし込む。この小説に出てくる廊下はもっと狭いイメージなのだけれど、これ以上幅を狭くするとスーツケースが通らない。でも京都っぽくすべきだ。どうしよう? では、実際の京都の町家はどうなっているのか見に行ってみよう……というふうに進めていく。設計部門も一緒に小説を作って、それを実現していく。僕はこれを“ストーリーディベロップメント”と言っています。

設計側もそういうストーリーがあるとイメージしやすい。最初は突拍子もないと思われたアイデアも、この小説を起点にお互いで分かり合えるようになった。もちろんストーリー以外でつくることもたくさんありましたが、この手法でできたことは、ホテルづくりとしてはエポックメイキングな出来事というか、新しいアプローチの方法でした。

効率の時代から愛着の時代へ

事務局:
小西さんは最初に、やりたいと思っていることは繋がっていくとおっしゃいました。今の小西さんがやっているのは、ご自身の希望に沿った自然な流れということですか?

小西:
そうだと思います。僕のテーマのひとつに「効率から愛着へ」というのがありますが、それと関係していますね。
今の時代は、数値とか便利至上主義で、どこかコンビニ的な感覚で出来上がっていますが、なにか味気ないとみんなが思い始めてる。ネットがあり、あらゆるものがマーケティングで整えられて便利このうえなくなったけれど、それとは真逆の路地裏の飲み屋さんに惹かれている。ほのかな明かりとか人の会話とか空間の懐かしさとか、どこか幸せにつながる感じ。効率的じゃないけど「なんかすごく好き」「明日も来たい」という感覚。僕はその「愛着」がつくりたいんです。
僕にとっては、広告づくりは愛着づくりでした。そして街づくりも愛着づくりなんです。「これは便利ね」と言われるよりも「これなんか好き!」って言われるほうがいい。広告でその技術を培ったから、いま、街づくりへのつながったんだと思います。

効率の真逆に、意識を持っていきたい

小西:
愛着はどうつくるのかというと、最終的に教育が大切だと、僕は思っています。たとえば、日本には“粋”とか“いなせ”というものがありますよね。少し前までは、小さい時に「あの人は粋だねえ」って大人が話すのを聞いて、言葉の意味が分からないなりに、ああいうのが粋ということらしいと感じて、頭というより体で吸収していた。あの人は粋な人で、それはイコール素敵な人という日本人的な感覚があって、その感覚を大切にして、自分もそう振舞っていくことが素敵だと分かっていた。それは、日本文化や気質から生まれているものなので、日本のカルチャーとして愛着が湧くものなんです。

でも今、若い人たちのなかに、粋やいなせという感覚は生きていない。でもこれって、継承すべきことじゃないですか? 他にもそうして継承していくべきことが山のようにある。その継承をしっかりするのも教育の本質だと思うんです。効率的に、AをAと覚えるような教育には限界が来ていて、なぜ日本にはこの文化があるのかな? とか、どうして日本ではモノを大切にしてきたんだろう? とかを「問うセンス」を磨くべき。人や地球の幸せにつながる感覚を生むためにも、幸せとはなんだろう? と問うセンスが鋭敏じゃないと駄目なんです。だから効率的な学びじゃなくて、それとは真逆の、愛着への学びをする方がいいと思ってます。これって教育の話だけじゃなく、広告も建築も、なにもかも、すべてがそれだと思うんです。

AIが社会基盤に入って、効率化が進むなかで

小西:
効率化、進んでいますよね……。先日、代表理事の楠本さんと話していて教えてもらったのですが、集団の中には大きく分けて、communityとtribeがあるそうです。communityは「好き」という感覚で集まっていて、tribeは「排除する」という考え方で集まっている集団。今の国家はtribe化されていて、他者を寄せ付けず自分たちは守りを持つべきという感覚ですよね。でも本当は、好きだっていう思いで集まっているcommunityがたくさん集まることが必要だと思います。
AIって、実はそのCommunityの生成に使えるんだろうなと思っていて、それが進むと思います。ただ難しいのは、communityが純化していくとtribe化するんですよね……。特にAIだと歯止めが効かなくて……。でもこの議論は3日かかっちゃうから、このへんで止めましょう(笑)。

事務局:
その3日間、どこかでやりたいです! 最後の質問です。今期のNext Wisdom Foundationのテーマが、『AI時代の人間らしさ』なのですが、小西さんはAIについてどう考えていますか?

小西:
今、僕は「ワケわかんない人」を目指しています。小西さんって何やってるかわからない! とよく言われるんですが、それでほくそ笑んでます。

今後、ちゃんと理解できる「ワケわかること」はAIに置き換わります。そっちのほうが効率的だし、便利だし、何より企業が儲かりますから。そしてきっとこれからも世の中は効率で進んでいくでしょう。でもそうではない部分……それが人間らしいということかもしれませんが、明らかに効率ではないことを求める力が働くと思います。そうなったときに、本質的に自分は何をしたいのか問い続ける時代になると思います。学生時代、本当はロック歌手になりたかったのであれば、おじさんでもロック歌手をやっちゃうとかね。そう考えるほうが幸せですよね。そういう未来を信じているし、そう思いたい。だから今からフラフラして、やりたいことを仕事にしていく。その訓練をしてる感じです。

AIはきっとその、フラフラする時間や問い直す余裕を与えてくれると思います。おそらく今後は、AIは空気のようにそこにあって、意識もしなくなると思いますけど。だから、もっと愛着の持てる自分に出会える余裕をくれる存在、それが、僕にとってのAIですかね。

小西利行プロフィール
POOL inc.ファウンダー。クリエイティブ・ディレクター。京都府出身。博報堂を経て2006年株式会社POOLを設立。「伝わる言葉」を掲げ、CM 制作から商品開発、都市開発までを手がける。2017 年プレミアムフライデーを企画、発案し流行語大賞を受賞。日本最大のショッピングセンター「イオンレイクタウン」、一風堂のブランディングを初め、ホテルや商業開発などのプロデュースも行う。また、スタートアップのブランディングも多数行いIPOなどに貢献。広告ではサントリー「伊右衛門」「ザ・プレミアム・モルツ」、TOYOTA「CROWN CONCEPT」、PlayStation4「できないことが、できるって、最高だ」キャンペーンなど多数。2015年、『伝わっているか?』(宣伝会議)を、2016年『すごいメモ。』(かんき出版)を上梓。

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