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【理事・評議員の今! Vol.4】NPO法人ドットジェイピー理事長/株式会社LIFULL Social Funding代表取締役CEO佐藤大吾さん

Next Wisdom Foundationは、発足して5期目を迎えました。今まで私たちは、「これから必要な叡智とは何か」をテーマにイベントを開催し、皆さんと学んできました。今後、さらに叡智の探求を深めるために、Next Wisdom Foundation事務局で、理事・評議員が現在地で考えていること、見ている未来をリレーインタビューする『理事・評議員の今!』を連載しています。4回目は、Next Wisdom Foundationの理事で、NPO法人ドットジェイピー理事長/株式会社LIFULL Social Funding代表取締役CEO佐藤大吾さんに話を聞きました。

“抜け駆け就活”は、日本にインターン制度を広めるきっかけになった

Next Wisdom Foundation事務局(以下、事務局):大吾さんが代表を務めるNPO法人ドットジェイピーは、学生に議員事務所や大使館のインターンシップの機会を提供しています。もともと、このNPOを立ち上げたきっかけは何ですか?

佐藤大吾(以下、佐藤):僕は1995年、大学2年のときに就職活動を始めたんです。この年は1月に阪神・淡路大震災、3月に地下鉄オウムサリン事件、10月にWindows95が発売されるという激動の年でした。これらの事件のあとに何か行動を起こそうと思ってはじめたのが、 “勝手にインターン”。いろんな企業に、給料はいらないから働かせてほしいとお願いして回った。大企業は前例がないし最低賃金規定や労働基準法があって取り合ってくれなかったのですが、ベンチャー企業で働かせてもらえることになったんです。そうしたら、その様子を見ていた同級生たちが、自分もやりたいと言い出した。大学2年から就職活動をするのは“抜け駆け”だから自分たちもやりたいと。それで、僕が彼らに、学生を働かせてくれる企業を紹介していきました。

事務局:まだ、インターンという概念がない時代のことですね。

佐藤:そのころ留学して戻ってきた友人に、この制度をインターンというのだと教えてもらった。僕はこれは良い制度だと思って、日本に広めるためにアメリカに行って保険・守秘義務・労働契約はどうするかなど、インターンに関する法律やルールを学んできました。企業には採用予算があるので、ルールが設定された後はビジネスとして拡大できた。それで株式会社をつくったんです。この会社はのちに売却しましたが。

それと同時に、僕の周りには公務員になりたい人が多くて、今度は役所や議員インターンを紹介することになりました。公的機関には採用予算がないので、これは非営利で進めた。この年がNPO法が成立した年で、僕は株式会社とNPOの運営という2足のわらじをはいていました。

誰の悩みに耳を傾けるべきか?

佐藤:株式会社とNPOの2足のわらじをはいた結果、非営利の界隈で友人が増えていきました。そこでよく聞く彼らの共通の悩みが、お金が足りない、ということ。それで、寄付大国と言われているアメリカとイギリスで寄付について勉強した。そこで発見したのが、世界一の寄付サイトである『JustGiving』です。ここで“寄付×IT”を学んで、『JustGiving Japan(現在、LIFULLソーシャルファンディング)』を立ち上げました。

ただ、資金の需要者は寄付だけではなく、お金を借りることも必要だし、投資対象としても認知してほしい……ニーズは多様なんですね。そこで投資×ITも手がけて、いまはサービス名を改称して『LIFULLソーシャルファンディング』として活動しています。

事務局:ここまで話を聞いていると、大吾さんは周りの人の課題を自分ごとにして今までやってきたのだと感じます。他人の課題にモチベーションを保ち続けられるのは一種の能力です。

佐藤:裏を返せば、僕自身のやりたいことはないんです。“大吾さんは次に何をするの?”と聞かれても、“さあ、次に誰からどんな相談されるかによるかな”と思う(笑)。でも、今はそれでいいと思っています。向き合ってきた分野がたとえ小さくても、そこで一番になると決めてやってきましたから。

事務局:周りのニーズを汲み取って、ビジネスに昇華させる能力にも長けていらっしゃる。

佐藤:誰でも僕と同じように、周りから頼まれごとをされることはあると思います。でも全部に応えることはできない。その中のどれに真剣に取り組むかには二つのポイントがあって、一つ目は、「その問題の原因がその人のせいではないとき」です。その人自身に問題があるのではなく、世の中の仕組みやルールのほうが悪い、ツールやルールが整っていないときに「なんとかしたい!」という気になります。もう一つは、「同じ悩みを持っている人がその人の後ろにもたくさん存在するとき」です。社会的意義があってある程度規模も見込める。ということはソーシャルビジネスとして成立する可能性が高いのでチャレンジしてみよう、という感じです。

あと僕は、“難関突破症候群”なんです(笑)。「若者×政治」とか「寄付×IT」とか、日本では誰もやっていない、みんなが「難しいよ」というような難関を前にすると突破したくなる。

ソーシャルグッドな取り組みへの参画障壁を下げる

事務局:社名に『LIFULL Social Funding』と、“Social”を入れた理由はなんですか?

佐藤:ソーシャルには二つ意味があって、一つめが「ソーシャルグッド」。世の中をよくしようと活動する事業者を応援したいという趣旨です。そしてもう一つが「ソーシャルツール」。世の中にはソーシャルグッドな取り組みに参加したいという人がたくさんいます。でもそんな取り組みを知る機会がないとか、もし知っていたとしても知り合いがいないから連絡する勇気がないといった人にソーシャルツールを使って参加の機会を提供したいという趣旨です。いきなり大きな金額を寄付しなくても大丈夫。まずは参加のきっかけとして小額からの寄付や投資から始めていただきたいと思います。

事務局:寄付・投資という事業を通して、大吾さんのお金への視点は変わりましたか?

佐藤:寄付は一種独特で、大地震の後は国民の75%が寄付をするというデータもありますが、日常的な行動ではない。人の行動理由に「共感」と「欲望」という軸があるとして、寄付は基本的に金銭的見返りが期待できないので、共感するかどうかが重要です。では金銭的見返りのありえる投資は欲望で動くのか?というと、実は投資にも共感が大切だと感じています。今は東京に住んでいるけれど、出身地のプロジェクトなら応援したいとか、若い人のビッグチャレンジを応援したいなど、大きな金銭的なリターンは求めていないけれど、元本くらい返ってきたらいいなという程度の期待で投資をしてくれる層がいる。そして、寄付と投資では同じ共感度であっても、動く金額が変わります。

事務局:最後に、この事業を通して体温が上がった経験を教えてください。

佐藤:僕たちは仕組みを提供しているプラットフォーマーで、業務内容が現場で活動する団体や個人に対するシステム提供なので、なかなか感動できる現場や感謝される場面に出会えません。あらゆるNPOには2種類の「お客さん」がいて、一つはたとえば支援を必要とする困窮者(受益者ともいいます)、もう一つは寄付者やボランティアなど現場活動を支援する人たち。では僕たちにとってのお客さんは誰か。困窮者は寄付集めに苦労しているNPOです。いわば「BtoB」の事業なので、最終受益者である個人までの距離が遠い。ただ、その過程を理解したうえで、一つひとつの案件を立ち上げるときには、やはり熱が上がっていきますね。

<プロフィール>
佐藤大吾

Next Wisdom Foundation理事、NPO法人ドットジェイピー理事長、株式会社LIFULL Social Funding代表取締役CEO

73年、大阪生まれ。大阪大学法学部在学中に起業、その後中退。 98年、NPO法人ドットジェイピー設立。議員事務所、大使館、NPOでのインターンシッププログラムを運営。これまでに3万人の学生が参加、うち約80人が議員として活躍。10年、英国発世界最大の寄付サイト「JustGiving」の日本版を立ち上げ、国内最大の寄付サイトへ成長(18年「LIFULLソーシャルファンディング」へ改称)。 12年、株式会社JGマーケティング(現 株式会社LIFULL Social Funding)を設立し、17年、株式会社LIFULLグループへ参画。寄付のみならず、事業者と投資家とを結ぶ金融プラットフォームの構築に取り組む。

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