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「百姓を見直そう。変な人と付き合おう」FutureDiversity vol.2不確実な時代に多角的な視点を持つためにはー

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【孫泰蔵氏登壇 11/13無料オンライン開催】『NEXT WISDOM CONSTELLATIONS 2014-2018 叡智探求の軌跡』刊行トークイベント ーFutureDiversity 不確実な時代に多角的な視点を持つためにはー

Next Wisdom Foundationは、未来に向かって突き進む様々な才能や頭脳をゲストに招き、未来の可能性を散りばめる『FutureDiversity』特集をスタートしました。今回は、『NEXT WISDOM CONSTELLATIONS 2014-2018 叡智探求の軌跡』刊行トークイベントの一環で、孫泰蔵さんをゲストに招いて開催したオンライントークイベントの模様をレポートします。

孫さんは、テクノロジーを駆使して人間中心の持続可能な未来を創造することを目指すコレクティブ・インパクト・コミュニティMistletoeを立ち上げています。

本の中では『第6章ー社会を営むー人はどこにでも住めるんだ』に登場します。人が物流網・交通網・エネルギー網・情報網・金融網などの”グリッド”から解放されたとき、そこにはどんな可能性があるのか? Living Anywhere(どこでも好きなところに住む)の実現に向けて実践者の立場から発信をしている孫さんに、Living Anywhereに触れつつコロナの出現によって先が見えない時代に突入したいま考えていること、実現したい未来について聞きました。

そして、孫さんの相手役を務めたのは当財団代表の井上高志。「自分らしくを、もっと自由に」をテーマに様々なテクノロジーによって水・電気・食料・通信・医療・教育・仕事など、人にとって必要不可欠なものが地球上どこにいても手に入る世界へアップデートし、ライフラインの限界から解放された本当の意味での自由な生き方の実現を目指すプロジェクトに尽力しています。

<ゲストプロフィール>
Mistletoe  創業者 孫泰蔵さん

日本の連続起業家、ベンチャー投資家。大学在学中から一貫してインターネットビジネスに従事。その後2009年に「2030年までにアジア版シリコンバレーのスタートアップ生態系をつくる」として、スタートアップのシードアクセラレーターMOVIDA JAPANを創業。そして2013年、単なる出資に留まらない総合的なスタートアップ支援に加え、未来に直面する世界の大きな課題を解決するためMistletoeを設立。その課題解決に寄与するスタートアップを育てることをミッションとしている。

「起業家の力を信じている」Mistletoe活動紹介

孫泰蔵さん(以下孫):私は、起業家の力を信じていまして、起業しようとする若い人たち、社会に良い大きなインパクトを与えたいと思っている人たちを応援したいと思い、『Mistletoe』を作りました。時には世の中のルールを変えてしまって、結果として良い世の中に少しでも近付けようとしている彼ら彼女らを自分たちは“インパクトメーカーズ”と呼んでいるのですが、Mistletoeは普通の会社というよりもいろんなタイプの同じ志を持つ人が集まるコミュニティとして、その200名位のインパクトメーカーズを支援しています。2015年に日本からスタートして、アメリカの西海岸・東南アジア・インド・北欧など16か国で約200社をサポートしています。インパクトメーカーズやこれらのサポート先が考える夢やビジョンを元に、新しいテクノロジーやアイデアを製品やサービスとして世に送り出すことで、これまでは理想や夢物語だと思われていたことを具体的に実現したいと思っています。

サポートしている取り組みの中からいくつか紹介します。

2011年にアメリカでケラー・リナウドが立ち上げた『Zipline』は、ドローンを使って衣料品や血液パック等を輸送する救命ベンチャーです。ルワンダ、ナイジェリア、東南アジアで展開していて、これまでに1万人以上の人命を救助してきました。現在は第二世代のドローンが飛んでいて、1回の飛行で20kgの医療品を200キロ先の目的地まで15〜20分で届けられるようになっています。

水循環システムを開発している『WOTA』という会社は、オフグリッドで水の処理ができる技術を持っています。新型コロナの予防策の1つとして手洗いが見直されるなか、電源さえあれば水道のない場所に設置できるまったく新しい手洗いスタンドを開発しました。その手洗いスタンドは、きれいな軟水で非常に手に優しい手洗い専用の水を作り出し、しかも手洗いをしている間にスマートフォンを置いておけば殺菌してくれるという機能も付いています。それがあれば、水道管が無くてもフィルター交換を定期的にすれば半永久的にきれいな水で手洗いができます。例えば水道管の無い店舗のエントランスでも設置することができるため、街ぐるみでこれを導入する動きも出てきています。東京都庁にも設置されることが決まりました。

この水循環システムが将来的に自動運転AIとセットになり、手洗い場・キッチンなど水回りが必要なところに移動してきて、必要な機材がガチャンガチャンと合体して上下水道を作ってしまう。私たちはこれを『モバイルグリッド』と呼んでいますが、こういう世界を作っていきたい。そういう世界になることで、上下水道のインフラがないところでも暮らしていける社会になると思っています。また近年は自然災害が増えて避難所の利用頻度も高まりつつあるため、シャワーなど具体的な引き合いが増えてきています。

最後に、私たちが作っている『VIVITA』という子どものための無料のクリエイティブな場を紹介します。日本の他に、エストニア・リトアニア・韓国・ハワイなど海外にも複数展開しており“No curriculum, No teacher”というコンセプトで、子どもたちがクリエイティビティを発揮して好き勝手になんでも作れる場所です。また、シンガポールには新しい学校を作ろうとしています。学校の真ん中にキッチンがあって、たくさんのデザインスタディを考えています。子どもだけでなく、生涯学習として学びたい人は年齢を問わずに最先端の学びが遊びながらできる自由な空間を作ろうとしているところです。

「スケールしなければいけない」は古い

Next Wisdom Foundation事務局(以下NWF):今回のトークイベントは、FutureDiversity(未来の可能性)について考えていきます。まず、孫さんは新型コロナウイルス出現後の世界の変化をどう感じていますか?

今回の最大の学びは、新型コロナは大都市に生まれた病気・感染症だということです。多くの人が大都市に集中して暮らし、いろんな人たちが世界中を行き来していることで感染が一気に広がった。都市への集中、集まって住まうことを考え直していくべきだと思います。それが生命の危機に関わるクリティカルなものになってきた。これまでずっと、情報技術は物理的な距離を無効化すると言われてきました。しかし、私たちは生活様式を簡単にがらりと変えることはできないので、技術的には出来るにも関わらずなかなか変化しなかった。コロナ禍は、そこが加速するきっかけになったと思います。

NWF:Mistletoeが投資する企業を決定するときやプロジェクトを始めるとき、何年先の未来を見越して考えているのですか?

:何年先とか、そういう発想はあまりしないですね。何年か先を見るというのは、やろうとしていることに対してマーケットのトレンドが追い風になるのに時間がかかると持ち堪えられなくなるし、短いと差別化ができなくなるという発想があるからだと思います。だから〇年先を見越して準備しようという考え方になると思うのですが、私たちはマーケットトレンドを意識しません。“面白いかどうか”、“作りたい未来かどうか”だけを意識していて、その世界が“なるはやで実現できたらいいな”としか思っていない。マーケットにうまくフィットしてスケールしないといけない、という発想が古いと思っています。

井上高志(以下井上):視聴者の皆さんが思っているだろうことを代表して質問すると、とはいえ、今は生活するために給料が必要ですよね? あらゆるグリッドから解放されてLiving Anywhereが進めば面白いことだけができると思いますが、その過渡期はどう過ごせばいいですか?

いま自分がやっている仕事を半分の時間に減らして、残りの半分で農業をする。自分で農業をやれば、食べ物が生産できるし人と交換ができるので、それで食べていける。実はMistletoe界隈のコミュニティでは、みんな何かしらの生産をし始めていて一通りの果物や野菜、米ができてきました。農業を掘り下げてみて分かったのですが、農業はそんなに忙しくないんです。ホワイトカラーの仕事みたいに金曜日の24時までに納品しないといけないといったものはなく、今週中に種を播こう、来週までに収穫しようとか、良い意味でゆるい。若い子たちの間では、半分プロサーファーやミュージシャン、半分農家という人たちが増えてきています。これからさらにテクノロジーが進化してアグリテック(AgriTech)が進んでいくと、農家という職業を名乗らなくてもカジュアルに「白菜を作っています」という社会になると思っています。そうなると、そこまでお金を稼がなくてもよくなる世界になると思います。

新しい文明をつくりたい

NWF:孫さんが何かを決定するときに“面白いかどうか”軸が挙がりましたが、それ以外の軸を教えてください。

:自粛期間中は暇だったので、たくさん考える時間がありまして(笑)。ちょっとヤバイことを考え始めちゃったんです。ただ自分の中でまだ消化できていないので、うまく言語化ができていないのですが。まあ、こういう場なので言っちゃいますね(笑)。

いままでのイノベーションとかに興味が無くなってきていまして、新しい文明を作りたいなと妄想しています。文明が違うというのは、衣食住が違うだけでなく、考え方・思想・常識を含めて全てが違うことにならないといけません。21世紀とか〇〇世紀という話ではなく、メソポタミア文明とかめちゃくちゃスケールの大きい話になります。

:歴史を振り返ってみると色々違うのですが、エネルギー源が違うと文明はかなり違ってきます。たとえば中世の文明と近代文明の違いは、化石燃料を使っているかどうかです。化石燃料を使った動力機関、蒸気エンジンなどを作れるようになったから産業革命が起きた。産業革命で機械を作れるようになったことで鉄道が誕生した。鉄道を使い長距離のロジスティックスが可能になったことで、一つの場所に色々な所から大量の物資を持ってこられるようになり大都市が生まれた。そして大都市で暮らす人の暮らし方や建築の在り方が確立されてきたころに石油が登場し、自動車など個別の移動手段が生まれて、そこから飛行機のようなハイスピードな乗り物が登場して石炭・石油文明が確立された。

僕らが小学生ぐらいのとき、石油資源は50年で枯渇すると教科書に書かれていました。テクノロジーの進化で見つける精度が上がったからかもしれませんが、50年近く経った現在でも石油は枯渇していない。ただ、気候変動などによる災害が出てきて、化石燃料は使うべきではない、地球全体がヤバイという状況になってきた。以前から再生可能エネルギーへの代替は言われていますが、社会全体をまわしていく動力源にまでは普及しない。なぜかというと、化石燃料は高出力だから。少し回すとすごいパワーが生まれるので、それを元にハイパワーの動力が作れる。それに比べて自然エネルギーは弱い。化石燃料と同じパワーを自然エネルギーから取ろうとすると、例えば太陽光は大量のパネルが必要になって、むしろコストが高くなる。だから、自然エネルギーはいまいち普及しないし化石燃料の代替にならない。

でもそれは、石炭・石油文明の延長の中で代替エネルギーとして使おうとしているからであって、本当は再生可能エネルギーの時代にあった新たな動力源を作る必要があるんです。そうやって作られたものは、石炭・石油文明の中では必要ないものです。そう考えると、今の延長上では出来ないことなんです。今シンガポールで街づくり的なことをしているのですが、スマートシティではなく化石燃料を全く使わない、電気もほとんど使わないような『化石燃料ゼロの街』を目指しています。そういう話をするとすごく不便な街になると思われますが、むしろQOLは良くなるくらい便利な街です。現代文明でやっているようなエネルギーの使い方を全くしない街を考えたいなと思っています。

“コロナのおかげ”で、社会の作り方が変わるかもしれない

井上:一つの場所に定住すると場所の制約が強くなって暮らしの自由度が減っていく。これを解決するために一般社団法人Living Anywhereを立ち上げました。いま住宅にかかるコストは生涯年収の3〜4割程度と言われています。今までは支出よりも収入が多いので可処分所得で旅行したり趣味を持ったりしていましたが、これから起きてくる未来として、AIが社会基盤に入ってくると人間がしなくていい仕事がAIに置き換わっていく。相対的に収入は減る方向に向かうのではないかと思っています。それが来た時に生活コストが下がっていないと借金人生になってしまうので、生活全般に関わるコストを限りなくゼロに近づけられないか。住宅は不動産ではなく“可動産”にして、そこで食糧やエネルギーを自給自足して巨大なインフラネットワークに繋がっていなくても、どこでも生活のできる世界にできないか考えています。

井上:これまでの社会システムは、国家運営というかたちで経済を中心にGDPや企業の売り上げを最大化しようと効率を追求してきました。その結果、中央集権的な統治システムが作られてきた。その一方で、個人が置き去りにされてきたのではないか? 近年になって様々なテクノロジーが出てきたので、自律分散型の社会システムに移行できるのではないかと思っています。ヒューマンスケールで考えて一人ひとりの幸福度が上がっていくためにどんな社会を作っていけばいいのか、と問う方向から社会をつくる時代に変わっていく。これまでは戦争や災害が発生しても「世界のどこかで起こっていること」という感覚だったのが、あえて言いますが“コロナのおかげ”で、全人類が同じ境遇を体験している。これはすごく大きなことで価値観が大きく変わるきっかけになっていると思います。

みんな百姓化して、会社と貨幣は無くなる?

井上:近年、空き家が増えています。市場に出回っていない空き家は1000万件あり、10年後には2000万件になると言われています。いま世帯数が約5000万なので、5000万世帯中2000万件が空き家になる。ここで提唱したいのは、全世帯二拠点生活にしませんかということ。地方では土地が広い家庭菜園付きという物件はたくさんあり、エリアと物件によっては無料です。最近は災害リスクも高いので都心で生活するばかりではなく自助努力としてのリスクヘッジと考えても良いと思いますが、週末は地方で家庭菜園をしながら過ごしたり、1ヶ月ワーケーションしたりする。みんなが地方の拠点を持って泰蔵さんのおっしゃった農業をやりつつ、いざというときは個人のセーフティーネットを持っている状態はいいと思います。

:百姓という言葉がありますが、百姓というのは百のスキルを持っている人、何でもできる人という意味なんです。農業、家畜の世話、縫い物など、百姓はなんでもやっていた。これが産業社会の中で分業と専門化が進んだ結果、マーケティングの専門家、エンジニアリングのリサーチ専門家など専門性が抜きんでていないと役に立たない、価値が無いということになってきた。ここでもう一度、何でもできる百姓を見直す。自律分散型のテクノロジーが無料で使えるようになることで“デジタル百姓”のようなものが生まれてくると、たくさんのお金を稼がなくても楽しく生きていける面白い社会になると思います。

井上:そうなると、会社は無くなる方向に向かうのでしょうか? 働きかたが劇的に変わると、正社員として週5日勤務するというスタイルが意味をなさなくなっていく。さらに、テクノロジーの進化で生活コストがゼロに近づくと貨幣はどうなるのでしょうか?

今までの私たちの会社という言葉の定義は、そこに属する共同体、何かのミッションを達成する共同体でしたが、その機能が本当の意味でのコミュニティになり、法人としての機能に純粋化すると思います。スマート・コントラクトといってブロックチェーンなどの技術を使うのですが、契約の内容が動的に変わっていくコントラクトができる。契約自体をプログラミングできるようになるんです。そうすると、非常に動的に契約を組み替えたり、契約先を変えたり、業務条件を変えたりするのがAIのサポートで出来るようになる。すごくスムーズにものごとを進められるようになるんですね。そうなると法人というのが概念上の法人でしかなくなるので、一人でコントラクトを結んで100の法人をハンドリングするといったことが可能になっていく。スマートフォンに入っているアプリの数だけ法人を持っているという感覚になります。明らかにこちらのほうが便利ですから、そういう意味では従来の会社は無くなっていくでしょうね。

:お金については、決済するのに不特定多数の人と匿名でやりとりをするときはユーティリティーである通貨が一番便利です。しかし、スマート・コントラクトでデータ化されてくると相手が何を求めていて、それを何に使おうとしているかトラッキングできるようになる。「その材料が欲しいんですね。うちなら出来上がったものを提供できます」という世界になる。それでも最初は決済をするのでしょうが、そのうちに決済すると消費税も手数料もかかるから決済そのものをしなくなる。モノとモノ、サービスとサービスをバーターでやりとりできるようになることで、結果として通貨の総供給量は減ると思います。

これまでは物々交換をしたい相手がうまく見つからなかったからお金を媒介してやりとりをしていたけれど、自分が欲しいものを持っている人がアフリカにたった一人いるとしたら、これからはその人を見つけることができるようになる。そうすると、通貨はあまり必要がなくなります。この100年間くらいは、グローバルで匿名のやりとりをするために通貨流通量が一気に増えたんです。それがまた減ってくるイメージを持っています。

できるだけ変な人と付き合おう!

NWF:最後に、今回のテーマである多角的な視点を持つ秘訣を教えてください。

:多角的で幅広い思考というのは多様性だと思います。朱に交われば赤くなると言いますが、人間は環境に影響を受けます。自分の周りの環境づくりというのを意識されると良いのではないでしょうか。毎日同じような人たちとばかり付き合っていると多様性がなくなってどんどん思考が狭くなるので、できるだけ変な人と付き合う。変な人というのは、自分から見るとワケわかんないと思えるような人。そういう人といろんなかたちで出会うのがいいと思います。その変な人を俯瞰して見てみようというときにこの本を読むといいと思います!

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