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気候変動が原因とされる洪水や熱波による災害は、もはや世界的に日常茶飯事となっています。日本も例外ではなく、各地で洪水の被害や40度を超える日が珍しくなくなってきました。今回インタビューを担当したNext Wisdom Foundationプロジェクトフェロー研究員 天野も職業上、再生可能エネルギーの運営開発に携わった後、サステナビリティの経営支援といった仕事に従事する一方で、生活レベルにおいても環境負荷の少ない暮らし方を実現したいと思うようになった人間の一人です。
最近では国内のプラスチック袋の有料化をきっかけに、海洋プラスチックゴミによる環境問題のニュースをよく目にするようになりました。また、日常生活でもちょっとした工夫をしてみようと思った方も増えたと思います。ですが、そもそもなぜゴミを出すことがダメなのか? 世界のゴミの現状はどうなっているのか? 日本は世界と比べてどうなのか…?
世界で起きているごみ問題は、技術革新の結果として大量生産・大量消費が大きく影響し、様々な問題を引き起こします。大量消費されたものはゴミになると焼却されて環境汚染や気候変動に繋がります。また、焼却処理した後の灰は埋立地が必要ですが、その最終処分場が国内では残り50年と言われています。また、最近では廃棄物の輸出入規制が始まり、各国で行き場を無くした廃プラスチックや不法投棄物が海や自然に放置され、様々な生き物たちが影響を受けています。我々の生活と社会を大きく成長させた要因が、今では人間と地球両方を苦しめているのは皮肉なものです。
統計的に見ても、世界銀行によると世界におけるゴミの量は約20億トンを記録、これはなんと世界の人々の体重を合計した3億トンの6倍以上にも当たります。さらに悲しいことにこの量は2050年にはさらに70%増加するようです。世界と比較して日本のゴミの量は0.4億トンと、そこまで多くないのでは? と思いきや、OECDによると日本のゴミの焼却率は世界一位と、焼却時に最も多大なエネルギーを使い、排気ガスを出し、埋立をしている国とも言えます。ゴミが地球環境に及ぼす影響がここまでひどいものとは私も知らずに生きていました。
少しでも目の前のゴミを減らせないかと意識しても、オンラインショッピングで届いた商品はダンボールや緩衝材だらけ。オンラインで物を買わないようにしようと思っても、スーパーで購入した食材も包装だらけ。包装されていない食品が買える店は少なく、ゴミを出さずに自炊をするのは至難の技で、日々出してしまうゴミとどう向き合えばいいのか悩んでいました。そこで出会ったのが徳島県上勝町でのゼロ・ウェイストの取り組み。
この小さな町をきっかけに、我々がゴミをどう捉えていけばいいのかヒントをもらえないかということで、今回上勝町のキーパーソンとして上勝町役場の企画環境課の菅翠さん、上勝町を一躍グローバルにした一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパンの坂野晶さんへインタビューを実施しました。本記事では、第一編として上勝町役場企画環境課の菅翠さんとのお話にフォーカスを当てます。
<ゲスト>
菅翠さん
上勝町役場 企画環境課
徳島市出身。1999年入職。上勝町養護老人ホーム、産業課、出納室等を経て2016年企画環境課に在籍。主に環境関連業務を担当する。
<インタビュアー>
天野恭子
Next Wisdom Foundationプロジェクトフェロー研究員
大阪府出身。大阪市立大学工学部卒業後、大手総合商社にて勤務。会計部署で数字を通して事業運営を知る経験を積んだ後、再生可能エネルギー関連の事業に従事。国内外の太陽光発電所、洋上・陸上風力発電所の新規開発、運営管理などを行う中で、環境貢献とビジネスの両立の難しさを感じ、外資系コンサルティングファームに転職、大企業向けにサステナビリティに特化した経営戦略支援を行う。
自己紹介はこちら→https://note.com/nwf/n/n7038fa7ff624
ゼロ・ウェイストタウン上勝町とは?
上勝町は四国の徳島県徳島市中心部より車で約1時間程のところにある人口約1,500人の小さな町。2003年に国内で初めて「ゼロ・ウェイスト」宣言を行ったのをきっかけに、世界から注目を集めるようになりました。「ゼロ・ウェイスト」とは、無駄・浪費・ごみをなくそうという考え方。上勝町でこの考え方が根付いた背景には、山間地の小さな町ならではのゴミ処理の歴史が大きく関わっています。
資料提供:上勝町役場
第二次世界大戦以前に遡ると、当時上勝町のゴミは、生ごみ・紙・金属・ガラスなどで、金属やガラスは買取回収が行われ、生ごみは家畜のえさや堆肥化、日用品は木や竹で作られていたため、紙類とともに最終的には焚き付けに利用するなど、ごみになるものはほとんどありませんでした。ところが戦後の高度経済成長期になると、上勝町でも徐々にプラスチックなどの工業製品が生活に入り込み、要らなくなった物は自宅の庭先で焼くようになりました。1975年頃から自然発生的に野焼きが始まり、生ゴミのほか、タンス・布団・タイヤ・冷蔵庫や車まで、何でも燃やしていたため悪臭や煙がひどかったようです。
そこで、上勝町ではまず可燃ゴミの中でもっとも重量があった生ゴミの減量を実施。1991年にコンポストの購入補助制度をスタートし、その後電動生ごみ処理機にも拡充。ほぼ全家庭で生ゴミを堆肥化するインフラが整えられた結果、町として生ゴミを燃やさずに処理することができるようになりました。加えて、1994年には「リサイクルタウン計画」を策定。上勝町がリサイクル情報発信基地となるようゴミ処理に関する長期的な目標を設定しました。
資料提供:上勝町役場
国の廃棄物処理法改正で2001年から野焼きが禁止になることを受けて、1998年には小型焼却炉を2基導入したのも束の間、焼却時に発生する有害物質のダイオキシンが問題となり、2000年には2基とも廃炉となります。これを機に燃やすゴミをもっと減らすため、ゴミの分別・リサイクルが加速し、35種類以上の分別が始まりました。この噂を聞きつけて上勝町にやってきたのがアメリカでゼロ・ウェイストを提唱し数々の焼却炉の建設計画を中止に導いた化学者のポール・コネット博士。彼の勧めを受けて、上勝町は2003年に日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」を行いました。
2005年にはNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーが設立され、リユースやリメイクの商品などを扱うショップの運営をはじめ、町が指定するゴミの分別に対してポイントを付与し、日用品などと交換できる仕組みを導入。ゼロ・ウェイスト認証(※)という取り組みも始まり、個人商店や企業におけるゼロ・ウェイストの取り組みを評価し見える化することにより、学びに来た人たちがお店を訪れるという経済効果も生まれています。2017年には当時ゼロ・ウェイストアカデミーの理事をされていた坂野晶さんが2018年のダボス会議において理事を務めたこともあり、国内外問わずさらにメディアからの注目を集めるようになりました。
資料提供:上勝町役場
上勝町の次のゼロ・ウェイスト目標
上勝町では2020年までの目標として、3つの項目を掲げていました。
①地球を汚さない人づくり
②2020年までにゴミの焼却・埋め立てゼロ
③地球環境をよくする仲間を世界中に
資料提供:上勝町役場
②の焼却・埋立ゴミを完全に無くす(つまりゴミゼロ)の取り組みは80%まで達成、100%はかなりハードルが高く達成には至らなかったようです。①、③の人づくりの部分についても現状取り組み中ながら、明確な達成とは言えない中で2030年の目標は下の3つが掲げられました。
①ゼロ・ウェイストで暮らしを豊かに
②あらゆる実験・チャレンジで再びごみゼロへ
③ゼロ・ウェイストや環境問題を学べる仕組みをつくり、リーダーを輩出
改めてごみゼロを宣言し、人々のウェルビーイングや教育に焦点があたった宣言となっています。これまでのハードル、目標設定に至った経緯などを、上勝町役場企画環境課の菅翠さんにお伺いしました。
資料提供:上勝町役場
今までで苦労したポイント、将来の上勝町の姿
ここまでゼロ・ウェイストタウン上勝町の概要や歴史、ゼロ・ウェイストの目標などをご紹介しましたが、ここからは2020年の目標に向けて苦労したポイント、2030年の将来の目標に向けての展望をさらに詳細に上勝町役場の菅さんへお伺いしました。
NWF研究員プロジェクトフェロー天野恭子(以下天野):2020年の目標を掲げてみて、実際にいかがでしたか?
上勝町役場 企画環境課 菅翠さん(以下菅):焼却埋め立てゴミ削減も80%までは達成出来たのですが、なかなか100%とはいきませんでした。次の2030年目標の宣言で、ここを解消していきたいと思っています。そのため、人づくりや企業連携についても、昨年新たにできたゼロ・ウェイストセンターを拠点として、一緒に活動してくれる仲間づくりを進めていきたいと思っています。
天野:住民によってすでに45種類もの分別作業を実施しています。(※「上勝町のゴミの回収方法」後述)分別されたゴミを処理するリサイクル業者との連携が非常に重要だと思いますが、現在リサイクル業者はどの程度来ているのでしょうか。
菅:実際に取引している業者は10社くらいで、種類にもよりますが、週1回から半年に1回程度引き取っていただいています。それまでは分別したゴミをゴミステーションでストックしておく必要があります。45種類と分別数は多いですが、業者の方には金属は金属系、紙は紙類でまとめて回収していただいてます。
天野:なるほど、では保管期間が長いゴミについては資源の質が保たれるよう、住民の方に協力いただく必要があるということですね。
※「上勝町のゴミの回収方法」
上勝町では、普通の町と同じようにゴミ収集車が回収するのではなく、住民自ら資源分別ガイドブックに沿ってゴミステーションまでゴミを運び、分別する仕組み。住民のみなさんに積極的に協力してもらえるような細かな配慮、仲間づくりが重要となってきます。
上勝町におけるゴミ収集の仕組み。生ゴミは上記でお伝えした通り各家庭の生ゴミ処理機(コンポスト等)で処理されるので、それ以外をゴミステーションに各自で持ち込むことになります。ただし車がない、持ち込みができない事情がある高齢者の世帯へは運搬支援事業も行なっています。
資料提供:上勝町役場
上勝町のごみの分別方法。上記13種類がさらに細分化され、45種類の分類がガイドブックには記載されています。
資料提供:上勝町役場
天野:上勝町の過去の歴史を紐解くと、野焼きのゴミ処理廃止→焼却炉の整備と廃炉→ゼロ・ウェイスト推進→認証制度・企業連携へと進んできていますが、80%のゴミ削減に至るまでに最も苦労されたポイントは何でしょうか? また残り20%の今後も苦労することはなんだと考えられますか?
菅:現在80%までリサイクル率が上がっていますが、焼却ゴミの組成調査を実施したところ、まだ約4割は資源化できることがわかりました。しかし、分別については十分にご協力いただいている中、あまり厳しくしすぎると分別が嫌になってしまい、ゴミステーションに出しに来なくなる可能性も高まってしまいます。また、同じプラスチックでも容器包装と製品プラに分別をしているのですが、高齢者には違いが分かりづらいために混じってしまうことがありますし、単純にプラマーク(プラスチック製容器包装識別表示マーク)での分別だけでなく汚れ具合でも分かれるため、住民との共通認識をより簡単に持つ方法を模索しているところです。
容器包装を汚れ具合で分けるのには理由があり、上勝町では排出量が少ないがために半年間ゴミステーションで保管しています。有機物や水分が残っていると、保管している間にカビが生えて資源としての価値が下がってしまうため、容器包装の分類に入るものは特に念入りにチェックしています。しかし、「きれい」の基準は人によって異なるので、細かな分別ルールの設定と住民のモチベーションとのバランスを取ることが難しいと感じているところです。
天野:住民の方々に進んで分別をしてもらうための仕組みやインセンティブはありますか?
菅:代表的なものは「ちりつもポイントサービス」と呼ばれる住民へのポイント還元です。これは資源化に協力してくれた方へポイントを付与し、対象商品と交換できるようにするというものです。
資料提供:上勝町役場
資料提供:上勝町役場
また、ゴミステーションやリユース・リサイクル施設を通じてコミュニテづくりも促進しています。昨年5月末に開業したゼロ・ウェイストセンター「WHY」は、ゴミステーションに加えて、ホテル・コミュニティホール・リユースショップなどを併設した環境複合施設となっています。
ほぼすべての住民がゴミステーションへの持ち込みと分別に協力してくれており、特に環境への関心が高い方は、何もなくとも積極的に参画してくれています。このことに感謝をしつつ、多分別の弊害として大半の住民が感じている、分別に対する面倒くささや大変さといった住民負担。この負担感を少しでも軽くし、快くごみ出しができるよう、行政としては分別数の減量策や、更なるインセンティブの設定、環境教育などを通じた環境意識の底上げに尽力していきたいと思っています。
天野:環境教育や人づくりが今後重要になってくるとすると、やはり分別に協力いただく住民の方々との共生が非常に重要ですね。一方で、ゴミゼロに対してネガティブな印象を持たれている住民の方へはどのようにアプローチしていますか?
菅:過去にゴミステーションで誰がどういう頻度でゴミ出しに来ているのかを3ヶ月調査したことがあるのですが、3ヶ月間全くゴミ出しに来ない方も少数ですがいらっしゃることがわかりました。何らかの方法で処分していると考えられますが、これも、上記の取り組みを推進することで解決していけるのではないかと考えています。具体的には、2030年に向けた目標を達成するにあたって分別を改善するための住民へのアンケートや調査も積極的に行い、この調査結果を受けて制度を改善していきたいと思っています。
天野:住民の意見を取り入れることで、誰一人取り残さない環境づくり、ゴミゼロを今度こそ達成できればいいですね。行政としてはコストも気になる部分かと思いますが、現状一番お金がかかっているのはどういったものでしょうか?
菅:一番金額が大きいのはスタッフの人件費です。ですが、これはゼロ・ウェイストを推進する上でなくてはならないものだと考えています。上勝町では収集コストはなく、ごみ処理に関するコストについては、焼却ごみの単価が一番高いです。全く分別しなかった場合の処理費と比べると、約60%の経費を抑えることができています。ゼロ・ウェイストを推進することで他の行政サービス拡充に貢献できているということを住民に分かっていただけるよう、取り組みを進めていきたいと思っています。
天野:分別推進を取り組まれた中で、住民のマインドチェンジは肌身で感じられましたか?
菅:昔は分別がなかったので、家庭のゴミ箱はとても汚く、野焼き場では一日中黒い煙が立っていました。今は家庭から排出された生ゴミ以外のゴミはゴミステーションに集められ、きれいに分別されています。住民の中にはゴミが混ざると汚いと感じるという気持ちが出来ており、例えば、ペットボトルは飲んだらキャップとラベルを外し、本体は洗って乾かして出すというルーティンは多くの住民の暮らしに組み込まれています。住民の間では既にゴミの分別が当たり前の習慣として根付いているので、今後は「出たゴミをどう処理するか」ではなく「そもそもゴミを生み出さない」ため、ごみの出にくい買い方や物の選び方などの啓発活動に注力していきたいと思っています。
一方で、カフェやレストランといった事業者さんは積極的にゼロ・ウェイストを取り入れることで、環境負荷を意識されるようなお客さんが増えるというメリットがあるようです。また、ゼロ・ウェイストで連携したいと言ってくれる企業が増えたり、クラフトビールや木糸タオルなど新たな業種も増えてきました。ゼロ・ウェイストセンターという拠点ができたことで人の流れも増え、ゼロ・ウェイストの文脈ではなくオシャレだからというアプローチで来てくれる人も増えました。
上勝町ゼロ・ウェイストセンター(画像出典:阿波ナビより引用 https://www.awanavi.jp/spot/36155.html)
ゼロ・ウェイストを都市部において、どのように実現できるか
天野:ここまで上勝町での取り組みをお伺いしてきましたが、記事を読んでいただく方には比較的都市部にお住いの方もいらっしゃいます。ゼロ・ウェイスト活動を都市部において、どのように実現できるのか、アイディアはありますか。
菅:そうですね、実際のところ、くるくるショップなど部分的には都市部でも十分取り入れられることはございますが、上勝町と全く同じやり方を都市部に当てはめてもうまくいきません。地形や人口規模、年齢層など、その地域にあったやり方が必要となってきますし、上勝町も町に合った方法を模索し、実験を繰り返しながら少しずつ取り組みを進めてきました。ゼロ・ウェイスト宣言をされている自治体は上勝町以外にも4か所ありますし、宣言をしていなくてもゴミ問題に積極的に取り組んでいる自治体もありますので、自分の住む所と規模の近い自治体の取り組みを参考にすると良いと思います。
平成18~29年度の12年連続と令和元年度でリサイクル率が全国トップの鹿児島県の大崎町さんでは、27品目のゴミ分別を住民と力を合わせて進めながら、町内全ての生ゴミを堆肥化する有機工場を整備し、志布志市と共同でリサイクルセンター立ち上げて、広域でリサイクルに取組むことで埋立地の延命や財政負担の軽減に取り組み、さらにはサーキュラービレッジを目指したまちづくりを進めています。
また、ゴミ処理の画期的な方法として香川県三豊市のトンネルコンポストというものがあります。トンネルコンポストとは、一般家庭と事業者から集めた可燃ごみを粉砕し、微生物の力で生ごみなどの有機物を発酵・分解させ、発酵残渣(紙やプラスチックなど)を固形燃料の原料にする方法です。ごみと混ぜ合わせる微生物は、特別な菌などではなく、発酵処理したごみを循環利用しています。住民への分別負担がかからないので、住民の意識を大きく変えずとも社会的な仕組みで解決を図れるような事例です。
上勝町以外にゼロ・ウェイスト宣言済又は積極的なゴミ対応を行う代表的な自治体一覧
(拡大して見る)
ネガティブだけでない人が住むことによるポジティブな変化
天野:少し話が変わりますが、ゴミのお話を聞いていると人間が存在するだけで住む場所へ環境負荷をかけてしまうような気がします。逆に人間が住むことによって再生が進むといった、ポジティブな流れは作れるものなのでしょうか。
菅:人間が住むことによって創り出されたものとして、棚田のような景観が美しい自然は大事に保全しなければならないと思っています。上勝町には「樫原の棚田」と呼ばれる江戸時代から土地利用形態変わってない場所があるのですが、棚田の後継者がいないことからこうした人の手が入った景観の美しさを維持するのが難しい状況になっています。
上勝町内の樫原の棚田(画像出典:阿波ナビより引用 https://www.awanavi.jp/spot/36155.html)
天野:一見人の手が入っているので自然の景色ではないという風に捉えられるかもしれませんね。
菅:人が住む以上は食べるための畑であったり住む場所が必要となってきますが、ひとたび人の手が入った場所でも耕作放棄地が増え、草が生い茂ると、鹿やイノシシ、猿による被害が増えることもあります。自然との共生(※)という観点ではどう捉えるか難しい面もありますね。
※人間と自然との共生という観点で捉える、”SATOYAMAイニシアティブ”という考え方
棚田のように人間の営みにより長い年月にわたって維持されてきた二次的自然地域は、人の福利(=human well-being)と生物の多様性の両方を高める可能性があるとされており、日本の環境省と国連が共同で2010年10月のCOP10(生物多様性条約の10回目となる締約国会議)にて”SATOYAMAイニシアティブ”として国際的に重要であると提唱しています。同イニシアティブでは土地と自然資源を最適に利用・管理することを通じて、人間と自然環境の持続可能な関係の再構築を目指そうとしています。現在もSATOYAMAイニシアティブ国際パートナーシップ(IPSI)が自然共生社会の実現を目指すため各国と活動を行なっています。
天野:初めは行政課題の解決としてゼロ・ウェイストが始まったのだと思いますが、2016年のゼロ・ウェイストタウンの計画策定後に世界の視点が入ったり町外からの人の流入もあったりと、様々なポジティブな変化が起こったのではないでしょうか。住民の方々はこの変化をどういう風に変化をとらえていますか?
菅:今まで住民の方は自分たちがやってることは特別ではないと感じていたと思いますが、外部から注目が集まるようになってから「実は私たちがやっていることはすごいことなんじゃないか?」と意識が変わり始めている気がします。一方で「町外だったらこんなに分けんでもいいのに。」という意見を持たれる方もいらっしゃいますが……。
上勝町ではごみ処理に関する問題が表面化する前から既に過疎や高齢化の問題が出ており、住民も行政もそれぞれが意識を変えなければこの町はダメになるという危機感がありました。その上で、住民は自ら行政に要望を伝えて変えてもらう、行政も住民に考えを押し付けない、という意識が出てきたと思います。実際に職員と住民を対象とした「1Q運動会」という研修を行なったのですが、これは一休さんのように住民と職員が一緒にとんちを出し合って課題を解決する、また住民一人一人が1 Question(疑問)を持って物事を解決する姿勢を示す、というコンセプトの人材育成研修です。住民から自分たちの集落をどうしたら良くなるか案を出し、自ら実行することにより、自分たちの町は自分たちで良くしていくんだ、という意識が芽生えたと思います。ゴミの問題が出た際もこれを「まちづくり」と捉えられたので賛同が得られたと考えています。
天野:以前ゼロ・ウェイストアカデミーの理事をされていた坂野さんが2018年のダボス会議において共同議長を務めたことから、グローバルからの上勝町への関心が増えたと思いますが、行政として脱プラや環境への理解はどう進みましたか?
菅:近年特に海のプラゴミ問題が話題となっており、町内ではプラスチックや容器包装削減のため、ノー・レジ袋キャンペーンや量り売りの普及などを推進しています。マイバッグ持参についてはほぼ習慣化しましたが、量り売り利用については環境問題に関心の高い一部の住民の間でしか広がっていない印象です。上勝町内には小さな商店しかないので週末に町外の大型スーパーに買い込みにいくというのが習慣になっており、それがレジャーの要素も兼ねているため、住民の楽しみを尊重したうえでどのようにプラスチックゴミの削減を図っていくかを検討していく必要があります。そして、切り口は「ごみ問題」かもしれませんが、突き詰めていくと、買い物や移動手段、最終的には暮らしに関わること全般に解決すべき課題があることが見えてきます。
上勝町ではこれまでの取り組みの中でローカルだからこそできること、一方でローカルだからできないことを明確にしてきました。現時点での町内における限界も坂野さんは特に感じていらっしゃったのではないでしょうか。上勝町は小さいからこそできないこともたくさんあります。この辺りは、是非坂野さんにも詳しく意見を聞いてみてほしいと思います。
考察
環境問題は地球規模の課題と言われていますが、上勝町におけるゼロ・ウェイストは環境問題という大きな課題から紐解くというよりも、過去国から設定された新たな環境規制や小さな町における財政コストへ最適な対応を進める中で、自然と地球全体規模の課題に寄り添う形で実現したと言えるかと思います。
巷で良く聞く「Think Globally, Act Locally」ということばは、地球規模で考え→地域で行動しようという順序で語られますが、上勝町はその逆で、地域で行動して→地球規模で考えようという順序になっています。今後上勝町はゼロ・ウェイストという強靭なローカル基盤を活かし、町の取り組みをどんどん国内や世界中に知ってもらうことで上勝町における現状の課題である高齢化・過疎化を解決するような人材やヒントを吸収する大きなチャンスがあると感じました。
一方でゼロ・ウェイストの取り組みは、様々な立場の方にとってもメリットになり得ます。行政にとっては財政を圧迫するゴミ処理コストを解決するため、最も最適なゴミ処理施設や分別のあるべき姿を再考するためのヒントとなるかもしれません。事業者にとっては今後増えていくグリーンコンシューマー(環境意識の高い消費者)を意識したフードロス対策がプロパガンダとして機能し、売上アップに繋がる可能性があります。個人としても自分が住む自治体や団体のゴミの分別方法を詳しく調べてゴミの出し方を変えてみると、近くの分別コミュニティでクーポンが見つかったり、面倒なゴミ出しの回数が減ったりするかもしれません。(お家で生ゴミコンポストは難しくても、干して小さくするだけで臭くなくなったりゴミ袋を沢山消費せずに済みます)
私自身も以前は商社の人間として世界中で大型の太陽光発電所、風力発電所の事業に携わってきて、現在も大企業へサステナブルな経営支援を行うコンサルティング業を行なっていますが、規模が大きいが故にThink GloballyはあってもAct Locallyは難しく感じることがありました。
上勝町が苦労したゴミ処理コストの増加、環境規制への対応は、私たちの住む自治体においても現在も直面している課題です。例えば、環境省によると東京都の最終処分場の残余年数は残り20年弱しかないのですが、20年で対応を大きく変えるのは用意ではありません。(参考「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和元年度)について」)実際に直面したときに焦らないよう、行政・事業者・個人それぞれの立場の方の心づもりが大事になってくるのではないでしょうか。そのためのきっかけとして、「ゼロ・ウェイスト」という考えが広く人々に知れ渡るといいなと思います。