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Next Wisdom Foundationでは、2017年度のテーマを「オフグリッドの世界と、その可能性」としてイベントを開催してきました。
「モノ」や「コト」が国境を越えてシームレスに行き来する中で、わたしたち「ヒト」はこれからの技術進化によりどこまでグリッドから解放されるのか。テクノロジーという観点だけでなく、思想、文化、エネルギー、環境等あらゆる視点から考察し、そのために必要になるであろう叡智を掘り起こしていきます。エネルギー編Vol.1では、3人のゲストに多角的に話を伺いましたが、今回はゲストとエネルギーの未来についての可能性を探っていきます。
*エネルギー編Vol.1はこちらhttps://nextwisdom.org/article/1976/
<ゲスト>
自然電力株式会社 代表取締役
磯野謙(いそのけん)氏
大学卒業後、株式会社リクルートにて、広告営業を担当。その後、風力発電事業会社に転職し、全国の風力発電所の開発・建設・メンテナンス事業に従事。2011年6月、自然電力(株)を設立し、代表取締役に就任。2013年1月juwi(ユーイ)自然電力株式会社設立。主に新規事業を担当。自然電力ファーム株式会社代表取締役も兼務。長野県生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。コロンビアビジネススクール・ロンドンビジネススクールMBA。
城南信用金庫 顧問 / 城南総合研究所長
吉原毅 (よしわら・つよし)氏
東京都大田区出身。昭和48年麻布学園卒、昭和52年慶應義塾大学経済学部卒、同年城南信用金庫入職、平成4年理事・企画部長、平成8年常務理事。懸賞金付定期預金などの新商品の開発などに従事、平成10年常務理事・市場本部長。その後、事務本部長、業務本部長を歴任し、平成18年副理事長、平成22年理事長、平成27年相談役、平成29年顧問。その他、城南総合研究所長を兼務。著書:「信用金庫の力」(岩波ブックレット)、「城南信用金庫の『脱原発』宣言」(クレヨンハウス・ブックレット)、「原発ゼロで日本経済は再生する」(角川学芸出版)など。
3.11をきっかけに『自然電力』を起業
磯野:『自然電力』は2011年の6月に創業して、2018年で8年目に入りました。創業が震災の3ヶ月後ですね。私自身、自然エネルギー(再生可能エネルギー)の業界に15年くらいいまして、この会社を作る前から風力発電の事業をしている会社にいました。当時の日本は再生可能エネルギーが重視されず悶々としていたのですが、2011年の3月に福島県の原子力発電所の事故を見て、自分が信じていたことは正しかったと思いましたし、本当に自然エネルギーが中心になる社会をどう作るか真剣に考えざるを得なくなりました。お金も何も無かったのですが、そこではじめたのが、『自然電力』という会社です。
事業モデルとしては小さな電力会社のようなもので、発電所を自分たちで一から作って運営しています。電力会社というのは、発電・送電・販売という3つの機能があるのですが、ちょうど電力の販売事業も始めたところなので、送配電以外はやっている電力会社です。
いま事業としては自然エネルギー全般を手掛けていて、太陽光発電だけでもトータルでだいたい原発1基分くらいの発電規模になるプロジェクトを国内外で行っています。太陽光の他にも、川の流れを使った小水力発電を長野県で着工したり、三重県のバイオマス発電に出資していたり、風力発電も佐賀県唐津市で運転中です。
海外では、経済産業省のフィリピンの電力分野におけるアクションプランという資料の中に入っていますが、フィリピンにミンダナオ島という島がありまして、その北部で風力発電のプロジェクトをしています。
ローカルでグローバルな再生可能エネルギー
磯野:私たちは長期的な目標がなければエネルギーの問題は変わらないと考えています。2011年3月の事故の後に起業した一番の理由は、「誰が責任をとっているのかよく分からない」ということ。未来への責任を、誰が持つのか? ということを考えています。
私は、東日本大震災のとき30歳で、少なくともあと20〜30年は生きている可能性が高いので、「政府が悪い電力会社が悪い」とあまり他人のせいにしないで、自分たちの手で自分たちのできることをやっていきたいなと20年計画を作って、この会社を始めました。計画では20年を5年で4つのステージに区切っていまして、現時点ではステージ2にいます。また、フィリピンやブラジルで事業を始めようとしているのですが、電力の足りない地域の電源が原子力とか化石燃料の発電所にならないように、自然エネルギーの発電所を増やしていきたいと思っています。
特徴的なのは、エネルギーの問題は実はローカル、ドメスティックな分野ということ。「地域」というものが非常に大事です。そして世界でのノウハウも大事です。僕は、それらを組み合わせた組織にしたいと思っています。いま社員が150人くらいいるのですが、世界中の20カ国弱からメンバーが集まっています。
関連会社で建設会社も持っています。そこにはベテランのおじさんたちがいます。日本には宝のようなおじさんがたくさんいるんです。いま60代の方々は、日本が急速に成長した時期に、世界的な事業をやってきた人たちです。世界中にプラントを作ったり、道路を作ったり、そのような経験を持った人たちに社員になってもらって、発電所を物理的に建設することも行っています。
自然を破壊しながら自分は生きている
磯野:私が最初に入社した会社はリクルートというところですが、人生の一番の転機は入社する前、大学4年生のときに世界中を旅した時です。南米にあるベネズエラにロスロケスという離島があり、そこは素晴らしい場所です。その島は水がきれいでマングローブの根のそばで魚が泳ぐのも見えたんです。
僕はいろんな世界を旅したんですが、そんな場所を見たのは初めてでした。でも調べてみると、その島は石油開発によって、自然がどんどん破壊されていることがわかったんですね。そんなこと考えたことも無かったのに、自分たちが日々使っている石油や電気などのインフラが自然環境を犠牲にしながら成り立っていることがわかったんです。何かを破壊しながら自分は生きているんだな、このままでいいのかな? とぼんやり考えながらアフリカやカンボジアなど世界中を回っていました。
そういう原体験をしてリクルートに入ったのですが、理想と現実は全然違っていました。「週目標」というノルマや、お客さんの獲得数を日々負わされる。いま考えれば面白い会社だったし、今でもそのときの仲間がいますし、いい経験をさせてもらったのですが、こういう世界に入ってこんな営業していて何になるんだろう……? と思って2年で辞めて、そこから僕の迷走が始まりました(笑)。
風力発電との出会い、波がいいところは風もいい
磯野:会社を辞めた後はずっとプラプラしていました。3、4年は鹿児島県の屋久島に住んでいろいろやっていたんですが、どれもこれもうまくいかなくて。最後にお金が無くなって、本当にどうしよう、というときに出会ったのが風力発電の事業だったんです。風力発電のベンチャー企業に出会って、本当に衝撃を受けました。売上げを上げれば上げるほど社会的な価値があると信じられるし、同時に大きな経済的インパクトもある。エネルギー事業の規模の大きさ、すごさに気がつきました。
その風力発電の会社を立ち上げた社長は商社出身で、2009年の時点で日本に100件くらいの風力発電の事業をしていました。その中に入ってがむしゃらにやっているうちに、発電所をゼロから作る方法を覚えたのが僕の20代でした。
僕は学生時代からずっとスノーボードとサーフィンをしているのですが、波がいいところは風もいいんです。僕たちが手がけている日本のプロジェクトは、宮崎とか鹿児島など九州に集中しているのですが、実は全てサーフィンスポットなんですね。世界でやっているプロジェクトも、フィリピン・台湾・ブラジルなどどれも最高のサーフィンスポットです。
いい波があるところだったら仕事をやろうと。自分が本当に楽しいなと思う仕事が再生可能エネルギーだし、僕はこれが天職だと思っています。それが会社のカルチャーになっていて、今は海や山などアウトドアをやっている社員がすごく多いんです。
そういうことを大事にしていると自然との接点というのがよく分かります。その感覚というのを持ち続けないと、ただの金融商品になってしまう。自然との共生をどうするか、ということを大事にしながら事業を行っていて、社員もそういう思いを大事にしています。
株式会社ではない金融機関、信用金庫のなりたち
吉原:城南信用金庫の顧問をやっています吉原と申します。2年前まで理事長をやって、そのあと相談役を2年、今年から顧問をしています。
私は信用金庫にずっと勤めていたんですが、理想の会社をつくろうと前のトップを解任して、私がトップになりました。協同組合から発展した信用金庫という組織は人を幸せにするための会社なんだ、利益を目的としてはいけない、ましてや自分の出世や地位、金が目的で仕事をするようでは絶対に良くない、ということで抜本改革をしたんです。
城南信用金庫は、人と地域を幸せにするために、115年前にできた会社です。私どもの会社をつくったのは千葉県の最後のお殿様で、旧一宮藩主で鹿児島県知事を務めた加納久宜。当時ヨーロッパで大変話題になっていた協同組合というものを日本に導入しようと、協同組合の中央団体である大日本産業組合中央会という組織を作った方です。農協、生協、信用金庫、すべて協同組合です。
アダム・スミスという経済学者が『国富論』という本の中で「上場株式会社はろくなもんじゃないと」と書いているんです。大企業の方々を前にして言いにくいのですが、上場企業の難しさがあるというのはご当人の方々はお分かりかと思います。株主が強すぎるんですね。
グローバル資本主義の時代に、信用金庫の役割が高まっている
いまのようなグローバル資本主義になると、昔の日本的経営ができたような時代とは違って、資本がどんどん海外の人に持っていかれてしまうんです。「海外の人が買ってくれる」と言うこともできますが、その代わりに彼らの意見を聞かなくてはならなくなる。そういう株主たちは日本の国のことや地域のことなんて考えてくれない。そうなると、とにかく利益を上げればいい、そんな悪い株主の方も増えてくるんです。彼らを説得するのに経営者が大変苦労していると思います。
現実にそういうことになると、イギリスでは資本主義がスタートしたばかりの17世紀に上場株式会社がお金を集めて相場を使って国債を買って儲けたり、不祥事ばかり起こして困るということで、1720年に「ザ・バブルアクト」という法律ができて上場株式会社は許可制になったんです。松下幸之助さんも言っていますが、利益を目的とすると視野狭窄になるんです。目先のことばかり考えるようになりますし、目先をごまかしてしまおうという誘惑にかられます。
そうなると自分を守るために、その会社の目的や仕事の目的ということを二の次、三の次にしてしまうんですよ。社員を成果ばかりで競わせると、不正に手を染めたりサステナブルでないことをやってしまいがちなんですね、それがまずいということです。でも会社や社会というのは、人間が生きて子々孫々に伝えていくわけですから、短期と長期でミスマッチになる。
基本的にマーケットというのは利害調整のための一つのシステムに過ぎないので、人間的な価値観や深い知恵というものが見過ごされて、どんどん小さくなっていくんです。それはまずいということで、もっとコミュニティや共同性を考えようと言い出したのが ロバート・オウエンという空想的社会主義の思想家です。近代社会の弊害というものを指摘したということで、カール・ポランニーという経済人類学者が1944年に『大転換』という本で大きく評価しました。
そういう時代の中で協同組合というのはコミュニティ経営、つまり出資額に関係無く一人一票の平等な原則で、話し合いで経営をしようと自分たちで出資して自分たちで経営して自分たちで働いて自分たちで利益を得て、地域の顔の見える関係の中で、人間的な社会を大事にする、そういう事業活動をやっていこうとしました。
信用金庫は地域の助け合いのための金融機関
信用金庫の事業はそもそも公益事業、地域の助け合いのための金融機関なんですね。もともと金融機関というのは困った人を助けたり、みなさんの夢の実現を応援することが仕事なんです。ところが、自分の利益上げることが目的になると、悪いと知っていながらデリバティブなどの相場商品を売ってお客さんを熱狂させて利幅を取ったり、どうでもいいようなカードローンを売り込んで高い金利を取って利益を上げることが横行しているわけです。
私たちはそうではない、間違った金融機関の姿を変えよう、コンシステントな考えを持ってサステナブルな経営をやろうとしています。
再生可能エネルギーは儲かる!
私が取り組んでいる原発問題にも関係するのですが、大衆社会的状況に日本は特に陥りやすい。明治維新以降ずっと大衆社会化が進んで、とうとうここまで来たか、という感じです。原発は明らかにコストが高い、明らかにサステナブルでない、資源エネルギー量としても石油より明らかに少ないんです。コストが安いなんて大嘘で、経済学者で原発のコストが安いなんて言う人はひとりもいません。安全保障のリスクも高い。そんな中、自然エネルギー(再生可能エネルギー)が、世界でがんばっているんですよ。
いま世界の原発の発電能力は年間400ギガワットで10年くらい横並び、稼働率は半分以下です。その間に自然エネルギーは数年間で800ギガワットまで増えました。つまり原発の倍程度の速度であっという間に増えたんです。いま自然エネルギー化を進めているのは中国、そしてアメリカです。ゼネラル・エレクトリックは、原発は日本に押しつけて自分の国ではやってないんですね。中国は自然エネルギーを85%にする計画を立てています。既に世界の再生エネルギー割合は40%を超えていて、キロワットあたり3.5円で発電しています。
日本でもおそらく6〜7円でできる。だからキロワット21円のFIT(固定買取制度)では絶対に儲かるんです。では、なぜ日本で他国ほど導入が進まないかというと、実は世界の5倍くらいの導入コストがかかっているから。EPC(システムの設計・調達・建設)の会社さんや家電メーカーが世界の5倍くらいの値段で販売しているということです。
そのような状況にも関わらず、日本は民主党の野田政権の時に原発ゼロをやろうとしたら、アメリカから原子力協定違反だと反対されて、三日三晩の交渉の末に断念したそうです。それが今の日本の現状ですね。日本にリーダーが不在というのは当たり前で、日本にとってはリーダーがアメリカなんです。ですから、こういう状況をいかに打破して、日本の経済と社会をなんとかしなければならない、そう考えています。
「原発は安い、再エネは高い」というウソ
(以下、ディスカッション)
事務局:実際のところ自然エネルギーって高いんですか? 安いんですか?
吉原:特に太陽光は圧倒的に安い。一方で原発はとてつもなく高いです。使用済み核燃料処分のコストを入れると天文学的と言ってもいいし、事故が起きたら終わりですz。太陽光は化石燃料と比べてもはるかに安いです。私の実感値ですと、いま1キロワットの工事費は10万円を切っています。8万円でやった例もある。それで仮に計算すると、キロワットあたり5~6円で20年間発電して、そのあとはタダで5年間発電できる。
磯野:この資料は資源エネルギー庁の調査会で「縦軸がKWhあたりのコストで、原発が一番安いですよ」と主張されたときの資料です。ただ、いま太陽光発電の電気が高いかというと、これは平成27年の資料で、ブルームバーグの調査によると、太陽光パネルの価格は過去10年で10分の1になっています。日本のEPC業者のプラント工事費は高いのですが、我々のグループ会社はドイツの会社と合弁会社で、世界中で事業をやっているので世界中のコストが見えます。なので、吉原さんのおっしゃるとおりで、太陽光は最も安い電源になりはじめています。風力発電はこの10年でコストが半分になりました。
エネルギー事業はもともと「燃料をどう分配するか?」という事業なんですね。今までの原子力や火力による発電だと、どうしても限られた燃料を確保しないといけないので巨大な国家事業になってしまう。しかし再生可能エネルギーはそのような「燃料のビジネス」ではなく、「技術のビジネス」なんです。だから限られた燃料の取り合いじゃなくて、誰がイノベーションを起こすか、というITの世界に近いんです。
出展:発電コスト検証ワーキンググループ(平成27年5月)の資料をもとに作成
自然エネルギーに必要なのは、建設のイノベーション
磯野:自然エネルギー財団の資料によると、例えば太陽光発電のコストが、巨大な砂漠で何も無い地域で3セント前後、3.5円くらいというデータです。ではなぜ日本で安くできないかというと、理由は建設コストです。世界的には太陽光パネルなどのモジュール(機材)の価格はどんどん下がっていて、自分たちが5年前に購入した価格の2/3から半分くらいに、日本の中のモジュールはグローバルよりも相対的に高かったのですが、いまはグローバルコストに近づいています。一方で建設コストのイノベーションが日本には無い。建設業界のイノベーションがまったく起きずにガラパゴス化しているので、ここをなんとかしなくてはいけないと思っています
私たちはブルガリアの会社にお願いをして、日本で建設コンサルをしてもらっているのですが、彼らから言われたのは「日本人は何でこんなに働かないんだ?」ということです。お昼休みがあって、3時の休みがあって、5時の休みがあって、その間にタバコ休憩があって……生産性が低いと。日本はGDPでは大きく見えますが、生産性は非常に低くて、他国と比べるとまったく勝てる状況ではない、というのが産業界の現実で、それがこのヘビーコストに跳ね返ってきています。
*自然エネルギー財団の資料より
事務局:安定供給という点で、自然エネルギーに課題はありませんか?
磯野:安定供給は確かに大きな課題です。バッテリーの性能も上がっていますが、EUの事例などを見ていると、ヨーロッパでは発電と送電が分離されていて、送電線を管理しているTSO(送電事業者)の存在もあり、システム全体で安定させていますが、日本では電力会社のグループ会社がまだ送電をしています。EUと比較して日本はドラクエで言うとまだレベル4くらいで、蓄電のことを考えなくても、まだ伸びしろがあります。
日本で再生可能エネルギー普及が進まない理由
事務局:自然エネルギーを普及するにあたって一番困難なことは何ですか?
磯野:全員の合意を得ることができない、というのが一番難しいですね。再生可能エネルギー事業は、実際のところ不動産と建設業の組合せなんです。たとえば、あるビルを建てるときに周りのすべての人が賛成するかというと、反対する人もいる。太陽光パネルや風車を設置する時も同じような問題がやっぱり起きる。そこの合意を得ていくのが難しいです。
地球温暖化や気候変動などのグローバルな環境問題と、騒音や景観、バードアタック(設備に鳥がぶつかる現象)とかローカルな環境問題には必ずギャップがあって、そこを我々は埋めていかなければならない。いま私たちが計画している風力発電所は20〜30基あり、浜松市や鳥取市では国の法律に則って環境アセスメントをやっていますが、全国から反対意見が来ます。最近こういうコミュニケーション場でそういう事実を伝えなくてはいけないと思っています。
再生可能エネルギーで、原発をやめよう火力を減らそうというソリューションを本当に作っていくと、いま言ったような問題に直面するし、でも誰かがやらなきゃいけなくて、そこから逃げてしまうと、結局今のまま何も変わらない。その難しさはあると思います。そういったところは地元の方もそうだし、メディアの方ともお付き合いしながら、どうやって再生可能エネルギーを受け入れる社会を作れるのか話しています。
吉原:やっぱり原子力ムラの防衛ってすごいものがあると思うんですよ。たとえば固定価格買取制度というのが2011年にできた。最初は法律の施行としては、再生可能エネルギーを優先的に電線に接続して売りなさいという法律の運用だったんです。でもそれを途中で変えたんですね。電力会社が「早いもの勝ち」にしたんです。
その結果、電力会社が何をしたかというと、いま停止している原発がこれから稼働する可能性があるから送電線の容量をまず先取りする。その次に、これから建設するかもしれない火力発電所の計画の分を取ってしまう。「空き容量がほとんどありませんから、自然エネルギーを送電するのは無理ですね」と、こう来るんですよ。
「自然エネルギーは波がありますから、この波が一瞬でも設備容量を上回ると設備に決定的なダメージが来ないとも言えません」という理科系の人間が考えそうな話を作って、結局すべての送電の空き枠を取った上で、自然エネルギーの変動分があったら「ダメだよ」と言ってさらに切ったんです。これをなぜ途中から変えたかというと、原子力ムラは電力会社、経産省と役人と政治家、マスコミ、鉄鋼会社、大銀行など莫大なお金が動いているから、自分たちがダメージ食いたくないということですね。
原発というものは明らかに世界的に見てもコスト高いし、リスクが高いし、資源量としても大したことない。そういう理由で世界では全面的に転換してるのに、日本だけがバスに乗り遅れて立ち遅れているのは、そこが原因なんです。つまり政策です。
21世紀の産業構造を変えるのは、自然エネルギーと電気自動車
磯野:僕は自然エネルギーを作る現場にいますが、この1年くらい台湾やフィリピンの事業を見ていると、僕が感じるのはエネルギー事業が政策に依存しなくなってきているということ。途上国では経済合理性の上で、自然エネルギーが選ばれています。
一方で、国を挙げて政策的に再生可能エネルギーに進んでいる国もあります。電気自動車の話は日本でも話題になっているんですが、7月頃にドイツの政治家から聞いた話によると、BMWは14年後に製造する車を全部電気自動車にするそうです。中国は完全にエネルギー政策の舵を切って、再生可能エネルギーと電気自動車に注力するので、その競争の中で負けられないと言っている。アメリカもチャンスをうかがっていて、中国とドイツを中心にしたEU対アメリカの競争が始まっていて、そこに再生可能エネルギーと電気自動車がセットである。この1年くらいで、劇的に世の中が変わると思っています。
20世紀と21世紀の大きな違いは、エネルギーを作ることが簡単になったということ。石油を精製するとか発電所を作るとか、それまでは一部の人にしかできなかったことが、今は太陽光パネルを買えば簡単に誰でも作れるような状態です。しかも電気自動車もまったく同じで、参入障壁も低いし、それによって競争が激しくなって変化が非常に早い。そのような変化の早さを再生可能エネルギーの分野では日々感じています。3年前の情報はまったく使えません。価格の情報が半年で変わる、再生可能エネルギーの分野とはそういうところです。
世界経済を牽引する自然エネルギー、取り残される日本
吉原:ついこの間トヨタが雑誌『ネイチャー』に「固体電池」というものを発表しました。いままではリチウム電池が一番性能がいいことになっていたわけですが、液体を使わない固体電池が開発されて2022年くらいには自動車にも搭載されるというんですね。そうすると同じ大きさに対して、だいたい容量が3倍になるわけです、そして10倍以上の速さで充電できる。そうなると劇的に電気自動車の高性能化が進む。しかも固体電池は液体じゃないから漏れない、熱も出さないので安全性が高い。科学雑誌の権威に載っているわけですから、ウソではないです。研究が進んでいるんですね。
また日経の一面に、空圧電池という記事が出たりと、技術革新が電池の世界で急速に進んでいます。つまり電気自動車を使ったエネルギーのオフグリッド化、ソーラーで電気をつくって車に貯めるということがどんどん進みます。ソーラーパネル自体も相当高性能になっていて、15%くらいのエネルギー変換効率があるんです。植物の光合成は0.何%ですから、10〜20倍くらいのエネルギー電化効率がある。
バイオマスと太陽光を比べても、圧倒的に太陽光の方が高性能です。バイオマスは熱変換あるいはメタンガス変換をしてエネルギーに変換しますから、結局熱になってしまう。でも太陽光は熱を出さずに電気を作って、高圧で送れば遠くにも送れるし、オフグリッドにすれば自分の住んでいる場所でも使える。そういった形で自然エネルギーを中心に世界経済をどんどん牽引していく世界が見えている。
ところが、日本は政策的な遅れによって、まだ原発を維持しようとか、自然エネルギーは送電線に繋がないとか……本当にバカバカしい話です。どんどん世界から立ち後れてしまう。
磯野:送電線を経由しているので正確には直接ではないのですが、我々が作った発電所から自然エネルギーでつくった電気を各家庭に供給していますし、送電線の利用率は10年後に20%くらいになるんじゃないかなと思っています。オフグリッドに関しても、地域で自立できるような、そういうサービスを始めようとしています。
井戸水に窓サッシも? 自然エネルギーは電気だけではない
事務局:先日小田原のかまぼこ屋さんの「鈴廣」さんを取材しましたが、すでに地域で発電所を作って地域で経済を回すということをされていて、各家庭ではなく地域からオフグリッドが始まっていることを実感しました。
吉原:鈴廣さんは「エネルギーから経済を考える経営者ネットワーク会議」という中小企業の経営者たちの会を数年前に結成されて、私も参加しています。中小企業、あるいはオーナー企業の方というのはハートというかビジョンがある。大企業を動かしているのはだいたいサラリーマンですが、やっぱり自分で会社を作った方はロマンがあるし理想があるんですよ。そういう方が日本を良くしようとしていて、省エネあるいは自分でエネルギーを作っていくんです。
実際に鈴廣さんは井戸水のパイプを自社ビルに通して空調の費用を下げたり、断熱効果を高めたお店を作ったり。電気だけではなく熱エネルギーをどう扱うかを考えている。工場で熱エネルギーをいかに制限するかを考えたり、あるいは裏山で昔使っていた小水力発電も復活させたり、いろんな具体的な取組みをなさっています。
たとえばオフィスビルの空調を考えると、断熱するだけでもかなりの省エネになるんですよ。エンパイアステートビルを断熱したら空調費が40%になったという話もあります。そういうことをエイモリー・ロビンズという学者の方がやっているんですが、たとえばアルミサッシは大量に熱が逃げるんですが、そこを木質サッシにしただけで大幅に熱が逃げるのを避けられるということで、北欧の家は木質サッシが義務づけられています。そういう個人でできることもいっぱいあるんですよね。日本はまだアルミサッシが主流ですが、日本でも木質サッシを扱ういいメーカーができています。
新しいことをやらないのは「失敗したくない」から? 地方を動かすための方法
磯野:分散化社会のためのインフラがどんどん整ってきていますね。現実に私は普段ほとんど地方にいて、住所不定の生活で、東京にいることがほとんどないんです。昨日は鹿児島空港から2時間のところにある田舎にいましたが、現実的に難しいのは、鈴廣の社長さんのような人が地方にほとんどいないこと。田舎には地域コミュニティがあって、その人たちの生活があって、新しいことをやって失敗したくないっていうのが一番なんです。
我々が作ったソリューションは、僕らがお金を集めます、会社としても過半数の責任は取ります、残りを地域のみなさんが出資してくださいというやり方です。熊本県の合志市という市では、市が20%、地元企業20%、我々が60%出資して、農水省にもご協力いただいた太陽光発電プロジェクトを進めて、売電収益の一部を地域の農業に還元するということをしています。
いままでは、エネルギーというのはみなさんの生活から遠いところにあって、日本の地方は農林水産業や建設業が中心です。建設業は我々が直接工事発注できるのですが、農林水産業はなかなか絡ませることができないので、その代わり売上げの一部、0.5%から1%くらいを地域に還元したり投資をしたりする基金を作っています。
他にも、大分県の老舗温泉宿がエネルギー事業に取り組もうとしたときに、副業なので資金調達がうまく進まなくて、10億円くらいの借入れが必要だったんです。銀行側が判断しきれなかったので、我々が35%出資しました。大分の竹田市に建設した太陽光発電所では、地域が熊本地震の被害を受けたのですが、太陽光が被災時の電源として活躍しました。
このように我々が主体になって地域の方を巻き込んだり、逆に地域からの引き合いがあったりします。ただ「失敗したくない」というのが日本の地方の姿で、なかなか活性化しない。それが現実なので「我々が責任を取ります」と言って事業を進めることで、万が一なにかあったとき僕らのせいにできるようにしています。失敗したときのことを考えて二の足を踏む地方ならば、我々がその受け皿になるという形で、地域の方々と連携が進んでします。
耕作放棄地で稼げる農業を実現する「ソーラーシェアリング」
吉原:私は「ソーラーシェアリング」について話をしたいと思います。およそ2町歩半の農地に1.3メガワットの発電所をつくりました。農地上3.5メートルのスペースに構造物を組んで、そこに細長い太陽光パネルをつけます。3分の1の太陽光で発電して、残り3分の2の光で植物を栽培する。3分の2の光でも、同等かそれ以上のお米や作物ができるんです。
植物というのは「光飽和点」というものがあって、10万ルクス以上の強すぎる光になると、光合成する緑葉体が光合成しなくなるんですね。それで太陽光パネルで光をさえぎって、その下で作物をつくる。1反、1000平米の畑だと作物販売で年間わずか5-6万の収入、そこで太陽光を3分の1だけ使って売電すると、買取価格が21円でも百数十万円、作物販売の約20倍の収入が得られるんです。設備を一部返したとしても相当な現金収入になるわけですね。
ソーラーシェアリングと併せて、耕作放棄地奨励金を出すことによって、若い人たちが都会から移り住んできて人口も増えました。いままで耕作放棄地だったところが、今年は緑の枝豆を作りました。有機農法による無農薬大豆ができているんです。
約2町歩半を緑の畑にするためにどのくらいのお金が必要かというと、3億円かけて年間4700万円の売上になった。投資した人は25%の利回り、私たちは3%の融資というわけで 地域も喜ぶ、金融機関も助かる。投資した人も儲かっているんです。
城南信用金庫HPより
ソーラーシェアリングが広がれば、日本の社会問題や安全保障問題を解決できる
吉原:日本には460万ヘクタールの水田や農地があって、一部耕作放棄地になっていますが、全部ソーラーシェアリングするとどれくらいの設備容量になるかというと、原発1840基分なんです。その10分の1をソーラーシェアリングにするだけで、日本の電力は全部まかなえます。
さっき言ったようにコストがどれくらいなのかというと、建築費が安い。なぜなら農家の人は自分で構造物を作れるから。自分で架台をつくったら、あとはパネル代、部品代、電気屋さんに配線してもらうだけです。これで日本の農地再生ができるのではないかと考えています。
まずは農家の現金収入10倍になる、そして若い人が都会から帰ってくる。300万の年収が3000万になると若い人が帰ってきて、環境がいいから子どもがどんどんできて、少子高齢化が解消して年金問題が無くなって、過密過疎が無くなって、地方から経済が発展して、しかもホルムズ海峡を通って石油を買う必要が無くなるからエネルギー安全保障が無くなる。原発が無くなったら北朝鮮も怖くない。今は、北朝鮮が原発にミサイル発射したら一発でおわりです。
日本が25兆円も使っているエネルギー代が農村に落ちてくる。そうすると日本の農業はTPPにも負けない力を持つことができます。
エネルギーの民主化で活気付くヨーロッパの地方都市
世界ではどういうことになるかというと、ケニアのナイロビでソーラーシェアリングをやっているんです。砂漠は光が強すぎて砂漠になっているので、1/3の光をカットしてその 下で植物を作ったら、食糧とエネルギーを増産できてしまう。もはや中東の石油はいらなくなる。米軍は中東で戦争をさせられることが無くなる。
困るのは世界の富豪のみなさんです。特にエネルギー利権の人達は困るかもしれないけど、エネルギーの民主化で誰でもエネルギーを得られるようになります。大富豪がお金を世界中のマーケットから集めるんじゃなくて、それぞれ地元の普通の人達がエネルギーを自分で作れるような社会になってきたんです。
これらを進めていけば、地元の農家の方は本当に助かると思います。同じやり方で、デンマークやドイツは地方経済がどんどん発展しているんです。こういうエネルギー民主化、地方分権、地方からの経済発展というようになっていくんじゃないか、と私は思うんです。それを担う目利きと度胸、横並びじゃなくて本気で地元を助けたいという金融機関やファンド、そういう人達が活躍できる場がどんどん広がっていくんじゃないかなと思っています。
地方の銀行を自然エネルギーに巻き込む
磯野:普通の融資は個人の信用の度合いで融資が決まってしまうので、あんまり個人や小さな会社だと融資は受けられないのですが、プロジェクトファイナンスではプロジェクト側に信用力を付けることで融資が可能になります。
いま銀行が一番貸したいのが太陽光発電事業なんですが、その次にくる風力などの他のエネルギーにちゃんと融資ができる銀行がいるかどうか。メガバンクはできるんですが、なかなか地銀にまでは浸透していないのが現状です。
佐賀県唐津市の風力発電事業のプロジェクトファイナンス自然電力初となる風力発電の開発案件が2017年2月に着工-佐賀県唐津市での風力発電事業、プロジェクトファイナンス契約を締結.html)は、東京スター銀行が幹事になって、佐賀銀行と大分の豊和銀行に入っていただきました。融資だけを考えれば東京の一行でもできるんですが、我々のこだわりで地域の銀行を入れてもらいました。私たちが地銀内でまず事例をつくることで、別の人が新たに持ち込む案件も行内で前例があるということで判断できるようになります。
唐津市と一緒に協議会を作って、売上げを唐津に還元することを条件にやってもいいと。それで農水省もプロジェクトに加わったり、ファイナンスのスキームも地元にこだわって、地域といっしょに自然エネルギーをつくっています。
オフグリッドで過疎地に新たなインフラをつくる
事務局:地域からさらにグリッドをはずしていくと 個人というものが立ち上がりますね。
磯野:個人か地域かではなくて、最適な単位というのも見つけていかないといけないと思っています。私は北海道に住んでいまして、北海道の田舎に行くとインフラも管理できない状態なんです。たとえば稚内とか根室とか、ある地域の中心に半径何キロと決めて、そこにいろんなインフラを完結させて人も集めるみたいなことをしないと、地域も個人も生活が立ち行かなくなるのではないかと思っています。
理想論のオフグリッドじゃなくて、現実的にそうせざるをえない状況です。そして日本は世界の高齢化の最先端の国でもあるので、私たちのソリューションは世界の先進国の新しいインフラをどうやって考えるときの、一つのモデルケースになると思っています。
吉原:グリッドから外れた方がいいのか悩むところですね。自分だけオフグリッドしようと、蓄電池を買ってソーラーパネルを買って、あとはエネファーム1台買えば十分だ、という暮らしをすることもできます。それもひとつのゲリラ戦としてはいいと思うのですが、 やっぱり本流としては、正々堂々と国の巨大インフラを正しく運営したい、という想いがありますね。
MON-DO(問答)
問1:大学で電池の研究をしています。熱を電気に変える研究をしていますが、研究をしていくにはお金が必要で、そういう技術のために予算をつけてもらうには政府が環境への意識を高めてもらう必要があるし、選挙の際には環境面で政党や政治家を選んでもらうために、市民の意識を変えなければいけないと思うんですが、僕たちに何ができるか、アドバイスをいただきたいです。
問2:日本の自然環境とヨーロッパの自然環境は違うのに、ヨーロッパで成功しているから日本に自然エネルギーを持ち込みますというロジックは通用するのでしょうか?
問3:日本では建設コストが高いというお話ですが、日本全体でいま建設関連の方の人員が不足してるような気がします、そこをどのようにお考えでしょうか?
問4:そもそもいま地球上に人数が増えすぎていて、このままでは地球をスポイルするよという話がありますが、自然エネルギーを活用することで人口がますます増えることになると、地球はどうなってしまうのでしょうか?また、日本の建設事業というのは生産性が悪いというのはもっともだと思いますが、ヨーロッパの具体的な事例、生産性が高い理由を教えていただきたいです。
問5:エネルギーの地産地消や送電線について、日本は今後どのようなモデルになっていくのか、イメージがあれば伺いたいです。
吉原:順番に行きますと、選挙で政治家を選ぶのが難しいというお話ですが、やはりこういう電池技術が重要だという全体のビジョンを彼らに語って、だからお金をかけなきゃダメなんですよという方向に持っていきたいと考えています。しかし電池の重要さはいろんな企業が認めはじめているので、可能性としては追い風なんじゃないかと思います。
自然エネルギーはヨーロッパで40%になっているけど本当なの? という話ですが、『日本と再生』という映画がありまして、ヨーロッパやアメリカから中国の奥地まで全部見てきた映画があります。外国の政策担当者、電力会社、全部話をして問題無いということです。この『日本と再生』という映画をぜひ見てください、百聞は一見に如かず、です。
建設コストはやはり高く買ってくれるから高くしているという理由もあると思います。昔は太陽光発電は鉄筋コンクリートで土台を作っていました。でも今は地上に設置してすぐに施工できる方法もあります。日本の建設会社はオーバースペックで金を取るというのが昔からの常套手段です。だから買取価格が下がるとそれに合わせて建設費も下がります。
それからオフグリッドが未来に向けてどうなるか、これはやっぱり明らかにその方向だと思うんですが、もちろん大規模としては火力もあると思います。超々臨界圧発電、石炭ガスコンバイン発電なども好きですが、基本的には分散型の自然エネルギーを中心にして、それをIoTで繋いでいくというやり方に未来があるかなと思います。それを補完するためにガスコンバイン発電などを使う。これはGEのジェフリー・イメルトあたりが構想してることですね。これをAIでつないでIoTで制御していくという方向です。
磯野:僕のスタンスとしては、ビジネスの上では政府に対して最低限のお世話になろうとしています。重要なのは選択肢を二つ以上持つことです。政府に依存する状態をつくらない、というのは大事だと思います。たとえば電池の研究ですが、日本がダメならアメリカなどに資金調達しにいけばいいと思います。他にも中国、この前日本の電気自動車も中国で資金調達をやっていました。
お金が必要ならば、世界中にお金はあると思うので、そのルートを見つけることが大事だと思っています。僕らもお金の色に非常にこだわっています。我々は上場しないと公言していて、我々の思想に賛同していただける方からの資本を受け入れています。2017年の2月には東京ガスさんが我々の資本パートナーになってくれました。
本当に世界を変えていくためには、若い人だけではなくて、上の世代も含めてみんな動かないといけないと思いますし、小さい会社も大きい会社も一緒にならないと世の中は変わっていかないと思っています。僕らの一つのモデルとしては、日本のトップエネルギー会社と組むという選択をして、そういうところで規模を大きくしないとコストが下がってこないと思うし、それを日本だけではなくていろんな世界の電気の無いところに電気を引くということをやっていきたいと思います。それで、日本の新しい産業として世界に展開できるように作っていきたいなと思っています。
ヨーロッパの再生可能エネルギーの話ですが、単純比較できないというのは確かにその通りだと思っています。まず歴史が違います。ドイツは連邦国家で、ひとりひとりの個の力がすごく強い。いま勢いのあるドイツのバッテリー会社があるのですが、彼らのスローガンは「エネルギーを自立する」。これはドイツだからできるのかもしれません。日本で「自立」と言っても、歴史的に「お上がやる」の社会だと思うので単純比較できないなと思います。
先ほど映画の話もありましたが、僕が自分の目で見てきたものを言うと、EUは全部送電線が繋がっていて、ドイツは再生可能エネルギーで動いています。フランスの原発エネルギーを買っている、だから日本では現実的じゃない、みたいな話があるのですが、EUはもともとEU圏全体で電力の設計をしているので「そういうものです」としか言えません。
たとえばスイスはほとんど水力発電なんですが、ドイツでたくさん風が吹いて電気のいい日は、その電気を使ってスイスの水力発電所の水を揚げておく、みたいなことがEUの電力マーケットのメカニズムの中でできています。ヨーロッパ全体で最適化されているんですね。日本に例えるなら中国と韓国、北朝鮮が全部送電線でつながっているようなものです。
我々のグループにドイツの会社と合弁会社があるので、私も年に2、3回はドイツに行くのですが、政治とビジネスの世界が同じ方向を向いているなと思います。私も日本の政府の方々とお話する機会があるのですが、産業界とあまり一致していないような感じがあります。たとえばドイツは「インダストリー4.0」とはっきり言っていて、政治も産業界も同じ方向に進んでいます。
問6:発電所をつくるためのイニシャルコストと発電するときのランニングコストがあります。自然エネルギーのトータルの環境負荷はどのようになっているのでしょうか。地球環境から取り出して消費した以上のエネルギーを、自然エネルギーはどれだけ生み出せているのでしょうか? そして、電力を使うことを前提としない未来のライフデザインはないのでしょうか?
吉原:電気をどんどん増やせば幸せになるのか? という話とも関連しますね。成長の限界もあるかもしれないし、電気を使わない暮らしのメカニズムというのもあると思います。省エネもひとつのエネルギーだと考えることもできます。マイナスのエネルギーを作る「ネガワット」という考え方なのですが、ドイツでは新しい電気の流通マーケットが出てきていますし、日本でもネガワットの取引が始まっています。
磯野:僕が感じているのは、ちょっと前までは食べ物をいっぱい食べて太っているほうが裕福だ、みたいな時代があったと思うんですが、それが今は食べ過ぎて太っているほうが恥ずかしくなってきた。エネルギーもそうなんじゃないかなと思います。昔は誰かが作ってくれた電気をいくらでも使えると思っていたし、省エネという発想もいまほどありませんでした。
それが今は文明が発達して、食べ物だけじゃなくて、エネルギーの使い方もひとりひとりが考えることが大事だと思います。僕らが小売市場に参入することもそう考えてほしいことがきっかけで、今までは電気を作る側と使う側が別々のところにいたんですが、これだけエネルギーを自分で作れるようになってきてプロシューマーが増えてくると、世の中のエネルギーを使うことへの考え方も変わってくるのではないかと思うんですね。
建設に関しては私は専門家じゃないので詳しいことは言えないのですが、労働法の問題もあるのかもしれません。ドイツではシュレーダー首相が20年前くらいにかなり法律を変えて、いま日本でも安倍首相がやろうとはしていますが、日本ではほぼ労働法を変えることができない状態です。政策的な話もありますが、インセンティブの仕組みも違うかもしれません。
日本企業は時間で働いていることが多いのですが、成果で働く評価制度が足りないんじゃないかなと思います。建設の現場では、私の知っている範囲では、時間に縛られた仕事になっています。日本の労働法は基本的にすべての人達を時間でしばるような法律になっていますが、ドイツはそれを変えた。だから一人当たりのGDPは、おそらくドイツが20〜30%くらい高いと思います。
あとは、エネルギーの無駄を無くすことが大事だと思います。それは人々の意識の問題もあるかもしれませんが、テクノロジーの発展で無駄を無くすというのも大事です。もともと原発は24時間ずっと稼働していますし、火力発電も急に止めることはできません。しかし、太陽光や風力だと必要なときに必要なだけ作る、必要でなければ電池に貯めておく、そういうことができるので、エネルギーのロスは小さい方に進むと思います。
吉原:水力発電の件ですが、日本には原発約25基分という世界最大規模の揚水発電があって、もともと原発のために作られたものなんですが、いま自然エネルギーで日中に電気をため込んで、夜は水力発電で水を落として電気をつくる平準化に使われています。日本は既に電力を安定化させる蓄電池を持っているわけです。自然エネルギーは不安定でだからダメだとよく言われていますが、実は調整はいまでもできるんですね。そういうことを教えてくれないっていうのは大きな問題だと思っています。
井上(代表理事):今日はお二人のお話を聞けてよかったです。シンプルにまとめると、太陽光発電は太陽という巨大な核融合炉を使っているわけで、わざわざ人工で原子力発電を使う必要は無いなと思ったのが1点。2点目として、化石燃料は石炭も石油も数十億年かけてつくられたものをたった200年というスピードで浪費しようとしている。そういうことを考えると、これからの世界は自然エネルギーですよね、というのが大前提で、それが僕がつくりたい未来です。
いま世界の流れが中央集権的なものから技術革新で分散型の方向に向かっているようで、それは貨幣もそうですし、どんどん分散していくのは止めようのないことだと思うんですね。これはエネルギーだけじゃなくて、たとえば水道も食糧の生産と消費ということもどんどん分散化していって、地産地消よりさらに細かい「自産自消」に入っていくかもしれません。
いま見えているテクノロジーの半歩先、一歩先くらいだとまだ課題も多いですが、二歩くらい先まで想像できると、それらが可能な世界が待っている。国が行うグランドデザインとしての政策がありますが、それは二歩先の社会をどうやって作っていくのかを提示することです。僕の中では、そのためのキーワードは「自然エネルギー」と「分散型社会」だと整理されています。あとは必要なテクノロジーを世界中からかき集めていくことがすごく重要なんだなと、今日話を聞いて思いました。
<研究員による考察>
エネルギーをテーマに2回に渡ってトークイベントを開催したが、エネルギーという分野は、1次産業から3次産業まで、すべての産業のあり方に影響を与え、エネルギーを生み出す新しい技術が世界の歴史をつくってきた。エネルギーが変われば世界が変わるのは間違いない。ただ、エネルギー事業に関わる人たちは様々で、それぞれに立場があり、言いたいことも言えないこともあるのだと思う。
エネルギー業界と直接的な利害関係のない多くの人たちの立場としては、エネルギーコストが下がれば下がるほど私たちの生活は自由で豊かになるし、エネルギーを生み出すために払わなくてはならない犠牲は少なければ少ないほどいい。そして立場を超えて全ての人に共通するのは、私たちはこの地球という一つしかない星に住んでいるということだ。
日々エネルギーに関連する様々な情報が発信され、私たちは発信元の立場を理解しながら、それらの情報を注意深く比較することができるようになったし、日本でも電力の小売りが自由化され、どのような電気を買うかを消費者として選ぶことができるようになった。
この地球を持続可能にするために、自分たちの子孫がこの地球で暮らしていけるように、これからどのようなエネルギーを私たちは選ぶべきか? その答えはもう出ている。(NWF研究員:清田直博)