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西粟倉森の学校の牧大介さん曰く「おもしろい人が増えると地域がおもしろくなる」。
(牧さんの記事はこちら)
西粟倉村のビジョンに共感して集まってきた人々の中には、様々な才能と情熱を持った挑戦者たちがいました。
第1回目では、「蜂追い」を生業にする野人、熱田安武さんをご紹介しました。
第2回目の今回は、2014年に西粟倉村に移住し、再生可能エネルギー活用のコンサルティング等を行う、村楽エナジー株式会社の井筒耕平さんをご紹介します。
<プロフィール>
村楽エナジー株式会社 代表 井筒耕平(いづつこうへい)さん
1975年愛知県生まれ。2001年北海道大学大学院水産学研究科修士課程終了。2011年名古屋大学大学院環境学研究科博士課程単位取得満期退学。博士(環境学)。備前グリーンエネルギー株式会社、美作市地域おこし協力隊を経て現職。岡山県西粟倉村で薪工場の運営、薪・丸太ボイラー導入コーディネートを行い、実践的な木質バイオマス利用を進めつつ調査研究やSNS発信を行う。2015年、閉鎖していた「あわくら温泉元湯」を再生し、開業。
・村楽エナジー株式会社(http://www.sonraku-energy.com)
・あわくら温泉 元湯(http://motoyu.asia)
遠くの石油より、近くの木を
村楽エナジーという会社は2014年からやっている会社です。僕はもともと愛知県の出身で、5年前まで再生可能エネルギーの導入に関するコンサルティングの仕事をしていました。自治体向けにビジョンをつくったり、計画づくりしたり。2000年代に入ってから各地で再生可能エネルギー導入の機運が高まってきたのですが、自治体職員ではつくれない。だからそこに僕のようなコンサルタントが入って一緒にプランをつくっていたんです。
エネルギー問題は今後もっと大きな問題になると大学時代に気付いて以来、再生可能エネルギー、特にバイオマスエネルギーを研究するようになりました。都会ではエネルギーが見えにくく分かりにくいですが、田舎ではどんどんお金が出て行くのがエネルギーなんです。
愛知県豊根村という人口約1400人の村のエネルギー使用状況を大学院時代の2005年に調査したところ、なんと毎年4.7億円ものエネルギーを地域外から購入していることが分かりました。その村は中山間地域にあり、昭和30年代までは炭や薪を都市に販売していたのです。都市型生活と安価な石油の流入、政府からの交付金や補助金によって、日本の多くの中山間地域の村では木がエネルギー源として活用できないまま放置されてきたんです。
足元に木という資源が大量にあるにもかかわらずほとんど活用されないまま、外からエネルギーを購入している。じゃあ木材を使えばいいじゃないか、という発想です。そのためには林業が回らないといけない。いろんな課題に直面して、5年くらい前から林業にも関わるようになりました。
なぜ林業が経営的にまわらないのだろうと考えて、実際に現場にも入りながら、道をつくったり木を間伐したりする作業もしています。西粟倉村に来たのは2014年の4月、この場所が偶然空いていて誰もやる人がいないと。そこで僕が手を挙げて、村から運営を委託され「元湯」として再スタートさせました。そして、この村に薪ボイラーを初めて導入して、木を村から買っています。
村は伐り出した木材を、A材(建築などで使われる品質の高い木材)は牧さんの森の学校に売って、B材(集成材などに使われる品質の低い木材)は村の外へ、C材(そのままでは木材として利用できないもの、製紙工場などに売られる)はいままで村の外に行って紙の原料になって安く買い叩かれていました。そのC材を村の中で消費しようと。この温泉も2015年の冬には薪ボイラーに切り替わりましたが、源泉が14℃しかなく、それまでは灯油で湧かしていました。
西粟倉村には5000年自給可能な森がある
西粟倉村に来る前は、隣町の美作市というところへ地域おこし協力隊として来ました。そこで活動したあと、西粟倉村でバイオマスエネルギーをやるという動きがあったので、じゃあそっちでやろうと。元湯を運営したり、バイオマスエネルギーを回すための仕事を現場でやりながら、その活動や成果を分析して社会にちゃんと発信すること。現場で実践することと客観的に研究評価すること、その両面を心がけています。実践者だけになってしまうと客観性を失ってしまいます。ちゃんと研究者としても客観性を持っていて全体のことを分かってること、林業のこともエネルギーのことも。そういう人はなかなかいなかったんです。
3年後には地域熱供給を導入する予定です。そうするといまの10倍くらいの木を使います。いまは年間500トンくらいをボイラーに使っていて、地域熱供給だとさらに500トンくらいの木材が必要になるので、合計1,000トン。それはどのくらいの面積になるかというと、西粟倉の山には1haあたり約300トンの木が植わっていて、その1/3の約100トンがC材として利用されます。ですので、バイオマス用の木質燃料1,000トンをまかなうために必要な森林面積は約10ha。村全体で森が50,000haくらいあって、一度に全部伐るわけじゃなく少しづつ伐りますから、全部切ったとしても 5,000年分以上の循環がある。成長量を考えても全く間に合う計算です。
しかし、ミクロな視点で村だけを考えると自給できるけど、日本中をマクロな視点で見るとバイオマスだけではまったく自給できない。日本中のエネルギーをバイオマスで置き換えようとしても、いまの消費量の1~2割くらいしか賄えません。日本はモノをつくって輸出していますが、それはエネルギーを輸出しているとも考えられる。資源を輸入して加工してかなりのエネルギーを輸出しています。本当に生活に必要な量はそんなに大きくありませんが、産業で使うエネルギーが大きいんですね。
【日本の最終エネルギー消費の構成比(2011年度)】
*出所:資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」
*注:構成比は端数処理(四捨五入)の関係で合計が100%とならないことがある
ボイラーと発電、大きな違い
西粟倉村では昭和41年から川の水を使った小水力発電が行われていて、村の住宅の7割は自給できています。社会システム上、村からは電気を買うことができないので、電力会社経由で買うことになります。2016年4月から電力販売が自由化されるので、いろんな事業者から買えるようになりますが、既存の送電網に頼る点は変わらない。将来的には村で独立して送電までできればと考えています。
木を燃やした熱をそのまま利用できるボイラーと違って、バイオマス発電の場合は1カ所で木質チップを大量に使います。規模が大きすぎるんです。本当は小規模な発電所が分散しているといいのですが、大規模なものを一カ所につくるために、チップを遠くから運んでこないといけない。だから燃料になるチップ集まらない。
例えば東海地方のある自治体のケースでは、市内で55,000トンの木材を使うのですが、その木材を10都県くらいから調達しています。市内からは林業地なのに3,000トンしか入らなかった。その理由は、バイオマス発電の工場はできたけど、もともと林業が盛んで木材の商流ができあがっているために、バイオマス発電に回せるC材の供給量が充分ではなかった。そして急にC材の需要が上がったので価格も上がってしまい、地元の木材ではペイしなくなったんです。その後、なんとか15,000tぐらいは市内で供給できるようになったそうですが。
もともと地域の木材を利用するはずだったものが、東南アジアから安いヤシガラを輸入することになったり、そういう場所が沢山あります。なぜ50,000トンクラスのものを使うかというと、その規模じゃないとコストと売電単価がつり合わないんです。経済産業省がそうやって誘導したんですね、それで批判が集まった。だからいまは2MW未満の規模で発電された電気は、さらに高く買い取られるようなルールに2015年の4月から変わりました。
大規模なバイオマス発電はドイツなどでも失敗しています。木が集まらないんですね。最初の3年くらいは集まるのですが、そこから先が続かない。逆に、いまは製紙会社が発電をするようになっています。木質チップの原料を調達するルートが前からあり、紙の需要が落ちているなかで、紙をつくるより電気をつくったほうがいいと。
このように、持続可能なエネルギー源をバイオマスで得るためには大規模な発電所だけだと難しい。特に地域のエネルギー自給を考えるなら、小規模分散型で電気も熱も同時に供給できる熱電併給を目指すべきだと考えています。
気候変動のためだけではく、地域のために
だから西粟倉村の場合は、あまり規模の大きなことはしなくていいと思っています。スタートは温泉から、いままで灯油を使っている施設が山のようにあるので、それをバイオマスのボイラーに変える。小さな規模で勝負したほうがいい、そして電気より熱をつくったほうがエネルギー効率がいい。電気は余力で。なぜかというと木の持っているエネルギーを100とすると、熱に変えたら80%、電気に変えると20%くらいしか使えないんですね。
木から熱をつくるボイラーも、チップボイラーやペレットボイラーだとなかなか経済的に合わない。まずチップをつくるための工場がこの村の中にはない。 それをわざわざ作ってからボイラーを回したりするケースもありますが、中にはチップ工場を数千万円かけてつくったり、木材を一度地域外へ運んでそこでチップにしてから再度地域に入れたり、非効率で本末転倒なんです。
だから薪ボイラーを導入するところが増えている。薪だったらなんでも燃やせますし、ここ3年くらいで燃焼効率のよい技術ができてきた。いままで海外製はありましたが、日本には入ってきていなかったんです。大学の研究現場ではいまだにチップ派の人が多くて、僕が学会などで発表してもだれも振り向いてくれない、民間の人だけ振り向いてくれるんです。
1億年かけてつくられる石油ではなくて、数十年で使えるように循環する木を使った方がいい。ただ、地域でバイオマスエネルギーの導入を気候変動への対策を目的にしてやるには規模がまったく合わないし、なんのためにやっているのか目的がわからなくなる。地域の事情にも合わなくなってくる。だから地域でまず実践して成功事例を作り、今後バイオマスエネルギーの導入に取り組む自治体や産業、国が増えていけば、世界的な気候変動を防ぐことにつながるかもしれない。
だから僕らは、
1:施設が経済的に安くなる
2:地域からお金がでていかない
3:山にお金を返す
4:気候変動を防止する
この4つを目的にして、バイオマスエネルギーの導入に取り組んでいるんです。