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【メールマガジン】役に立たないものこそ教養?

Next Wisdom Foundation事務局は、定期的にメールマガジンを配信しています。ここでは、反響の多かった回を公開していきます。
今回は2022年8月1日に配信したメールマガジンを紹介します。

ジャングルトレインというシンガポールからタイへと向かう列車に乗っている時……

NWFと株式会社ドコモgaccoで取り組んでいる『gacco LIVE 教養再考ー振り返れば教養』、次回8月4日(木)に5回目を開催します。今回はインディペンデント・キュレーターで映画監督の渡辺真也さんを講師に迎えます。
https://nextwisdom.org/event/4923/

渡辺さんは、NWFのイベントや取材でその知識・経験の広さと深さを様々なテーマで話してくれています。まずはアーカイブから渡辺さんの印象的な体験談を紹介します。

「ジャングルトレインというシンガポールからタイへと向かう列車に乗っている時、60歳過ぎくらいのおじいさんに出会いました。その人は、英語は本当につたないんだけど、一生懸命話してくれるんですよ。3時間くらい話した後、いよいよ私が降りる駅に着くという段になって、おじいさんが突然立ち上がって、「八紘一宇の~」って日本の軍歌を歌い出して、その直後に泣き崩れちゃったんです。それで、「とにかく一緒に降りて話を聞かせてくれませんか」と言って降りた後、一緒にロティをちぎって食べながら、おじいさんの戦争体験を聞かせてもらったんです。

おじいさんは、当時まだ4歳だったけど、日本軍の占領下で日本の教育を受けたんだ、さっきの軍歌も何度歌わされたか分からない、と言うのです。私も当時、20歳だったから、あんまり頭よくないですよね。すごく悩んだ上で、「私はあなたに対して直接加害をした訳ではないから、あえてここで謝ることはしないけれど、あなたがわたしに伝えようとしたことを、わたしは日本のみんなに伝えます。」と言ったら、おじいさんがすごく喜んで、涙を流しながら一生懸命に握手をしてくれたんです。

その時思ったのは、もし戦争が始まる前に、多くの日本人たちがこういうおじいさんに会っていたら、他国を占領しようという発想や、ただ国籍が違うという理由で、戦争中に敵国の人を殺したりすることはできなかったんじゃないか、ということです。なぜ、この人がマレーシア人だというだけで戦わなきゃいけなかったのか、って。すごく嫌な気持ちになりました。だから、そういったもの、すなわち敵対概念によって成立している国民国家に対するオルタナティブを作りたい、という思いはすごくありますね」

※『オフグリッドする国家 〜デカルト・ユーラシア・奄美~』(2017年6月9日公開)https://nextwisdom.org/article/1891/

 

「東日本大震災で日本がパニックになったとき、私は東京に住んでいました。震災直後は郵便の配達が止まっていて、3月15日に受けとった郵便物がドイツ留学の奨学金の合格通知で3月11日付でした。留学の目的が、原子力発電所の反対運動をして緑の党を結党したヨーゼフ・ボイスの研究だったのですが、その合格通知が3月11日付け、東日本大震災の当日だったことに衝撃を受けて、何かをしなければいけないと思いました。

私は畠山直哉さんという写真家と親交が深く、彼が「写真は人の記憶への奉仕だ。記憶は過去ではなく未来に属していると考える。そう考えなければ、シャッターを切る指先にいつも希望が込められてしまうことの理由が分からなくなる」と言っていたのを思い出したんです。
そこで、畠山直哉さんと一緒に東北でチャリティの展示ができないか考えました。(……)参加アーティストは、ヨーゼフ・ボイス、インゴ・ギュンター、畠山直哉、大巻伸嗣、オノ・ヨーコです。

私はニューヨークでギャラリーのマネージャーを2年間やった経験があり、アートバーゼルでサテライトブースを出せば売れると分かっていました。日本のために何ができるかということを日本で考えるのではなく、海外の人に協力してもらおうと思いアートバーゼルでチャリティ展をやることにしました。その展示の個人的なミッションは、震災に芸術の立場から応答して希望の光を灯そう、つまり、芸術の扱うべき規模や未来というテーマをどう被災と結びつけることができるのかということを考えました」

※『NWF×代官山蔦谷書店共催 「繋がり」を再考するー松本紹圭×渡辺真也 ―FutureDiversity 不確実な時代に多角的な視点を持つためにはー』(2021年11月10日公開)
https://nextwisdom.org/article/4732/

ユーラシアの専門家
渡辺真也さんは、”融合を目指す人”

渡辺さんは、ユーラシアの専門家です。20代はニューヨークにいて、30歳になる前にユーラシアをやりたいと思った渡辺さん。アジア人がアジアでユーラシアをやっても説得力がないということで、ベルリンで暮らしたそうです。

「31歳でベルリン芸術大学に留学して、博士論文として『ユーラシアを探して: ヨーゼフ・ボイスとナムジュン・パイクという本を書いたのですが、本のリサーチのためにもドイツから日本まで陸路で帰宅しました。実際にヨーロッパとアジアが一つだと証明したいと思ったんです。証明する旅路の表現をどうしようか考えて、『SOUL ODYSSEY – ユーラシアを探して』という映画を作りました」

この発言だけでも、渡辺さんは自身で取り組みたいテーマを見つけて行動に移していくという人だとわかるのでは? 今回『教養再考』の登壇を相談した際には、ロシアのプーチン政権によるウクライナ侵攻の現状をふまえてユーラシアへー国民国家の枠組みを超えた戦争のない世界は可能か?」というテーマを提示してくれました。

司会を務めるNWF研究員・花村えみは、渡辺さんについて「融合を目指す人」と言っています。ニューヨークで渡辺さん自身が受けた人種差別の経験から人種差別を昇華したい人であるし、分断したユーラシアの融合を目指す人であると。

渡辺さんとの事前の打ち合わせでは役に立たないものこそ教養ではないか? ”役に立つもの”というのは奴隷の発想ではないか? 役に立たないと思われているものに、どこまで真剣に取り組めるか? それが本当のイノベーションに繋がる」という話が出ていました。役に立つ・立たないは人それぞれで、渡辺さんの”役に立たないもの”が何かが気になります。そして、おそらく、”役に立たないものに真剣に取り組んで”きた渡辺さんだから話せることが山ほどありそうです。これまで開催したイベントでも、渡辺さんの経験に裏打ちされた言葉がずしんと響いた方は多いはず。今回もお楽しみに。

『教養再考ー振り返れば教養』は無料で視聴できますが、事前のお申し込みが必要です。ぜひお早めにお申し込みください!

▷お申し込みはこちら
https://lms.gacco.org/courses/course-v1:gacco+gl009+2022_07/about

教養再考ー振り返れば教養 VOL.5 参考図書

※各出版社の紹介文を引用

『時間の比較社会学』(真木悠介・岩波書店)
原始共同体,古代日本,ヘレニズムとヘブライズム,近代社会-文化と社会の形態によって異なる時間の感覚と観念を比較検討し,近代的自我に特有の時間意識がどのように形成されたかを,自然と人間,共同体と都市,市場と貨幣等々の関係のなかで解明する.近代世界の自己解放の運動の一環を担う比較社会学の深い洞察に満ちた労作
https://www.iwanami.co.jp/book/b255739.html

 

『ユーラシアを探して』(渡辺真也・三元社)
地球の陸地の40%を占める大陸、ユーラシア(Eurasia)。この一つの大地の西に位置するヨーロッパ(Euro)、東に位置するアジア(Asia)には共通する文化的ルーツがあることに目を向け、東西に分裂した世界の再構築を目指したのが、ヨーゼフ・ボイスとナムジュン・パイクによるプロジェクト《ユーラシア》である。それぞれの生い立ちに深く結びつきながら、歴史や哲学に対する深い洞察をもって構想されたこの抽象的作品を正確に理解し、二人が人類に残したビジョンを明らかにする。
http://sangensha.co.jp/allbooks/index/503.htm

 

『ポニョCODE』(渡辺真也・三元社)
映画『崖の上のポニョ』に秘められた宮崎監督と夏目漱石、三島由紀夫、寺山修司、司馬遼太郎、手塚治虫、ワーグナー、ポー、ジョイス、日本神話、ミケランジェロ、ダ・ヴィンチ、ミレーなど、数々の人々や作品との影響関係を解読していきます。そして、「生まれてきてよかった」という映画のメッセージにもう一度耳をすませます。
http://www.sangensha.co.jp/allbooks/index/540.htm

 

『三四郎』(夏目漱石・新潮社)
熊本の高等学校を卒業して、東京の大学に入学した小川三四郎は、見る物聞く物の総てが目新しい世界の中で、自由気儘な都会の女性里見美禰子に出会い、彼女に強く惹かれてゆく……。
https://www.shinchosha.co.jp/book/101004

 

『草枕』(夏目漱石・新潮社)
智に働けば角が立つ――思索にかられつつ山路を登りつめた青年画家の前に現われる謎の美女。絢爛たる文章で綴る漱石初期の名作。
https://www.shinchosha.co.jp/book/101009/

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